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恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜

うみたけ

告白からの逆転

「市川、一応理由を聞いておきたいんだが」

 俺は酒々井側に立つ、市川に向かって真面目に問う。

「も、もしかして、酒々井君に弱みとか握られてるんじゃ――」
「違うわ!これは私の意思よ!」

 突然の事態にまだ動揺している習志野の言葉を遮るような形で市川が口を開く。

「習志野さん、調子の良いこと言っておいて、こんな裏切るようなことになって…本当にごめんなさい…」

 一つ息を吐き落ち着くと、市川は申し訳なさそうに頭を下げる。

「それに氷室や葛西も…申し訳ないと思ってる」

 市川は俺や葛西にも頭を下げ、そのまま黙ってしまう。
 その先の言葉を口に出すことを躊躇しているようだ。
 しかし、数秒の沈黙の後、市川は意を決したように顔を上げると

「習志野さんのことも勿論助けたいとは思う!その気持ちは今でも変わらない!――だけど、私にもどうしてもやりたいことがある!」

 目にうっすらと涙を溜めながら、俺の方をまっすぐに見据えて告げる。

「その“やりたいこと”を実現させるために――私は今からずる賢く、自己中な人間になる!」

 再び静寂が訪れる。
 恐らくだが、おおよその状況は理解できた。
 十中八九、市川は酒々井に唆されている。
 市川が言う“やりたいこと”というのもなんとなく予想できる。
 そして、もし市川が“やりたいこと”を行動に移した場合、俺が取る行動も決まっている。

(できれば行動に移すのは避けたいんだが…)

「市川、お前が酒々井に何を言われたのか知らんが――」
「この男は関係ない!」

 とりあえず説得にあたろうとするが、市川によって遮られる。

「確かに、酒々井君にはスパイになって欲しいと頼まれたわ。でも私はそれを断ったし彼の味方をしているわけじゃない」
「うん、僕も説得したけど無理だったよ」

 酒々井が軽い調子で相槌を打つ。

「私はただ、彼とこの勝負を利用しようとしているだけ!これから私がすることは全部、私が自分のためだけに考えて決断したことよ!」

 まずいな…。多分酒々井が間接的にコントロールしてるんだろうが、市川は全く気付いていない。
 この調子だと説得は厳しい…。

「それで、市川さん。君のやりたいことって何なの?」

 一瞬、会話の流れが止まったのを見逃さず、すかさず酒々井が次の行動を促す。

「私のやりたいこと…それは、氷室君、あなたへの告白よ!」

 市川は一旦言葉を切り、一つ深呼吸する。

「氷室君、あなたが好きです!私とペアになってください!!」

 市川は顔を赤らめながらも、まっすぐこちらを見つめている。
 そして、突然の公開告白に周囲はざわつきだす。

(やっぱりか…。できることなら止めたかったが…)

 俺は別に鈍感ではない。だから、いつからか、何となく市川が俺に好意を寄せているかもしれないことに気付いていた。
 しかし、俺には習志野というパートナーがいるし、今となっては変更するつもりもない。
 俺は、ふと習志野の方に目を向けると、複雑な表情で俺と市川を見ていた。

(こいつも分かってたんだな。――市川の気持ちも…それから今、この状況も…)

 市川の突然の告白に、俺はしばらく答えることができなかった。
 別に市川と習志野のどちらかで悩んでいるわけではない。
 俺の中でもう答えは出ているのだから。
 しかし、俺はその既に決めている行動を取ることを躊躇してしまっている。

「凛ちゃん、一応聞くけど、今の状況分かってる?」

 俺に代わり、葛西が状況を確認する。

「ええ、勿論。――もし、あなたが私の告白を断ったら、私は退学になるわ」

 俺の答えは決まっている。――習志野を選ぶ…。つまり市川の告白を断るということだ。
 別にここが普通の学校なら俺も躊躇はしない。
 しかし、ここは恋星高校恋愛学科。――「告白してフラれたら退学」という校則を掲げている高校なのだ。

