適性ゼロの魔法勇者
第4話 やっと見つけた
「なんていうか……入学式ってつまんないんだな」
しっかりと話なんか聞けなかった。
初めての学園生活だったので、『入学式』という未知なるものに少し期待していたのだが……。
あんな寝かせる気満々の長話なんか、面白くともなんともないだろう。
「確かに退屈だったけど、開始五分で寝ちゃうハルはそれ以前の問題」
リリヤは俺の隣を歩きながら呆れたような表情をしている。
「ハルは身体だけじゃなくて頭も鍛えるべき。色々と残念だから」
「お前、遠まわしに俺を馬鹿って言ってないか?」
「今のを、遠まわしな表現だと思っているんだ……」
「? どういうことだ?」
「……ううん、なんでもないよ」
何か可哀想な目で見るリリヤを疑問に思いながら、突き当たりの階段を登っていく。
「しかし五階建てとか、でかい建物だな……」
今まで見たことのないような大きさに、思わずそんな声が漏れてしまった。
入学式が午前中に終わってしまったので、どうせなら学校内を見てまわってみようという俺の提案の下、リリヤと二人で探索中なのだ。
隣にいたガドラも誘ってみたのだが、残念ながら断られてしまった。
リリヤも少し安堵したような表情をしてたのは、人見知りな性格のせいだろう。
とここまで探索してみた結果、なんだか面白そうな名前の部屋はいくつか見つけた。
魔法面に関する教室名は『魔法陣保管室』と『魔法訓練室』。
どちらとも鍵が掛かっていて中は見れなかったが、おそらく授業で使うだろう。
そう考えると、少し今後の学校生活が楽しみになってくる。
「ちょっと、そこの二人」
そう声をかけられたのは唐突だった。
五階に登りきって、さっきと同じように校舎を見てまわろうとした時、目の前に一人の女子生徒が立っていたのだ。
赤髪のストレートロングに刃物のように鋭い水色の瞳。
黒ローブを羽織っているところから魔法学科の人だということがわかる。
身長は俺と変わらないくらいところや少し大人びた雰囲気からして、先輩だろうか。
「なんでしょうか?」
女性の姿を見た瞬間、俺の後ろに隠れてしまったリリヤの代わりに俺が女性に質問する。
「あなた達、ハルくんとリリヤね?」
「? はい、そうですが……」
なぜ俺たちの名前を知っているのだろうか?
よく(特にリリヤから)「お前には記憶力がない」と言われている俺だが、この人には間違いなく見覚えがないと断言できた。
その証拠に、年上の人には人見知りであるリリヤが初対面の女性にただただ怯えている。
見覚えがあるといえば、リリヤと同じ水色の瞳ってところだけなんだが……。
疑問に思いながらも、初対面の女性はうっすらと笑みを浮かべた。
「初めまして。私はリリヤの姉、ルノア・ベルンヘルトよ」
「──っ!!」
赤髪の女性がそう言った途端。
俺の背中に隠れていたリリヤが目の前に飛び出してきた。
「おい、リリ──!」
やばいと感じた俺は、リリヤを止めようとしたが……時すでに遅し。
次の瞬間、目の前で爆発が起きた。
リリヤが無読詠唱で、火の上級魔法『エクスプロジオン』を発動させたのだ。
「やっと見つけた……!」
リリヤはギラギラと眼を光らせながら、黒い煙の中を見据える。
その声には復讐の念がたっぷりと込められていた。
「随分なご挨拶ね」
と。
煙の向こう側から落ち着いた女性の声が聞こえてくる。
そして吹き抜ける一陣の風。
煙が風に乗って窓から出て行くと、そこには無傷の女性が依然として立っていた。
「火の上級魔法を魔導具なし、かつ無読詠唱で撃てるのには正直驚いたけど……まだまだね。魔力の練度が甘いわ」
「……っ!」
女性は淡々とした口調でそう言う。
今度こそ止めなくては──そう思った俺は、次の行動に出ようとしたリリヤを後ろから羽交い締めにする。
「ハル離してっ!」
「駄目だ」
ジタバタと暴れるリリヤだが、俺はきっぱりと拒否して離そうとしない。
「お前の気持ちはわかるが、今離したらこの人に襲いかかるつもりだろうが」
そういえば、初めてこいつと出会った時もこうして暴れていたっけ。
二年前から本当に何も変わってないことにため息をつくと、女性──ルノア先輩はクスクスと笑い出す。
「あら、復讐しようと考えていたの?」
「…………」
「私だけに……ってわけじゃないわよねえ。ベルンヘルト家の者全員を殺そうとしていたのね」
「……黙れ」
「まあ、全員とはいかなくても、私のお父様は絶対に殺しておきたいわよねえ?」
