僕の大嫌いな後輩の余談を語ろう
僕の大嫌いな後輩の余談を語ろう
僕の大嫌いな後輩の余談を語ろう。
僕がアルバイトをしているラーメン屋のメニューの中で、綺麗に作るのが最も難しいと言われるのが玉子焼きである。
その玉子焼きが、つい先日にすごく綺麗に作ることができたのだ。
「えー? 先パイ、それマグレじゃないんですかぁ?」
しかし、そんな僕にニヤニヤと嫌な笑みをしてくるのは僕の後輩である。
このアルバイトを始めてまだ三ヶ月のくせに先輩である僕を馬鹿にしてくる、大嫌いな後輩だ。
「なら、今作ってみてくださいよ。マグレじゃなきゃ、もう一回作れるでしょう?」
明らかに馬鹿にした態度で挑発してくる後輩。
普段こんな挑発に乗らない僕だが……相手が後輩なら話は別だ。
今まで見下すようなことばかり言う生意気な後輩を、今日こそ見返してやる!
意気込んで中華鍋を手に持つ。
重要なのは油の量と火力だ。いかに綺麗な円形を作り、綺麗にひっくり返せ、綺麗にお玉で折っていけるかが左右される。
卵を入れて、円形を作るように焼き……ひっくり返す!
ポーン……ベシャッ。
力んでしまったのだろう、円形に作られた玉子焼きは大きく飛び上がって……床へと落ちてしまった。
「~~~っ!」
食材を無駄にしてしまったことより失敗してしまったことに虚しさを感じていると、後輩が顔を伏せて、肩を震わせ始めた。
……笑ってやがる。
「せっ、先パイ……卑怯ですよ、こんな笑わせ方させるなんてっ! ゆ、床にベシャッ、って……ベシャッ、って……! あははは……!」
ついに堪えきれなくなったのか、腹を抱えて笑い出す後輩。
……僕はこの後輩が大嫌いだ。
「先パーイ、まだ終わらないんですかぁ?」
閉店作業のレジ閉めをしていると、横から後輩が口を挟んできた。
どうやら後輩は既に終わったらしく、スマホをいじっている。
僕が反応するのを面白がっているのが目に見えているので、無視して作業を進めていく。
「もー、仕方がないですね」
すると意外なことに、後輩が手伝ってきたのだ。
こんな事、今までなかったのに……やっぱり後輩もバイト仲間。僕に対しても優しいところが
「後輩に仕事を手伝ってもらってる惨めな先パイ、どんな気分ですか?」
どうやら後輩は仲間じゃないようだ。
大学が夏休みとなったが、就職活動や卒業論文もあり全然休みらしい休みが取れない日々を送っていた。
「よかったじゃないですか先パイ。裏を返すと、就活や卒論がなきゃ先パイはずっと家に閉じこもっている生活を送ってるってことになるじゃないですかっ」
しかし、この後輩は休みがあまりないことをむしろ良いことだと評してきた。
まあ、一見すればポジティブな発言だけど……裏を返せば、『就活と卒論以外にやることがない奴』だと決めつけられているのだ。
心外だ、なんの証拠があってそんなことを言えるのだろうか。
「だって先パイ、5月のゴールデンウィークはほとんどバイト入れてましたよね?」
……うるさい。
「先パイ、もうすぐ11月ですよ? そんな半袖で寒くないんですか……?」
気が付けばもうすっかり秋の終わり頃であり、私服の時はともかくバイトはずっと半袖である僕に後輩がどん引きしたような目で見てきていた。
「いやいやいや、気が付けばじゃないですよ。衣替えとかイメチェンとか考えましょうよ」
イメチェンって……むしろ後輩がするべきじゃないだろうかと思うんだが。
「はあ? 私が? なんでですか?」
いや、その金髪とか……なんか怖いし。
「…………」
その日、ずっと後輩の顔が怖くなっていたのは言うまでもない。
「先パイ、クリスマスもバイト入れてるんですかー? 寂しいクリスマスですねー」
後輩がバイトのシフト表を見るなり、嫌な笑みを浮かべてくる。
ちなみに後輩はシフトを入れてないところから見ると、何か用事があるようだ。
「いやあ、私モテモテでして。クリスマスはデートなんですよー」
へぇ、あっそう。
「……私が彼氏いることに、何も思わないんですか?」
いやあ……別に?
