恋愛サバイバル〜卒業率3%の名門校〜
新たなる敵 2
「…はぁ…やっと昼休みか…」
午前中最後の授業の終了のチャイムが鳴り、ようやく昼休みとなった。
オリエンテーリングをやっていたのが随分昔のように感じられる今日この頃。もう5月も中旬から下旬に移ろうとしている中、俺は未だに5月病から抜けられずにいる。
「たっくん!早くお昼食べましょう!!」
午前中の疲労感から、自分の机に突っ伏してダラけていると、少し離れた席からいつの間にかすぐ隣に来ていた少女――習志野栞が声をかけてきた。
ペアを組んでからは大抵、習志野が俺の席に来てなんとなく一緒に飯を食っている。
別にペア同士で必ず一緒に行動するように決められているわけではないし、事実、周りの生徒のほとんどはペアとは関係ないグループで飯を食っている。
しかしながら俺達はなんとなく二人きりで飯を食うようになっていた。――別に俺達がクラスで孤立しているからではない!……ないはずだ……。
「悪い、俺購買で何か買ってくるから先食っててくれ」
俺は習志野にそう言って気だるげに自分の席を立った。
「じゃあ、私も一緒に購買に行きます!」
習志野はそう言って、ちょっと駆け足で寄ってきて、俺の隣に並ぶ。
そして、
「ふふっ、なんかデートみたいですね」
手を後ろで組み、子供っぽい笑みを向けてくる。
――……まぁ、可愛いと言えなくもない…。
「…まぁ、傍から見たら兄妹にしか見えないだろうがな」
若干目を反らしながら、いつも通り皮肉で返す。
「もう!たっくんのいじわるっ!」
そんな俺に習志野は頬を膨らませる。高校生にもなってこんな仕草をしていると、大抵が『ブリっ子』認定されるのだが、恐らくこいつに対してそんな風に思う奴はいないだろう。
――まぁ、それだけ習志野がガキっぽく見られているだけなんだが…。
「氷室君!」
そんなことを考えていると、不意に後ろから声をかけられた。
振り向くと、数人の女子生徒が立っていた。
そして、彼女達の手には…
「よかったら私達のお弁当食べない?」
「丁度作り過ぎちゃってて」
「別にいらなかったらいいんだけど…」
そんなことを言いながら俺の方に弁当を差し出してくる。
――え、何これ?もしかしてモテ期ってやつ?そうか、ようやく世の中の価値観が俺に追い付いてきたのか…。
「ま、まぁ、くれるって言うなら――」
もらえるものは貰っておこう。自分で働くわけでもなく、ましてや自分の金で買うわけでもなく、何もせずして得る食事というのも悪くない。いや、むしろ最高だ!
そう思い、俺は差し出された弁当を受け取ろうと手を伸ばす。
しかし…
「ちょと、あなた達!私のたっくんに変な物を渡さないでください!1」
素早い動きで俺の手を押し戻した習志野が女子生徒達を睨んで威嚇する。
――しかし、子供っぽい容姿のせいか、残念ながら威圧感がなく、効果は薄いようだ…。
「大体たっくんも――」
威嚇が不発に終わったのを察してか、習志野が俺に矛先を向けようとした時…
「習志野さん!これもらってよ!!」
「栞ちゃん、こっちもおいしいよ!」
「習志野さん、これもこれも!」
今度は数人の男子生徒達が次々にお菓子を習志野に手渡している。
習志野は咄嗟のことに動揺し、「え?え?」と言いながらオロオロすることしかできず、気が付けば彼女の両手はたくさんのお菓子で溢れていた…。