「黙れ、黙れ黙れ黙れえっ! あいつのせいで、お母さんはっ!」
ルノア先輩の挑発するような言い方に、リリヤが激昂する。
「リリヤ、落ち着けっ」
今にでも飛びかかりそうなリリヤを必死に抑えると、ルノア先輩は少し意外そうな表情で俺の方を見る。
「あら、ハルくんは随分と落ち着いているのね。もしかして、まだ何も知らないかしら?」
「……いえ、大体は聞いています」
出来るだけ冷静な口調で答えると、ルノア先輩は再び笑みを浮かべた。
「なら説明する手間が省けるわね」
「…………」
「この子の母親と私のお父様の間に生まれた子がリリヤ。でも、お父様の正妻は彼女の母親ではない」
「つまり、リリヤの父親の正妻から生まれたのがルノア先輩ということですか」
「そういうことよ」
そう、リリヤはベルンヘルト家の血族である。
リリヤの父親はベルンヘルト家の人族、母親はどこの家柄でもない、魔人族の平民。
リリヤはその間に生まれた、人族と魔人族のハーフなのだ。
しかし、ベルンヘルト家はそんな二人を許さなかった。
今はほとんどなくなってしまっているが、魔人族は一部の人によって差別を受けている。
様々な理由が挙げられるが、最大の理由はかつて人類の脅威である『魔王』と同じ種族だったからだろう。
その魔王と同種族である魔人族を、勇者の末裔であるアースヘルト家が二人の婚約を許すわけがない。
初めは関係を隠していたのだが、最終的にバレてしまい。
リリヤとその母親は辺境の地にそのまま追いやられてしまったらしい。
「……二人の結婚を許さなかったのは、リリヤの母親が魔人族だから、ですか?」
「ええ。昔ほど魔人族差別の風潮はなくなったけど、かと言って勇者の末裔たちがかつて敵対していた魔王の同種族を許すわけにはいかないでしょう?」
だって許しちゃったらご先祖様に顔が立たないもの。
ルノア先輩が薄い笑みを浮かべながら、そう言い放った。
「だから、リリヤとこの子の母親は辺境の地に追いやられてしまったってわけ」
「……ふざけるな」
そんな先輩に、ふつふつと怒りの感情が篭もっていくのは俺が羽交い締めにしている少女。
二年前から勇者の一族に復讐すると宣言していた、俺の友人。
「そんなことになるのはわかってたはずなのに! なんで、あいつはお母さんと!」
「さあね。お父様かあなたの母親に訊いてみたら?」
対して気にしてないように発言するルノア先輩に、リリヤの怒りは更に爆発する。
「私のお母さんが死んだことを知ってて、そう言ってるのかっ!」
「あら、そうだったの」
今知ったというような言い方をするルノア先輩だが、その態度は既に知っているかのような感じだ。
リリヤが一人でベルンヘルト家に復讐しようとしていた原因。
それは、母親は病死してしまったから。
辺境の地へと追いやられたリリヤ達は幸せに暮らしていたのかというと、そうではなかったらしい。
辺境地は魔人族ばかりが住んでいる場所だったらしいのだが。
魔人族にとっても、人族に敵対意識しているようだ。
その中に人族と魔人族のハーフであるリリヤが来たらどうなるか。
当然のごとく、周りから迫害されるだろう。
「人族の血が混じった、裏切り者」として。
そしてリリヤを産み、保護している母親も迫害の対象だった。
その重く辛い二人の生活は十年以上続き。
事件は起こった。
リリヤの母親が倒れたのだ。
リリヤは慌てて村に一つしかない医療所へと向かった。
自分の母親が倒れた、助けて欲しいと必死に願ったのだ。
だが、現実は非情だった。
「帰れ裏切り者。お前らを助ける義理などない」
結局何度もお願いしたが、話など聞いてくれず。
母親はそのまま病死した。
小さい頃から母親だけが味方だったリリヤは一人ぼっちになってしまった。
それが、リリヤの心の中にある深い闇を広げてしまう結果になる。
──どうしてこうなった。
──誰のせいでお母さんは死んだ。
──私が魔人族と人族のハーフだったから。
──では、その人族の血は誰のものだ。
──父親のもの。
──勇者の末裔としてのベルンヘルト家の人間。
──あの父親なんかと出会ってしまったせいで、あんな勇者の末裔などという家系のせいで、お母さんは死んでしまったのだ。
──憎い。
──あの父親が、あの家系が、あの勇者が憎い。
──ならば、私はどうするべきか。
──母親の為にあいつらに復讐するべきだ。
そうしてリリヤはベルンヘルト家を恨みを持ち、復讐を心に誓ったのだ。
