適性ゼロの魔法勇者
第10話 見返してやるのは
なんて説明しているうちに、小さなどよめきが教室内で起きていることに気が付く。
ふと前を見てみると、火球を空中で静止させているリリヤが教壇の前に立っていた。
彼女が手にしているのは、いつの日か俺があいつにプレゼントした魔導具の杖。
サイズは十五センチ程で、持ち運びに適している大きさだ。
「既に無読詠唱を使えるとは……す、素晴らしいですね」
どうやら先生にもリリヤが無読詠唱を扱えることは想定外だったようで、リリヤを褒めながらも目を丸くしていた。
対してリリヤは当然だと言わんばかりの態度で、特に表情を変化させることなく自分がいた席に戻っていく。
だが……その間にチラチラと俺に視線を送ったり、小さな羽を少しばかり動かしていたところをみると。
褒めて欲しいんだろうなあ、あいつ。
前から変わってない子供っぽさに思わず笑みを浮かびつつ、後で頭でも撫でてやろうと考えていると、
「すげえな……」
隣に座っていたガドラも感心するかのような声を出していた。
「あいつ、入学式の時にお前の隣にいたよな? 知り合いか?」
「まあ……うん、そんな感じだ」
そういえば俺とリリヤはどんな関係だと言うべきなんだろうか。
傍から見れば『知り合い』や『友人』なのだろう。
だが、俺個人としてはどうもしっくり来ないので、すこしはぐらかすような感じの返事をしてしまった。
「それにしても、魔導具の力……じゃないよな。あれ、普通の杖だし」
「まあいくら魔導具の力が強かろうと、使用者がそれに見合った魔力の持ち主じゃないと効果を発揮できないがな」
俺の補足に、ガドラは「それもそうだったな」と苦笑する。
魔導具についてだが、上記の会話の通りだ。
魔導具とは、使用者の魔法を援助する効果を持ち、魔導具を使用することで威力が増大したり短読詠唱を更に短くできたりするのだ。
ただし、強力な魔導具はそれ相応の魔力を持っていなければ効果を最大限に発揮することができない。
なので、魔導具だけが強いだけが、戦闘が有利になるとは限らないのだ。
「次の人、どうぞ」
と、金髪の男……昨日戦った男、ユアンが丁度終わったようで、自分の席に戻っているところだった。
見回してみると、ほとんどの人が終わっているようだ。
……仕方ない。
「俺が行くか……」
誰も動こうとしないことを確認すると、ゆっくりと椅子から重い腰を持ち上げる。
手にグローブをはめながら、教壇に向かう。
「では、お願いします」
と、ナミア先生。
俺は少し息を整える。
……さて、やるか。
「求めるは火なり。我が手に集い一つの球となりて、一点に撃ち放て──『フランバル』」
* * *
「なんでお前が怒ってんだよ、リリヤ」
「……別に、怒ってないし」
「いや、そんな顔されながら言われてもな」
授業終了後、昼休みとなったのでリリヤと一緒に食堂で昼ご飯を食べていることになったのだが。
ふくれっ面をさせながら飯を食うリリヤは、明らかに怒っていた。
「全然怒ってないし!」
「怒鳴りながら言われてもな……」
全然説得力がない。
「……というか、俺の体質を知っていればああなるってことはわかるだろうが」
「けど!」
ガシャンッと音を立てて食器を叩くリリヤ。
短読詠唱が一切できない上に射出範囲が十分の一である俺は、あの時どういう反応をされたか。
先生は少し困ったような顔をして周りからはクスクスと笑う声が出てきたのは、予想すれば簡単にわかることだろう。
なのに、リリヤは納得できないといった感じだ。
「だって、ハルは強いのに!」
普段感情的にならないリリヤだが、俺や勇者のことになると感情的になる節がある。
まあ大抵は怒っているのだが……それでも嬉しい限りだ。
「あのな、リリヤ。ここは魔法学科だぞ? 戦闘面で優れていても、魔法面がダメじゃ『落ちこぼれ』として笑われるのも同然だろ」
極めて正しいことを述べたつもりなのだが、リリヤはまだ許せないといった感じである。
「それでも、ハルを馬鹿にするのは許せない……!」
「…………」
そこは『仕方ない』だとしか言い様がない。
だって、自分より劣っている人を見ると優越感を感じるのが人間なのだから。
それは、仕方ないのだ。
「それを克服するために、この学科に来たんだ。見返してやるのは、その後でもいいだろ」
ぐっと握り拳を作ってそう言うが、リリヤは返事をしてくれなかった。
やっぱりそう簡単に機嫌は良くならないか……。
少しため息をつき、パンを口の中に押し込むと無言で頭を撫でる。
リリヤも何も言わず、どこか悔しそうな表情をしながら俯いていた。
そういえば……ここに来てから日課でやっていたアレをやってないな。
今日も特に用事はないし、放課後にでもやり始めるか。
