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恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜

うみたけ

葛西寛人の裏切り。しかし…

「ねぇねぇ、君、もしかして今から酒々井君か辰巳君にポイント寄付氏に行くのかい?」
「あ?だったら何なんだよ?」
「もう、いいよ!あんなの放っておいて早く行こうよ!」

 新たに同盟を組んだ酒々井君との作戦会議が終わった放課後。僕は人気のない廊下で一組のペアに声を掛けたものの、男の方は喧嘩腰、女の方は敵対的な目を向けてくる。
 やれやれ、折角30分近く待って立って言うのに、冷たい扱いだなぁ。

「おやおや、それが“仲間”に対する扱いかい?君が今言ったように酒々井君に寄付しに行くのなら、僕達は“仲間”のはずなんだけどなぁ」

 わざとらしく挑発的な口調で煽ってみる。

「あ?何が仲間だ!俺達はただ、ギャンブルに行くだけだ。お前とは賭けの対象が一緒なだけだろうが」
「そうよ!私達はあなたとは無関係よ!さっさと消えて頂戴!」
「やれやれ、二人揃ってツレナイねぇ。僕はただ、君達二人に“いい話”を持ってきて上げただけなんだけどなぁ」
「さっさとこんな奴放っておいて行きましょう」
「ああ、そうだな」

 二人は、僕の話しに聞く耳も持たず、さっさと僕の横を通り過ぎていく。

「本当に“酒々井君”でいいのかい?」

 と、通り過ぎようとしていた彼らだったが、僕の一言に二人揃って足を止める。

「…何が言いたい?」
「いやいや、単純な話しだよ。確かに実力や駆け引きは酒々井君の方が上だよ。しかも過去に氷室君にボロ勝ちしたこともあるみたいだし」
「ええ、そうよ!だから私達は酒々井君に賭けようと――」
「でも、辰巳君――いや、氷室君が勝つ可能性も十分にある」
「……」

 僕の言葉に二人は押し黙る。

「それでも、酒々井の勝つ可能性の方がはるかに高い!二人と対戦したことのあるお前なら分かるだろ!」
「ああ、十分分かってるよ。でも、君達も知ってるだろ?氷室辰巳が追い込まれながらも、何度も大逆転してきた光景を。実際、現時点での首席は辰巳君なんだから」
「そ、それは……」

 二人の決心が揺らいでいるのが良く分かる。
 恐らく酒々井君の方が一枚上手だということは誰が見てもわかることだ。
 しかし、同時に今まで何度も不利な状況から氷室辰巳という男が逆転し、現時点で学年トップに君臨していることも知っている。
 絶対の保証はないこの勝負。
 しかし、彼らにはどちらかに賭けざるを得ない理由があるのだ。

「まぁ、そうは言っても酒々井君が勝つ確率は7割くらいあるだろうけどね。でも、100%じゃない。――それでも、君達“クラスの最下位争い”をしてる奴らにとっちゃあ、今回の勝負は逆転の大チャンスだもんね。そりゃ、こんなチャンス逃せないよ。――例え確証がなくても」
「くっ…」
「だから何なのよ!私達が最下位争いから脱するにはこれに懸けるしかないの!いいから放っておいてよ!私達の決意を邪魔して…一体何がしたいのよ!!」

 現実を突きつけられ、男の方は悔しそうに唇を噛み、女の方は激昂して詰め寄ってくる。
 そんな彼らを見て、思わず笑みがこぼれてしまう。――何て予想通りの反応をする奴らなんだ。

「だから、言っただろ?“いい話”を持ってきたって」
「…いい話だと?」

 今度は男の方が聞き返してくる。
 どうやら、目をみる限り、女の方も興味を持ったようだ。

「ああ、そうだ。このまま酒々井君に寄付するよりもローリスクで尚且つ君達が生徒ポイントを増やせる可能性が高い方法があるんだよ」
「そ、そんな方法あるわけ…」
「…何なんだよ、その方法ってのは?」

 やはり“いい話”に興味があるのだろう。疑いながらも、若干の期待を込めた目をこちらに向けてくる。

「ああ、簡単な話しだよ。――僕と生徒ポイントを賭けて勝負しよう」
「「!!」」

 僕の提案に二人は目を見開く。
 しかし、すぐに正気に戻り、

「何が“いい話”だ!そもそも、お前みたいな奴と普通に勝負して勝てるならこんな賭けしようなんて思うわけねぇだろ!」
「そうよ!普通にやってても最下位争いから抜けられないから、こうやって一発逆転に賭けてるんじゃない!!」

 期待していた分、裏切られた気分にでもなっているのだろう。
 二人とも、せきを切ったかのように不満を爆発させる。
だが、

「じゃあ、“普通”の勝負じゃなかったら?」

 僕の意味ありげな物言いに二人は再び黙る。

「勿論、“普通”に勝負したら僕が勝つことくらい分かってる。――これは、君達が圧倒的に有利な勝負だ」

 二人とも何も言わず、続く僕の説明を待っている。

「勝負は君達二人対僕一人。勝負内容は君達が決めていいよ。さらに、賭けるポイントは君達は全生徒ポイントの半分、僕は全生徒ポイントを賭ける。あ、でも僕が勝ったら君達はこの勝負のことを誰にも話さないでね」
「お、おい、それって…」
「嘘でしょ?」
「そう。僕は負ければ退学だけど、君達は負けても半分ポイントを失うだけで退学にはならない。そして勝負内容は限りなく君達有利なルールになるように自分達で考えられる。――リスクは最小限でリターンは大きい。君達にとってはローリスク・ハイリターンの勝負だよ」

