適性ゼロの魔法勇者
第27話 実際に強くなったのは、お前だ
誰も起きていない、まだ薄暗いの朝の裏庭にひたすら素振りをする女子生徒の姿があった。
短剣を片手に構えを取り、何度も空に向かって刃を振りかざしている。
「よう、スズ。早いな」
「あっ……ハルさん。おはようございます」
俺はその女子生徒の方に声をかけると、素振りをしていた女子──スズが額に汗を流しながら振り向いた。
「今日も訓練か?」
「は、はい! 最近の朝はこれが日課なので!」
「そうかそうか。でも、ここ男子寮の裏庭だぞ? しかも毎朝って……お前、そんなに男子寮へ入りたいのか?」
「あらぬ誤解が生まれちゃってます!?」
「冗談だよ、冗談」
どうやら間に受けていたようなので手をひらひらされてやると、スズは一瞬唖然とした表情をした後に「ハルさんも冗談を言うんですね」とくすくす笑い出す。
なんだ、俺は冗談を言わないと思われていたのだろうか。
「えっと……ここは、ハルさんとスズさんの秘密の花園とユアンさんに聞いてて」
「いや、秘密って言うほど秘密にはしてないし、特に花が咲いてるわけじゃないぞ? どんな説明をしたんだ、ユアンは?」
「……はあ、ハルさんは冗談を言っても、冗談に気がつきもしないんですね……まあそういう方面で疎いのは知ってましたが」
「?」
そういう方面って、どういう方面だ?
「それに、今日は大切な日なので」
「……そうだな」
ぐっと拳を固めて意気込むスズに、俺も思わず緊張してしまう。
そう、今日こそが実施試験なのだから。
* * *
「ダルゲ家は剣作りの名家なのよ」
ルミは『ダルゲ』という名を口にしたくないような顔をしながら、もみあげをくるくると弄る。
「攻撃が伸びる剣、相手を弱体化させる剣、魔法を使えなくする剣……あらゆる効果を持った剣を作ることができるとして、今も冒険者からは絶大な指示を受けてるわ」
へえ、効果を持った剣か……どんな仕組みになってるんだろう。
「でもまあ、その系統の剣は試験で使えないから安心していいわよ」
「え? どうしてですか?」
「不公平だからに決まってるじゃない」
そりゃあ普通の武器と相手を弱体化させる効果の武器だったら、明らかに効果ありの方が勝率高いからな。
「あの女は自分の家が有名なことを良い事に威張っているだけよ。スズ、あいつを負かしてやりなさい」
「なあルミ……もしかして、さっきのやつと知り合いなのか?」
さっきの態度といい、今の言い方といい、少し気になっていたので一応質問してみることにする。
まあ、質問の意味がないというか、もうほぼ確定なんだろうけど。
「あんな奴を知り合いだなんて言いたくないわ」
「…………」
予想外の答えが返ってきた。
どうやら相当嫌っているらしい。
「あいつを知り合いの中に入れるだなんて、私の人生に汚点を付けるようなものよ」
「そんなになのか……」
「ええ、それならまだユアンを友人と言ったほうがマシだわ」
「えっ」
ダルゲも名家……ということは家繋がりで知っているのか。
どういう経緯でこんな関係になったのかはわからないが、まあ他人が兎や角言う必要はない。
「それで、剣の腕はどうなの?」
リリヤとしてはあの女子の人格に興味はないらしく、実力の方を気にしてルミに訊く。
「腕はどうこうというより……やること為すことが全部卑怯なのよ」
「卑怯、か……」
なるほど、やりにくいと言えばやりにくい相手だな。
「とにかく、スズ。試験には審判役の先生もいるから、卑怯な手は使われないわ。あなたの実力が確かなら、勝ったも同然よ」
* * *
「ってルミさんは言ってましたが……正直、不安なんです」
「自信がないのか?」
と訊いてみると、スズは顔を俯かせる。
「そりゃ前よりは強くなった気が、いえ、確実に強くなりました」
「でも」と続けるスズ。
「それはハルさんやリリヤちゃんに鍛えてもらったからであって……私が勝てるかどうかは……」
「ん? いやいや、スズ。それは違うぞ」
「え?」
意外といった感じでスズが顔をあげる。
どうやら、スズは何か勘違いしているようだ。
「確かに俺とリリヤたちで色々教えてきた。だが、それは些細なきっかけに過ぎないんだぞ」
「きっかけ……」
「実際に強くなったのは、お前だ」
それをやったのは俺でもリリヤでもない。
スズ自身だ。
今回はリリヤやユアンの時とは違う。
俺じゃなくて、スズがやらないと意味がないのだから。
「お前が何かやろうとしなきゃ、何も変わらなかった。もっと自信を持てよ、スズが強くなった大きな理由はスズ自身なんだから」
「……っ!」
そう言って、自信なさげに俯かせる少女の紫髪を優しく撫でてやる。
自信があるリリヤとは正反対のはずなのに、なんでこういうところは似ているんだろうな。
「よし、最後にもっかいだけやるか」
「……はい!」
その朝が、俺たちとスズの最後の特訓となった。
途中、誰かが見ていたような気がしないでもないが……まあ特に問題はないだろう。
短剣を片手に構えを取り、何度も空に向かって刃を振りかざしている。
「よう、スズ。早いな」
「あっ……ハルさん。おはようございます」
俺はその女子生徒の方に声をかけると、素振りをしていた女子──スズが額に汗を流しながら振り向いた。
「今日も訓練か?」
「は、はい! 最近の朝はこれが日課なので!」
「そうかそうか。でも、ここ男子寮の裏庭だぞ? しかも毎朝って……お前、そんなに男子寮へ入りたいのか?」
「あらぬ誤解が生まれちゃってます!?」
「冗談だよ、冗談」
どうやら間に受けていたようなので手をひらひらされてやると、スズは一瞬唖然とした表情をした後に「ハルさんも冗談を言うんですね」とくすくす笑い出す。
なんだ、俺は冗談を言わないと思われていたのだろうか。
「えっと……ここは、ハルさんとスズさんの秘密の花園とユアンさんに聞いてて」
「いや、秘密って言うほど秘密にはしてないし、特に花が咲いてるわけじゃないぞ? どんな説明をしたんだ、ユアンは?」
「……はあ、ハルさんは冗談を言っても、冗談に気がつきもしないんですね……まあそういう方面で疎いのは知ってましたが」
「?」
そういう方面って、どういう方面だ?
