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恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜

うみたけ

中間発表

「それでは、酒々井対氷室のポイント収集対決。中間発表を行う」

 勝負開始から4日目。
 体育館に集められた俺達は審判である大井先生の進行に耳を傾ける。
 さらに、ここに集まっているのは俺達や酒々井側の陣営だけではない。

「おい、お前どっちかにポイント渡したか?」
「まさか。まだどっちが優勢か分からない状況でポイント渡すわけねぇじゃん」
「だよな。確かに一気に順位上げるチャンスだけど、下手したら退学だしな」
「まぁ、私はこの中間発表でどっちにポイント渡すか決めるつもりだけどね」

 俺達の周囲には多くの生徒達がギャラリーとして身に来ている。
 この勝負を利用して一気にランキングを上げたい。
 だけど、退学のリスクがあるからギリギリまで状況を見極めたい。
 ここにはそういった考えの生徒が大勢集まっている。

「氷室君、分かってる?この中間発表の結果次第では君の負けが決まっちゃうことだってあるんだよ」
「ああ。だが、逆にここでお前の負けが確定することだって十分あることも忘れるなよ」

 いつものように人を小バカにしたような口調で挑発してくる酒々井に対し、俺も負けじと喧嘩腰で返す。
 酒々井の言うとおり、この中間発表は単なる途中経過発表ではない。
 周りにはまだポイントの譲渡を躊躇っている生徒達が大勢。
 彼らはこの中間発表で見定めようとしているのだ。―――どちらが勝ちそうか。そして、どちらに自分達のポイントを賭けようかを……。
 そして、結果次第では一気にポイントが動くこともあり得る。

「つまり、この中間発表は僕らにとっては“品評会”みたいなものなんだよ」
「品評会ねぇ」

 勿論俺もそのつもりでこの場に立っている。
 実際、観客達に酒々井より俺の方が上だということを示すためのパフォーマンスも用意してある。
 しかし、それは酒々井とて同じだろう。
 今日、俺と酒々井、どちらが優れているかを判断するのは俺達でも審判である大井先生でもない。……彼ら生徒たちだ。
 つまり、この“品評会”とやらでどちらが彼らを味方につけられるか、で勝敗は大きく左右されるのだ。

「貴様ら。私の進行を妨害して無駄話とはいい度胸だな。あ?」
「す、すみません…」

 そうこうしているうちに、審判を務める大井先生がしびれを切らした。
 相変わらずの凶器のような視線に反射的に謝ってしまった。

「まぁ、分かればいい。さっさと本題に入るぞ」

 審判という立場もあってか、なんとか先生の怒りを鎮めるのに成功し、ほっと胸を撫で下ろす我がクラスメート達。

「すみません、大井先生。ちょっと待ってもらえますか?」
「あ?」

 しかし、そんな中、再び先生の進行を妨げる勇者が一人。

「いやぁ、すみません。中間発表の前にどうしてもやっておきたいことがありまして」

 声のする方を見ると、そこにはいつも通り軽い軽薄な笑顔を見せる男、葛西寛人がいた。

「なんだ、葛西?お前はそんなに私の鉄拳を喰らいたいのか?あ?」

 二度目の進行妨害に、静まりかけていた先生の怒りのボルテージも一気に高まる。
その表情は最早カタギのものではない。

「いやぁ、相変わらず怖いですねぇ。――でも、僕が今からやろうとしていることって、その中間発表の結果にも影響することなんですよね」

 しかし、葛西は相変わらず先生の圧力に屈することなく、逆に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて挑発する。

