恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜

うみたけ

氷室・習志野組VS東海・浮島組2

「みんなこの勝負で使うテストの準備はいいかい?」

 審判に任命された葛西の確認に全員黙って頷く。
 それぞれ相手側に見られないようにして、2~3枚のテストの答案用紙を持っている。
 ちなみにテストの枚数の内訳は、東海が2枚、浮島が3枚……そして、俺達の内訳は、俺が2枚、そして習志野が3枚となっている。

「それじゃあ、まずは第一回戦!お互いに好きなテストを選んで!」

 葛西の進行に従い、互いのチームが話し合いに入る。

「習志野、俺達は予定通り行くぞ」
「はい!」

 俺達はものの数秒でこの一回戦で使用するテストを選び、習志野が自分の持っている3枚のテストのうち1枚を机に伏せた。

「氷室・習志野ペアはセット完了でいいかい?」
「ああ」
「はい、大丈夫です!」

 その行動に、東海は眉をひそめる。

「…いいのかい?僕達の様子を見ずにセットしてしまっても?」
「いいんだよ。どうせお前らが何出したって俺達が勝つんだから」
「フン!ハッタリに決まってる!!習志野さんのテストが僕達より良いなんてあり得ない!!」

 東海は少し興奮気味に捲し立てる。

「お前がそう思うならそれでいいんじゃねぇの?別に迷う必要なんてないだろ?」

 そんな東海に対し、俺は必要以上に余裕を醸し出し、挑発的な態度を取る。
 そして、習志野の方もその表情からは不安は一切感じられない。
 ふと、俺の視線に気付いた習志野は、笑顔で小さなブイサインで応える。

「くっ!」

 そんな俺達の予想外の態度に、東海はギリッと奥歯を噛みしめ、睨みつけてくる。

 東海は戸惑いと一抹の不安を感じてるはずだ。―――俺達が何の迷いもなく この一回戦目でテストをセットしたこと……そして何より『習志野の手からテスト用紙がセットされたにも関わらず』俺達が妙に余裕で自信あり気な態度を取っていることに……。

「誠一郎、落ち着いて。有利なのは私達の方。敵に惑わされないで」
「ああ、分かってる…」

 ペアの浮島の言葉で多少は冷静さを取り戻したようだが、それでも東海の表情から迷いは消えていないようだ。

「東海君、浮島さん?そろそろセットしてもらってもいいかい?」

 そんな東海を見て、審判を務める葛西から催促が入る。

「……くっ!仕方ない、ここは絶対に落とせない……!!」

 東海は悩んだ挙句、自分の手から一枚のテスト用紙を出し、裏にして伏せた。
――なんとか俺の計算通りいくといいんだが……

「それじゃあ…両陣営、テストオープン!!」

 葛西の掛け声とともにお互いに自分達のテストを表向ける。
 そして、2枚のテストの上部には……

名前:東海誠一郎   86点
名前:習志野栞    46点

「86点対46点……よって、東海・浮島組に1勝!!」

 葛西により、一回戦の勝敗が発表された。

「……な、なんだと…?」

 声の主は俺ではない……東海の口からはこの一回戦目での勝者とは思えない動揺に満ちた声が漏れた。
――どうやら作戦の第一段階がクリアしたみたいだな……。
 俺は習志野と顔を見合わせ、ニヤリと笑った。

「氷室……貴様……!!」

 そんな俺達に東海は怒りの形相で睨みつけてくる。
 そして、勝ったのに悔しがっている東海を見て、周りの生徒達もざわめく。
 俺の方はというと…周りは完全に無視して生徒端末をいじる。

「なんだよ東海、そんな怖い顔して?せっかく勝ったんだからもっと喜べよ」
「……クソッ!」
「誠一郎、落ち着いて!」

 顔を上げ、声のした先に視線を向けると、東海が先程公開した自分のテスト用紙を丸めて叩きつけ、悔しさを露わにしていた。
 そして、そんな東海に少し強い口調で冷静になるように促す浮島。
 しかし、その彼女には珍しい少し強い口調が逆に彼女も動揺していることを証明してくれた。

「なんだよ、一勝したってのに随分と不機嫌そうじゃねぇかよ。我儘な奴らだな…。それともこの一勝よりも重要なものでも失ったか?――例えば…自分達の手札の中での最高点とか」
「「!!」」

 俺の言葉に東海達の表情はぎょっとする。
 俺はそんな東海達をニヤリと挑発的に笑いかけ、さらに追い打ちをかける。

「いやぁ、そりゃバカなことしたなぁ。これでお前らは早くも切り札を失ったってことだ。ちなみに言っておくと、俺達が出したのは自分達の手札の最低点だ」
「……氷室!!」
「誠一郎!」

 悔しさを一層強くする東海を浮島が制止する。

「氷室君の言ってることが全て本当だとは限らない。彼のペースに飲まれてはだめ。それにまだ私達が有利なのは変わらない」
「……チッ、分かってるよ!」

 浮島の言葉に、悪態をつきながらも東海は大人しく従う。
 ――なるほど。どうやらこの二人で厄介なのは浮島の方みたいだな…。

「盛り上がってるところ悪いんだけど、二回戦目いってもいいかい?」

 そんなことを考えながら東海と浮島のやり取りを観察していると、審判の葛西による二回戦目のコールがされた。

「ああ。悪いな。俺達はさっさと進めてくれていいぞ」
「……僕達も問題ない」

 先程の浮島の言葉でいくらか冷静さを取り戻した東海も同意する。

「それじゃあ、二回戦はじめるよ!お互いにテストを1枚ずつ選んで」

 葛西の指示に従い、両陣営ペア同士での打ち合わせに移る。
 しかし、俺達は……
 ――今の奴らの心理状態と予想される手札から考えると……次はこれだな!