「それに、今日は大切な日なので」
「……そうだな」
ぐっと拳を固めて意気込むスズに、俺も思わず緊張してしまう。
そう、今日こそが実施試験なのだから。
* * *
「ダルゲ家は剣作りの名家なのよ」
ルミは『ダルゲ』という名を口にしたくないような顔をしながら、もみあげをくるくると弄る。
「攻撃が伸びる剣、相手を弱体化させる剣、魔法を使えなくする剣……あらゆる効果を持った剣を作ることができるとして、今も冒険者からは絶大な指示を受けてるわ」
へえ、効果を持った剣か……どんな仕組みになってるんだろう。
「でもまあ、その系統の剣は試験で使えないから安心していいわよ」
「え? どうしてですか?」
「不公平だからに決まってるじゃない」
そりゃあ普通の武器と相手を弱体化させる効果の武器だったら、明らかに効果ありの方が勝率高いからな。
「あの女は自分の家が有名なことを良い事に威張っているだけよ。スズ、あいつを負かしてやりなさい」
「なあルミ……もしかして、さっきのやつと知り合いなのか?」
さっきの態度といい、今の言い方といい、少し気になっていたので一応質問してみることにする。
まあ、質問の意味がないというか、もうほぼ確定なんだろうけど。
「あんな奴を知り合いだなんて言いたくないわ」
「…………」
予想外の答えが返ってきた。
どうやら相当嫌っているらしい。
「あいつを知り合いの中に入れるだなんて、私の人生に汚点を付けるようなものよ」
「そんなになのか……」
「ええ、それならまだユアンを友人と言ったほうがマシだわ」
「えっ」
ダルゲも名家……ということは家繋がりで知っているのか。
どういう経緯でこんな関係になったのかはわからないが、まあ他人が兎や角言う必要はない。
「それで、剣の腕はどうなの?」
リリヤとしてはあの女子の人格に興味はないらしく、実力の方を気にしてルミに訊く。
「腕はどうこうというより……やること為すことが全部卑怯なのよ」
「卑怯、か……」
なるほど、やりにくいと言えばやりにくい相手だな。
「とにかく、スズ。試験には審判役の先生もいるから、卑怯な手は使われないわ。あなたの実力が確かなら、勝ったも同然よ」
* * *
「ってルミさんは言ってましたが……正直、不安なんです」
「自信がないのか?」
と訊いてみると、スズは顔を俯かせる。
「そりゃ前よりは強くなった気が、いえ、確実に強くなりました」
「でも」と続けるスズ。
「それはハルさんやリリヤちゃんに鍛えてもらったからであって……私が勝てるかどうかは……」
「ん? いやいや、スズ。それは違うぞ」
「え?」
意外といった感じでスズが顔をあげる。
どうやら、スズは何か勘違いしているようだ。
「確かに俺とリリヤたちで色々教えてきた。だが、それは些細なきっかけに過ぎないんだぞ」
「きっかけ……」
「実際に強くなったのは、お前だ」
それをやったのは俺でもリリヤでもない。
スズ自身だ。
今回はリリヤやユアンの時とは違う。
俺じゃなくて、スズがやらないと意味がないのだから。
「お前が何かやろうとしなきゃ、何も変わらなかった。もっと自信を持てよ、スズが強くなった大きな理由はスズ自身なんだから」
「……っ!」
そう言って、自信なさげに俯かせる少女の紫髪を優しく撫でてやる。
自信があるリリヤとは正反対のはずなのに、なんでこういうところは似ているんだろうな。
「よし、最後にもっかいだけやるか」
「……はい!」
その朝が、俺たちとスズの最後の特訓となった。
途中、誰かが見ていたような気がしないでもないが……まあ特に問題はないだろう。
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