そして、それは他人事ではなく、習志野の方を気にしていた隙に俺の方も数個の弁当を押しつけられていた。――まぁ、どっちにしろ貰う予定だったからよかったんだが…。
「……」
「……」
そして、俺達二人は無言で視線を交わし、弁当とお菓子を抱えたままいつも昼食を食べている俺の席へと引き返した…。
そして、俺達が席に座ろうとした瞬間、
「やあやあ、二人とも。人気者は羨ましいなぁ」
すぐ前方より一言耳にしただけでイラっとする口調の男が話しかけてきた。
「……」
俺達はチラっと声の主に目を向け、自分が思い浮かべた人物であったことを確認すると完全スル―を決め込み、無言で昼食を広げる。――触らぬ仏に祟りなし…いや、こいつは仏じゃなかったか。
「おいおい、どうしたんだい?黙り込んじゃって。悩み事でもあるなら相談に乗るよ?それとも体調が悪いのかい?それなら無理せず保健室に――」
「無視してんだよ!」
あまりの鬱陶しさについつい反応してしまった。――まさか無視すらできない程のウザさとは…。
「ははっ!どうせ反応するなら最初から無視なんてしなけりゃいいのに」
「……ホントぶん殴りてぇ!」
自然と表情が引きつっていってしまう。
しかし、そこへ助け舟が…
「ちょっと、葛西君!毎回毎回氷室君にちょっかい出すの止めなさいよ!」
少し遅れて葛西のペアで学年トップの学力を誇る少女――市川凛がやってきた。
市川は腕を組み、ほのかに頬を染めながらムッとした顔をしている。――尚、巨乳であるが故、完全に腕に胸が乗っている。…さすが推定Eカップ…。
俺達が葛西のウザさに限界を感じたところに、絶妙なタイミングで助けむね…いや助け舟がやってきて…
「あなたは大人しく習志野さんと二人でしゃべってればいいの。――さぁ、氷室君。私ともう少し静かなところに行きましょう」
市川は強引に俺の手を引き、席を立たせる。そして、唖然としている習志野に勝ち誇ったような表情を向け、見下ろす。
「な、なんですか、あなたは!!早くたっくんから手を離して下さい!!」
「どうして?氷室君が離せって言うなら別だけど、あなたに言われる筋合いはないと思うんだけど」
「な、何を言ってるんですか!私はたっくんのパートナーですよ!」
「そんなの今だけでしょ?氷室君にはもっと優秀な人物がふさわしいと思うんだけど。――例えば私のような。」
「は?あなたの出る幕なんてあるわけないじゃないですか!私とたっくんは将来を誓い合った仲なんですから!!」
「へぇ、“将来を誓い合った”ねぇ…。そうなの、氷室君?」
――急に俺に振るなよ…。突如として始まった女同士の争いに巻き込まれる俺。
どうやら助け舟と見せかけて、やってきたのは新たな敵襲だったらしい…。
「…いや、別に将来を誓い合ったわけじゃ――」
「た、たっくん!?」
習志野は驚きの表情を見せ、少し後ずさる。――いや、何どさくさに紛れて約束した感だしてんだよ。
「どうやらあなたの勘違いみたいね。妄想もほどほどにしておいた方がいいんじゃない?」
「ぐっ…」
「ははっ。やっぱり君達は面白いよ!」
そして、そんな二人の言葉の応酬を楽しそうに見ている葛西。
「辰巳君は相変わらずモテモテだねぇ。――二人とも!よければ僕も奪い合ってくれていいんだよ!?」
「「あなたは要らない(要りません)!!」」
割り込んだ葛西に二人の容赦ない言葉が返ってくる。
葛西はそんなぞんざいな扱いを受けながらも楽しげに笑っている。――こいつ、もしかしてドMなのか…?
