クチナシ魔術師は詠わない
魔武具と魔護符
魔武具というのは、簡潔に言ってしまえば使用者の魔法の手助けとなる武器である。
魔法が強化されたり、固定の魔法を放てたりと、効果はさまざまだ。
「≪グロンド≫!」
カイルが詠唱すると、彼の両手に土が集まる。
「へえ、これがカイルくんの魔武具ですか」
「おうよ、これぞ自作魔武具の『土魔法の手』だ!」
名前、そのまんまじゃないか。
しかし、魔武具を自作するのは珍しい。
やり方さえわかれば作るのはすごく簡単なのだが、その効果が武具職人が作ったモノを超えるモノを作れるのは非常に難しいのだ。
それだったら、わざわざ自作するより金を出して買ってしまった方がいいと多くの人なら思ってしまうだろう。
「それで、その魔武具はどんな効果があるんですか?」
目をきらきらさせるラフィに、カイルはきょとんとする。
「え? これだけだけど?」
「……え?」
これだけ、って……。
「で、でも、その魔法、初級魔法の≪グロンドバル≫並の強度ですよね……?」
「いや、素手よりかは強化されてるからな。使えないことはない」
と、土の拳を握るカイルに思わず呆れてしまう。
それなら普通に≪グロンドバル≫を使った方が早いじゃないか……。
しかも見るからに近接武器。遠距離という魔法の長所を潰しているとしか思えない。
「ラフィは魔武具持ってないのか?」
「私は得意魔法っていうのがあまりわからないから……これです」
とラフィが取り出すのは一本の杖。
ポケットに入る程度の大きさで、世界で一番使われているという魔武具だ。
固定属性を強化するというのがない代わりに、全属性を扱いやすくするという長所を持っている。
「その……私、比較的光魔法が得意みたいなんですけど、中級魔法も発動できないから、攻撃力ってものがなくて……」
なるほど、そういう考えならばその選択はありだろう。
「で、シルバは……まあ、お前はいらないか」
「魔武具なしでも十分に凄いですもんね」
と二人は言ってくるが、実はそうじゃないのだ。
僕の無詠唱魔法には弱点がある。
この弱点のせいもあり、僕はどんな魔武具も使うことが出来ない。
「んで、これが護身用の魔護符か」
「一定以上の攻撃は吸収するだなんて、すごい技術ですね」
カイルがポケットから小さな長方形の布を取り出す。
魔武具が武器ならば、魔護符は防具だ。
中に固い長方形の鉄板が入ってるらしく、それを布で覆っている。
効果はたった一つ。自分の魔力に応じた防御力を得ることが出来、魔護符が壊れない限り致死ダメージを追うことがないという優れものだ。
ただ、一定以上の攻撃を受けると壊れてしまうので、実践ではせいぜい護身用代わりである。
しかし、この魔護符というのはこの学校だと上手く利用されているのだ。
まず、持っていれば一定以上の攻撃は吸収される。つまり、簡単に死ぬことはない。
そしてこの魔護符が出来るからこそ、生徒間での決闘というものが行える。
相手が気絶すれば魔護符の効果が消えたという意味をしており、これがなければ危うく殺してしまうことだってあるからだ。
それ以上攻撃を加えれば、魔護符が破壊され使用者に直接ダメージが当たるわけだが……まあそんなことをしたら殺人である。
「ふう……みんな持ってるモノは大体こんなもんか」
「そうですね、大体こんなもんです」
ところで、どうして僕らは自分が持っているモノを確認しているのかというと。
「で、どこだここ?」
「私たち、きちんと帰れるのでしょうか……?」
現在、僕たちはヴィッヘルム森林内にて迷子になっていた。
それを人は遭難と言う。
***
きっかけは些細なことだった。
今日はモンスター討伐の実践授業だということで、向かった先はヴィッヘルム森林。
学校内にある初心者用の森らしい。
「いいかー? 獲物を見つけたら狩る、それが討伐の極意だ」
随分アバウトな極意だなあ。
「まあ実践授業だし、実際に狩ってみるのが一番だろ。詳しい説明は面倒だから、適当にやってみて」
今『面倒』って言ったよな、この教師。
