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勇者な俺は魔族な件

風見鳩

第一話 勇者は『人類の敵』?

「ゆ、勇者……?」

 いきなり何を言っているんだ、この娘は……?
 そもそもここはどこなんだ?

「あっ、えーと……詳しく説明しますので、場所を変えませんか?」
「あ、ああ。構わない」

 同い年かそれ前後らしき少女が手を差し出してきて、俺はその手をぐっと掴んで立ち上がる。
 立ち上がってみると、少女の身長は自分と頭一つ分くらいの差で低いとわかる。

「えへへ……」

 俺の顔を見上げるなり、何故か少女ははにかんだ。

 ……ちょっと可愛いなと思ったのは、内緒である。

「こっちです」

 手を掴んだまま、少女は誘導を始めた。

 古びたドアを開け、どこまでも続いていそうな廊下を連れて行かれる。
 また廊下内はシンとして静まり返っており、十以上はあるドアを横目で眺めながら、通り過ぎていく。

 ちらりと窓から外を見てみると、いくつもの建物がミニチュアのように小さく見え、円形の壁までを見渡せた。
 ……どうやら、かなりでかい建物のようだ。

 一つ一つ確認するように見渡しながら、通りすがるメイドを横目で見る。

 「この部屋です」と、隅っこにあるドアを開ける少女に続いて部屋へと入っていくと、部屋の中にはこれまた高級そうな楕円形の大きな机が中央に一つ置かれている。

 そして、上から下までぎっしりと分厚い本が詰まっているどでかい本棚が左右に一つずつ。

「どうぞ、おかけになってください」

 と、促されて赤を基調とするクッション付きの椅子を引いて座る。
 うわっ、座り心地すげえ。なんかずっと座っていたい気分。

「あ、そういえばまだ名乗ってませんでしたね。私、シルエ・シムルク・シオヘイム・シャーナルクと申します。どうぞ、シルエとお呼びください」

 少女──シルエは俺の隣に座ると、ニッコリと微笑みながら挨拶をする。

「よろしければ、勇者様のお名前もお聞かせ願えないでしょうか?」
「俺か? 俺は──」

 とそこまで言いかけて、ピタリと止める。

 これは……どっちの名前を言うべきなんだ?

 普通は本名を言うべきなのだろう。
 だが俺はゲームをやっていたら、ここへと来たのだ。

 なので、ゲームで登録していた名前で名乗るべきではないのだろうか。

 しかし雰囲気からして、なんかゲームというより現実という感じがする。
 ゲームをしている時に見えていた体力ゲージなどが見当たらない限り、やはりゲーム内ではない。
 さっきメニュー画面を開く動作をしたけど、なんも反応しなかったしな。

「……アズマだ」

 少し考えた後、ここは既にゲームの世界ではないと判断したので、本名を名乗る事にした。

「アズマ、様ですか。変わった名前ですね」
「…………」

 お前も十分変わっているけどな、と心の中でツッコミを入れる。
 やたらと長いし、言いにくいし。

「質問したいことは山程あるんだが……まず、ここはどこだ?」
「はい、ここはモストーボルという地の、ロウ・ブロッサム王国です」

 モストーボル、ロウ・ブロッサム……。

 いずれも聞き覚えのない名前だ。という事は、やはりゲーム内ではないのだろう。
 ……と、なるとだ。

「シルエ……さん、訊きたいことがある」
「別にさん付けしなくて良いですよ。で、なんでしょうか?」

 少し言いにくそうにする俺に、シルエは苦笑する。
 ……では、状況を確認するとしよう。

「ここはUltimate World内の世界なのか?」
「アルティ……? すみません、そのような単語に聞き覚えはありません」
「なるほど、ということはゲーム内じゃないってことか……」
「ゲーム……? ゲームとは何ですか? “異世界では”、そういうものがあるのですか?」

 可愛く小首を傾げる少女は、さらりと決定打の言葉を口にした。

 よし、ならば最後の質問だ。

「じゃあ……ここは、『異世界』なのか?」
「……そうですね、『異世界の人』からしたら、ここは異世界です」

 今ので確定した、というか確信した。
 信じられないことだが、これ以外に辻褄が合わないと思った。

 ここは『異世界』で、俺はここに『飛ばされてきた』のだ。
 マンガやゲームあるいは小説だけのような現実ではありえないような出来事が、目の前で起きているのだ。

 だが、どうして? どうやって?
 数々な疑問が残るが、まだそれはわかりそうにないというのが確かだ。

 ふと、自分の身なりを確かめてみる。
 漆黒に染まった、全身を覆う甲冑。ゲームで見慣れた、俺の衣装だ。

 実のところ、この甲冑の色は自分の武器の色に合わせるために決めたものである。

 『魔族』は自ら体内から武器を精製できるという特徴があるのだが、精製する武器色は全て黒と決まっていたりするのだ。
 なので、装備も色を合わせた方がいいだろうという考えの上に、この黒鎧を衣装に選んだ。

 最初は、中二病っぽいなと嫌だったのだが……。
 うん、やっぱりカッコイイな黒。

 慣れとは恐ろしいものである。

 まあ、衣装の色が黒だということは差して重要なことではない。
 ゲーム内の格好のまま異世界に飛んできたということが重要なのだ。

 これは推測に過ぎないが、もしかしてこの異世界でもゲーム同様の能力が使えたりするのではないのだろうか。

 だとしたら、ひとまず安心だ。
 例えどんな状況下に置かれようと、すぐに死ぬような恐れはない。

 よしよし、少し落ち着いてきたぞ。
 どうも突然異世界に飛ばされて少し混乱していたようだ。

「って、シルエ。お前、俺が異世界から来た人だとわかってるのか? なんでだ?」

 ふと、疑問に思ったことをぶつける。

 確か、こいつは何も言っていないのに『異世界の人』だと言った。
 どうしてだろうか?
 この格好は、この世界にはないのだろうか?

