新しい世界で今度こそ幸せをつかみたい

ゆたぽん

10話

更に月日が流れ、僕もレオナルド様もあと数ヶ月で教会から祝福を受ける年齢になっていた。僕は相変わらずガリガリに近い細マッチョで、レオナルド様はかなりのおデブさんになっていた。運動は嫌い、勉強もしたくない、食べて寝るを繰り返していればそうなるよね。
トロイ伯爵も毎日遊んでいる様で、領地の管理は国からの派遣の方々が行なっている状態。よく、国から文句言われないなぁと思う。まぁ、この世界は総じて貴族の方々は魔力が高い。グータラしているがこの親子も空気を吸う様に魔法を使える。よく使っているのは浮遊魔法で、主に食べ物を自分のところに持ってきたり、歩きたくないのか、移動の際使ったりしている。
レオナルド様は風を操ることが得意みたいで、時折僕に対し攻撃をしてくる。僕がボロボロになると満足して訓練場から居なくなる。それを見て教官や伯爵まで混ざるのだからタチが悪い。
初めはこっそり家を出て母の所に行こうかと考えていたが、10歳の時に教会で祝福を受けないと仕事が出来ないらしい。田舎だと教会がないので、子供が小さいからすぐに教会に連れていけない。ある程度大きくなってから祝福を受けるそうだ。今の僕はある程度鍛えてるとは言え一人で教会まで行き祝福を受けるのは難しい。そのため今は我慢してひたすら自分を鍛えて家を出ることだけを考えていた。そんなある日トロイ伯爵から話しかけてきた。

「明日出かけるからついてきなさい。レオナルドも一緒に行くからな。ん?行き先は行けばわかる。そなたに知る権利はない。おぉ、そういえばそなたは以前に乳母に会いたいなどと話しておったな?出かけた後に会わせてやろう。」

と、話てその場を立ち去って行った。僕は久しぶりに母親に会える事にワクワクしながら一晩過ごした。
そして現在馬車の後ろを丁寧にロープで縛られて、ひたすら走っている。トロイ伯爵とレオナルド様は馬車の中で優雅に過ごしている。まぁ、僕を乗せてくれるわけないよね。鍛錬だと思って何処に向かっているのか分からないまま、ただひたすらに走っていた。一方で馬車の中では。

「父上、なぜあやつも連れて行かなければならないのですか?僕だけでは駄目なのですか?」

ふむ、と少し考えた後トロイ伯爵から、

「馬車の音で外には聞こえないか…。レオナルド、実は我が伯爵家には秘密があってだな、今向かっている漆黒の谷を管理出来るのが我が伯爵家だけなのだ。その為他の貴族よりも色々と優遇されているのだよ。」

「漆黒の谷?聞いたことがないのですが…。」

「我が伯爵家の歴史の中には入っておらんからな。これから言うことは当主のみが引き継いでいくことなのだ。ただ、万が一の為を思ってあの平民の子も連れてきたのだ。」

「万が一の時とは?」

「うむ、これから話すから聞きなさい。そもそも漆黒の谷はかなり昔からあるのだが、我が伯爵家の祖先は異世界からきた勇者と言われているのだ。その勇者が結界を貼り強力な魔物たちを領地に出てこない様にしてあるのだ。その結界は年に一度、トロイ伯爵家当主が維持しなければならないのだ。」

「結界の維持ですか?」

「うむ。維持と言っても漆黒の谷の手前に石碑があり、そこに手を置くだけで身体には何の影響もないのだ。どうやらトロイ伯爵家の血でないと維持が出来ないらしいのだ。」

「父上、なぜそんなに大事なことなのに曖昧な感じなんですか?」

「それがだな、何代か前の当主が年に一度なのに行くのが嫌だど言って、行かなかった事があるのだ。その時に漆黒の谷から魔物が溢れ出し、氾濫が起きたのだ。慌てて当時の当主が護衛を引き連れ石碑辿り着いて氾濫は落ち着いたのだが、溢れ出した魔物は消えることはなかったのだ。その時に我が家も一度全壊してしまって文献が残っておらんのだよ。」

「それで詳しくはわからないのですね。」

「そうなのだ。石碑にも文字が書いてあるのだがその異世界の字らしく解読が出来ないのだ。だからと言って我が家でないとここの土地は管理が出来ないのだ。だから国から優遇されておるのだよ。そのおかげで領地の経営は国から管理するものが来ており、毎日遊んで暮らせるのだよ。贅沢な暮らしをするのは当主だけで良いであろう?だから子は代々一人だけで、男児のみ。女児だと男を迎えなければならない、他の貴族の男に贅沢をさせるのはもったいないであろう?ある程度腹の中で育てば男女どちらかわかるからな。もし女児だった場合には堕胎させるのだよ。それに国からは貴族の健康な美女を紹介してもらえるからな。」

「確かに、母上はとても綺麗ですし、じゃあ僕も将来は美人の妻をもらえるのですか?」

「勿論だとも。成人した時に帝国でダンスパーティーが開催される。その時にでも選びなさい。もし健康面で不安があれば直ぐに交代が出来るからな。それと、何処の貴族であろうと、誰と婚約していようと関係なく嫁にもらえるからな。ぐふっ。」

「ぐふっ、ダンスパーティーが楽しみです。」

「後、万が一の時と言ったのは、何故だかはわからないのだが、生まれてきた血縁者は全員教会の祝福の前に石碑に触れなければならないと言われているのだ。あの平民の子は男児だったので仕方なく産ませたからな。もし、そなたは健やかに育たなければ次の男児が生まれるまでの繋ぎと考えてたのだ。だが、そなたは健やかに育ってくれたので安心しておる。そうなるとあの平民の子はもう必要ない。それにあの平民の子の行き先も決まっておる。二度と会わないようになるからな。」

「そうなのですか!僕はあいつの顔を見てるとイライラしてしまうので居なくなるなら嬉しいです。」

「そうであろう、そうであろう。レオナルド、そなたはこれからの先の事を楽しみにしてなさい。ぐふっ。」

「はい!わかりました父上!ぐふっ、どんな美女と会えるか今から楽しみです。」

馬車の中ででっぷりとしたお腹を震わせながらぐふっぐふっと笑っていたが、外で走っている僕は全く聞こえていなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品