ふと前を見てみると、火球を空中で静止させているリリヤが教壇の前に立っていた。
彼女が手にしているのは、いつの日か俺があいつにプレゼントした魔導具の杖。
サイズは十五センチ程で、持ち運びに適している大きさだ。
「既に無読詠唱を使えるとは……す、素晴らしいですね」
どうやら先生にもリリヤが無読詠唱を扱えることは想定外だったようで、リリヤを褒めながらも目を丸くしていた。
対してリリヤは当然だと言わんばかりの態度で、特に表情を変化させることなく自分がいた席に戻っていく。
だが……その間にチラチラと俺に視線を送ったり、小さな羽を少しばかり動かしていたところをみると。
褒めて欲しいんだろうなあ、あいつ。
前から変わってない子供っぽさに思わず笑みを浮かびつつ、後で頭でも撫でてやろうと考えていると、
「すげえな……」
隣に座っていたガドラも感心するかのような声を出していた。
「あいつ、入学式の時にお前の隣にいたよな? 知り合いか?」
「まあ……うん、そんな感じだ」
そういえば俺とリリヤはどんな関係だと言うべきなんだろうか。
傍から見れば『知り合い』や『友人』なのだろう。
だが、俺個人としてはどうもしっくり来ないので、すこしはぐらかすような感じの返事をしてしまった。
「それにしても、魔導具の力……じゃないよな。あれ、普通の杖だし」
「まあいくら魔導具の力が強かろうと、使用者がそれに見合った魔力の持ち主じゃないと効果を発揮できないがな」
俺の補足に、ガドラは「それもそうだったな」と苦笑する。
魔導具についてだが、上記の会話の通りだ。
魔導具とは、使用者の魔法を援助する効果を持ち、魔導具を使用することで威力が増大したり短読詠唱を更に短くできたりするのだ。
ただし、強力な魔導具はそれ相応の魔力を持っていなければ効果を最大限に発揮することができない。
なので、魔導具だけが強いだけが、戦闘が有利になるとは限らないのだ。
「次の人、どうぞ」
と、金髪の男……昨日戦った男、ユアンが丁度終わったようで、自分の席に戻っているところだった。
見回してみると、ほとんどの人が終わっているようだ。
……仕方ない。
「俺が行くか……」
誰も動こうとしないことを確認すると、ゆっくりと椅子から重い腰を持ち上げる。
手にグローブをはめながら、教壇に向かう。
「では、お願いします」
と、ナミア先生。
俺は少し息を整える。
……さて、やるか。
「求めるは火なり。我が手に集い一つの球となりて、一点に撃ち放て──『フランバル』」
* * *
「なんでお前が怒ってんだよ、リリヤ」
「……別に、怒ってないし」
「いや、そんな顔されながら言われてもな」
授業終了後、昼休みとなったのでリリヤと一緒に食堂で昼ご飯を食べていることになったのだが。
ふくれっ面をさせながら飯を食うリリヤは、明らかに怒っていた。
「全然怒ってないし!」
「怒鳴りながら言われてもな……」
全然説得力がない。
「……というか、俺の体質を知っていればああなるってことはわかるだろうが」
「けど!」
ガシャンッと音を立てて食器を叩くリリヤ。
短読詠唱が一切できない上に射出範囲が十分の一である俺は、あの時どういう反応をされたか。
先生は少し困ったような顔をして周りからはクスクスと笑う声が出てきたのは、予想すれば簡単にわかることだろう。
なのに、リリヤは納得できないといった感じだ。
「だって、ハルは強いのに!」
普段感情的にならないリリヤだが、俺や勇者のことになると感情的になる節がある。
まあ大抵は怒っているのだが……それでも嬉しい限りだ。
「あのな、リリヤ。ここは魔法学科だぞ? 戦闘面で優れていても、魔法面がダメじゃ『落ちこぼれ』として笑われるのも同然だろ」
極めて正しいことを述べたつもりなのだが、リリヤはまだ許せないといった感じである。
「それでも、ハルを馬鹿にするのは許せない……!」
「…………」
そこは『仕方ない』だとしか言い様がない。
だって、自分より劣っている人を見ると優越感を感じるのが人間なのだから。
それは、仕方ないのだ。
「それを克服するために、この学科に来たんだ。見返してやるのは、その後でもいいだろ」
ぐっと握り拳を作ってそう言うが、リリヤは返事をしてくれなかった。
やっぱりそう簡単に機嫌は良くならないか……。
少しため息をつき、パンを口の中に押し込むと無言で頭を撫でる。
リリヤも何も言わず、どこか悔しそうな表情をしながら俯いていた。
そういえば……ここに来てから日課でやっていたアレをやってないな。
今日も特に用事はないし、放課後にでもやり始めるか。
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