しっかりと話なんか聞けなかった。
初めての学園生活だったので、『入学式』という未知なるものに少し期待していたのだが……。
あんな寝かせる気満々の長話なんか、面白くともなんともないだろう。
「確かに退屈だったけど、開始五分で寝ちゃうハルはそれ以前の問題」
リリヤは俺の隣を歩きながら呆れたような表情をしている。
「ハルは身体だけじゃなくて頭も鍛えるべき。色々と残念だから」
「お前、遠まわしに俺を馬鹿って言ってないか?」
「今のを、遠まわしな表現だと思っているんだ……」
「? どういうことだ?」
「……ううん、なんでもないよ」
何か可哀想な目で見るリリヤを疑問に思いながら、突き当たりの階段を登っていく。
「しかし五階建てとか、でかい建物だな……」
今まで見たことのないような大きさに、思わずそんな声が漏れてしまった。
入学式が午前中に終わってしまったので、どうせなら学校内を見てまわってみようという俺の提案の下、リリヤと二人で探索中なのだ。
隣にいたガドラも誘ってみたのだが、残念ながら断られてしまった。
リリヤも少し安堵したような表情をしてたのは、人見知りな性格のせいだろう。
とここまで探索してみた結果、なんだか面白そうな名前の部屋はいくつか見つけた。
魔法面に関する教室名は『魔法陣保管室』と『魔法訓練室』。
どちらとも鍵が掛かっていて中は見れなかったが、おそらく授業で使うだろう。
そう考えると、少し今後の学校生活が楽しみになってくる。
「ちょっと、そこの二人」
そう声をかけられたのは唐突だった。
五階に登りきって、さっきと同じように校舎を見てまわろうとした時、目の前に一人の女子生徒が立っていたのだ。
赤髪のストレートロングに刃物のように鋭い水色の瞳。
黒ローブを羽織っているところから魔法学科の人だということがわかる。
身長は俺と変わらないくらいところや少し大人びた雰囲気からして、先輩だろうか。
「なんでしょうか?」
女性の姿を見た瞬間、俺の後ろに隠れてしまったリリヤの代わりに俺が女性に質問する。
「あなた達、ハルくんとリリヤね?」
「? はい、そうですが……」
なぜ俺たちの名前を知っているのだろうか?
よく(特にリリヤから)「お前には記憶力がない」と言われている俺だが、この人には間違いなく見覚えがないと断言できた。
その証拠に、年上の人には人見知りであるリリヤが初対面の女性にただただ怯えている。
見覚えがあるといえば、リリヤと同じ水色の瞳ってところだけなんだが……。
疑問に思いながらも、初対面の女性はうっすらと笑みを浮かべた。
「初めまして。私はリリヤの姉、ルノア・ベルンヘルトよ」
「──っ!!」
赤髪の女性がそう言った途端。
俺の背中に隠れていたリリヤが目の前に飛び出してきた。
「おい、リリ──!」
やばいと感じた俺は、リリヤを止めようとしたが……時すでに遅し。
次の瞬間、目の前で爆発が起きた。
リリヤが無読詠唱で、火の上級魔法『エクスプロジオン』を発動させたのだ。
「やっと見つけた……!」
リリヤはギラギラと眼を光らせながら、黒い煙の中を見据える。
その声には復讐の念がたっぷりと込められていた。
「随分なご挨拶ね」
と。
煙の向こう側から落ち着いた女性の声が聞こえてくる。
そして吹き抜ける一陣の風。
煙が風に乗って窓から出て行くと、そこには無傷の女性が依然として立っていた。
「火の上級魔法を魔導具なし、かつ無読詠唱で撃てるのには正直驚いたけど……まだまだね。魔力の練度が甘いわ」
「……っ!」
女性は淡々とした口調でそう言う。
今度こそ止めなくては──そう思った俺は、次の行動に出ようとしたリリヤを後ろから羽交い締めにする。
「ハル離してっ!」
「駄目だ」
ジタバタと暴れるリリヤだが、俺はきっぱりと拒否して離そうとしない。
「お前の気持ちはわかるが、今離したらこの人に襲いかかるつもりだろうが」
そういえば、初めてこいつと出会った時もこうして暴れていたっけ。
二年前から本当に何も変わってないことにため息をつくと、女性──ルノア先輩はクスクスと笑い出す。
「あら、復讐しようと考えていたの?」
「…………」
「私だけに……ってわけじゃないわよねえ。ベルンヘルト家の者全員を殺そうとしていたのね」
「……黙れ」
「まあ、全員とはいかなくても、私のお父様は絶対に殺しておきたいわよねえ?」
「黙れ、黙れ黙れ黙れえっ! あいつのせいで、お母さんはっ!」
ルノア先輩の挑発するような言い方に、リリヤが激昂する。