後輩ならいてもおかしくないと思うし。
「はあっ!? 彼氏なんていませんけど!?」
……え?
「デートって、友達とに決まってるじゃないですか! 本当、冗談通じない先パイですね!」
まあ友達と遊ぶのはともかくとして……本気で怒っている風の後輩に冗談通じないとは言われなくなかった。
最近、高校生の新人が入った。
後輩より背が低くて、如何にも初々しいといった感じの女の子だ。
「可愛いですよね、新人ちゃん! めっちゃ可愛いですよね!」
ただ、後輩の食いつき具合がちょっと怖い。
後輩にとって初めての後輩だろうか、それはもう凄く可愛がっているそうだ。
「あっ、先パイは取っちゃ駄目ですよ? 新人ちゃんは私のなんですから」
いつからお前のになったんだよ。
「いやいや、先パイにはもったいないくらい可愛い子ですから。……まあ、どうしてもと言うのなら、私で我慢してくださいね」
……それはどういう意味なのだろうか。
意味深げな発言に戸惑いつつも、すぐに解決する。この後輩が恋愛事情を僕に持ちかけてくるはずがないのだ、絶対仕事上で働くこととしてだろう。
まあ後輩との付き合いも長いから、後輩で我慢も何もないけど……たまには新人ともやってみたいというのも本音だ。
というのをありのままに伝えたら、思いっきり腕をつねられた。意味がわからない。
「おはようございます……」
その日、僕は夕方に上がって後輩と交代する予定だったのだが……。
「せ、先輩? どうしたんですか?」
僕と一緒に働いていた新人がびっくりしたように後輩の姿を見ていた。
それもそのはず、後輩の顔は尋常じゃないくらいに真っ赤で、ニット帽で隠しているようであるが額には熱冷ましシートが張られているのだから。
「んー……? ああ、大丈夫大丈夫。このくらい、平気ってもんだよ新人ちゃん……」
「いやいや、絶対大丈夫じゃないですって! 先輩、休んでくださいよ!」
「でも、今更私の代わりなんて……」
いるぞ、ここに。
「……え?」
二人が言い争いをしている間に店長に連絡して、僕が伸びることを既に伝えたからね。
「い、いや、駄目ですよ先パイ……! 私、先パイに迷惑はかけたくないし……!」
僕に迷惑をかけたくないって……まったく、いつもの後輩らしくない。
本当に迷惑をかけたくなければ、そんな熱を出している中でここに来ないで連絡すればいいだけの話なのだから。
第一、仕事中に倒れたらそれこそ店に迷惑がかかるだろ。
「……それは、そうですけど」
それに……個人的な意見として、しっかりと休んでほしいというのもある。
「えっ……」
後輩が意外そうな目で僕を見てくるが……僕としてはそっちの方が意外だ。
熱出している後輩に仕事を任せて帰るだなんて、そんな非人道じみたことできるもんか。
「あの、それって……私のことを心配、してるんですか?」
いや、そんなの当たり前だろ。
だって──お前は僕の後輩なんだから。
「~~~っ……」
という事を言った途端、後輩が顔を俯かせた。
具合でも悪くなったのかと不安になったが、どうやらそうではないらしい。
弱々しくも後輩は笑みを浮かべていた。
そのまま帰ろうとする後輩の後ろ姿を見てあることに気が付く。
そういえば明日ホワイトデーだから、和菓子を持って行くつもりだったのだが。
……後輩、来れるんだろうか?