といつも通りのユキリア先生は置いておき、僕たち三人は森の中でモンスターを狩ることとなったのだ。
「なあ、ヴィッヘルム森林って昔は『迷いの森』って呼ばれていたらしいぜ」
歩くこと数分、先頭を歩くカイルが突然そんなことを言ってきた。
「なんでもでかい森だからな。結構迷った人がいたんだってよ」
「へえ、そうなんですか」
迷いの森、ねえ。
それって下手すれば僕たちも迷うんじゃないかと思ったけど、きっと大丈夫だろう。
何せクラス全員で森の中に入るわけだし、見る限りだとそこまで危険な場所はなさそうだし。
「あっち行ってみるか」
と、カイルが指さす方向にあるのは一本の吊り橋。
吊り橋の下は渓谷となっていて、余程深いのか底が見えなかった。
渓谷、かあ……良くも悪くも僕にとっては印象深い場所なんだよね。
正直あまり近寄りたくない場所ではあるのだが、意気揚々と吊り橋を渡るカイルとそれについてくラフィを見て、ここで自分だけついていかないというのもアレなので二人の後を追う。
まあ大丈夫だろう。軽くトラウマになってるけど、そう簡単に2回3回と落ちるわけがない……この吊り橋が壊れない限り。
ブチッ。
「「え?」」
今、嫌な音がした。
三人揃って音のした方を見ると、吊り橋の片方の縄が切れていて、ぶらりと垂れ下がっている。
「──っ! やべえ、渡るぞ!」
「は、はい!」
あっ、待って!
今こんな不安定なところで慌てて走ったら……!
──ブチィッ!
響き渡る絶望の音。
とうとう繋ぐものがなくなってしまった橋は役目を失い、そのまま崩壊する。
「うわあああああああっ!?」
「ひゃああああああああああっ!」
そして僕たちは真っ逆さまに渓谷へ落ちていく。
──この深さだと、助からない!
自由落下していく中、発動するタイミングを見計らう。
どんどん暗かった底が見えてきて……今だ!
パチリと指を鳴らし、巨大な風の塊を生成する。
僕たち三人は見えない反発力により、どこも怪我することなく谷底へと降りたのだった。
魔法が強化されたり、固定の魔法を放てたりと、効果はさまざまだ。
「≪グロンド≫!」
カイルが詠唱すると、彼の両手に土が集まる。
「へえ、これがカイルくんの魔武具ですか」
「おうよ、これぞ自作魔武具の『土魔法の手』だ!」
名前、そのまんまじゃないか。
しかし、魔武具を自作するのは珍しい。
やり方さえわかれば作るのはすごく簡単なのだが、その効果が武具職人が作ったモノを超えるモノを作れるのは非常に難しいのだ。
それだったら、わざわざ自作するより金を出して買ってしまった方がいいと多くの人なら思ってしまうだろう。
「それで、その魔武具はどんな効果があるんですか?」
目をきらきらさせるラフィに、カイルはきょとんとする。
「え? これだけだけど?」
「……え?」
これだけ、って……。
「で、でも、その魔法、初級魔法の≪グロンドバル≫並の強度ですよね……?」
「いや、素手よりかは強化されてるからな。使えないことはない」
と、土の拳を握るカイルに思わず呆れてしまう。
それなら普通に≪グロンドバル≫を使った方が早いじゃないか……。
しかも見るからに近接武器。遠距離という魔法の長所を潰しているとしか思えない。
「ラフィは魔武具持ってないのか?」
「私は得意魔法っていうのがあまりわからないから……これです」
とラフィが取り出すのは一本の杖。
ポケットに入る程度の大きさで、世界で一番使われているという魔武具だ。
固定属性を強化するというのがない代わりに、全属性を扱いやすくするという長所を持っている。
「その……私、比較的光魔法が得意みたいなんですけど、中級魔法も発動できないから、攻撃力ってものがなくて……」
なるほど、そういう考えならばその選択はありだろう。
「で、シルバは……まあ、お前はいらないか」
「魔武具なしでも十分に凄いですもんね」
と二人は言ってくるが、実はそうじゃないのだ。
僕の無詠唱魔法には弱点がある。
この弱点のせいもあり、僕はどんな魔武具も使うことが出来ない。
