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勇者な俺は魔族な件

風見鳩

第四話 勇者『大悪役』

 その後何度も兵士との場面をやり過ごした俺は、未だ屋敷内を彷徨っていた。

 だが、逃げても逃げてもキリがなく、この鬼ごっこが終わる気配が見当たらなかった。

「ええい、もう面倒くさい!」

 色々と走り回ったおかげで、いくつかの部屋は覚えた。

 俺は意を決すると、再び廊下を疾走していく。
 俺を捜している兵士の背中を発見すると、わざと音を立てて気がつかせる。

「見つけた!」
「今度こそ逃がさん!」

 もちろん、何の策がないわけではない。
 その為に、俺を見つけてもらわないと困るのだ。

 あちこちを右往左往して、出来るだけ兵士の気を引き付けていく。
 そんな事をしている内に、気がつけば三十は軽く超える兵士たちが俺を追ってきていた。

「こんなにいるとか、暇人どもが……!」

 そんな事を愚痴りつつ、飛んできた火球をヒョイと躱して俺は逃亡を繰り返す。

 そして目的の部屋に近づいてくると、挟み撃ちとばかりに真正面からも十数人の兵士が陣を組んできた。
 逃亡者からしたら非常に面倒なことだが。

 今の俺にとっては好都合だ。

 とある部屋へと入り込むと、計画通りに兵士たちが続いていく。

 窓側まで逃げ込んだ俺を兵士たちは見事な陣を組みながら、取り囲んでくる。
 そして余程、警戒しているか氷魔法で出入り口を塞ぐ兵士もいた。

 というか、みんな一緒の銀鎧を着てるんだな。
 中には女の兵士も数人いるようだし。

「追い詰めたぞ、侵入者め」

 不敵に笑う先頭の兵士。
 ここで終わらせるつもりなのだろう。
 まあ、実際に終わらせるんだがな。

「俺を追い詰めた、だと? 追い詰められたのはお前らだというのにか?」

 ニヤリと口元を吊り上げ、追いかけてきた兵士全員・ ・ ・ ・に聞こえる程の声量を出す。

 そう、入った部屋は百人入っても余裕がありそうなホールの部屋。
 逃げている途中、偶然発見した場所だった。

 何かを感じ取って距離を取った兵士たちだが……もう遅い!

 お前らは既に俺の範囲内に入ってるんだ!

絶対零度アブソリュート・ゼロ!」

 そう高々と叫んだ瞬間──全てが終わっていた。

 絶対零度アブソリュート・ゼロとは、氷の最上級魔法であり、ある程度の範囲の敵を全て凍らすという魔法である。
 その威力を極力抑え、この部屋全体を凍らせたのだ。
 しかし、最上級魔法を詠唱なしで発動出来るとはこいつらも思いつかなかっただろう。

 俺が全ての魔法を詠唱なしで発動できる称号、【無言魔術】を得てなければな。

「ふ、ふふ……この俺を捕まえようだなんて十年早いんだよ! 全員出直してこい! はーっはっはっは!」

 ……いかん、少し落ち着こう。
 これ、完全に悪役の台詞だ。

 ちなみに兵士たちは、まるで氷の人形のように一ミリたりとも動かない。
 多分、何も見えてもいない聞こえてもいない状態だと思う。

 別に殺す必要はないので、部屋内に炎と風の複合魔法『熱風エアーフレイム』を同時に発動させておく。
 もちろん、絶対零度アブソリュート・ゼロがそれだけですぐに溶けるわけでないのだが……。
 発動させておけば時間経過で氷を溶かすことが出来るだろう。