 あまりに突拍子のない話しに二人は視線だけで互いの意思を確認する。

「話しは良く分かった。お前の言うようにこれは俺達にとって“いい話”だ。だが――」
「どうして、あなたは私達にこんな話しをするの?」

 二人は問いかける。
 当然の疑問だ。この勝負、彼らにとっては大きなメリットはあるが、僕にとって、しかも酒々井君と手を組んだ僕にとっては全くメリットはない。

「勿論、メリットはあるよ。――こうした方が楽しめる。それだけだ」

 彼らの問いに僕は不敵な笑みを湛えて答える。
 すると、一瞬の沈黙の後、彼らは笑みを浮かべ、

「…なるほど。そう言えばお前は変わり者だったよな。葛西寛人」
「そうね、葛西君を私達と同じ常識や価値観で考えるのは無駄だったわね」
「いやいや、分かってくれて嬉しいよ。――それじゃあ、勝負を始めよう!」
「おう」
「ええ」

 僕は、自分のクラスの“現最下位ペア”との勝負を開始した。

※※※※

「クソ!何でだよ!!」
「完全に私達が有利なはずだったのに…」

 彼らが勝負内容を考え、勝負を開始してから約30分後。
 二人は悔しそうに床に膝をついていた。

「それじゃあ、約束通り、君達のポイントの半分は貰って行くよ」

 僕は自分の生徒端末に彼らのポイントが入ったことを確認すると、

「今回は残念だったね。まぁ、まだ退学じゃないんだし頑張ってね」

 そう言って去ろうとすると、

「何がいい話だ!ただでさえ厳しかったのに、このままじゃ最下位確定じゃねぇかよ!」
「あんたが余計なこと言わなければ!!退学になってなくても、もうやれることなんてないじゃない!」

 不幸なことに八つ当たりの対象になってしまったようだ。
――まぁ、これも想定内だけど。

「やれやれ、八つ当たりは辞めてほしいな。こんな有利な勝負で負けるなんて逆に凄いよ」
「なんだと、てめぇ!」
「いやいや、それだけ僕と君達二人の間に”格の差”があったってことだよ。それに――まだ、やれることならいくらでもあるじゃないか」
「やれること、だと?」
「そうそう。もう一度僕に勝負を挑んでもいいし、このまま酒々井君に賭けに行ってもいい。まぁ、今の君達のポイントじゃ、例え2倍になっても最下位脱出は厳しいかもしれないけど」
「じゃあ――」
「あとは、他の最下位候補を君達と同じ目に遭わせることとか、ね」
「「!!」」

 僕の言葉に目を見開く二人。
 そんな二人に、僕は笑顔で答える

「自分達が上がれないなら他の奴を自分と同じ位置まで引きづり降ろせばいい。――もし、引きづり降ろしてほしいペアがいれば聞くけど?」
「そ、それなら!!」
「わ、私達と同じクラスの――」

 二人は縋るような目で他のペアの名前を告げてくる。

「じゃあ、手伝ってほしいことがあればお願いするから、その時はよろしくね」
「「はい!」」

 そして、二人の協力者を得た僕は一人自室に向かって歩き出す。

(これでOK。あとはこれの繰り返しだ)

 そもそも退学のリスクがある以上、酒々井君と辰巳君の勝負に関わろうとする奴なんて、僕みたいな面白い物好き以外には最下位争いをしていて、四半期ごとに訪れる退学の恐怖に追い込まれているペアくらいしかいない。
 そして、最下位争いする奴ら程度なら2対1で、勝負内容を相手に委ねても十分勝てる。
 なぜなら、最下位争いしている連中は本気で相手に勝ち目のない勝負を考えることができない。

(仮に思いついても相手への遠慮から提案できないのだろう。まぁ、逆に言えば、それができないから最下位争いなんてしてるんだろうけど)

 しかも、負けられないという気持ちが強いからか、思い切った策を使うことができない。

 正直、楽勝だ。
あとはここで得たポイントを彼に寄付してやれば……

「辰巳君、僕の方は約束果たしたよ。あとは君次第だ」

 僕は一人呟き、体育館で辰巳君と交わした約束を思い出していた。

『辰巳君、僕が勝機を作ってあげるよ。”それ”をどう使うかは君次第だけどね』

 思い出しながらふっと笑みがこぼれる。
 本当は僕と凛ちゃんで酒々井君に勝てれば良かったんだけど、実際に勝負してみてすぐに分かった。
 ――普通にやってもこいつには勝てない――って……。

「やれやれ、いくら辰巳君がヤル気出しても、酒々井君相手じゃ厳しそうだからね。これで少しは勝負が面白くなったかな」

 普通にやっても勝てない。だけど、絶対に勝てない相手じゃない。

”普通にやっても勝てない相手に勝つ”
これほど楽しそうなことなんてないじゃないか。

 まぁ、凛ちゃんにはちょっと悪いことしちゃったけどね…。

「さぁ、どうなるのか楽しみだ」

 僕は呟きながら、こみ上げてくる笑みを押さえてはいられなかった。

※※※※

「そろそろ葛西君は動き出してる頃かな」

 夜。自室の椅子に腰かけ、楽しそうに読書をしている少年が呟く。

「いやぁ、氷室君ともう一回勝負出来るのも楽しみだけど、彼もまた楽しみなんだよね」

 その少年、酒々井秀はおもむろに立ちあがり、窓際まで歩いていく。
 そして、彼は窓の外を眺めながら呟く。

「本当に楽しみだよ、葛西寛人君。――さぁ、君はどうやって僕を裏切ってくれるんだい?」

 窓に映った彼の顔には不敵な笑顔が浮かんでいた…。

「ふふ、そろそろ僕も動いてみようかな」

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