「…ふん、まぁ良いだろう。さっさとやれ」
「ありがとうございます、大井先生。やっぱり持つべき者は素晴らしい先生ですね」
「黙れ」

 そんな調子の良いことを言い残すと、葛西はまっすぐこちらへと歩き出す。
 その行動に周囲の生徒達がざわつきだす。

「……何の真似だい、葛西君?」

 そして、その行動に対し、同盟を結んでいるはずの酒々井が確認を取る。
 しかし、葛西はこちら側まで来て、踵を返し、酒々井と相対する形を取ると、

「ん?なんだい、酒々井君?『何の真似だ?』って見れば分かるじゃん。――僕は二重スパイで最初から辰巳君の味方だった。ただそれだけのことだよ」
「…やってくれたね、葛西君、それに氷室君」

 葛西の裏切りに動揺しているのか、酒々井の表情が少し歪む。

「まぁ、君一人裏切ったからって勝敗には関係ないだろうけどね」

 しかし、酒々井はすぐに落ち着き、余裕を取り戻す。
 それに対して、葛西は、

「へぇ、凄い自信だね、酒々井君。だけど、これでもその自信、保っていられるかな?」

 ニヤリと笑い、自分の生徒端末をいじくりだす。
そして、

「先生、今から生徒ポイントの譲渡を行ってもいいですか?」
「ああ、ルール上問題ない。さっさとやれ」

 先生からの許可を得て、再度生徒端末を操作してポイントの譲渡を行う。

「退学にならないために10ポイントだけ残してっと…」
「葛西君、君の頑張りは認めるけど、君の持ち点はせいぜい5千ポイント程度だろう?君一人がいくら譲渡したところで――」
「氷室辰巳に1万ポイント譲渡する」
「!!」

 酒々井は目を見開き、周囲のギャラリー達も驚愕の声を上げる。
 それもそうだろう。葛西は市川とのペア解消に伴い、ためそれまで所持していたポイントの半分を失っている。
 ペア解消時に所持していたポイント数もほぼ酒々井の見立て通りだった。
つまり…

「おいおい、何もそんなに驚いているんだい?僕はこの勝負が始まってからポイントを2倍くらいまで増やした。――何も特別なことなんてないと思うんだけどなぁ」

 葛西が嫌味たっぷりに酒々井を煽る。
 これにはさすがの酒々井も動揺しているのか、黙って俯いている。

「悪いな、酒々井。俺一人ではお前に勝つのは難しい。だから、俺は仲間を頼ることにした。――お前に唆されないって信じられる仲間をな」

 中学時代、俺は酒々井に唆された味方に裏切られ、結果、酒々井に返り討ちにされた。
 それ以来、俺は他人を信じるのをやめた。
 それは今でも変わっていない。
 しかし、今回、葛西の作戦を採用するという決断は“簡単だった”。

「ははっ、『信じられる仲間』なんて、よくそんな思ってもないこと言えるね」

 隣に立った葛西は皮肉交じりに笑いかけてきた。

「別にお前を信頼したわけじゃねぇよ。ただ、“何よりも面白いことを優先する”お前の歪んだ性格を信じただけだよ」
「ははっ、君もなかなかひどいこと言うね。まぁ、間違ってないからいいんだけどね」

 普段なら葛西からの言葉なんて全く信じない。
 しかし、今回に限ってはそうでもなかった。
 何もしなくても負ける可能性が高い俺を騙して追い詰めるよりも、勝てそうにない相手を出し抜く方が“面白い”と感じるはず…。
 俺はただ、これまでの学校生活の中で、そう合理的に考えて決断したに過ぎない。

(まぁ、意外と“信頼”っていうのもこういう“合理的な判断”の延長にあるのかもしれねぇな)

