適性ゼロの魔法勇者
第16話 先にお礼を言うなら
「お疲れ様」
「おう」
勝敗が決した後、リリヤが駆け寄ってローブを羽織らせてくれた。
「……随分と時間かけたね」
「え? ああ、そりゃあ相手も確かな実力者だったからな」
相手だってただの馬鹿じゃなかったわけだしな。
しかし、リリヤは冷ややかな目で俺を見る。
「本当はすぐにでも勝てたのに?」
その視線に思わず目を逸らしてしまう。
「……はて、なんのことだか」
「とぼけても無駄。ハルなら、早いうちに相手の武器を破壊するか吹き飛ばして、相手の攻撃パターンを減らせた」
「…………」
どうして、こうもリリヤは見透かせるのだろう。
もしかして、魔力が高い奴は相手の思考を読む能力でもあるんじゃないか?
「まあ試してみたかった戦略だったんだよ、これ。俺個人としては、この勝負を楽しみたかったし」
実際に楽しかったし。
「──ふざけんじゃねえ!」
と。
勝負が終わったというのに、数人が俺たちの目の前に現れた。
確かこいつら、あの赤髪男の仲間だ。
「てめえ、いきなり割り込んできやがって! 卑怯じゃねえか!」
「そうだ! こんな試合は無効だ!」
「…………」
やれやれ。
本人が同意したっていうのに、まだいちゃもんをつけてくるのか。
「……じゃあ今から勝負するか?」
ここは納得してもらう為、俺は提案する。
「勝負だと?」
「ああ、あんたら数人とリリヤ一人。もしあんたらが勝ったら、この試合は無効ってことでいいぞ」
ポンとリリヤの肩を叩くと、連中はポカンとした顔をして吹き出した。
「ぷっ、ぎゃはははは! おいおいおい、俺たちを舐めるんじゃねえよ! 女子一人で俺たち大勢に勝てるわけないだろ!?」
「リリヤ、いいか?」
「……私は別にいいけど」
「おいおい、本気で勝てると思ってんのか!?」
「いいぜ! もし、俺たちが勝ったらちゃんと約束は守れよ!?」
「そうか。じゃ、勝負開始」
「ははっ! こんな勝負、すぐに終わらせてやるぜ……ぎゃああああああああああああああ!!」
次の瞬間、集団の周りが閃光する。
「おお、有言実行とは……恐れ入った」
集団全員はリリヤが無読詠唱で撃ち放った雷系統の中級魔法『ドンナー』をモロに食らい、地面に倒れ込んでいた。
本当に勝負はすぐに終わってしまったようだ。
「おい、リリヤ。やりすぎてないだろうな?」
「心配無用。ちゃんと意識が飛ばないように、威力を調整した」
「そうか、ならよし」
意識を失っちゃ、こっちの目的が達成されないからな。
「さて、勝負の内容は忘れちゃいないだろうな?」
「ひいっ!? す、すみませんでしたぁっ! ゆ、許してくださいっ!」
「いや、謝るのは俺にじゃねえよ」
リリヤが手を引いて連れてきた制服をボロボロにした女子を横目で見る。
リリヤと同じくらいの身長で、黒髪を腰までストレートに伸ばしている女子だ。
一見、俺たちと同じ一年生かと思ったが、おそらく彼女も二年生だろう。
「ほら、彼女に謝れ」
「「「す、すみませんっしたあ!」」」
「え、ええと……」
まだ満足に動けないのか、地面に這いつくばりながら謝る集団はなかなかシュールだった。
目の前まで連れてこられた女子──いや、先輩は状況が飲み込めずに言葉を返せずにいた。
「なんだ? これじゃ、まだ納得いかないか?」
「……今度は焼いてみる?」
「「「ひ、ひいいいいっ!!」」」
