クチナシ魔術師は詠わない
幸せ使いの魔術師
「す……すごいですっ! これが『図書館』ですかっ!」
ラフィの驚いた声が図書館に響き渡る。
午前中の授業が急遽休講になり、「午後まで暇だから図書館に行ってみましょう」というラフィの提案により、僕たちは図書館へと赴いていた。
教室とは比べものにならない巨大な部屋の中に、ぎっしりと壁に敷き詰められている大量の本の数々。古いものから新しいものまで、何でも揃っているそうだ。
確かにラフィがはしゃぐのも無理はない。僕だってこんなにも大量の本を目の当たりにするのは初めてだ。
「うちにも書物が置いてある部屋はありますが、ここまで大きくないです」
いや、書物だけの部屋があるだけ十分凄いよとツッコミたいところだが、ツッコまない。喋れないからね。
しかし、本ってこんなにも種類があるんだな……『書物』というもの自体が高級品だと思ってたから、その量に圧巻してしまう。
ちなみに本日、カイルは来てない。「俺、力に自信あるけど、読解力は皆無なんだ……! 本は俺の敵なんだ……!」とかなんとか言って断ってきた。断り方がわけわからない。
「あっ、これ!」
と、ラフィが頭上にある本を指さす。
だが、その本はラフィの身長ではギリギリ手が届かない距離に置いてある。僕? もっと届かないだろうね!
とはいえ、こんなの魔法を使えば簡単──
「えいっ、えいっ!」
だというのにこの子、一生懸命その場で跳び上がって取ろうとしてる。
まあ、それでも取れるだろうけど……急に本が落ちてきたら危ないと思うんだけどな。
「えいっ……ふあっ!?」
ほら、言わんこっちゃない。
パチリと指を鳴らし、ラフィの頭上に落ちてきた本を風魔法で受け止める。
「あ、ありがとうございますっ」
本を手渡す僕に、ラフィは嬉しそうに受け取った。
「これ、私が昔好きだった本なんです」
へえ、なんの本だろうか。
本のタイトルは──『幸せ使いの魔術師』。
「えっと、いわゆるお伽噺っていうものなんですけど……」
とラフィが語り始める。
「世界中を旅する魔術師さんがいて、その魔術師さんは困っている人の為だけに魔法を使うという魔術師さんなんです」
ふうん、困った人の為だけに……ねえ。
「本来魔術師という職業は、仕事の依頼人にお金を貰うのですが、この魔術師さんは困った人にお金を請求しません」
ん? そうなると、この人はどうやって生活していたんだ?
「内職してお金を稼いでました」
なんか地味だな。
「他にも魔術師さんに助けられた人たちが、食べ物などを恵んでいるんです」
絵のついた本をパラパラとめくっていく。
そこには、このお伽噺の主人公である魔術師が色んな人たちを助けている絵がいくつも書かれている。
畑を耕す農民、痩せこけた子供、出店をする商人などなど……。
ふと、最後らへんのページの、魔術師の言葉が目にとまる。
『私は、幸せ使いの魔術師ですから』
そう言う魔術師の顔のイラストは……なんだか寂しそうに笑っている風にも見えた。
「それでこの魔術師さんは最後、死んでしまうんです……」
まあそりゃ、魔術師だって人だからね。寿命が来れば死ぬでしょ。
「それで今まで助けられた人たちが魔術師さんの骨を、魔術師さんにとって思い入れのあると言われてた花畑の近くに埋めるってところで、話は終わりです」
最後のページに描かれているのは……いくつもの白い花が野原に咲き誇っていた。
「私、この話が大好きで何回も読んでました」
まあ、僕もいい話だなあとは思ったけど。
ところで、この最後にある花の名前はなんだろうか。この花については何も書かれてないんだけど、何か意味がありそうな気がする。
「……えーっと、なんでしたっけ。前に調べたことあるんですけど……」
僕の質問にラフィも首をかしげてしまう。
「うー……すみません、思い出したら教えますっ」
いや、別にそこまでしなくてもいいんだけどね。
でも気にならないと言えば嘘になるし、楽しみに待ってることにしよう。
ある程度の時間を潰したところで、僕らは午後の授業の為に教室へ戻ることにした。
***
……ん?
我らが4クラスの教室に帰ると、なんだか人だかりが出来ていた。
人だかりというか……4クラスのクラスメイトたちだけど。
「どうしたんでしょうか……?」
ラフィも不思議そうに首を捻る。
「……おぉ、お前ら。ちょうど良いところに来た」
と、後方にいたカイルが僕とラフィに気が付く。
「どうしたんですか、カイルくん? 早く教室に入らないと……」
「いや……その教室なんだけどな」
カイルが言いにくそうに口ごもる。……? 教室が、どうかしたの?
