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クチナシ魔術師は詠わない

風見鳩

嘘つき仲間

 ここ、ライルク島迷宮魔術学校では生徒全員が寮で寝泊まりすることになるのだ。

 生徒全員分の個室を用意しているらしく、一人暮らしが初めての僕にとっては少し不安だったりする。

 自分の部屋を見た限り、必要最低限の家具は揃っているようだ。ベッド、クローゼット、
テーブル、ランプ……うん、何か足りないというわけじゃないし、大丈夫かな。

 ランプの傘をコンコンと叩き、光魔法をつける。すっかり夕暮れになり薄暗かった部屋の中が、ほんの少しだけ明るくなった。

 さて、明日の授業に備えてもう寝ようかなと思った時──コンコン。

 ドアからノックする音が聞こえてくる。

「私です、シルバくん……ラフィです」

 続いてドアの向こうから聞こえてくる、聞いたことのある声。

 ドアノブを捻ると、そこには薄手の寝巻きに着替えたラフィが立っていた。

 そしてその後ろには同じく寝巻き姿のカイルも腕を組んでいる。

 ……二人とも、着替えるの早くない? 僕まだ、マントを取っただけの制服なんだけど……。

 ラフィは何か悩むように顔を俯かせていたが、やがて覚悟を決めたように顔を上げた。

「お話ししたいことが、あります」


 ***


「実は私の家柄は、その、王家と縁のある家で……えっと……」
「ん? 要するに貴族の娘ってことだろ?」

 僕の部屋のテーブルにランプを置き、その周りを三人が囲うようにして座っている。

 歯切れの悪いラフィにカイルが首を捻ると、彼女は「はい」と小さく返事した。

 そうか、やっぱり貴族だったのか。まあ、自称次期国王と知り合いなら想像するのは容易なことだ。

「私の本名、ラフィール・エリアロンドなんです……」

 へえ、エリアロンドか……どっかで聞いたことあるような、ないような。もうだいぶ昔のことだから忘れちゃったなあ。

 でも、そうなんだと普通に聞き入る僕やカイルと対照的に、なんでラフィはそんな悲痛そうな顔をしているのだろうか。

 ラフィは「それで……」と言ったものの、長い沈黙が続く。

 そして、いきなり頭を下げてきた。

「……すみませんでした!」

 ……え? 何が?

「私、貴族だと思われたくなくて……普通の人のフリをしてたんです」

 ラフィはそう言うと、悲観的な表情で僕たちを見てくる。

「その……嘘をついてしまい、お二人に酷いことをしてしまいました。本当にすみませんで──ふぇあっ!?」

 テーブルをトントンと叩き、再び頭を下げようとする彼女の目の前に火魔法を使った小さな爆発を起こす。

 そして僕が何を伝えたいのかを理解したのか、カイルは僕の方をチラリと見て口を開く。

「そんなこと、俺らは気にしてねえぞ。別にお前がどんな家柄だろうが、ラフィはラフィだろ?」
「で、でも……」

 それでも納得できないのか、ラフィは口ごもる。

 仕方ない……両手をパンッと打ち、土の板を作り出すと、表面をなぞり文字を書いた。

「えっ? 『僕も1つ、嘘をついてる』……?」

 疑問符を浮かべる二人に頷き、続きを書いていく。

「『僕の本名はシルバ・ミストレイ』……って、えぇぇっ!?」
「ミストレイって……あの『奇跡の魔術師』、ミスレア・ミストレイか!?」

 二人の驚く反応は予想通りだった。

「じゃあお前が使ってる技って、やっぱり『無詠唱』なのか!?」

 カイルの質問に、曖昧に微笑んで頷く。

 まあ師匠ほどじゃないけど……僕も、多少は扱える。

「マジかよ……お前、本当はすげえんだな……」

 と戦慄するカイルに、ラフィも手を挙げて質問してきた。いや、挙手しなくても、授業じゃないんだから。

「じゃ、じゃあ、さっきのあの魔法も何か仕掛けがあるんですか!?」

 さっきの魔法?

「ゴルドー様のウォテルワールを貫いたフラムスペアです!」

 ……ああ、フラムスペアとそっくり・・・・に作ってみた、火の槍のことか。

「あの攻撃、触れる前に壁が裂けたように見えて……それに、威力がまったく落ちてないっていうのも気になってたんです!」

 そうか、ラフィにはそれが見えてたのか……いい目をしてるね。

 あの魔法のネタばらしをするために、両手の指をパチリと鳴らして1つの火球を作る。

 そしてその火球をカイルに向かって打ち出した。

「ちょ、おまっ!」

 一瞬身構えたカイルだったが。

 火球がカイルの体に触れる直前、何かに当たったかのように火球は跳ね返った。

 これが、僕が使った技の正体だ。

「……周りに風が纏ってる、のか?」

 ぶつかった感触でわかったのか、疑問形のカイルに「正解」と伝えるように、大きく頷く。

 そう、この火球の周りに風魔法を纏わせている。だからコーディングされている風魔法がカイルにぶつかって、火球はぶつかる前に跳ね返ったというわけなのだ。

 今の原理を同じようにやれば──

「あっ……纏った風がウォテルワールを引き裂いたのですか?」

 威力を失うことなく相手に攻撃を届かせることが出来る。

 いわば、子供騙しみたいなものだ。

「でもよシルバ。お前、そんなに凄いのに、なんで入学試験の時は無詠唱を使わなかったんだ?」

 と質問してくるカイル。

 詠唱なしに結果を出すのは、テストとしてルール違反じゃないかと思ったと伝えると、

「真面目かっ」

 とツッコミを入れられた。

 いやでも、きちんとルールに則らないと、後味が悪い気がして……。

「…………ふふっ」

 と、ラフィも笑みを浮かべる。

「あっ、いえ。その、シルバくんも私と同じく嘘をついてたんだなって思うと、なんだか嬉しくなってしまって……」

 僕の視線に気が付いたのか、ラフィが慌てて説明し始めた。


 いや、同じく嘘をついてただけで嬉しくなるものだろうか……?

「嘘つき仲間ですねっ!」

 そこだけ聞くと嫌な名称だなあ。

「いや、それだと俺も仲間に入らないじゃねえか!」

 とカイルが慌てて口を挟んでくる。

「えっ? いえ、別に仲間はずれにしているわけじゃ」
「ちょっと待て。今、俺も嘘をついたことを考えてるから」

 いや、言ってる意味がよくわからないけど、それって要するに嘘をついてないってことだよね?



「……よし、俺も嘘をついてたんだ」


 頭を悩ませて十数秒後。何か思いついたのか、カイルが切り出してくる。



「実はな…………俺、力には自信あるけど、学力には自信ないんだ」


 ……うん、まあ。

 なんとなく知ってたよ。


「な、なんだ、その『知ってた』みたいな顔は!」

 僕の表情を見て慌てるカイルが面白おかしく、思わずラフィと一緒に笑みを浮かべてしまた。



 今度、師匠に手紙でも書こう。

 まだ不安が残る新しい生活だけど、いい人達に巡り会えたって。



 二人の知人の顔を見て、そんなのんきなことを考えていた僕は……まだ知らなかった。

 今日の出来事のせいで、僕が『口なし魔術師』と密かに呼ばれ始めていただなんて。

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