「い、いえ、もう十分です!」
リリヤが火球を手で発動させたのを見た連中が情けない声を出すと、先輩は慌ててブンブンと首を横に振った。
「そ、その、ありがとうございましたっ!」
「いやいや、お前も間違えるな。お礼を言うなら、俺にじゃないぞ」
そう言って更にボロボロになっているユアンとそれを支える青髪少女の方向を指差す。
「先にお礼を言うなら、あっちだ」
「……は、はいっ!」
先輩は小走りでユアンの元に駆け寄ると、彼に向かって深く頭を下げた。
……さて。
「おい、お前ら」
「は、はい!」
「今は気絶してるけど、後であいつも謝らせておけよ……絶対だぞ? しなかったら、どうなるかわかってんだろうな?」
「「「わ、わかりましたっ!」」」
脅し文句を交えて、連中に念を押しとく。
こうすれば、あの赤髪の男も後で彼女に謝るだろう……多分。
「……助かった、感謝する」
ふと気が付くと、ユアンがフラフラになりながらも俺の前に立っていた。
「だが、何故助けてくれた? 正直、君たちはあのまま無視するかと思ったのだが」
「……それは」
「それは、ハルがお人好しだから」
と、俺が言おうとしたところを何故かリリヤが代わりに答えた。
「決めつけられるのが嫌いで、極度のお人好し。自分が一度決めた信念は貫き通すハルだから、あなたを助けた」
「僕を……」
「あなたはさっきの子を守ろうとして戦ったんでしょ? それがハルを動かしたの」
チラリとリリヤは俺の顔を見る。
「さっきハルがあなたを友人と呼んだのが、その証拠。ハルはあなたをいい人だと認識した」
そうなのか、とユアンが俺の顔を見る。
なんと答えればいいのかわからなかったのと少し照れくさかったので、そっぽを向く。
「だから、ハルにとってあなたは助ける対象となった」
「…………」
「それに」
リリヤは手を伸ばすと、ユアンの頭を撫で始めた。
「なっ──」
「私も立派だと思った。普通にかっこよかった」
「~~っ!」
……おお。
あのリリヤがここまで言うとは。
やっぱり、彼女もユアンに思うことがいくつかあったのだろう。
いつもより優しげな瞳でユアンを見ているのは気のせいではないだろう。
ただ……。
「なっ、なっ、なっ!」
ユアンは顔を真っ赤にして、口をパクパクさせる。
見ていて面白い光景だ。
「それと……ごめんなさい、酷い事言って。どうせ下らない理由だと思ってたから」
リリヤは青髪の少女に向き直ると頭を下げる。
「その件に関しては俺も謝らなくちゃな……すまなかった」
「あ、いや……私としては助けてもらっただけで十分だから。その、ありがとう……」
二人して謝ると、彼女はぶんぶんと頭を横に振った。
「僕からも……謝る。ルミ、すまなかった」
「……ッ!」
だが、青髪の少女はユアンの方を振り向くと一変。
キッとユアンを睨むと、その頬をパンッという音が響くくらいに思いっきり叩いたのだ。
「……そうやって、いつもあなたは構わず突っ走って! どれだけ迷惑かければ済むと思ってるの!」
そう言う彼女の口調はキツく、本気で怒っているのがひしひしと伝わってくる。
「いや、それは……」
「いいんだ……すまなかった」
「それは違う」と言いかけた時、ユアンが制してきた。
そのユアンの表情からは「仕方ない」という風な雰囲気であり、青髪の少女もそれ以上は何もしなかった。
二人は一体どんな関係なのだろう?