そんなことを考えていると、まだ続く二人のいがみ合いを横目にこっそりと話しかけてきた。
「辰巳君。オリエンテーションでの大活躍からのこのモテ期に浮かれるのも分かるけど――」
「浮かれてねぇよ」
「だけど、油断しないようにね。――中には君達のことをよく思ってない人もいるかもよ」
急に葛西が真剣な顔で助言してきた。
――当然、俺達が気に入らない奴らもいるだろう。何せ俺達はオリエンテーションで3組のペアを退学にしたんだからな…。
「まぁ、分かってるならいいんだけどね。万が一君が下手を打って退学にでもなったらせっかくできた僕の楽しみが無くなっちゃうからさ。――僕達の手で君達を完膚無きままに潰すって楽しみが」
そう言って葛西は不敵に笑った。
※※※※
「それじゃあホームルームをはじめるぞ~」
午後の授業もあっという間に終わり(ほとんどの時間を睡眠で過ごした。)気付けばホームルームを残すだけとなっていた。
教壇で大井先生の気だるげなのだが、妙に威圧感のある口調が聞こえてくる。――とても女がしゃべっているとは思えないな…。
まぁ、この威圧感にもいい加減慣れてきたけどな。
こんなことに慣れてしまっている自分に対し、思わず乾いた笑いが漏れてしまった。
「…なんだ、氷室。何か言いたそうな顔をしてるじゃないか。あ?」
「…い、いえ、すみません。あまりの先生の美しさに見惚れていました!」
「フン、生意気な。相変わらず気持ち悪いが…まぁ、今回だけは見逃してやろう」
――この人、案外チョロイかもしれない…。
「いよいよ、再来週から中間テストが始まる」
そして、気を取り直して先生からの話が続く。
「――退学したくない奴ら今のうちからしっかり勉強しとけよ」
そう言って、先生は不気味な笑みを湛える。
そして、先生は「あとの細かいことは生徒端末に書いてあるから各自呼んどけよ」と適当なことを言い残して教室を後にした。
しかし、大井先生がいなくなってからも教室には緊張感が漂っていた。
高校生活初めてのテストだから…というわけだけじゃない。このテストには自分達の退学がかかっているのだ。
今は5月。テストが終わるころには5月も終盤に差し掛かってくる。
そして、この学校にはとあるルールがある。
『四半期が終わる毎に各クラス最下位のペアは退学』
四半期…つまり6月末までに大きなイベントはこの中間テストが最後らしい。故に下位になり得るペアにとってこのテストは最大のチャンスであり最大のピンチでもあるのだ。緊張感が漂うのも当然だ。
しかし…
「まぁ、今回は俺には無縁だな」
クラスメート達が緊張感を残しながらも、その不安を少しでも軽減させようと周りの連中とざわついている。そんな中、俺は一人冷静に呟き帰りの支度をする。
俺と習志野はこの前のオリエンテーションでトップを勝ち取り、現在は2位以下に大差をつけている。仮にこの中間テストである程度失敗しても問題ないくらいに。
「おい、習志野。先に帰るぞ」
「もう、待ってくださいよ~」
さっさと支度を済ませ、一応習志野に声をかける。
冗談半分で言ったにも関わらず、焦って帰り仕度をする習志野。
そんな彼女を待っていると…
「氷室君、ちょっといいかい?」
後ろから聞き慣れない声がし、振り返ると、一人の男子生徒と一人の女子生徒が立っていた。
声をかけてきたのは男の方で、ミディアムくらいの黒髪に白めの肌。まっ すぐこちらを見据える目はとても力強く、真面目な印象を受ける好青年だ。
しかし…
――すまん…顔はなんとなく覚えているんだが、名前が分からない…。
「僕は東海誠一郎だ。そして、こちらが僕のペアの浮島恵さんだ」
