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恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜

うみたけ

男の強さ~戦闘力VS知力~ 1


「ほら、氷室。かかってこいよ!――喧嘩はもう始まってるんだぜ?」

 放課後の校庭の裏。一人の強面の男が自信あり気な笑みを浮かべながら、こちらに向けてファイティングポーズをとっていた……。
 一方、喧嘩等ほとんどやったことのないせいか、ぎこちない臨戦態勢をとっている俺……。
 ふと、少し後方に立っている習志野の方を見ると、申し訳なさと心配が入り混じった表情を向けて、祈るようにこちらを見ている。
 ――まぁ、一応こういうのは男の仕事らしいからな……。
 思わず心の中で苦笑いしてしまう。

 今現在、俺達にとって絶対絶命の出来事が現在進行形で起こっている。
 ――今まで暴力沙汰とはほぼ無縁だった俺が、見るからに強面な男と殴り合いの喧嘩をしようとしているのだ……。しかも、生徒ポイントとパートナーである習志野を懸けて……。さらに、相手は中学時代を含めて喧嘩で負けなしの猛者だという……。
 正直まともにやっても勝てる可能性は0だ。

「はぁ……。なんでこんなことになってんだよ…」

 そんな現状に、思わず大きなため息を漏らし、若干涙目になりながら、俺はここに至るまでの数日の出来事を思い返していた……。


※※※※

――数日前――

「ホームルーム始めるぞー」

 午後の授業も終わり、教室全体がざわざわとしはじめる中、ガラガラと教室の扉が開く音が聞こえ、一人の女性教諭が入ってきた。
 我らが担任、大井みどりである。
 彼女の登場によって、ざわざわしていた教室が一瞬にして静寂に包まれる。
 入学から3カ月が過ぎ、最早彼女が教室に現れてもおしゃべりを続けるような怖いもの知らずな輩は一人もいなくなっていた。

「おお、相変わらず静かな連中だな。若いうちはもう少しヤンチャでもいいんだぞ?」

 大井先生は教壇に立つとニヤニヤしながらクラス中を見渡す。
 ――どうせヤンチャしてたらあんたにシバかれるんだろ?そんなハイリスクノーリターンなことする奴なんていねぇよ!
 いつにも増して上機嫌な大井先生に対して、悪態をつく……もちろん心の中で。

「おいおい。もう第2四半期に入って、他のクラスの奴とのサドンデスや告白も解禁されてんだぞ?そんなんじゃお前らどんどん他のクラスに負けて退学になっちまうぞ?」

 …………。
 何気なく、先生の口から衝撃の事実が告げられ、思わず唖然としてしまった……。
 周りを見渡すが、ほぼ全員同じように、近くの者と顔を見合わせたり、俺と同じように唖然としたりして自分の耳を疑っている。

「あ、あのー、先生……」

 そんな中、先生に対してみんなの疑問を投げかけるべく、恐る恐る挙手する戦士が現れた……俺だ…。

「なんだ、氷室」
「さっき先生が言った『第二四半期に入ったから~』って部分はどういうことですか?っていうか、そもそも最初の四半期は他クラスと対決したらダメ、とかいうルールありましたっけ?」

 俺が投げかけた質問の答えをクラス中が若干前のめりになりながら待ちわびている。

「氷室、最初の日に説明しただろうが。人の話、特に私の話はしっかり聞けと言ってるだろ」

 先生はため息交じりにあきれ顔で答えた。

「そんなこと言ってるのはお前くらいだぞ。他の連中を見習え!なぁ、お前ら!?」

 そう言って、クラスを見渡すが……

「す、すみません……僕達も今の説明初耳なんですが…」
「わ、私も聞いた覚えがないみたいです…」

 みんなの正直な返答に、先生は……

「……まぁ、誰にでもミスはある!人間その失敗から何を学ぶかが大切だ!!そうだろう、氷室?」
「そ、そうっすね!」

 このクラスに大井先生を責められる勇者は存在しなかった…。

 その後、改めて説明が行なわれ、第二四半期から2点の事項が許可されたことを知った。

①他クラスの生徒とのポイントを懸けた勝負。
②他クラスの生徒への告白、及び他クラスの生徒とペアを組むこと。

 ――どちらも、今まで禁止されていたことにびっくりだ。

「このクラスは大人しい生徒が多いが、他のクラスの中には癖のある連中も結構いる。まぁ、立場上、お前らの味方はできんが、応援はしてるからな。せいぜい用心しながら頑張れよ!」

 ――まぁ、癖のある連中って言ってもこれまでとそれほど違いはないだろ。
そんな風に楽観視していると…

「あ、そうそう。ちなみに隣のクラスには私と腕っ節でタメ張っていい勝負する奴もいるからな」

 ――マジかよ!あのヤクザ教師といい勝負だと…!?それ本物のヤクザとかじゃねぇの!?

