適性ゼロの魔法勇者
第6話 お前の為なら、俺はなんだって出来る
「じゃあ始めるか」
ルノア先輩に「あまり大事にしたくないので、どこか人気のない場所とかありませんか?」という要望の元、校舎裏の庭のような場所に案内された。
周りには木が二、三本立っていて、地面には雑草が生えている。
校舎との間のスペースは大体横五メートル、縦三十メートル程度。
まあ少々狭いが、十分だ。
「ハル、なんであんなことを?」
インターバル。
リリヤが準備運動をする俺に問いただしてきた。
「あんなことって? なんのことだ?」
「とぼけないで。なんであの男に勝負を挑んだの?」
「それ以外にないでしょ」というリリヤの刺さるような視線。
思わず目を逸らしてしまう。
「……いや、お前なら知ってるだろ? 俺がこういう奴だってこと」
「極度のお人好し。だけど、売られた喧嘩は買う。負けず嫌いで、他人から決めつけられることが許せない熱血男っていうのは知ってる」
お、おう……そこまで分析されているとは思ってなかった。
「だから、いきなり攻撃を仕掛けてきたことや、自分を初心者って言われたことに腹が立ったっていうのは納得がいく」
「そうだろ? だったら」
「でも、元々は私が起こした問題。ハルは関係ない」
「…………」
「ねえハル。どうしてハルが勝負を挑んだの?」
向けられるのはリリヤの真っ直ぐな視線。
俺はこのまま押し黙ろうかと考えたが、後々にしつこく聞かれるだろう。
ため息を一つつくと、ゆっくりと口を開く。
「……あのな、お前は一つ勘違いしている」
「?」
「俺がベルンヘルト家の復讐に反対だっていうのは知っているよな?」
「……うん。この学校に入学するって決まったときも、言ってた」
「今だってその意見は変わらない。復讐するのは反対だ」
「だったらなんで」
「でも」
不思議がるリリヤの頭に手を乗せる。
「こうも言ってたはずだぞ? お前の気持ちはわからないわけじゃないって」
「……!」
「今だってその意見は変わらない」
クシャリとリリヤの髪を少し乱しながら、俺は笑う。
「だって、ムカつくだろ? お前のことを何一つ知らないくせに、勝手に決めつけられて」
「……うん」
「俺には関係ないって……そんなつれないこと言うなよ」
俺とお前の関係はそういうのじゃないだろ?
「俺にもっと迷惑をかけてくれ。お前の為なら、俺はなんだって出来るぜ」
「…………うん」
リリヤは少し俯きながらも、返事をしてくれる。
「準備は出来たのか?」
と、少し苛立つような言い方で急かすのは金髪男のユアン。
「ああ、準備完了だ」
ポケットから赤の指ぬきグローブを取り出して嵌めると、ユアンに向かって構えを取る。
「君の考えはわかっているよ。自分が負けるかもしれないから、人気のないような場所を選んだのだろう?」
「……お喋りしにここへ来たわけじゃないんだが」
「ああ、それはそうだったね……ところで」
ユアンは黙って構えている俺を怪訝そうに見る。
「その黒ローブは君も魔法学科なのだろう? しかし、その様子だと君は接近戦をしようとしているようだが……」
「ああ、それはな……」
ユアンとの距離に一メートルはある。
これなら大丈夫だろう。
ユアンに向かって手をかざす。
「求めるは火なり。我が手に集い一つの球となりて、一点に撃ち放て『フランバル』」
詠唱をし終えると、かざした手からこぶし大の火球が現れる。
そして、真っ直ぐユアンに向かって飛んでいく。
ユアンは慌てて防御しようとするが……。
シュボッという虚しい音と共に、半分もしないうちに火球は消えてしまった。
「俺の魔法の範囲は通常の十分の一しかないんだ」
「…………」
「あと、どういうわけか短読詠唱も一切使えない。だから通常の魔術師と戦い方が違う、ってことだ」
「……………………ぷっ」
はたしてユアンは。
長い沈黙の後、吹き出し始めた。
「はっ、ははははは! 自信満々に勝負を挑んできたものだから、どんなものなのだろうかと思ったら……とんだ茶番じゃないか!」
ユアンはそう言って、笑い続ける。
「範囲が狭い? 短読詠唱が出来ない? ……もしかして君は、僕を馬鹿にしているのかな?」
「…………」
「魔法の才能がないような君が、この僕に勝てるとでも思うのかい?」
「……いいから来いよ。とっとと始めようぜ」
そう言って構え直す。
俺の後ろにいたリリヤは、同じくギャラリー側のルノア先輩と青髪ボブカットの少女の元へと移動する。
「あまり僕をコケにしないで欲しいな……」
ユアンはそう言うと、バッと高級そうなローブをはためかせる。
次の瞬間、その裏にくっついている宝石が煌くのが見えた。
「『フランバル』!!」
「──っ!」
迫り来る火球に、俺は脇に生えている木の方に飛び込んで避ける。
左手で木の枝を掴み、勢いを殺す。
「……そのローブが魔導具なのか」
「そうだよ。裏に魔石をはめ込ませている、我がカルパスク家が開発した魔導具だ」
魔導具というのは、魔法を使いやすくするために開発された武器のことである。
短読詠唱にする補助をしてくれたり、威力を強めてくれたり、消費魔力を抑えてくれたりと、色々と便利な道具なのだ。
