新しい世界で今度こそ幸せをつかみたい

ゆたぽん

11話

今僕は崖から落ちそうになっている。その崖は地面が見えずどのくらい深いかがわからない。何故こうなったかというと…。それは数分前に遡る。

ガラガラと馬車の後ろを走ってもう何時間だっただろうか。途中町もなくただひたすらに馬車に着いて行き、流石に少し疲れていたがいきなり馬車が止まった。危うく馬車にぶつかりそうになったが、なんとか手前で止まる事ができた。馬車から伯爵達がフワフワと浮いてきたかと思うと、ちらっと僕の方を見て、

「ついて来なさい。」

と言われて、慌ててロープを解き歩いてついていった。その先には石碑があり日本語が書かれていた。

[この先は強い魔物が溢れ出しているダンジョンがあります。ダンジョンコアまでたどり着けなかったので魔物が溢れ出さないように魔石を使用し結界を作りました。氾濫を食い止めていますが、定期的に中の魔物を狩って下さい。でないと魔物が強くなりすぎます。結界は血液を媒体に作りました。どんなに薄くなっても大丈夫なように作ったので子孫の方々は数年に一度石碑に触れに来て下さい。もし数年と持たずに氾濫するような事があれば谷の中で魔物が溢れかえってしまっている可能性があるので討伐をして下さい。この先驕る事なく、平和な世界が続く事を願っています。

異世界よりきた勇者より]

どうやらこの先にはダンジョンがあるようだ。しかしこの谷が広すぎるのか、目線の先は真っ暗で先がわからない。それと、時折獣のような声が聞こえてくる。結界があるので気配まではわからないがもし長年討伐されていなければ相当数いるだろう。それよりも日本語で書かれているとは…。懐かしい気持ちになっているところをトロイ伯爵から声をかけられた。

「おい、何をしているのだ?まさかとは思うが読めるわけではあるまい?紛らわしい事をするんでないわ!そこの丸い玉に手を置け!」

そう言われたためバスケットボール程の球体に手を置いた。すると僕の体から少し魔力が吸われる感じがした。ほんの少量の為気づかない人もいるだろうと思う程だ。どんな仕組みかはわからないけど、それだけで結果が維持されるんだから作ったこの勇者は天才だと思う。そんな事を考えながら手を置いていると、横からドガっと蹴られた。

「全く、いつまでやっておるのだ!もういいだろう。さあ、レオナルドもやってみなさい。見ててわかったと思うが、置くだけでなんにも起きはしない。」

そう言ってレオナルド様にも手を置くように促し、レオナルド様は、

「ち、父上、何にも感じませんよ?本当にこれで良いのですか?」

「なぁに、一度ご先祖様が魔物の氾濫をおこしているが、それ以降毎年こうやって来てからは一度も氾濫はおきていない。ここの場所も覚えておくのだぞ?レオナルド、そなたが次の当主になるのだからな。ぐふっ。」

「はい!父上!ぐふっ、これからが楽しみです!」

二人が後ろでぐふっ、ぐふっとしている時に僕は他に何かメッセージがないかどうかそーっと探していたが、石碑には他には何も書かれておらず、周りにも石碑以外何もないので探すのをやめた。その時トロイ伯爵が、

「おい、こっちへ来い!この先だが、我が血族であれば谷底を見る事が出来るのだ。見て見るがいい。」

そう言われて、何にも考えず、谷底に興味があったため、腹這いになり谷底を覗き込むと体が一瞬フワッと持ち上がり落ちそうになった。慌てて崖の先を掴むと。

「チッ、落ちなかったか…。なんだその顔は?そもそも、そなたはレオナルドの影武者として生き長らえていただけだぞ?そのレオナルドも大きくなった事だし、我が家の言い伝えで石碑には触らせたが、もういいだろう。男児だったから産ませてやったが、平民の子が血族いるかと思うだけで腹が立つわ!それに乳母に会いたがっておっただろう?会いに行ってくるがいい。まぁ帰っては来れないがな!」

「ち、ちょっとどういう事ですか!?乳母に…会わせてくれるんじゃ!」

「ん?だから会わせてやるからこうしているんだろう?あの者はある男爵の元に奴隷として渡したのだよ。その男爵は奴隷、特に女を痛めつけながら壊すのが好きでなぁ〜。一年も持たなかったのではないか?それに、あの者の家族も会わせろとしつこく言ってきたからなぁ〜。男爵の所にまとめてくれてやったら喜んで壊したと言っておったわ。」

ニタ〜っと笑いながら話をしていた。母はもういない?家族もいないの?えっ?僕は今度こそ幸せなりたかっただけなのに?この伯爵せいだ! この伯爵のせいで!

「ア、アァァアァァーー!!!」

伯爵の魔法で上から風の圧力があったが、全力で崖から這い上がろうとした。するとイキナリ僕の足に何か絡んできた。

「なっ!何かいる!」

「そうだ、そなたのいる所は結界の中だぞ?何かはわからないでも魔物がおるわ!なぁに、そなたが居なくなっても気にする者はおるまい。安心して魔物に喰われるがいい。」

ニタ〜っと笑いながら話している伯爵がさらに魔力を込めた為、僕は上からの魔法の圧力と、下から引っ張られる強い力で崖から手を離してしまった。伯爵とレオナルドの笑い声が聞こえたが、そのまま漆黒の谷へと消えていったのであった。

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