クチナシ魔術師は詠わない
洞窟(2)
洞窟のぐねぐねとした一本道を進むこと数分。どこにもぶつかることなく、僕らはひたすら歩いていた。
ひんやりとした空気が身体を包み込み、羽織っているローブを強く握りしめる。いつも邪魔だと思ってたけど、初めてローブがあって良かったと思った瞬間だった。
「何にもありませんね……」
先頭を歩くラフィが寂しそうにぼやく。
「まあよく考えてみたら学校内だからな、ここ……もしかしたら、もう誰かが足を踏み入れた後で、何も残ってないのかも知れないぞ」
さっきまでテンションが高めだったカイルも、興味を失ったかのような反応だ。
うん、まあカイルの考えは当たってるかもしれない。
もう他の誰かが足を踏み入れていて、何もない可能性がある。
でも……。
「ええー……それじゃあ、私たちの目指すべき場所はどこにあるというんですか」
「真上にあると思うぞ」
「シルバくんはどう思います? ……シルバくん?」
と、口に手を当てて考え込む僕の顔を、ラフィが不思議そうに覗き込んできた。
……でも、あまりに不自然すぎる。
通常、ダンジョンというのは自然でできたものだ。だからこそ何が起こるかわからない危険性があるし、モンスターも自然とダンジョン内で過ごし始める。
だが……さっきからモンスターが一匹も出ないというのは、一体どういうことだ。
しかも、一切枝分かれすることのない一本道。自然で出来たという言葉で片付けるにしては、あまりに出来過ぎてはいないだろうか。
まるで、誰かの意思で作られたかのような──
「──シルバくんってば!」
とラフィの強めの口調に、我に返った。
「どうしたんですか、そんなに考え込んで」
いや……やばい。
多分、本気でやばいやつだ、これは。
さっきまでどうにでもなれとかほぼ投げやりな気分だったが、この洞窟の異常性からして本当にどうにでもなってしまう可能性が高い。
僕の本能が告げている。
これ以上進むのは──やばい、と。
「おい、あれ」
今来た道を引き返すべきだと二人の裾を握りしめようとした時、カイルがふと前方を指さす。
──ガション、ガション
そんな不気味な音と共に一つの人影が現れる。
そう人影。
遠目から見てもわかるような図体の大きさの影が、僕らの方向に向かって歩いてきているのだ。
──ガション、ガション
やがてその正体が見えてくる。
鎧だ。巨大な大剣を持った真っ黒い鎧が、僕らの方に向かって近づいてきている。
──ガション……
思わず立ち竦む僕らまである程度の距離がつまると、黒鎧はピタリと止まった。
が、次の瞬間。
──ガションガションガション!
いきなり僕らに向かって走り出してきた!
パンッ!
瞬間、両手を強く叩き氷の刃を生成する。
それをある程度の強度にすると、黒鎧に向かって思いっきり投げつけた。
──だが。
黒鎧は氷の刃を大剣で叩きつける。
「……逃げるぞ!」
ワンテンポ遅れてカイルが叫び、ラフィも慌てて逃げ出す。
僕は最後尾に回ると、後ろを振り返り両手の指をパチリと鳴らし──目を瞑った。
直後、強烈な閃光が黒鎧の目の前で起こる。
今放ったのは光魔法の光を一瞬だけ強くするもの。視覚がある人及びモンスターには何も見えなくするという効果を持っている。
そして次に黒鎧を襲うのは強烈な風。一本道という点が上手く利用でき、しばらく向かい風に抵抗して進むことは出来ない。
ちょっとした足止めだけど、これで──
「──≪ダルクドラウ≫」
……えっ?
黒鎧から何やらくぐもった声が聞こえたと思った途端。
僕は見えない何かに引っ張られた。
「シルバっ!」
「シルバくん!」
二人の叫び声が聞こえてくるが……抵抗、出来ない!