「……ユアン。ユアン・カルパスクだ」
と。
ふと振り返ってみると、ユアンがこちらに向かって手を差し出していた。
「そういえば挨拶がまだだったと思ってね……改めて、よろしくお願いするよ」
ユアンはそう言って照れくさそうに頬を染めながら、はにかんでくる。
「ああ、俺はハルだ。よろしくな」
俺は手を握り、挨拶を交わす。
「……ルミ・ルクネスよ、よろしく」
青髪の少女──もとい、ルミも少しぶっきらぼうに自己紹介をする。
「リリヤ。よろしく」
人見知りのリリヤにも挨拶させようと声をかけようとしたが……なんとリリヤから挨拶するとは。
それほど彼女も二人のことを認めたということなのだが、リリヤの目覚しい進歩に少し感動を覚えざるを得なかった。
「おう」
勝敗が決した後、リリヤが駆け寄ってローブを羽織らせてくれた。
「……随分と時間かけたね」
「え? ああ、そりゃあ相手も確かな実力者だったからな」
相手だってただの馬鹿じゃなかったわけだしな。
しかし、リリヤは冷ややかな目で俺を見る。
「本当はすぐにでも勝てたのに?」
その視線に思わず目を逸らしてしまう。
「……はて、なんのことだか」
「とぼけても無駄。ハルなら、早いうちに相手の武器を破壊するか吹き飛ばして、相手の攻撃パターンを減らせた」
「…………」
どうして、こうもリリヤは見透かせるのだろう。
もしかして、魔力が高い奴は相手の思考を読む能力でもあるんじゃないか?
「まあ試してみたかった戦略だったんだよ、これ。俺個人としては、この勝負を楽しみたかったし」
実際に楽しかったし。
「──ふざけんじゃねえ!」
と。
勝負が終わったというのに、数人が俺たちの目の前に現れた。
確かこいつら、あの赤髪男の仲間だ。
「てめえ、いきなり割り込んできやがって! 卑怯じゃねえか!」
「そうだ! こんな試合は無効だ!」
「…………」
やれやれ。
本人が同意したっていうのに、まだいちゃもんをつけてくるのか。
「……じゃあ今から勝負するか?」
ここは納得してもらう為、俺は提案する。
「勝負だと?」
「ああ、あんたら数人とリリヤ一人。もしあんたらが勝ったら、この試合は無効ってことでいいぞ」
ポンとリリヤの肩を叩くと、連中はポカンとした顔をして吹き出した。
「ぷっ、ぎゃはははは! おいおいおい、俺たちを舐めるんじゃねえよ! 女子一人で俺たち大勢に勝てるわけないだろ!?」
「リリヤ、いいか?」
「……私は別にいいけど」
「おいおい、本気で勝てると思ってんのか!?」
「いいぜ! もし、俺たちが勝ったらちゃんと約束は守れよ!?」
「そうか。じゃ、勝負開始」
「ははっ! こんな勝負、すぐに終わらせてやるぜ……ぎゃああああああああああああああ!!」
次の瞬間、集団の周りが閃光する。
「おお、有言実行とは……恐れ入った」
集団全員はリリヤが無読詠唱で撃ち放った雷系統の中級魔法『ドンナー』をモロに食らい、地面に倒れ込んでいた。
本当に勝負はすぐに終わってしまったようだ。
「おい、リリヤ。やりすぎてないだろうな?」
「心配無用。ちゃんと意識が飛ばないように、威力を調整した」
「そうか、ならよし」
意識を失っちゃ、こっちの目的が達成されないからな。
「さて、勝負の内容は忘れちゃいないだろうな?」
「ひいっ!? す、すみませんでしたぁっ! ゆ、許してくださいっ!」
「いや、謝るのは俺にじゃねえよ」
リリヤが手を引いて連れてきた制服をボロボロにした女子を横目で見る。
リリヤと同じくらいの身長で、黒髪を腰までストレートに伸ばしている女子だ。
一見、俺たちと同じ一年生かと思ったが、おそらく彼女も二年生だろう。
「ほら、彼女に謝れ」
「「「す、すみませんっしたあ!」」」
「え、ええと……」
まだ満足に動けないのか、地面に這いつくばりながら謝る集団はなかなかシュールだった。
目の前まで連れてこられた女子──いや、先輩は状況が飲み込めずに言葉を返せずにいた。
「なんだ? これじゃ、まだ納得いかないか?」
「……今度は焼いてみる?」
「「「ひ、ひいいいいっ!!」」」
「い、いえ、もう十分です!」
リリヤが火球を手で発動させたのを見た連中が情けない声を出すと、先輩は慌ててブンブンと首を横に振った。