「ああ、そうだ。先パイ」
そんなことを不安に思っていると、後輩がふと僕の方を振り返った。
「お礼なんてしませんからね……むしろ私が代わらせてあげたんですから」
そう言う後輩の口調は、いつもと変わらず僕を馬鹿にするかのようであり……思わず笑みを浮かべてしまう。
ああ、いつもの大嫌いな後輩なんだなと。
僕がアルバイトをしているラーメン屋のメニューの中で、綺麗に作るのが最も難しいと言われるのが玉子焼きである。
その玉子焼きが、つい先日にすごく綺麗に作ることができたのだ。
「えー? 先パイ、それマグレじゃないんですかぁ?」
しかし、そんな僕にニヤニヤと嫌な笑みをしてくるのは僕の後輩である。
このアルバイトを始めてまだ三ヶ月のくせに先輩である僕を馬鹿にしてくる、大嫌いな後輩だ。
「なら、今作ってみてくださいよ。マグレじゃなきゃ、もう一回作れるでしょう?」
明らかに馬鹿にした態度で挑発してくる後輩。
普段こんな挑発に乗らない僕だが……相手が後輩なら話は別だ。
今まで見下すようなことばかり言う生意気な後輩を、今日こそ見返してやる!
意気込んで中華鍋を手に持つ。
重要なのは油の量と火力だ。いかに綺麗な円形を作り、綺麗にひっくり返せ、綺麗にお玉で折っていけるかが左右される。
卵を入れて、円形を作るように焼き……ひっくり返す!
ポーン……ベシャッ。
力んでしまったのだろう、円形に作られた玉子焼きは大きく飛び上がって……床へと落ちてしまった。
「~~~っ!」
食材を無駄にしてしまったことより失敗してしまったことに虚しさを感じていると、後輩が顔を伏せて、肩を震わせ始めた。
……笑ってやがる。
「せっ、先パイ……卑怯ですよ、こんな笑わせ方させるなんてっ! ゆ、床にベシャッ、って……ベシャッ、って……! あははは……!」
ついに堪えきれなくなったのか、腹を抱えて笑い出す後輩。
……僕はこの後輩が大嫌いだ。
「先パーイ、まだ終わらないんですかぁ?」
閉店作業のレジ閉めをしていると、横から後輩が口を挟んできた。
どうやら後輩は既に終わったらしく、スマホをいじっている。
僕が反応するのを面白がっているのが目に見えているので、無視して作業を進めていく。
「もー、仕方がないですね」
すると意外なことに、後輩が手伝ってきたのだ。
こんな事、今までなかったのに……やっぱり後輩もバイト仲間。僕に対しても優しいところが
「後輩に仕事を手伝ってもらってる惨めな先パイ、どんな気分ですか?」
どうやら後輩は仲間じゃないようだ。
大学が夏休みとなったが、就職活動や卒業論文もあり全然休みらしい休みが取れない日々を送っていた。
「よかったじゃないですか先パイ。裏を返すと、就活や卒論がなきゃ先パイはずっと家に閉じこもっている生活を送ってるってことになるじゃないですかっ」
しかし、この後輩は休みがあまりないことをむしろ良いことだと評してきた。
まあ、一見すればポジティブな発言だけど……裏を返せば、『就活と卒論以外にやることがない奴』だと決めつけられているのだ。
心外だ、なんの証拠があってそんなことを言えるのだろうか。
「だって先パイ、5月のゴールデンウィークはほとんどバイト入れてましたよね?」
……うるさい。
「先パイ、もうすぐ11月ですよ? そんな半袖で寒くないんですか……?」
気が付けばもうすっかり秋の終わり頃であり、私服の時はともかくバイトはずっと半袖である僕に後輩がどん引きしたような目で見てきていた。
「いやいやいや、気が付けばじゃないですよ。衣替えとかイメチェンとか考えましょうよ」
イメチェンって……むしろ後輩がするべきじゃないだろうかと思うんだが。
「はあ? 私が? なんでですか?」
いや、その金髪とか……なんか怖いし。
「…………」
その日、ずっと後輩の顔が怖くなっていたのは言うまでもない。
「先パイ、クリスマスもバイト入れてるんですかー? 寂しいクリスマスですねー」
後輩がバイトのシフト表を見るなり、嫌な笑みを浮かべてくる。
ちなみに後輩はシフトを入れてないところから見ると、何か用事があるようだ。
「いやあ、私モテモテでして。クリスマスはデートなんですよー」
へぇ、あっそう。
「……私が彼氏いることに、何も思わないんですか?」
いやあ……別に?
