適性ゼロの魔法勇者
第15話 ……ハルの策士
それからというものの、俺にできることは必死に躱すことのみだった。
凄まじいスピードで襲ってくる攻撃を必死に躱していくだけ。
たまに避けきれずに、吹っ飛ばされて地面を転がっていく。
全身が土で汚れていく俺を見て、赤髪男の仲間と思わしき連中は指差して笑う。
魔法学科の生徒たちは暗い表情でただただ戦闘を眺めている。
俺に助けを求めてきた青髪の少女でさえ、絶望した表情だった。
傍から見れば赤髪男の優勢で、勝敗は目に見えていた。
──そう、傍から見れば。
俺の作戦に気がついているのは、おそらくリリヤくらいだろう。
その証拠に、リリヤだけはいつも通りの表情で俺を見つめている。
リリヤの他にも気が付くとしたら、それは一人のみ。
「なんのつもりだ」
先程の余裕の顔はどこへ行ったのか、イラついた表情で赤髪男は地面に転がる俺を睨んだ。
「なんのことだ?」
「とぼけるんじゃねえ。お前、さっきからわざと吹っ飛ばされているだろ」
さすが剣技学科二年でトップクラスの実力者。
俺へさほどダメージが入ってないことに気がついたか。
「俺にわざと攻撃させるチャンスを与え、お前はそのタイミングに合わせて自ら後ろへ吹っ飛んでいる……違うか?」
「……さて、どうだか」
まさしくその通り。
確かにあいつの攻撃は速いが、予測さえできれば全くと言って問題ではない。
なのでわざと隙を作って男の攻撃の向きに合わせ、俺自身が転がっているのだ。
その為、あいつからのダメージはほとんどない。
「俺の体力を削って、消耗戦に持ち込もうとでもしてんのか!」
激昂する男の剣撃を、わざと後ろへ吹っ飛んで躱す。
……そろそろか。
「なあ、今日は風が結構あるのを知ってたか?」
「ああ!? なんだ急に!」
「本当に結構あるんだぜ、スカートがめくり上がるくらいにな!」
「……馬鹿にしてんのかっ!」
赤髪男はそう叫ぶと、俺に向かって一直線で走ってきた。
俺はそのタイミングに合わせて両手を突き出す。
ふと、視界の端に見えたリリヤが口を僅かに開けるのが見えた。
リリヤは誰にも聞こえないような小声で呟く。
「……ハルの策士」
パァンッ!!
手を思いっきり打ち付ける音が、急接近してきた男の目の前で響いた。
俺がしたことは猫騙しと呼ばれる技。
相手の目の前で思いっきり手を打ち付けて、相手を怯ませる技だ。
しかし、ただの猫騙しではない。
さっきまでわざと地面に転がりながら気がつかれないように、少しずつグローブの中に詰め込んでおいた砂。
両手を打ち付けたことにより、指ぬきグローブの中の砂は指とグローブの間から飛び出てくる。
そして俺が猫騙しをしたタイミングはちょうど風が吹いている時。
風向きは俺が向いている方向だ。
つまり俺の真正面にいる赤髪の男からしたら、顔の正面から風が当たるということになる。
先程の砂がその風に乗ったらどうなるか?
砂の一粒一粒がまるで意思を持っているかのように、男の眼球へと向かっていく。
「っ!? がっ、ああっ!!?」
赤髪男は一瞬何が起こったのかわからず、急に目に入ってきた砂の痛みに、目に手を当てる。
「ふっ──!」
その隙を逃さなかった。
立ち止まった男の腹めがけて拳を繰り出す。
「がはっ!!」
確かなダメージが伝わり、後ろへと吹っ飛ぶ赤髪の男。
「求めるは雷なり」
確かなチャンスを掴んだところで詠唱を始める。
「我が手に集い、一点に撃ち放て……」
一気に間合いを詰めながら詠唱を綴っていく。
これで終わりだ。
「──舐めんじゃ、ねえええ!」
「──!」
すると、俺がいざ魔法を放とうとした途端に男は目を瞑ったまま西洋剣で突きを放ってきた。
まだ目は回復してないはずだから、俺が近づいてきたのを見えてはいないだろう。
ということは、あいつは俺が突っ込んでくるのを予測して突きを放ってきたのだ。
なるほど、さすがは実力者なだけある。
……だが、それがどうした!