「特に氷室と習志野!」
「はい!」
「お前ら、現時点でこのクラスのトップだから絡まれる可能性も高いと思うけど……まぁ、頑張れよ!」

 先生はそれだけ言い残すと、「それじゃあ、今日は終わり!」と言ってさっさと教室から出て行ってしまった。
 ――『頑張れよ!』じゃねぇよ!絡まれた時点で俺達の負け確定じゃん!! まぁ、絡まれないように『頑張り』ますけど!!
 俺は教室から出て行く先生の背中に思いっきり毒づいた!……勿論心の中で。

(まぁ、でも絡まれなければいいことだしな!)

 俺が必死に現実逃避して前を向こうと思った矢先、まさに奇跡のタイミングで来客が現れた。

ガラガラ

 教室の扉が再び開き、クラス中の視線が一か所に集まった。

「このクラスのトップの氷室辰巳ってのはどいつだ!?」

 入口の前で、一人の男子生徒が迫力のある声で叫んでいた。
 目測身長180センチ以上、ガタイも良く、さらにただでさえ鋭い目付きをしているのに、短髪でサイドに刈り込みを入れた髪型で見た目の強さを3割増しさせている。
 ――間違いない!こいつが先生が言ってた隣のクラスの奴だ!――っていうかこいつホントにうちの生徒かよ!?
こんなよく漫画なんかで出てくる”ザ・不良高校生”みたいな奴と仮にも名門校であるこの恋星高校で出くわすとは……。ここは上手くやり過ごすしか……

「お前が氷室辰巳か!」

 そんなことを考えている間に、俺の存在が突如現れたチンピラ野郎にばれてしまった。良く見ると、彼の近くにいるクラスメイトの一人が俺の方を指さしていた……。
 ――裏切ったな!……えーっと……すまん!名前が分からん!!
 助けを求めるべく、周りを見渡すが、目につくのは心配そうな目を向けるものの、自分自身が肉食動物に見つかった時の小動物並に怯えている習志野……。そして、ニヤニヤ楽しそうにしている葛西……。そして、市川の巨乳……。
 こんな状況でも自然と目がいってしまうとは……恐るべし市川の巨乳!!

「氷室辰巳!俺と勝負――」
「断る!」

 俺がまだ一言も発していないのなんてお構いなしに俺に接近してきて勝負を挑んできた。
 そして、対する俺も、一切迷うことなく、はっきりと断ってやった。しかも食い気味に!さすがの強面野郎も若干唖然としている!

「まぁ、どうしてもって言うならテストとかゲームとかじゃんけんなら考えろぞ?」
「テスト…?ゲーム…?そんなもの何の意味もねぇ!!男の魅力は“強さ”だ!!勝負は喧嘩のタイマンに決まってんだろ!!」

 ――何だ、この単細胞野郎は……。全く話し合いが通じる気がしねぇ…。

「それに、お前と勝負する理由もない」
「……てめぇ、俺と勝負する理由がない、だと?」

 次の瞬間、一体何が癇に障ったのか、男は一層目つきを鋭くさせて睨みつけてきた。

「悪いけど、俺には全く心当たりがないんだが……もしかして人違いじゃ――」
「そんなわけねぇだろ!!」

 男は俺の言葉を怒鳴り散らすような大声で遮ると、ふと別の人物に視線を移した。
 その視線の先を追うと、そこには……

「……え?え?な、なんですか!?」

 いきなりの大声に体を強張らせながらも、いきなり視線を向けられてあたふたと戸惑っている小柄な少女がいた……。
 再び、男の方へと視線を戻すと、男は顔を少し赤らめ、既に少女から目をそらしていた……。
 ――俺は何となくすべてを察した……。