「そ、その、ありがとうございましたっ!」
「いやいや、お前も間違えるな。お礼を言うなら、俺にじゃないぞ」
そう言って更にボロボロになっているユアンとそれを支える青髪少女の方向を指差す。
「先にお礼を言うなら、あっちだ」
「……は、はいっ!」
先輩は小走りでユアンの元に駆け寄ると、彼に向かって深く頭を下げた。
……さて。
「おい、お前ら」
「は、はい!」
「今は気絶してるけど、後であいつも謝らせておけよ……絶対だぞ? しなかったら、どうなるかわかってんだろうな?」
「「「わ、わかりましたっ!」」」
脅し文句を交えて、連中に念を押しとく。
こうすれば、あの赤髪の男も後で彼女に謝るだろう……多分。
「……助かった、感謝する」
ふと気が付くと、ユアンがフラフラになりながらも俺の前に立っていた。
「だが、何故助けてくれた? 正直、君たちはあのまま無視するかと思ったのだが」
「……それは」
「それは、ハルがお人好しだから」
と、俺が言おうとしたところを何故かリリヤが代わりに答えた。
「決めつけられるのが嫌いで、極度のお人好し。自分が一度決めた信念は貫き通すハルだから、あなたを助けた」
「僕を……」
「あなたはさっきの子を守ろうとして戦ったんでしょ? それがハルを動かしたの」
チラリとリリヤは俺の顔を見る。
「さっきハルがあなたを友人と呼んだのが、その証拠。ハルはあなたをいい人だと認識した」
そうなのか、とユアンが俺の顔を見る。
なんと答えればいいのかわからなかったのと少し照れくさかったので、そっぽを向く。
「だから、ハルにとってあなたは助ける対象となった」
「…………」
「それに」
リリヤは手を伸ばすと、ユアンの頭を撫で始めた。
「なっ──」
「私も立派だと思った。普通にかっこよかった」
「~~っ!」
……おお。
あのリリヤがここまで言うとは。
やっぱり、彼女もユアンに思うことがいくつかあったのだろう。
いつもより優しげな瞳でユアンを見ているのは気のせいではないだろう。
ただ……。
「なっ、なっ、なっ!」
ユアンは顔を真っ赤にして、口をパクパクさせる。
見ていて面白い光景だ。
「それと……ごめんなさい、酷い事言って。どうせ下らない理由だと思ってたから」
リリヤは青髪の少女に向き直ると頭を下げる。
「その件に関しては俺も謝らなくちゃな……すまなかった」
「あ、いや……私としては助けてもらっただけで十分だから。その、ありがとう……」
二人して謝ると、彼女はぶんぶんと頭を横に振った。
「僕からも……謝る。ルミ、すまなかった」
「……ッ!」
だが、青髪の少女はユアンの方を振り向くと一変。
キッとユアンを睨むと、その頬をパンッという音が響くくらいに思いっきり叩いたのだ。
「……そうやって、いつもあなたは構わず突っ走って! どれだけ迷惑かければ済むと思ってるの!」
そう言う彼女の口調はキツく、本気で怒っているのがひしひしと伝わってくる。
「いや、それは……」
「いいんだ……すまなかった」
「それは違う」と言いかけた時、ユアンが制してきた。
そのユアンの表情からは「仕方ない」という風な雰囲気であり、青髪の少女もそれ以上は何もしなかった。
二人は一体どんな関係なのだろう?
「……ユアン。ユアン・カルパスクだ」
と。
ふと振り返ってみると、ユアンがこちらに向かって手を差し出していた。
「そういえば挨拶がまだだったと思ってね……改めて、よろしくお願いするよ」
ユアンはそう言って照れくさそうに頬を染めながら、はにかんでくる。
「ああ、俺はハルだ。よろしくな」
俺は手を握り、挨拶を交わす。
「……ルミ・ルクネスよ、よろしく」
青髪の少女──もとい、ルミも少しぶっきらぼうに自己紹介をする。
「リリヤ。よろしく」
人見知りのリリヤにも挨拶させようと声をかけようとしたが……なんとリリヤから挨拶するとは。
それほど彼女も二人のことを認めたということなのだが、リリヤの目覚しい進歩に少し感動を覚えざるを得なかった。
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