適性ゼロの魔法勇者

風見鳩

第5話 試してみるか?

「ルノア先輩! 大丈夫ですか!」

 ルノア先輩の挑発に憤慨したリリヤが、再び攻撃を仕掛けようとした時。

 先輩の後ろからそんな声が聞こえ、複数の足音が聞こえてきた。

「さっきの爆発、一体何が──」

 現れたのは目に届きそうな前髪の金髪ストレートの碧眼、スラリとした感じの細身の男。
 背はルノア先輩と同じくらいで、顔立ちの整った青年である。

 金の刺繍が施してあり、裏面には沢山の宝石のようなものがチラチラと見える、如何にも高級そうな黒マントを羽織っているが……。

 あれ、学校の制服……だよな?
 学校の制服をあんな風にしてしまっていいのだろうか……?

 現れた男子学生の姿に少し引きつつも、その後ろをついてきた女子学生に目を向ける。

 ついてきたのはやや暗めの青髪をボブカットにした金目の女。
 リリヤより少し背が大きいくらいで、頬や手からは青いタトゥーのような模様が見えている。

 顔立ちからして俺たちと同じ新入生なのだろうか。

 というか、こいつらさっき見たような気がするのだが……。
 どこでだっけ?

 青年は俺たちの方を見ると、ルノア先輩との間に割って入る。

「なんだ君たちは」

 男は眉間に皺を寄せながら、鬼気迫る表情をしているリリヤと、リリヤを羽交い締めにしている俺を睨む。

 ……ふむ。
 どうやら完全に警戒されているようだ。

 ここはなんでもないフリをして、さっさと去るのがベストだろう。

 ここにいたところで、リリヤがいい気分になれないのは確かだ。
 かと言って、別にルノア先輩と争い事を起こしたいわけじゃない。

 どうやら向こうも争いたいというわけでもないし、何も起きない内に有耶無耶にするのがベストな判断だ。

 俺は愛想笑いを浮かべ、「すまん、なんでもないから」と言おうと口を開く。


「──そこをどけ! 私の邪魔をするなぁっ!」

 だというのに、俺より先にリリヤが先に喧嘩を売り始めてしまった。

「リ、リリヤ、待て! やめろって!」
「……つまり君たちは、ルノア先輩の敵だと言うことか?」
「最初からそう言ってる!」
「言ってねえよ!?」

 完全に暴走してしまっているリリヤに思わずツッコんでしまう。
 とりあえず、引きずってでもこの場から離れさせないと……。

「まあ、待て。俺たちは──」
「『フランバル』!」
「っ!!」

 直後、迫りくるこぶし大の火球。

 俺は直感的に拳を火球に向かって繰り出した。
 打ち出した拳によって、火球が吹き飛ぶ。

「ちょっと、ユアン! やめなさい!」

 と、後ろにいる控えめそうな青髪の少女が注意するが、金髪男は聞いていないようだ。

「ベルンヘルト家の者に敵対するということは、先祖代々から勇者の友人と受け継がれているカルパスク家、そしてこのユアン・カルパスクにも敵対するということだな!」

 ……ああ、思い出した。
 こいつら、最前列に座っていた名家の人間たちか。

「……おいおい。いくら名家だからって、いきなり攻撃することはないじゃねえのか?」
「だが、君たちは敵なのだろう? ならば、攻撃するのに何を躊躇う」

 なるほど、謝る気は一切ないようだ。

「その様子だと君たちは新入生だな。先程、魔法での騒音が聞こえたのだが……まだ魔法も上手く扱えないような初心者が、魔法を使って暴れるなど危険すぎる」
「……そういうお前も新入生だよな?」
「僕は誇り高きカルパスク家の人間だ。君たちとは実力の差が違う」

 「それに」と付け足す金髪男。

「僕は怒っているんだ。下らない理由で先輩に歯向かい、勇者の末裔に嫉妬していることに」
「──!」
「そういう輩は何度も見てきた。先輩に勝つ実力も根拠もない奴らを……どうせ君たちも同じ部類なのだろう?」
「ユアン!」
「……そうか」

 ならば仕方ない。
 本当は穏便に済ませたかったのにな……。

 背に隠したリリヤの身体を抑え込むように片腕で抱く。

「なら、試してみるか?」
「は?」

 「何を言ってるんだ、こいつは?」という感じでユアンと呼ばれる金髪男は俺を見る。

「いや、お前があまりにも初心者だのなんだのって言うからさ。そういうお前も、大したことないんじゃないのか?」
「……なんだと?」

 ユアンは眉を潜めるが、気にすることなくせせら笑う。

「ほら、俺たち初心者だからさ。お前がどんな凄いのかなんて、わからないんだよ。本当に実力者なのかなーって思ってさ」
「……ハル、だったら私が──んッ!?」

 リリヤが何か言おうとするが、リリヤの口に手を当てて塞ぐ。

 ここで、俺が挑発する理由はたった一つ。

 俺とリリヤの事情を知らずに、勝手な事をめいいっぱい言ってくれたことだ。

 このユアンという男がどう思っているのか、知ったことではないが。
 あんなに馬鹿にされて「はい、そうですか」なんて引き下がれるもんか。

「…………いいだろう」

 肩を震わせるユアンは、俺を睨む。

「ならば、その実力を見せてやる!」

 それはこっちの台詞だ。
 そんなことを思いながら、俺は密かに拳を握り締めた。

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