後輩ならいてもおかしくないと思うし。
「はあっ!? 彼氏なんていませんけど!?」
……え?
「デートって、友達とに決まってるじゃないですか! 本当、冗談通じない先パイですね!」
まあ友達と遊ぶのはともかくとして……本気で怒っている風の後輩に冗談通じないとは言われなくなかった。
最近、高校生の新人が入った。
後輩より背が低くて、如何にも初々しいといった感じの女の子だ。
「可愛いですよね、新人ちゃん! めっちゃ可愛いですよね!」
ただ、後輩の食いつき具合がちょっと怖い。
後輩にとって初めての後輩だろうか、それはもう凄く可愛がっているそうだ。
「あっ、先パイは取っちゃ駄目ですよ? 新人ちゃんは私のなんですから」
いつからお前のになったんだよ。
「いやいや、先パイにはもったいないくらい可愛い子ですから。……まあ、どうしてもと言うのなら、私で我慢してくださいね」
……それはどういう意味なのだろうか。
意味深げな発言に戸惑いつつも、すぐに解決する。この後輩が恋愛事情を僕に持ちかけてくるはずがないのだ、絶対仕事上で働くこととしてだろう。
まあ後輩との付き合いも長いから、後輩で我慢も何もないけど……たまには新人ともやってみたいというのも本音だ。
というのをありのままに伝えたら、思いっきり腕をつねられた。意味がわからない。
「おはようございます……」
その日、僕は夕方に上がって後輩と交代する予定だったのだが……。
「せ、先輩? どうしたんですか?」
僕と一緒に働いていた新人がびっくりしたように後輩の姿を見ていた。
それもそのはず、後輩の顔は尋常じゃないくらいに真っ赤で、ニット帽で隠しているようであるが額には熱冷ましシートが張られているのだから。
「んー……? ああ、大丈夫大丈夫。このくらい、平気ってもんだよ新人ちゃん……」
「いやいや、絶対大丈夫じゃないですって! 先輩、休んでくださいよ!」
「でも、今更私の代わりなんて……」
いるぞ、ここに。
「……え?」
二人が言い争いをしている間に店長に連絡して、僕が伸びることを既に伝えたからね。
「い、いや、駄目ですよ先パイ……! 私、先パイに迷惑はかけたくないし……!」
僕に迷惑をかけたくないって……まったく、いつもの後輩らしくない。
本当に迷惑をかけたくなければ、そんな熱を出している中でここに来ないで連絡すればいいだけの話なのだから。
第一、仕事中に倒れたらそれこそ店に迷惑がかかるだろ。
「……それは、そうですけど」
それに……個人的な意見として、しっかりと休んでほしいというのもある。
「えっ……」
後輩が意外そうな目で僕を見てくるが……僕としてはそっちの方が意外だ。
熱出している後輩に仕事を任せて帰るだなんて、そんな非人道じみたことできるもんか。
「あの、それって……私のことを心配、してるんですか?」
いや、そんなの当たり前だろ。
だって──お前は僕の後輩なんだから。
「~~~っ……」
という事を言った途端、後輩が顔を俯かせた。
具合でも悪くなったのかと不安になったが、どうやらそうではないらしい。
弱々しくも後輩は笑みを浮かべていた。
そのまま帰ろうとする後輩の後ろ姿を見てあることに気が付く。
そういえば明日ホワイトデーだから、和菓子を持って行くつもりだったのだが。
……後輩、来れるんだろうか?
「ああ、そうだ。先パイ」
そんなことを不安に思っていると、後輩がふと僕の方を振り返った。
「お礼なんてしませんからね……むしろ私が代わらせてあげたんですから」
そう言う後輩の口調は、いつもと変わらず僕を馬鹿にするかのようであり……思わず笑みを浮かべてしまう。
ああ、いつもの大嫌いな後輩なんだなと。
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