「習志野、次はそれだ」
「はい!」

 習志野は自分の持っている2枚のテストのうち、俺の指さした方を裏向きでセットする。

「チッ、またしても……」

 再び数秒も立たないうちにテストのセットを終えた俺達に舌打ちする東海。
 だが、さすがに二度目だけあって先程のような取り乱し方はせず、ペアの 浮島と冷静に話し合いを続行する。
 俺は東海達の様子を横目で見ながら、再び生徒端末をいじる。

「俺達はこれでいく!」

 しばらくして、先程よりも長い話し合いを終えた彼らは、東海の宣言とともに今度は浮島が無言で自分の手札の中から一枚テスト用紙を出した。

「お!ようやく出揃ったね。――それじゃあ、第二回戦、テストオープン!!」

 再び葛西の掛け声に合わせて、同時にテストを表向ける。
 そして……

「な!?」

 一回戦と同じように、東海は驚きの声を漏らし…しかしあることに気付くと審判である葛西に抗議する。

「おい、審判!!これは反則だろ!!」

 オープンされたテストには……

名前:浮島恵  74点
名前:氷室辰巳・・・・ 90点

「今回は習志野さんの手札の中からテストがセットされたはずだ!ここに氷室のテストがあるのはおかしいだろ!!」

 さらに猛抗議し、俺達の反則を訴える東海。
 しかし、俺には全く焦りはない。

「ははっ、さすがは辰巳君だ――いやぁ、東海君の気持ちも分かるんだけど…これは反則とは言えないよ」

 葛西は楽しげに、東海からの申し出を却下した。

「な、なんで――」
「じゃあ聞くが、俺達は一体どのルールを破ったって言うんだ?」

 それでも、納得いかない様子で食い下がろうとする東海の言葉を遮り、俺は問いかける。

「それは……!!」

 言おうとして、東海は気付いた。

「お前はテストの替え玉や通常のテストで違反になることを禁止しただけで、『ゲームで使う手札は自分のテストからのみ選ぶ』なんていうルールは設定してないだろ?」
「そんなバカな……」

 俺の指摘にようやく観念したのか、悔しそうに頭を抱える東海。

「90点対74点……二回戦は氷室・習志野組の勝利!」

 葛西の勝敗発表に周りで戦況を見守るクラスメート達が再びざわつく。
 隣の習志野へと目を向ける。

「やりましたね、たっくん!」

 そう言って、満面の笑みを浮かべる習志野。
――とりあえず、これで1勝1敗か……今のところ作戦は順調だな。
 勝敗では五分だが、この一勝でかなり有利な立場に立てたはずだ。
 この2戦で敵の高得点のテストを2枚潰せたのがデカイ!
 一回戦で最高得点、そして恐らく今の二回戦で2番目か3番目のテストを出させることができたはずだ。
 それに対して俺達は一回戦で最低点、二回戦で2番目のテストを使用した。
 つまり、現時点で残っている互いの高得点テストを比べると、東海達が1枚に対して、俺達は最高得点と3番目の2枚と、俺達がリードしているのだ。
 ――まぁ、それでもまだ勝率は6割ってところなんだよな……。

「フン!せいぜい今のうちに喜んでおけばいい!」

 悔しそうにしながらも、まだ自分達が完全に不利になったわけではないことには気付いているらしい東海が再び俺を睨みつける。

「確かに高得点の残り枚数では僕達が負けてる。だけど、君達には習志野さんがいる。――習志野さんのテストが2枚残ってる時点で僕達の絶対的有利は変わらないよ」

 東海の言うとおり、まだまだ俺達の勝利には障害が残っている。
 ルールの一つに5枚のうち俺のテストの使用は2枚まで、というものがある以上、どうしても習志野にも1勝してもらう必要があるのだ。
 ――一応有効な切り札は打ってあるんだが……100%勝てる保証なんてどこにもない……

「どんな方法を使っても今から点数を上げるのは不可能」
「氷室、もし君が仲間を騙したことを心から反省し、今後は仲間を騙したり、蹴落としたりしないって誓えるのなら見逃してやってもいい」

 東海は真剣な目で訴えかけてくる。――よくそんなことが言えたもんだ……

「見逃してもらわなくても大丈夫です!勝つのは私達ですから!!」

 俺が口を開きかけるが、習志野の声が先だった。

「習志野さん、あまりこういうことは言いたくないが、今回の君達の敗因は君の点数の低さだと思うんだけど――」
「私が足を引っ張っていることくらい分かってます!でも……それでも、たっくんは『負けるわけない』って言いました!私はその言葉を信じます!!――こんなことも信じられないようじゃとても妻なんて名乗れませんからね!」

 ――いや、信じてくれるのはありがたいんだが、信じたからって妻になれるわけじゃないからな?……まぁ、でも……

「自分のペアにここまで言われたら勝つしかないよな。――それに、不思議とお前らにだけは負ける気がしないんだよな」

 俺は真剣な目でまっすぐ東海を見据える。

「氷室、やはり君にはこの学校を出て行ってもらうしかないみたいだ。――僕がこの勝負に勝ってね」
「言ってろ。どうせすぐに決着は着く」

 ――それに、こいつには勝った後言いたいことが山ほどあるしな。

「それじゃあ、3回戦目をはじめるよ!」

 再び緊張感を増し、静かになった教室に葛西の声が響く。
 ――次の3回戦……いよいよ正念場だ。

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