「ごらんの有様になってるんだ」
人混みをかき分けて教室内を見たとき──ようやく、事情が飲み込めた。
そこには、机や椅子が倒れていたり壊れていたりと、まるで何者かが暴れ回ったかのような4クラスの教室が目の前に広がっていた。
ラフィの驚いた声が図書館に響き渡る。
午前中の授業が急遽休講になり、「午後まで暇だから図書館に行ってみましょう」というラフィの提案により、僕たちは図書館へと赴いていた。
教室とは比べものにならない巨大な部屋の中に、ぎっしりと壁に敷き詰められている大量の本の数々。古いものから新しいものまで、何でも揃っているそうだ。
確かにラフィがはしゃぐのも無理はない。僕だってこんなにも大量の本を目の当たりにするのは初めてだ。
「うちにも書物が置いてある部屋はありますが、ここまで大きくないです」
いや、書物だけの部屋があるだけ十分凄いよとツッコミたいところだが、ツッコまない。喋れないからね。
しかし、本ってこんなにも種類があるんだな……『書物』というもの自体が高級品だと思ってたから、その量に圧巻してしまう。
ちなみに本日、カイルは来てない。「俺、力に自信あるけど、読解力は皆無なんだ……! 本は俺の敵なんだ……!」とかなんとか言って断ってきた。断り方がわけわからない。
「あっ、これ!」
と、ラフィが頭上にある本を指さす。
だが、その本はラフィの身長ではギリギリ手が届かない距離に置いてある。僕? もっと届かないだろうね!
とはいえ、こんなの魔法を使えば簡単──
「えいっ、えいっ!」
だというのにこの子、一生懸命その場で跳び上がって取ろうとしてる。
まあ、それでも取れるだろうけど……急に本が落ちてきたら危ないと思うんだけどな。
「えいっ……ふあっ!?」
ほら、言わんこっちゃない。
パチリと指を鳴らし、ラフィの頭上に落ちてきた本を風魔法で受け止める。
「あ、ありがとうございますっ」
本を手渡す僕に、ラフィは嬉しそうに受け取った。
「これ、私が昔好きだった本なんです」
へえ、なんの本だろうか。
本のタイトルは──『幸せ使いの魔術師』。
「えっと、いわゆるお伽噺っていうものなんですけど……」
とラフィが語り始める。
「世界中を旅する魔術師さんがいて、その魔術師さんは困っている人の為だけに魔法を使うという魔術師さんなんです」
ふうん、困った人の為だけに……ねえ。
「本来魔術師という職業は、仕事の依頼人にお金を貰うのですが、この魔術師さんは困った人にお金を請求しません」
ん? そうなると、この人はどうやって生活していたんだ?
「内職してお金を稼いでました」
なんか地味だな。
「他にも魔術師さんに助けられた人たちが、食べ物などを恵んでいるんです」
絵のついた本をパラパラとめくっていく。
そこには、このお伽噺の主人公である魔術師が色んな人たちを助けている絵がいくつも書かれている。
畑を耕す農民、痩せこけた子供、出店をする商人などなど……。
ふと、最後らへんのページの、魔術師の言葉が目にとまる。
『私は、幸せ使いの魔術師ですから』
そう言う魔術師の顔のイラストは……なんだか寂しそうに笑っている風にも見えた。
「それでこの魔術師さんは最後、死んでしまうんです……」
まあそりゃ、魔術師だって人だからね。寿命が来れば死ぬでしょ。
「それで今まで助けられた人たちが魔術師さんの骨を、魔術師さんにとって思い入れのあると言われてた花畑の近くに埋めるってところで、話は終わりです」
最後のページに描かれているのは……いくつもの白い花が野原に咲き誇っていた。
「私、この話が大好きで何回も読んでました」
まあ、僕もいい話だなあとは思ったけど。
ところで、この最後にある花の名前はなんだろうか。この花については何も書かれてないんだけど、何か意味がありそうな気がする。
「……えーっと、なんでしたっけ。前に調べたことあるんですけど……」
僕の質問にラフィも首をかしげてしまう。
「うー……すみません、思い出したら教えますっ」
いや、別にそこまでしなくてもいいんだけどね。
でも気にならないと言えば嘘になるし、楽しみに待ってることにしよう。
ある程度の時間を潰したところで、僕らは午後の授業の為に教室へ戻ることにした。
***
……ん?
我らが4クラスの教室に帰ると、なんだか人だかりが出来ていた。
人だかりというか……4クラスのクラスメイトたちだけど。
「どうしたんでしょうか……?」
ラフィも不思議そうに首を捻る。
「……おぉ、お前ら。ちょうど良いところに来た」
と、後方にいたカイルが僕とラフィに気が付く。
「どうしたんですか、カイルくん? 早く教室に入らないと……」
「いや……その教室なんだけどな」
カイルが言いにくそうに口ごもる。……? 教室が、どうかしたの?
「ごらんの有様になってるんだ」
人混みをかき分けて教室内を見たとき──ようやく、事情が飲み込めた。
そこには、机や椅子が倒れていたり壊れていたりと、まるで何者かが暴れ回ったかのような4クラスの教室が目の前に広がっていた。
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