東海に紹介された女子生徒――浮島恵は黙って一礼する。
黒髪とそばかすが特徴的なその少女は口を開かず、ただこちらを見据えている。
「…俺に何か用か?」
俺は少し目を細めて声を低くして少しばかり威圧してみる。
しかし、東海は全く動じない。
そして、彼は敵意のこもった目でこちらを見据えたままで再度口を開く。
「氷室君、次の中間テストで僕達と勝負してくれないかい?」
そのはっきりと聞きとりやすい声は俺の耳だけでなく、いつの間にかこちらを注目していたクラスメート達の耳にもしっかりと届いたことだろう
午前中最後の授業の終了のチャイムが鳴り、ようやく昼休みとなった。
オリエンテーリングをやっていたのが随分昔のように感じられる今日この頃。もう5月も中旬から下旬に移ろうとしている中、俺は未だに5月病から抜けられずにいる。
「たっくん!早くお昼食べましょう!!」
午前中の疲労感から、自分の机に突っ伏してダラけていると、少し離れた席からいつの間にかすぐ隣に来ていた少女――習志野栞が声をかけてきた。
ペアを組んでからは大抵、習志野が俺の席に来てなんとなく一緒に飯を食っている。
別にペア同士で必ず一緒に行動するように決められているわけではないし、事実、周りの生徒のほとんどはペアとは関係ないグループで飯を食っている。
しかしながら俺達はなんとなく二人きりで飯を食うようになっていた。――別に俺達がクラスで孤立しているからではない!……ないはずだ……。
「悪い、俺購買で何か買ってくるから先食っててくれ」
俺は習志野にそう言って気だるげに自分の席を立った。
「じゃあ、私も一緒に購買に行きます!」
習志野はそう言って、ちょっと駆け足で寄ってきて、俺の隣に並ぶ。
そして、
「ふふっ、なんかデートみたいですね」
手を後ろで組み、子供っぽい笑みを向けてくる。
――……まぁ、可愛いと言えなくもない…。
「…まぁ、傍から見たら兄妹にしか見えないだろうがな」
若干目を反らしながら、いつも通り皮肉で返す。
「もう!たっくんのいじわるっ!」
そんな俺に習志野は頬を膨らませる。高校生にもなってこんな仕草をしていると、大抵が『ブリっ子』認定されるのだが、恐らくこいつに対してそんな風に思う奴はいないだろう。
――まぁ、それだけ習志野がガキっぽく見られているだけなんだが…。
「氷室君!」
そんなことを考えていると、不意に後ろから声をかけられた。
振り向くと、数人の女子生徒が立っていた。
そして、彼女達の手には…
「よかったら私達のお弁当食べない?」
「丁度作り過ぎちゃってて」
「別にいらなかったらいいんだけど…」
そんなことを言いながら俺の方に弁当を差し出してくる。
――え、何これ?もしかしてモテ期ってやつ?そうか、ようやく世の中の価値観が俺に追い付いてきたのか…。
「ま、まぁ、くれるって言うなら――」
もらえるものは貰っておこう。自分で働くわけでもなく、ましてや自分の金で買うわけでもなく、何もせずして得る食事というのも悪くない。いや、むしろ最高だ!
そう思い、俺は差し出された弁当を受け取ろうと手を伸ばす。
しかし…
「ちょと、あなた達!私のたっくんに変な物を渡さないでください!1」
素早い動きで俺の手を押し戻した習志野が女子生徒達を睨んで威嚇する。
――しかし、子供っぽい容姿のせいか、残念ながら威圧感がなく、効果は薄いようだ…。
「大体たっくんも――」
威嚇が不発に終わったのを察してか、習志野が俺に矛先を向けようとした時…
「習志野さん!これもらってよ!!」
「栞ちゃん、こっちもおいしいよ!」
「習志野さん、これもこれも!」
今度は数人の男子生徒達が次々にお菓子を習志野に手渡している。