「リリヤ、落ち着けっ」
今にでも飛びかかりそうなリリヤを必死に抑えると、ルノア先輩は少し意外そうな表情で俺の方を見る。
「あら、ハルくんは随分と落ち着いているのね。もしかして、まだ何も知らないかしら?」
「……いえ、大体は聞いています」
出来るだけ冷静な口調で答えると、ルノア先輩は再び笑みを浮かべた。
「なら説明する手間が省けるわね」
「…………」
「この子の母親と私のお父様の間に生まれた子がリリヤ。でも、お父様の正妻は彼女の母親ではない」
「つまり、リリヤの父親の正妻から生まれたのがルノア先輩ということですか」
「そういうことよ」
そう、リリヤはベルンヘルト家の血族である。
リリヤの父親はベルンヘルト家の人族、母親はどこの家柄でもない、魔人族の平民。
リリヤはその間に生まれた、人族と魔人族のハーフなのだ。
しかし、ベルンヘルト家はそんな二人を許さなかった。
今はほとんどなくなってしまっているが、魔人族は一部の人によって差別を受けている。
様々な理由が挙げられるが、最大の理由はかつて人類の脅威である『魔王』と同じ種族だったからだろう。
その魔王と同種族である魔人族を、勇者の末裔であるアースヘルト家が二人の婚約を許すわけがない。
初めは関係を隠していたのだが、最終的にバレてしまい。
リリヤとその母親は辺境の地にそのまま追いやられてしまったらしい。
「……二人の結婚を許さなかったのは、リリヤの母親が魔人族だから、ですか?」
「ええ。昔ほど魔人族差別の風潮はなくなったけど、かと言って勇者の末裔たちがかつて敵対していた魔王の同種族を許すわけにはいかないでしょう?」
だって許しちゃったらご先祖様に顔が立たないもの。
ルノア先輩が薄い笑みを浮かべながら、そう言い放った。
「だから、リリヤとこの子の母親は辺境の地に追いやられてしまったってわけ」
「……ふざけるな」
そんな先輩に、ふつふつと怒りの感情が篭もっていくのは俺が羽交い締めにしている少女。
二年前から勇者の一族に復讐すると宣言していた、俺の友人。
「そんなことになるのはわかってたはずなのに! なんで、あいつはお母さんと!」
「さあね。お父様かあなたの母親に訊いてみたら?」
対して気にしてないように発言するルノア先輩に、リリヤの怒りは更に爆発する。
「私のお母さんが死んだことを知ってて、そう言ってるのかっ!」
「あら、そうだったの」
今知ったというような言い方をするルノア先輩だが、その態度は既に知っているかのような感じだ。
リリヤが一人でベルンヘルト家に復讐しようとしていた原因。
それは、母親は病死してしまったから。
辺境の地へと追いやられたリリヤ達は幸せに暮らしていたのかというと、そうではなかったらしい。
辺境地は魔人族ばかりが住んでいる場所だったらしいのだが。
魔人族にとっても、人族に敵対意識しているようだ。
その中に人族と魔人族のハーフであるリリヤが来たらどうなるか。
当然のごとく、周りから迫害されるだろう。
「人族の血が混じった、裏切り者」として。
そしてリリヤを産み、保護している母親も迫害の対象だった。
その重く辛い二人の生活は十年以上続き。
事件は起こった。
リリヤの母親が倒れたのだ。
リリヤは慌てて村に一つしかない医療所へと向かった。
自分の母親が倒れた、助けて欲しいと必死に願ったのだ。
だが、現実は非情だった。
「帰れ裏切り者。お前らを助ける義理などない」
結局何度もお願いしたが、話など聞いてくれず。
母親はそのまま病死した。
小さい頃から母親だけが味方だったリリヤは一人ぼっちになってしまった。
それが、リリヤの心の中にある深い闇を広げてしまう結果になる。
──どうしてこうなった。
──誰のせいでお母さんは死んだ。
──私が魔人族と人族のハーフだったから。
──では、その人族の血は誰のものだ。
──父親のもの。
──勇者の末裔としてのベルンヘルト家の人間。
──あの父親なんかと出会ってしまったせいで、あんな勇者の末裔などという家系のせいで、お母さんは死んでしまったのだ。
──憎い。
──あの父親が、あの家系が、あの勇者が憎い。
──ならば、私はどうするべきか。
──母親の為にあいつらに復讐するべきだ。
そうしてリリヤはベルンヘルト家を恨みを持ち、復讐を心に誓ったのだ。
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