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恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜

うみたけ

市川凛の葛藤2

「それで、話って何かしら?」

 彼、酒々井秀から電話があり、一瞬迷ったものの、私は彼の指示した待ち合わせ場所である寮の外に出てきてしまった。


「そもそもあんなことしておいて、よく私に話しかけられるわね」

 私は呼びだしてきた彼を鋭く睨みつける。

「あの時はああするしかなかったんだよ。本当にごめん!」
「別に謝る必要はないわ。ただ、それ相応の覚悟はしておくことね」
「相変わらずツンツンしてるなぁ。怖い怖い」

 相変わらずの調子で話しかけてくる酒々井君に思わず喧嘩腰になってしまう。

「はは、でも本当に申し訳ないとは思ってるんだよ。――その証拠に、君に美味しい話しを持ってきたんだ」
「美味しい話、ですって?」

 彼の話しに思わず眉をひそめる。
 美味しい話…この男から聞くと怪しさしか感じられない。

「おやおや?まだ内容も言ってないのに既に不服そうだね?」
「当たり前でしょ?あれだけやられた相手の言うことをホイホイ信じれるわけないでしょ?」

 からかうような口調で挑発してくる酒々井君に、冷たい視線を投げかけるが、

「ははっ、それもそうか!ごめんごめん!」

 彼は全く気にしていないようで、軽い調子で切り返す。本当に腹立たしい!!
 しかし、酒々井君はすぐに、

「まぁ、でも、今回の美味しい話しは、君にとって、“そんな恨み”を置いておいてでも聞く価値のあるものだと思うよ」

 自信満々な表情を見せてきた。
 そして、続けてその“美味しい話”とやらを話し始める。

「時間も遅いし、単刀直入に言うね。――市川さん、スパイとして僕に氷室君の情報を流してくれないかい?」
「勿論、お断りよ」

 私は、彼からの勧誘に間髪いれずに断りを入れた。
 このタイミングで呼び出された時点で、こういった話しをされるであろうことはある程度予想できていたため、驚くことなくもなかった。

「ははっ、これまた随分な即断だね。でも話しはまだ終わってないよ。――返事は君にとっての“美味しい部分”を聞いてからでも遅くないと思うけど?」

 断られるのも予想の範囲内だったのか、酒々井君は全く動じることなく、さらに続ける。

「もし僕に協力してくれるなら、君の卒業サポートと君の恋路のサポートをしてあげるよ」
「!?」
「――簡単に言えば、『お父さんとの約束達成』と『氷室君との恋の成就』の両方を実現させてあげるってことだよ」
「な!?」

 私は驚きのあまり、目を見開き驚嘆の声を上げてしまった。

「『何でそんなこと知ってるの?』って顔だね」

 そんな私の反応を楽しむように酒々井君はニヤリと笑う。

(何でこの男がお父さんと交わした条件について知ってるの!?それに私が氷室君のことを好きだということも!!)

 私の好きな人が氷室君だということは、私を良く見ていれば気が付く人は気が付くのかもしれない。
 でも、『私がこの学校を卒業できれば、お父さんの会社を継げる』という約束に関しては知っているわけがないはず!
 そもそも“この約束”を他人に話したことなんて…

「!!」

 そこで私はハッと気が付いた。

「どうやら気が付いたみたいだね。そう。別に僕は特別なことは何もしてない。ただ、君が自分から話しただけだよ。――入学試験の面接でね」

 そう。一度だけ他人に話したことがある。
 入試の面接で聞かれた志望動機だ。
 恐らく役員特権で入試の面接内容が書かれた資料を探したしたのだろう。

「今の君の状況だと、卒業の方はともかく、氷室君との恋路についてはかなり厳しい。むしろ“二兎を追いかけて一兎をも得ず”なんてことにもなりかねない。――もし、僕に協力してくれるなら“両獲り”させてあげるよ」
「両獲り、ですって…?」

 小さい頃からの夢…父の会社を継ぐという夢。
 そして、氷室君への想い…。
 酒々井君の言うとおり、現状どちらも実現させるのはかなり無理がある。
 特に氷室君の方は、彼自身の心が習志野さんに向きつつあるため、ほぼ不可能な状況だ。
“両獲り”なんて尚更だ…。
 だからこそ、私はどちらを優先させるべきか悩んでいたと言うのに…。
 そんな無理難題を叶えるという目の前の男に、私は不信の目を向けずにはいられなかった。

「“両獲り”ですって!?それがどれだけ難しいかなんて私が一番分かってる!ハッタリだわ!」

 思わず私は声を荒げて反論する。
 しかし、そんな私に彼は冷静に応じる。

「うーん…。さすがに協力してくれるまでは、詳しく教えられないけど…割と単純なことだよ。――卒業に関しては勝負終了後、僕が理事権限を使って君の卒業をサポートしてもいいし、そもそも君の場合普通に過ごせれば卒業はできるしね」

 その通り。正直、卒業に関しては彼の助けがなくても十分可能だ。
 問題は氷室君の方だ。
 まさか、ここでも理事権限や金の力を使うのだろうか?
 しかし、次の瞬間、彼の口から出てきた言葉は予想外で、本当に単純なものだった。

「氷室君の方は…氷室君に君が告白する。―――簡単に言えばそれだけだよ」

 彼の予想外の回答に一瞬、私の思考が停止してしまった。

「私が氷室君に告白するですって!?今、氷室君の心は習志野さんに向いてるのよ!?そんな中で私が告白したってフラれるに決まってるでしょ!?」

 酒々井君の言葉に少し期待してしまった自分が情けない。
 私は夜だということも忘れて酒々井君に声を荒げる。
 しかし、怒鳴られた本人はというと全く動じていない。

「そりゃ、『普通に』告白したってフラれるさ。ポイントは一つ。氷室君がフれない状況を作る。これだけさ」
「フれない状況を、作る…?」

 理解が追い付かず、彼の言葉を復唱する。
 フれない状況…そんなものが簡単に作れるのだろうか…?

「まぁ、後は僕に協力してからだね。今日は遅いし、返事は明日でいいよ」
「う、うん…」
「それじゃあ、良い返事を待ってるよ。じゃあね」

 そう言って、酒々井君はその場を去っていった。
 この学校を卒業して自分の夢を叶えること。
 氷室君との恋の成就。
 この二つを同時に実現できる……。
 まだ、半信半疑ではあるが、今まさにそのことについて悩み、手詰まりの状態であった私にとっては、一縷の望みに思えた。
 しかし、相手は自分を一度騙している男…。
 この誘いに乗るべきか、乗らないべきか……部屋に戻りながら考えるも、答えはそう簡単には決まらなかった。

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