 最も、それで絶対に無事だとは言えないのだが……。

「まあ、人の事情を聞かずに襲いかかってくる方が悪いよ、なっ!」

 もし何かあったら、俺じゃなくて自分の運でも呪ってくれ。

 俺はおそらく聞こえてない兵士たちに向かってそう言うと、思いっきり窓ガラスに拳を叩き込む。
 当然窓ガラスも魔法により凍っており、かなりの強度になっているのだが。

 バリンッという音と共に、いとも容易く凍ったガラスは割れてしまった。やはり、腕力もゲーム設定になっているのだろう。

 割れた穴から外を覗き込むと、予想通りこの部屋は二階だった。これなら降りれないこともない。
 ガラスをくぐり抜けて飛び降りる。ズドンッと振動する音を鳴り響かせながら地面へと着地した。

 ふむ。
 さっきの戦いで、やはり自分がゲームと同じような状態になっていることがわかった。

 そういえば全て魔法で撃退したが、まだ近接武器を使ってないな……後で試してみたいものだ。
 それにこの世界の敵となる『魔族』も興味がある。なので、機会があったらお目にかかりたい。

 辺りを見回してみると、どうやらここは庭のようだ。
 花壇がいくつも並び、色とりどりの綺麗な花が咲いているのが目の前に映る。

 さて、これからどうしようかと考えていたところ。

「アズマ様、アズマ様」
「うおっ!?」

 不意に後ろから声をかけられ、思わず身構える。
 振り返ってみると、窓を開けたシルエが上半身だけを窓から俺に向かって乗り出していた。

「な、なんだ、シルエか」

 まあ、その名前を知ってるのはシルエだけだから警戒する必要はなかったのだろう。
 シルエはえへへ、とはにかむ。

「アズマ様が心配になって……私も逃亡中です」
「逃亡中、って……」

 何気に凄いことするんだな、このお嬢様。
 と内心驚きつつあると、不意に気配が近づいてくるのを確認する。

「あ、レオナード、ガリウム! こっち、こっちです!」

 まさか気づかれたのかと隠れようとするが、シルエがブンブンと手を振っているので、とりあえず彼女の視線の先を向いてみる。
 そこにいたのは、二人の兵士。

 左の兵士は銀色に輝く短髪に鋭い青い目つき、肩に担いでいる巨大な斧。
 背丈は俺より高く、纏っている銀の鎧から筋肉が溢れる程ガタイがいい男である。

 そして頭部に生える狼のような耳が、何よりの特徴だ。
 ゲーム内での知識からたどれば、おそらく獣人族だろう。

 物静かな大人の雰囲気に、思わずカッコいいと思ってしまった。


 右の兵士は肩まで伸びる金髪に、細く赤い目。
 懐には二本の小刀が見える。おそらく、身体は纏っている銀の鎧よりも細めの男なのだろうと推測する。

 獣人族特有のケモミミがないことから、こっちはおそらく人族だ。

 なんだろう、隣の銀狼の男と同じく物静かな大人の雰囲気なのに、こっちは一人目と比べてあまりカッコよくない。
 というか、男で長髪とかなんか気持ち悪い。
 髪を切れば、普通にカッコいいと思うんだけどなあ……。

 二人ともの顔からして、三十歳くらいといったところだろうか。

「アズマ様から見て左がレオナードで、右がガリウムです。私専属の護衛兵です」

 シルエが俺に補足してくれると、二人は立て膝をついてその体勢で頭を下げる。
 とりあえず『イケメンのレオナード』、『残念イケメンのガリウム』と覚えておこう。

「専属の護衛兵、か。やっぱりお前は、相当凄い立場なんだな……」

 その服装と言い、確か『姫様』とか言われていたしなあ。
 と、褒めたつもりだったのだが、彼女はやや不機嫌そうに頬を膨らませる。

「別にそんなことありません。ただ、小さな王国の第一王女なだけです」
「あ、そう……」

 それもかなり凄いと思うんだが……まあ口には出さないでおこう。
 それは置いといて……シルエの専属護衛兵であるこの二人がどうしたというのだろうか?
 と、俺が首を捻っていると、シルエから予想だにしない言葉が飛び出してきた。

「アズマ様、アズマ様。ここから抜け出して、一緒に街へお出かけしませんか?」
「………………は?」

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