「んで、これが護身用の魔護符か」
「一定以上の攻撃は吸収するだなんて、すごい技術ですね」
カイルがポケットから小さな長方形の布を取り出す。
魔武具が武器ならば、魔護符は防具だ。
中に固い長方形の鉄板が入ってるらしく、それを布で覆っている。
効果はたった一つ。自分の魔力に応じた防御力を得ることが出来、魔護符が壊れない限り致死ダメージを追うことがないという優れものだ。
ただ、一定以上の攻撃を受けると壊れてしまうので、実践ではせいぜい護身用代わりである。
しかし、この魔護符というのはこの学校だと上手く利用されているのだ。
まず、持っていれば一定以上の攻撃は吸収される。つまり、簡単に死ぬことはない。
そしてこの魔護符が出来るからこそ、生徒間での決闘というものが行える。
相手が気絶すれば魔護符の効果が消えたという意味をしており、これがなければ危うく殺してしまうことだってあるからだ。
それ以上攻撃を加えれば、魔護符が破壊され使用者に直接ダメージが当たるわけだが……まあそんなことをしたら殺人である。
「ふう……みんな持ってるモノは大体こんなもんか」
「そうですね、大体こんなもんです」
ところで、どうして僕らは自分が持っているモノを確認しているのかというと。
「で、どこだここ?」
「私たち、きちんと帰れるのでしょうか……?」
現在、僕たちはヴィッヘルム森林内にて迷子になっていた。
それを人は遭難と言う。
***
きっかけは些細なことだった。
今日はモンスター討伐の実践授業だということで、向かった先はヴィッヘルム森林。
学校内にある初心者用の森らしい。
「いいかー? 獲物を見つけたら狩る、それが討伐の極意だ」
随分アバウトな極意だなあ。
「まあ実践授業だし、実際に狩ってみるのが一番だろ。詳しい説明は面倒だから、適当にやってみて」
今『面倒』って言ったよな、この教師。
といつも通りのユキリア先生は置いておき、僕たち三人は森の中でモンスターを狩ることとなったのだ。
「なあ、ヴィッヘルム森林って昔は『迷いの森』って呼ばれていたらしいぜ」
歩くこと数分、先頭を歩くカイルが突然そんなことを言ってきた。
「なんでもでかい森だからな。結構迷った人がいたんだってよ」
「へえ、そうなんですか」
迷いの森、ねえ。
それって下手すれば僕たちも迷うんじゃないかと思ったけど、きっと大丈夫だろう。
何せクラス全員で森の中に入るわけだし、見る限りだとそこまで危険な場所はなさそうだし。
「あっち行ってみるか」
と、カイルが指さす方向にあるのは一本の吊り橋。
吊り橋の下は渓谷となっていて、余程深いのか底が見えなかった。
渓谷、かあ……良くも悪くも僕にとっては印象深い場所なんだよね。
正直あまり近寄りたくない場所ではあるのだが、意気揚々と吊り橋を渡るカイルとそれについてくラフィを見て、ここで自分だけついていかないというのもアレなので二人の後を追う。
まあ大丈夫だろう。軽くトラウマになってるけど、そう簡単に2回3回と落ちるわけがない……この吊り橋が壊れない限り。
ブチッ。
「「え?」」
今、嫌な音がした。
三人揃って音のした方を見ると、吊り橋の片方の縄が切れていて、ぶらりと垂れ下がっている。
「──っ! やべえ、渡るぞ!」
「は、はい!」
あっ、待って!
今こんな不安定なところで慌てて走ったら……!
──ブチィッ!
響き渡る絶望の音。
とうとう繋ぐものがなくなってしまった橋は役目を失い、そのまま崩壊する。
「うわあああああああっ!?」
「ひゃああああああああああっ!」
そして僕たちは真っ逆さまに渓谷へ落ちていく。
──この深さだと、助からない!
自由落下していく中、発動するタイミングを見計らう。
どんどん暗かった底が見えてきて……今だ!
パチリと指を鳴らし、巨大な風の塊を生成する。
僕たち三人は見えない反発力により、どこも怪我することなく谷底へと降りたのだった。
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