「氷室君は既にペアを組んでるから2回まで告白出来ることになってるけど、私は既に1回、彼にフラれているから今回フラれたら退学ね」

 市川は冷静に今の状況を口にする。

「僕的にはそれはそれで面白いんだけど……君はそれで後悔しないのかい?」

 珍しく、葛西が真面目な口調で問う。
 しかし、

「ええ」
「そっか。それなら僕からはもう何も言わないさ。せいぜいどんな決着になるのか、楽しみながら見届けさせてもらうよ」

 葛西はそれだけ言い残すと、後ろに下がる。

(仕方ない…。あまり気は進まないが正直な気持ちを伝えよう。それが俺にできる唯一のことだ)

「市川、お前の気持ちは嬉しい。だが、俺は――」
「待って、氷室君!」

 俺が意を決して返事をしようとすると、市川自身からストップが入った。

「…なんだ?告白を取り消したいって言うなら俺は全然構わんぞ?」
「いいえ、告白は取り消さないわ。――ただ、氷室君、あなたが『その返事』で後悔しないかなと思って」
「…どういうことだ?」
「言ったはずよ。私はずる賢く、自己中になるって」

 市川はそこで一旦言葉を切ると、フッと不敵に笑う。

「氷室君、この学校の校則第8条って知ってる?」
「?ああ、確か告白されてフッたら相手の生徒ポイントを半分もらえるってやつだろ?」
「知ってる?半分ってプラスだけとは限らないのよ?」
「な!?まさかお前……」

(まずい…酒々井のサプライズってのはこれのことだったのか……!!)


「私、実は今、酒々井君と賭けをしてるの。――私が氷室君に告白して、OKされるか断られるか、のね」
「くっ!」
「負けたら勝った方に2万点支払うことになってる。――ちなみに、私の今のポイントは5100ポイント。つまり、氷室君。もしあなたが私をフッたら、あなたは“約マイナス7500ポイント”を受け取ることになるのよ」

 遅れて市川の策を理解した周囲の連中がざわつきだす。

「そ、そんな…」

 習志野も状況を理解し、言葉を失っている。

「それと、分かってるとは思うけど、私、ペアの解消は認めないから。告白を受け入れた後ですぐにペアの解消とか考えてるんだったら無駄よ」
「…ああ、分かってるよ」

 一瞬、市川が言った方法も頭をよぎったが、『ペアの解消には相互の許可が必要』っていうルールがある以上、現実的じゃあない。

(マジで厄介な状況だ…)

 俺が告白を断った時点で、市川は酒々井との勝負に負けたことになり、2万点支払わなければいけない。
 この時点で市川のポイントはマイナス14900ポイント。
 通常ならこれで退学になるが、まだ、フラれた相手へのポイントの支払いが済んでいない。
 つまり、ここからマイナス14900ポイントの半分…約マイナス7500ポイントが俺に支払われることになるのだ。
 これだけならまだいい。仮に7500ポイント失っても、俺はまだ18000ポイント近くを残している。
 しかし……

「もし、市川さんをフッたら氷室君は18000ポイントくらい。それに対して僕は26000点くらい。この結果を見て、ここにいる人達はどうするだろうね」

 そして、これ見よがしに周囲の生徒達に向けて、分かりやすく状況説明して生徒達の誘導を開始する酒々井。

 それを受け、周囲の生徒達も騒ぎ出す。
 そんな中、俺は必死に頭を回転させ、反撃の策はないか考える。
 告白を受け入れれば習志野を失い、断れば市川は退学になり勝利はかなり厳しい状況になる…。
 一つ思いついては却下し、また一つ思いついては却下する…。
 何十通りもの策を考えたが、どれもこの状況の前では全く意味をなさない。
 そして、俺は悟った…。

(さすがに、これは何かを諦めるしかなさそうだ…)

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