習志野は咄嗟のことに動揺し、「え?え?」と言いながらオロオロすることしかできず、気が付けば彼女の両手はたくさんのお菓子で溢れていた…。
そして、それは他人事ではなく、習志野の方を気にしていた隙に俺の方も数個の弁当を押しつけられていた。――まぁ、どっちにしろ貰う予定だったからよかったんだが…。
「……」
「……」
そして、俺達二人は無言で視線を交わし、弁当とお菓子を抱えたままいつも昼食を食べている俺の席へと引き返した…。
そして、俺達が席に座ろうとした瞬間、
「やあやあ、二人とも。人気者は羨ましいなぁ」
すぐ前方より一言耳にしただけでイラっとする口調の男が話しかけてきた。
「……」
俺達はチラっと声の主に目を向け、自分が思い浮かべた人物であったことを確認すると完全スル―を決め込み、無言で昼食を広げる。――触らぬ仏に祟りなし…いや、こいつは仏じゃなかったか。
「おいおい、どうしたんだい?黙り込んじゃって。悩み事でもあるなら相談に乗るよ?それとも体調が悪いのかい?それなら無理せず保健室に――」
「無視してんだよ!」
あまりの鬱陶しさについつい反応してしまった。――まさか無視すらできない程のウザさとは…。
「ははっ!どうせ反応するなら最初から無視なんてしなけりゃいいのに」
「……ホントぶん殴りてぇ!」
自然と表情が引きつっていってしまう。
しかし、そこへ助け舟が…
「ちょっと、葛西君!毎回毎回氷室君にちょっかい出すの止めなさいよ!」
少し遅れて葛西のペアで学年トップの学力を誇る少女――市川凛がやってきた。
市川は腕を組み、ほのかに頬を染めながらムッとした顔をしている。――尚、巨乳であるが故、完全に腕に胸が乗っている。…さすが推定Eカップ…。
俺達が葛西のウザさに限界を感じたところに、絶妙なタイミングで助けむね…いや助け舟がやってきて…
「あなたは大人しく習志野さんと二人でしゃべってればいいの。――さぁ、氷室君。私ともう少し静かなところに行きましょう」
市川は強引に俺の手を引き、席を立たせる。そして、唖然としている習志野に勝ち誇ったような表情を向け、見下ろす。
「な、なんですか、あなたは!!早くたっくんから手を離して下さい!!」
「どうして?氷室君が離せって言うなら別だけど、あなたに言われる筋合いはないと思うんだけど」
「な、何を言ってるんですか!私はたっくんのパートナーですよ!」
「そんなの今だけでしょ?氷室君にはもっと優秀な人物がふさわしいと思うんだけど。――例えば私のような。」
「は?あなたの出る幕なんてあるわけないじゃないですか!私とたっくんは将来を誓い合った仲なんですから!!」
「へぇ、“将来を誓い合った”ねぇ…。そうなの、氷室君?」
――急に俺に振るなよ…。突如として始まった女同士の争いに巻き込まれる俺。
どうやら助け舟と見せかけて、やってきたのは新たな敵襲だったらしい…。
「…いや、別に将来を誓い合ったわけじゃ――」
「た、たっくん!?」
習志野は驚きの表情を見せ、少し後ずさる。――いや、何どさくさに紛れて約束した感だしてんだよ。
「どうやらあなたの勘違いみたいね。妄想もほどほどにしておいた方がいいんじゃない?」
「ぐっ…」
「ははっ。やっぱり君達は面白いよ!」
そして、そんな二人の言葉の応酬を楽しそうに見ている葛西。
「辰巳君は相変わらずモテモテだねぇ。――二人とも!よければ僕も奪い合ってくれていいんだよ!?」
「「あなたは要らない(要りません)!!」」
割り込んだ葛西に二人の容赦ない言葉が返ってくる。
葛西はそんなぞんざいな扱いを受けながらも楽しげに笑っている。――こいつ、もしかしてドMなのか…?