「はは、はははっ、ははははっ!」

 俺が一人考えにふけっていると、不意に笑い声が聞こえてきた。

「どうした、酒々井。まさか負けを確信しておかしくなったか?」

 俺はその笑い声の主に皮肉交じりに問いかける。
 すると、

「いやぁ、いいよ!さすが氷室君と葛西君!期待以上だよ!!まさかここまでやるなんて!」

 酒々井は興奮気味に叫ぶ。

「なんだ?お前も何か隠してんのか?」

 俺の問いかけには答えず、酒々井はくすくすと笑い続ける。

「いやぁ、ごめんごめん。一応僕もサプライズは用意してあるんだけど……僕のは中間発表が終わってからでいいよ。大井先生の我慢も限界みたいだからね」

 酒々井の言葉を受け、ふと審判の方に目をやると……

「せ、先生…その…」
「これより中間発表を行う。いいな?」
「は、はい!」

そこにはこれでもかというほどの殺気を放つ女教師の姿があった。

「それでは、改めて中間発表を行う」

 審判である大井先生の言葉に静まる体育館。
 そして、緊張感漂う静寂の中、先生の次の言葉を待つ。

「現時点での結果……氷室辰巳、2万5390ポイント」

 俺の現時点でのポイントが発表され、周囲がざわつく。
 そして、

「酒々井秀。6800ポイント。――現時点で氷室辰巳が18590ポイントリード!!」

 ポイント発表の後、会場は一瞬の静寂に包まれる。

「これで中間発表を終わる。最終結果発表は3日後だ。以上」

 そう言って大井先生はその場を後にした。
 そして、先生がいなくなると……

「おお!さすがは現在学年トップ!実力は本物だ!!」
「やっぱり氷室だ!俺も氷室にポイント渡しに行くぜ!!」
「マジかよ…。俺、酒々井にポイント譲渡しちまったよ…」
「酒々井!お前絶対に勝てるなんて言ってたじゃねぇか!俺のポイント返しやがれ!!」

 歓声や怒声、悲痛な叫びと体育館には様々な声が一気に広がった。

「たっくん、やりましたね!このままいけば勝てますよ!」

 現時点での大量リードに習志野が興奮気味に走り寄ってくる。

「この短期間で7000点近く稼ぐんだからホント末恐ろしいよね。――まぁ、酒々井君も何か隠してるみたいだけど、さすがに2万点近くの差を覆すのは難しいんじゃない?」

 そして、葛西も酒々井の実力に苦笑いを浮かべながらも勝利を確信しているようだ。
 確かにこいつらの言うとおり、俺はかなり優位な立場に立った。
 現時点での大量リードに加え、この場の盛り上がり様を見れば、今後何もしなくてもポイントを譲渡したいという奴らが押し寄せてくることが予想できる。
 しかし…

「ああ、それなら良いんだけどな」

 俺は少なくとも『これで勝った』とは思えなかった。
 なぜなら酒々井という男がこの程度で終わるわけがないということを経験として知っていたから…。

 そして、嫌な予感は的中する…。

「はははっ、はははははっ!」

 再び大きな高笑いが響き渡った。
 その不気味な笑い声に会場は再び静寂に包まれる。
 酒々井は、再び興奮気味に俺に問いかけ、

「いやぁ、どうだい、氷室君。僕相手に大量リードして、大歓声を受けて…。――もう、満足だろう?」

 そして、不敵に笑っ。

「言ったろう?僕もサプライズを用意してるって。――もう出てきていいよ」

 そう言って、生徒の群れの中に呼び掛ける。
 すると、人混みの中に1本の道ができ、そこから一人の女子生徒が歩いてきた。

「!!」
「ちょ、ちょっと…!!」
「う、嘘ですよね…?」

 酒々井に促されてやってきたその人物に、俺達は目を丸くした。
 何となく悪い予感はしていた。
 こうなる前兆もあった。
 しかし、「まさか彼女が…」と思い込み、その可能性を排除しようとしていた。

「…市川」

 俺は、酒々井の横に立った、その女子生徒の名前を呟いた。
 市川凛の裏切り…。ある程度覚悟はしていたが、それでも十分過ぎる程のサプライズだった。

「さぁ、氷室君。僕の逆転劇の始まりだ」

 市川の登場に俺達が言葉を失う様子を見て、酒々井秀は不敵に笑った。

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