ルノア先輩に「あまり大事にしたくないので、どこか人気のない場所とかありませんか?」という要望の元、校舎裏の庭のような場所に案内された。
周りには木が二、三本立っていて、地面には雑草が生えている。
校舎との間のスペースは大体横五メートル、縦三十メートル程度。
まあ少々狭いが、十分だ。
「ハル、なんであんなことを?」
インターバル。
リリヤが準備運動をする俺に問いただしてきた。
「あんなことって? なんのことだ?」
「とぼけないで。なんであの男に勝負を挑んだの?」
「それ以外にないでしょ」というリリヤの刺さるような視線。
思わず目を逸らしてしまう。
「……いや、お前なら知ってるだろ? 俺がこういう奴だってこと」
「極度のお人好し。だけど、売られた喧嘩は買う。負けず嫌いで、他人から決めつけられることが許せない熱血男っていうのは知ってる」
お、おう……そこまで分析されているとは思ってなかった。
「だから、いきなり攻撃を仕掛けてきたことや、自分を初心者って言われたことに腹が立ったっていうのは納得がいく」
「そうだろ? だったら」
「でも、元々は私が起こした問題。ハルは関係ない」
「…………」
「ねえハル。どうしてハルが勝負を挑んだの?」
向けられるのはリリヤの真っ直ぐな視線。
俺はこのまま押し黙ろうかと考えたが、後々にしつこく聞かれるだろう。
ため息を一つつくと、ゆっくりと口を開く。
「……あのな、お前は一つ勘違いしている」
「?」
「俺がベルンヘルト家の復讐に反対だっていうのは知っているよな?」
「……うん。この学校に入学するって決まったときも、言ってた」
「今だってその意見は変わらない。復讐するのは反対だ」
「だったらなんで」
「でも」
不思議がるリリヤの頭に手を乗せる。
「こうも言ってたはずだぞ? お前の気持ちはわからないわけじゃないって」
「……!」
「今だってその意見は変わらない」
クシャリとリリヤの髪を少し乱しながら、俺は笑う。
「だって、ムカつくだろ? お前のことを何一つ知らないくせに、勝手に決めつけられて」
「……うん」
「俺には関係ないって……そんなつれないこと言うなよ」
俺とお前の関係はそういうのじゃないだろ?
「俺にもっと迷惑をかけてくれ。お前の為なら、俺はなんだって出来るぜ」
「…………うん」
リリヤは少し俯きながらも、返事をしてくれる。
「準備は出来たのか?」
と、少し苛立つような言い方で急かすのは金髪男のユアン。
「ああ、準備完了だ」
ポケットから赤の指ぬきグローブを取り出して嵌めると、ユアンに向かって構えを取る。
「君の考えはわかっているよ。自分が負けるかもしれないから、人気のないような場所を選んだのだろう?」
「……お喋りしにここへ来たわけじゃないんだが」
「ああ、それはそうだったね……ところで」
ユアンは黙って構えている俺を怪訝そうに見る。
「その黒ローブは君も魔法学科なのだろう? しかし、その様子だと君は接近戦をしようとしているようだが……」
「ああ、それはな……」
ユアンとの距離に一メートルはある。
これなら大丈夫だろう。
ユアンに向かって手をかざす。
「求めるは火なり。我が手に集い一つの球となりて、一点に撃ち放て『フランバル』」
詠唱をし終えると、かざした手からこぶし大の火球が現れる。
そして、真っ直ぐユアンに向かって飛んでいく。
ユアンは慌てて防御しようとするが……。
シュボッという虚しい音と共に、半分もしないうちに火球は消えてしまった。
「俺の魔法の範囲は通常の十分の一しかないんだ」
「…………」
「あと、どういうわけか短読詠唱も一切使えない。だから通常の魔術師と戦い方が違う、ってことだ」
「……………………ぷっ」
はたしてユアンは。
長い沈黙の後、吹き出し始めた。
「はっ、ははははは! 自信満々に勝負を挑んできたものだから、どんなものなのだろうかと思ったら……とんだ茶番じゃないか!」
ユアンはそう言って、笑い続ける。
「範囲が狭い? 短読詠唱が出来ない? ……もしかして君は、僕を馬鹿にしているのかな?」
「…………」
「魔法の才能がないような君が、この僕に勝てるとでも思うのかい?」
「……いいから来いよ。とっとと始めようぜ」
そう言って構え直す。
俺の後ろにいたリリヤは、同じくギャラリー側のルノア先輩と青髪ボブカットの少女の元へと移動する。
「あまり僕をコケにしないで欲しいな……」
ユアンはそう言うと、バッと高級そうなローブをはためかせる。
次の瞬間、その裏にくっついている宝石が煌くのが見えた。
「『フランバル』!!」
「──っ!」
迫り来る火球に、俺は脇に生えている木の方に飛び込んで避ける。
左手で木の枝を掴み、勢いを殺す。
「……そのローブが魔導具なのか」
「そうだよ。裏に魔石をはめ込ませている、我がカルパスク家が開発した魔導具だ」
魔導具というのは、魔法を使いやすくするために開発された武器のことである。
短読詠唱にする補助をしてくれたり、威力を強めてくれたり、消費魔力を抑えてくれたりと、色々と便利な道具なのだ。
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