勇者な俺は魔族な件

風見鳩

プロローグ ようこそ『異世界』

「お待ちしておりました勇者様!」

  ……どうしてこうなってしまったのだろうか?

 目の前の美少女の言葉に、俺は頭を抱えていた。

 これまでの経緯を一文で説明しよう。

 『突然、異世界へと転移したと思ったら謎の美少女に勇者扱いされていた』

 うん、簡潔でわかりやすい。

 どうやらこの世界、『魔族』によって、人類は危機に瀕しているらしいのだが……。

「共に、人類の敵である魔族を倒しましょう!!」


 魔族な・ ・ ・んだけど・ ・ ・ ・


 俺は、ただただバレないようにと願いながら、

「せ、せやな……」

 と冷や汗をかきつつ、全力で笑顔を注ぐしかなかった。

 改めて言わせてもらおう。
 どうしてこうなってしまったのだろうか。


 * * *


 こうなった原因は『Ultimateアルティメット Worldワールド』にある。
 『Ultimateアルティメット Worldワールド』とは、今ネットで話題となっているVRRPGだ。

 しかし話題と言っても良い意味ではない。
 悪い意味でだ。

 『自由度・クオリティが高すぎる無理ゲー』という言葉はあまりにも有名。

 例えば、武器強化で一歩間違えれば武器自体を破壊してしまう、料理は調理法を全て覚えなくてはならない等。

『ゲームをやっているという感じがしない』
『現実より理不尽な仕様』
 というプレイヤーが求めていないことに特化された、難易度S級以上と呼ばれているのがこのゲームだ。

 それを約一ヶ月。
 夏休みも終盤に差し掛かった頃。
 俺は、Ultimate Worldの全クリを成し遂げた。

 まあ天才であるこの俺ならば、努力など必要とせず余裕極まりないことだ。

 ……ネトゲ三昧で一学期はほとんど学校に行ってなかったけど。

 俺も18だし、そろそろ進路を決めなくてはいけない時期だが、その点に関しては何も心配していない。

 俺は天才だから大丈夫。
 やれば出来る。
 明日から頑張ればいいんだ、うん。

 『Ultimateアルティメット Worldワールド』では『人族』、『獣人族』、『精霊族』、『魔族』の四種類に分かれている。

 中でも『魔族』というのは他に比べて、非常に扱いにくい種族なのだが。

 俺は、敢えてこの『魔族』を選択した。

 理由は簡単。
 扱いにくい種族でクリアした方が、周りに自慢できると思ったからだ。

 そして、このゲームの重要なクリア要素である『称号』。
 この『称号』というものが百種類も存在しているのだ。

「いやいや、長すぎるって……絶対必要ない称号あっただろ……」

 野原に寝転がりながら、思わず愚痴をこぼしてしまう。
 本当に苦労したのだ。

 街でたまに出てくると言われる子猫を指定時間以内に五十回連続見つける称号である【追跡者】とか、全く意味がないだろ。

 だが、数々の無理難題な称号を、俺は全て獲得した。

「ふ、ふふふふ…………」

 自然と笑みが溢れてしまう。
 それはそうだ。
 誰にも成し遂げられなかった事を、世界で初めてこなすことが出来たのだから。

「ああ、また俺は成功してしまった……ん?」

 新たな称号を獲得したアイコンが表示される。
 
 さっきので全部なはずだったが?

 疑問に思ったが、きっと全クリした記念称号だろうと思った。
 ゲームではよくあることだ。

 特に考えずにアイコンに触れると、軽い音と共に表示される称号名。

 えーと、なになに……?

「異世界への切符を手に入れた称号、【勇者】……?」

 気になる称号名を読み上げた瞬間。
 ぐにゃりと、世界が歪み始めた。

「──!?」

 なんだこれは!?
 今までこのゲームをやってきたが、こんなこと起こったことないぞ!?

 これは仕様ではない。
 ということはゲームのバグか?

「うっ──!」

 必死に頭を働かせようとするが、突然の頭痛に思わず頭を抑えこみその場でうずくまってしまう。 

 気持ち悪くて、何も考えられない……!

 視界がぐるぐると回転していき、上も下も左も右も、自分がどの位置に立っているのかもわからなくなる。

 まるで背景が混ざり合ったような色と、底知れない気持ち悪さ。
 押し付けるかのような頭痛が俺に襲いかかってきた。

 もう限界だ──そう思って意識を手放しそうになった時。

「だ、大丈夫ですかっ?」
「……え?」

 不思議と痛みが消え、気持ち悪さもなくなった。
 俺のすぐ傍から聞こえてきた柔らかな声が聞こえた途端に、痛みが消えたのだ。

 恐る恐る顔を上げてみる。

 
 綺麗な金色の潤んだ瞳が、俺を心配そうに見つめていた。
 紺色の美しい長髪。
 如何にも高級そうな薄い桃色のドレス。

 絵に描いたような美少女に、俺は思わずハッとなった。

「こ、ここは……?」

 ぐるりと周りを見回す。

 赤い絨毯と、眩いばかりのシャンデリア。
 一般的な教室より一回り大きく、天井の高い部屋だ。
 自分の足元には、巨大な魔法陣が描かれていた。

 見た感じ、どこかのお城の中だと思うが……こんなところ、ゲーム内にあったっけ?

 混乱している俺にお姫様らしき少女は、スカートの端をつまみ優雅な仕草を見せると、耳を疑うような台詞を発した。


「ずっとお待ちしてました、この世界の・ ・ ・ ・ ・勇者様・ ・ ・!!」


 この瞬間。
 魔族で勇者な俺の新たな物語が、始まった。

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