身体を地面に転がされながら、黒鎧の元まで引き寄せられる。
そして、転がってきた僕に向かって巨大な大剣が振り下ろされた。
パンッ──慌てて両手を叩き、僕と黒鎧の間に風を起こす。
怯んだ黒鎧にそのまま地面を転がって、黒鎧の後ろを取る。
指をパチリと鳴らし、氷の刃を5つ生成。
その5つを黒鎧に向かって投げつける──が。
氷の刃をもろともせず、黒鎧は僕の方に身体を向けてくる。
……やっぱり無理か。
ならば──パンッと手を叩き、強烈な風を生成。
──黒鎧の後ろに。
黒鎧の後ろから強烈な風が吹き込み、その先にいる僕はどうなるか。
答えは簡単。
僕と黒鎧、どちらともが風によって吹き飛ばされる、だ。
強烈な風によって奥へと吹き飛ばされていく。
二人が何か叫んでいた気がするが──風の音で何も聞こえなかった。
勢いよく一本道を飛ばされていき……やがて風の勢いを失った僕の身体は地面を転がっていく。
飛ばされてきた僕がたどり着いたのは……一本道とは違う、広い空間。
さて……深く呼吸して剣を構える黒鎧を見据えた。
ひんやりとした空気が身体を包み込み、羽織っているローブを強く握りしめる。いつも邪魔だと思ってたけど、初めてローブがあって良かったと思った瞬間だった。
「何にもありませんね……」
先頭を歩くラフィが寂しそうにぼやく。
「まあよく考えてみたら学校内だからな、ここ……もしかしたら、もう誰かが足を踏み入れた後で、何も残ってないのかも知れないぞ」
さっきまでテンションが高めだったカイルも、興味を失ったかのような反応だ。
うん、まあカイルの考えは当たってるかもしれない。
もう他の誰かが足を踏み入れていて、何もない可能性がある。
でも……。
「ええー……それじゃあ、私たちの目指すべき場所はどこにあるというんですか」
「真上にあると思うぞ」
「シルバくんはどう思います? ……シルバくん?」
と、口に手を当てて考え込む僕の顔を、ラフィが不思議そうに覗き込んできた。
……でも、あまりに不自然すぎる。
通常、ダンジョンというのは自然でできたものだ。だからこそ何が起こるかわからない危険性があるし、モンスターも自然とダンジョン内で過ごし始める。
だが……さっきからモンスターが一匹も出ないというのは、一体どういうことだ。
しかも、一切枝分かれすることのない一本道。自然で出来たという言葉で片付けるにしては、あまりに出来過ぎてはいないだろうか。
まるで、誰かの意思で作られたかのような──
「──シルバくんってば!」
とラフィの強めの口調に、我に返った。
「どうしたんですか、そんなに考え込んで」
いや……やばい。
多分、本気でやばいやつだ、これは。
さっきまでどうにでもなれとかほぼ投げやりな気分だったが、この洞窟の異常性からして本当にどうにでもなってしまう可能性が高い。
僕の本能が告げている。
これ以上進むのは──やばい、と。
「おい、あれ」
今来た道を引き返すべきだと二人の裾を握りしめようとした時、カイルがふと前方を指さす。
──ガション、ガション
そんな不気味な音と共に一つの人影が現れる。
そう人影。
遠目から見てもわかるような図体の大きさの影が、僕らの方向に向かって歩いてきているのだ。
──ガション、ガション
やがてその正体が見えてくる。
鎧だ。巨大な大剣を持った真っ黒い鎧が、僕らの方に向かって近づいてきている。
──ガション……
思わず立ち竦む僕らまである程度の距離がつまると、黒鎧はピタリと止まった。
が、次の瞬間。
──ガションガションガション!
いきなり僕らに向かって走り出してきた!
パンッ!
瞬間、両手を強く叩き氷の刃を生成する。
それをある程度の強度にすると、黒鎧に向かって思いっきり投げつけた。
──だが。
黒鎧は氷の刃を大剣で叩きつける。
「……逃げるぞ!」
ワンテンポ遅れてカイルが叫び、ラフィも慌てて逃げ出す。
僕は最後尾に回ると、後ろを振り返り両手の指をパチリと鳴らし──目を瞑った。
直後、強烈な閃光が黒鎧の目の前で起こる。
今放ったのは光魔法の光を一瞬だけ強くするもの。視覚がある人及びモンスターには何も見えなくするという効果を持っている。
そして次に黒鎧を襲うのは強烈な風。一本道という点が上手く利用でき、しばらく向かい風に抵抗して進むことは出来ない。
ちょっとした足止めだけど、これで──
「──≪ダルクドラウ≫」
……えっ?
黒鎧から何やらくぐもった声が聞こえたと思った途端。
僕は見えない何かに引っ張られた。
「シルバっ!」
「シルバくん!」
二人の叫び声が聞こえてくるが……抵抗、出来ない!
身体を地面に転がされながら、黒鎧の元まで引き寄せられる。
そして、転がってきた僕に向かって巨大な大剣が振り下ろされた。
パンッ──慌てて両手を叩き、僕と黒鎧の間に風を起こす。
怯んだ黒鎧にそのまま地面を転がって、黒鎧の後ろを取る。
指をパチリと鳴らし、氷の刃を5つ生成。
その5つを黒鎧に向かって投げつける──が。
氷の刃をもろともせず、黒鎧は僕の方に身体を向けてくる。
……やっぱり無理か。
ならば──パンッと手を叩き、強烈な風を生成。
──黒鎧の後ろに。
黒鎧の後ろから強烈な風が吹き込み、その先にいる僕はどうなるか。
答えは簡単。
僕と黒鎧、どちらともが風によって吹き飛ばされる、だ。
強烈な風によって奥へと吹き飛ばされていく。
二人が何か叫んでいた気がするが──風の音で何も聞こえなかった。
勢いよく一本道を飛ばされていき……やがて風の勢いを失った僕の身体は地面を転がっていく。
飛ばされてきた僕がたどり着いたのは……一本道とは違う、広い空間。
さて……深く呼吸して剣を構える黒鎧を見据えた。
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