そんなことを考えていると、まだ続く二人のいがみ合いを横目にこっそりと話しかけてきた。
「辰巳君。オリエンテーションでの大活躍からのこのモテ期に浮かれるのも分かるけど――」
「浮かれてねぇよ」
「だけど、油断しないようにね。――中には君達のことをよく思ってない人もいるかもよ」
急に葛西が真剣な顔で助言してきた。
――当然、俺達が気に入らない奴らもいるだろう。何せ俺達はオリエンテーションで3組のペアを退学にしたんだからな…。
「まぁ、分かってるならいいんだけどね。万が一君が下手を打って退学にでもなったらせっかくできた僕の楽しみが無くなっちゃうからさ。――僕達の手で君達を完膚無きままに潰すって楽しみが」
そう言って葛西は不敵に笑った。
※※※※
「それじゃあホームルームをはじめるぞ~」
午後の授業もあっという間に終わり(ほとんどの時間を睡眠で過ごした。)気付けばホームルームを残すだけとなっていた。
教壇で大井先生の気だるげなのだが、妙に威圧感のある口調が聞こえてくる。――とても女がしゃべっているとは思えないな…。
まぁ、この威圧感にもいい加減慣れてきたけどな。
こんなことに慣れてしまっている自分に対し、思わず乾いた笑いが漏れてしまった。
「…なんだ、氷室。何か言いたそうな顔をしてるじゃないか。あ?」
「…い、いえ、すみません。あまりの先生の美しさに見惚れていました!」
「フン、生意気な。相変わらず気持ち悪いが…まぁ、今回だけは見逃してやろう」
――この人、案外チョロイかもしれない…。
「いよいよ、再来週から中間テストが始まる」
そして、気を取り直して先生からの話が続く。
「――退学したくない奴ら今のうちからしっかり勉強しとけよ」
そう言って、先生は不気味な笑みを湛える。
そして、先生は「あとの細かいことは生徒端末に書いてあるから各自呼んどけよ」と適当なことを言い残して教室を後にした。
しかし、大井先生がいなくなってからも教室には緊張感が漂っていた。
高校生活初めてのテストだから…というわけだけじゃない。このテストには自分達の退学がかかっているのだ。
今は5月。テストが終わるころには5月も終盤に差し掛かってくる。
そして、この学校にはとあるルールがある。
『四半期が終わる毎に各クラス最下位のペアは退学』
四半期…つまり6月末までに大きなイベントはこの中間テストが最後らしい。故に下位になり得るペアにとってこのテストは最大のチャンスであり最大のピンチでもあるのだ。緊張感が漂うのも当然だ。
しかし…
「まぁ、今回は俺には無縁だな」
クラスメート達が緊張感を残しながらも、その不安を少しでも軽減させようと周りの連中とざわついている。そんな中、俺は一人冷静に呟き帰りの支度をする。
俺と習志野はこの前のオリエンテーションでトップを勝ち取り、現在は2位以下に大差をつけている。仮にこの中間テストである程度失敗しても問題ないくらいに。
「おい、習志野。先に帰るぞ」
「もう、待ってくださいよ~」
さっさと支度を済ませ、一応習志野に声をかける。
冗談半分で言ったにも関わらず、焦って帰り仕度をする習志野。
そんな彼女を待っていると…
「氷室君、ちょっといいかい?」
後ろから聞き慣れない声がし、振り返ると、一人の男子生徒と一人の女子生徒が立っていた。
声をかけてきたのは男の方で、ミディアムくらいの黒髪に白めの肌。まっ すぐこちらを見据える目はとても力強く、真面目な印象を受ける好青年だ。
しかし…
――すまん…顔はなんとなく覚えているんだが、名前が分からない…。
「僕は東海誠一郎だ。そして、こちらが僕のペアの浮島恵さんだ」
東海に紹介された女子生徒――浮島恵は黙って一礼する。
黒髪とそばかすが特徴的なその少女は口を開かず、ただこちらを見据えている。
「…俺に何か用か?」
俺は少し目を細めて声を低くして少しばかり威圧してみる。
しかし、東海は全く動じない。
そして、彼は敵意のこもった目でこちらを見据えたままで再度口を開く。
「氷室君、次の中間テストで僕達と勝負してくれないかい?」
そのはっきりと聞きとりやすい声は俺の耳だけでなく、いつの間にかこちらを注目していたクラスメート達の耳にもしっかりと届いたことだろう
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