「あの~、もしかして俺がしつこく勝負を挑まれてる原因って…」
「そうだ!俺は習志野さんが好きだ!!俺はてめぇに勝って習志野さんを奪い取る!――俺は”強さ”でこの本物の愛を成就させてやるんだよ!!」
「……」

 さすがの俺も、いきなりの告白に唖然としてしまった。
 ――やはりこいつの目的は、今現在、いきなりの告白に驚き目をパチクリさせている少女――習志野栞だったか……
 最初の習志野の反応を見る限り、どうやら本人に好意を持たれた心当たりはないようだ。

「む、無理です……。わ、私にはたっくんがいますから…」

 それに対して、習志野は、俺の方を助けを求めるような目でチラチラと見ながら恐る恐る男に断りを入れる。

 そして、そんな習志野の姿を見て、どこかほっと胸を撫で下ろしている自分気付いた。
 ――俺は何にほっとしてんだ?別にこいつが誰のことを好きでも問題ねぇだろ!万が一、ペア解消になっても他の使える奴と組めば主席を狙うには十分だし……

 しかし、俺にそんな些細な考え事すらする時間はなく、新たな来客が現れる。

「探したわよ、行徳ぎょうとく!!私がいない間に始めないでよね!!それに今日は挨拶だけの予定でしょ?」

 声のした方に視線を移すと、教室の入口に一人の女子生徒が仁王立ちしていた。

「あ?船橋ふなばし、お前が遅いからだろーが!」

 その船橋という女子生徒はというと……
 身長は170センチ近く女子としてはかなりの長身で、スレンダーなモデル体型。顔も整っており、客観的に見て美人と言える。(まぁ、個人的には全くタイプではないが)

 俺には全く見覚えもなく、習志野に視線で尋ねるがどうやら知らない奴らしい。
 おまけに他のクラスの連中の反応から、どうやらこいつはこのクラスの人間ではないらしい。
ということは……

「おい、お前…行徳だっけ?ちゃんとパートナーいるんならイチイチ突っかかってくんなよ」

 クラス外の奴、そして目の前の男――行徳というらしい――の知り合いでこの場に来て自然な奴は一人しかいない…。そう、この強面野郎のパートナーだ。
 ――さすがにこいつも自分のパートナーの前で他の女を口説くような真似はしないだろう。
 しかし、そんな甘い期待はすぐに崩れ去った。

「あ?お前アホか?パートナーと”恋人”は別に決まってんだろ?この学校じゃ常識だろ?」

行徳は少し呆れたような顔で言い返す。

「は?お前こそ何言って――」
「そんなことありません!!」

 反論しようとした俺を遮ったのは、普段は大人しい習志野だった。

「この学校でパートナーは恋人と同じです!中には利害関係だけでペアを組んでいる人もいるようですが……少なくとも私はたっくんのことを心から愛しています!!」

 真剣な顔ではっきりと訴える。
 そして、人前で『愛してる』と言われた俺は、自分の顔がどんどん熱を帯びていくのを感じていた。
 一方の行徳は俺の方を悔しそうな表情で睨みつけている。

「へぇ、それは立派なことね。まぁ別にそんなことで張り合うつもりはないからどうでもいいんだけど。--私たちが張り合うのは、互いの生徒ポイントがかかった『勝負』だけよ」

 船橋という女子生徒は習志野の訴えを余裕の態度で冷静にあしらい、ギラギラした目を俺達に向けてきた。

「まぁ、今日は挨拶だけ。勝負は次回ね」

 そして、一瞬の沈黙の後、船橋をそれだけ言い残すと、不敵な笑みを湛えながら、踵を返して教室を出て行った。

「フン!別に俺は今から勝負してやってもいいんだけどな!――習志野さん、必ず俺の方に振り向かせて見せるから!」

 行徳はというと、習志野に力強く宣言すると、同じく踵を返し、最後に俺に一瞥ガンを飛ばして教室を出て行った。

 ――はぁ…。今回もめんどくさそうな奴に目つけられちまったな……。できれば二度と関わりたくないな。

 そんなことを願いながら奴らが出て行った教室の入り口をじっと見つめるが、俺の小さな願いは全く叶えられることはなかった…。

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