「『ブリッツ』!!」
雷を帯びた右拳で男の放った西洋剣を殴りつける。
勢いよく殴りつけた拳は──西洋剣の刃を粉々に砕いていく。
「っらあぁ!」
「がはああぁっ!?」
拳は止まることなく赤髪の男の顔面にめり込む。
男は思いっきり後ろへ吹っ飛んでいく。
そして、赤髪男が立ち上がることもなく横たわったまま、数秒の静寂が流れる。
「……ふう」
俺は息をつくと同時に、周りからどよめきと歓声が入り混じった声が波のように湧き上がった。
凄まじいスピードで襲ってくる攻撃を必死に躱していくだけ。
たまに避けきれずに、吹っ飛ばされて地面を転がっていく。
全身が土で汚れていく俺を見て、赤髪男の仲間と思わしき連中は指差して笑う。
魔法学科の生徒たちは暗い表情でただただ戦闘を眺めている。
俺に助けを求めてきた青髪の少女でさえ、絶望した表情だった。
傍から見れば赤髪男の優勢で、勝敗は目に見えていた。
──そう、傍から見れば。
俺の作戦に気がついているのは、おそらくリリヤくらいだろう。
その証拠に、リリヤだけはいつも通りの表情で俺を見つめている。
リリヤの他にも気が付くとしたら、それは一人のみ。
「なんのつもりだ」
先程の余裕の顔はどこへ行ったのか、イラついた表情で赤髪男は地面に転がる俺を睨んだ。
「なんのことだ?」
「とぼけるんじゃねえ。お前、さっきからわざと吹っ飛ばされているだろ」
さすが剣技学科二年でトップクラスの実力者。
俺へさほどダメージが入ってないことに気がついたか。
「俺にわざと攻撃させるチャンスを与え、お前はそのタイミングに合わせて自ら後ろへ吹っ飛んでいる……違うか?」
「……さて、どうだか」
まさしくその通り。
確かにあいつの攻撃は速いが、予測さえできれば全くと言って問題ではない。
なのでわざと隙を作って男の攻撃の向きに合わせ、俺自身が転がっているのだ。
その為、あいつからのダメージはほとんどない。
「俺の体力を削って、消耗戦に持ち込もうとでもしてんのか!」
激昂する男の剣撃を、わざと後ろへ吹っ飛んで躱す。
……そろそろか。
「なあ、今日は風が結構あるのを知ってたか?」
「ああ!? なんだ急に!」
「本当に結構あるんだぜ、スカートがめくり上がるくらいにな!」
「……馬鹿にしてんのかっ!」
赤髪男はそう叫ぶと、俺に向かって一直線で走ってきた。
俺はそのタイミングに合わせて両手を突き出す。
ふと、視界の端に見えたリリヤが口を僅かに開けるのが見えた。
リリヤは誰にも聞こえないような小声で呟く。
「……ハルの策士」
パァンッ!!
手を思いっきり打ち付ける音が、急接近してきた男の目の前で響いた。
俺がしたことは猫騙しと呼ばれる技。
相手の目の前で思いっきり手を打ち付けて、相手を怯ませる技だ。
しかし、ただの猫騙しではない。
さっきまでわざと地面に転がりながら気がつかれないように、少しずつグローブの中に詰め込んでおいた砂。
両手を打ち付けたことにより、指ぬきグローブの中の砂は指とグローブの間から飛び出てくる。
そして俺が猫騙しをしたタイミングはちょうど風が吹いている時。
風向きは俺が向いている方向だ。
つまり俺の真正面にいる赤髪の男からしたら、顔の正面から風が当たるということになる。
先程の砂がその風に乗ったらどうなるか?
砂の一粒一粒がまるで意思を持っているかのように、男の眼球へと向かっていく。
「っ!? がっ、ああっ!!?」
赤髪男は一瞬何が起こったのかわからず、急に目に入ってきた砂の痛みに、目に手を当てる。
「ふっ──!」
その隙を逃さなかった。
立ち止まった男の腹めがけて拳を繰り出す。
「がはっ!!」
確かなダメージが伝わり、後ろへと吹っ飛ぶ赤髪の男。
「求めるは雷なり」
確かなチャンスを掴んだところで詠唱を始める。
「我が手に集い、一点に撃ち放て……」
一気に間合いを詰めながら詠唱を綴っていく。
これで終わりだ。
「──舐めんじゃ、ねえええ!」
「──!」
すると、俺がいざ魔法を放とうとした途端に男は目を瞑ったまま西洋剣で突きを放ってきた。
まだ目は回復してないはずだから、俺が近づいてきたのを見えてはいないだろう。
ということは、あいつは俺が突っ込んでくるのを予測して突きを放ってきたのだ。
なるほど、さすがは実力者なだけある。
……だが、それがどうした!
「『ブリッツ』!!」
雷を帯びた右拳で男の放った西洋剣を殴りつける。
勢いよく殴りつけた拳は──西洋剣の刃を粉々に砕いていく。
「っらあぁ!」
「がはああぁっ!?」
拳は止まることなく赤髪の男の顔面にめり込む。
男は思いっきり後ろへ吹っ飛んでいく。
そして、赤髪男が立ち上がることもなく横たわったまま、数秒の静寂が流れる。
「……ふう」
俺は息をつくと同時に、周りからどよめきと歓声が入り混じった声が波のように湧き上がった。
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