 思考を巡らすが、シルエが答えてくれたことは想像と全く違っていた。

「えっとですね、にわかに信じられないかもしれませんが……」
「異世界に飛んできている時点で信じられない現象なんだから、大丈夫だ」
「その……あなたを転生させたのは私の友人です」
「友人?」
「はい。彼女は、自身のみならず他人をも異世界へ転移させることが可能な能力を持っているんです」
「ふうん……何でそいつは俺をこっちの世界に?」
「彼女の目的は、『この世界を救えるような勇者を連れてくる』ことでした。最初に出会った部屋に、魔法陣があることに気がつきましたか? あれは転移魔法陣だそうなんです」
「……なるほど」

 信用するには足りない話だが、決して矛盾している話でもなかった。

 俺がこの異世界に転移してきたのは、そのシルエの友人が仕組んだことであり、友人の目的は『この世界を救えるような救世主を連れてくる』ことだったという。

 まあ、別に悪い気分でもないしな。
 自分が二次元の世界でしか見たことないような『選ばれし勇者』に選ばれるのは…………ん?

「どうして、異世界人じゃないとダメだったんだ? そもそも『この世界を救う』って、どういうことだ?」

 そうだ。

 どうして、彼女は異世界の人などに頼もうとしたのか。
 そして、『世界を救う』という言葉だけでは漠然としすぎていて、何をするべきなのかが全くわからない。
 俺にどうして欲しいっていうんだ?

「ええと、それは…………すみません、私もよくわかりません……」

 シルエは何か答えを求めるかのように視線を宙に彷徨わせたが、やがてシュンと項垂れるかのように声をか弱くさせ、視線を下に向けながら答える。

 が、再び視線を俺と合わせると、力強い言葉を発する。

「でも! 現状私たちの問題は、はっきりとわかっています! 我々に敵対してくる種族が!」
「ほう」

 なら、そいつらを潰せばいいだけの話じゃないか。

 それに俺がゲーム同様の力を出せるとしたら、難しい話ではないだろう。
 ゲーム同様ということは、今現在俺の身体はゲームで設定した『魔族』ということになる。

 普通の人間だった身体とは違い、この『魔族』の身体であれば肉体面でも問題な──

「敵は『魔族』という種族です!」

 ……。
 …………。

「ま、魔族……?」
「はい、姿は様々ですが、いずれとして人類を滅ぼそうとする存在です!」
「……………………」

 黙ってしまう。
 黙ることしかできなかった。

 つまり、なんだ?
 もし、ゲーム同様の力を出せるとしたら?

 ──俺は人類の敵、だということか?

「さあ勇者様! 共に、人類の敵である魔族を倒しましょう!!」


 * * *


「せ、せやな……」

 ヤバイ。バレたら、絶対、ヤバイ。

「せやな……? 聞いたことがない単語ですね、どういう意味でしょうか? というか、汗びっしょりですよ? 大丈夫ですか?」
「だ、だだだ大丈夫だ! に、にゃんも、問題ないぞっ!」

 大丈夫だとよそおうとしたが、噛み噛みであった。
 説得力の欠片もない。

 いや、だって。
 だってだぞ。

 見た目は人族だが、戦闘を行うとゲージが溜まって魔族の身体へと黒く染まっていく──というのが、魔族のゲーム内設定である。
 つまり、皮膚が黒くなるので、見られたら魔族だとバレる可能性が高いのだ。

 もし仮に、俺が魔族であることが人族にバレたとしよう。

 決して、この世界の人族の人口は少なくないはずだ。
 その人類全てを敵に回してみろ。

 食料を確保どころか、日々命を狙われる毎日になる。


 ならば、魔族側につけばいいという案が思い浮かぶ。

 だが待って欲しい。先程、彼女は何と言った?
 そう、『姿は様々ですが』だ。

 つまり、人の形でない──獣の姿である可能性が高いのだ。

 そんな奴らがまともな生活をしているのか分からないし、そもそも見た目は人族である俺だ。
 敵と認定するかもしれない。

 つまり彼らと共に生きるのであれば、獣のような人生を過ごす他にないのだ。
 そんな人間をやめるだなんてことは、一切御免である。

 下手すれば人族には敵扱い、対する魔族にも敵扱い。
 一切、味方がいない立場で──『勇者』とは程遠い存在だという状態である。

 さっきまでの安心感は消え失せ、代わりに底知れない不安が襲いかかっていた。


 どうやら、俺はこの世界を救済してくれる存在として呼び出されたらしいのだが。
 ……まず俺の立場を救済してくれよ。

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