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海蛇座の二等星

ぽん

story.13 雨が降ります

血が降っている。

表現するなら…この言葉だ。

血の雨。


雨は俺を濡らす。

この辺一帯も同じ色に塗れている。

自分が手にかけた奴らの何倍もの数が血を吹いているのだろう。

半ば呆然と立ち尽くす俺達の耳に偶然声が飛び込んだ。

「子どもの声…助けねーと…」

普段なら、泣いている子どもを助けるのは当たり前だ。

でもこの状況において、その判断は間違っていた。

混乱していた俺達は最悪の一手を打とうとしていた。


声は近い。

律の家からすぐの通りだ。

あっという間に着いてしまい、心の準備もないままに惨劇を目にしてしまった。

バラバラに破壊され尽くした化け物だったもの。

足首まで浸かってしまうほどの血溜まり。

まるで虐殺だ。

血飛沫と砂煙のせいで視界が悪いなか、近くの瓦礫の隅にうずくまっている少年を辛うじて見つけた。

慌てて駆け寄ると少年は顔をあげる。

「…っ」

思わず息を飲む。

両目は潰され、右足がない。

とても助からない。

「ぁ…だれ……たすけて……」

少年は虚空に手を伸ばす。

「ね…おねが、しま…す……たすけて…っ」

なにもできない。
なにもしてあげられない。

思わず謝ろうとしたとき、視界にありえない光景が映った。

美都芭が、少年に銃を向けた。

「なにして……っ」

「涙もわかってるでしょ…。私達が出来ることはこれしかないよ」

美都芭は静かに銃口を合わせる。

「なーんだ。わかってるんだね」

聞こえた第三者の声。
刹那、目の前に鋭利で巨大な何かが落下し、少年を貫いた。

一歩後ずさりをすると、それが木の幹ほどもある鉛筆だとわかった。

鬼の力だとすぐにわかる。

見るに耐えない原形をとどめない少年は誰がどう見たって即死だった。

「あはは、びっくりした、って顔、だね。でも美都芭が悪い、よ?グズグズしてたら、それ、いっぱい苦しむ」

聞き覚えのある声。
むしろ探し求めていた声なのに…。

「律…ッ!」

姿が見えない相手に怒りをぶつける。

簡単に人一人を殺し、挙げ句“それ”呼ばわりだ。

「そんな、怒んないでよ。やろうとしたこと、同じ。律、なにか間違ってる、?」

「……っ」

なにも言い返せない。

心持ちがどうであれ、律がやらなきゃ美都芭がやっていた。

「むしろ、美都芭に、やらせようと、した。あと、律に獲物とられた。怒っていいの、美都芭だけ」

背中に冷水を浴びせられたような感覚がした。

美都芭にやらせようとしたのは紛れもなく事実だ。
それは絶対にやっちゃいけないことだった。

問題はその次。

少年をはっきり“獲物”と言った。

さっきの物扱いのような言い方もそうだ。

律は、命を命と思っていない?

「お前…本当に律か…?」

意味不明な質問だが、美都芭も依もなにも言ってこない。

長い沈黙。

「…律だよ。ずいぶん、久しぶりだけど、ね」

しかし、紡がれた言葉はこれもまた意味不明で。

頭の中がぐちゃぐちゃに混乱してもう訳がわからない。

「もうわっかんねぇ…でも律なんだろ?隠れてねーで出てこいよ…」

「…え、隠れて、ない」

言われて周りを見渡してみるがいない。

「上」

三人揃ってバッと上を見上げる。
巨大鉛筆の尻…平らな方に座って見下ろしている律と目があった。

顔さえ見てしまうと今までの不信感や怒りは鳴りを潜めてしまい、安心してため息をついた。

「律…っ」

美都芭も安堵したような声を漏らす。

「会えてよかった…。探してたんだ。一緒に行こう」

依が律に降りてくるよう促す。

「なんで?」

「…え?」

予想していなかった答えに俺達はすぐには返答できなかった。

その間にも律は口を開く。

「あ、もしかして、一緒に行動する…行動・・してくれる・・・・・って、信じて、た?」

図星だ。

だって、こんな異常な時でも当然今まで通り一緒に行動するものだと思っていたから。

日常いつもならそれが当たり前だったのだから。

「あは、やだよ。やっと自由、なったの。ね、邪魔しないで?」

はっきりとした拒絶。

それでもなお、俺の内心は食い下がろうとしている。

「律…なんで…?私達、邪魔だったの?」

美都芭が俺の気持ちを代弁した。

仲は良かったと思う。

言い争い程度の喧嘩はしょっちゅうあったけど、大体くだらないことばかり。

誕生日やクリスマスには毎年プレゼント交換して、なんでもない日は他愛のない会話をして…。

毎日くだらなくて、暇でしょうがなかったけど、楽しかった。

律は違ったのか?

「うん。邪魔だった」

律はこの上ない笑顔でそう吐き捨てた。

言い表しようのないない痛みを感じた。

「それじゃ、律、もう行く、ね」

クルッと背中を向ける律を引き留めたくて口を開くが、言葉がでない。

俺はアイツに何を言えるのか。

言うだけの権利はあるのか。

何もなかった。

「律…行かないでよ…。何が悪かったの!?全部直すから…お願い…」

美都芭が泣き崩れそうになりながら律に向かって叫んだ。

律の口が小さく動いた。

“ う ざ い ”

聞こえなかったけれど、確かにそう動いた。

同時に考えるより速く美都芭の前に飛び出す。

一瞬遅れて俺の脇腹に律の蹴りが入った。

ゴキッと嫌な音が聞こえ、口の中で血の味がした。

そのまま数メートルほど吹っ飛んで地面に体を打ち付ける。

肋骨が折れた…いや、内臓が傷ついたかもしれない。

一歩遅ければ美都芭に直撃…反応できたのは奇跡だった。

あまりの痛みに動けず、頭はいっそ冷静に状況を分析していた。

「あぁもうめんどくさいなぁ…!依存?ウザいんだよ。いつまで律を縛るわけ?いつまでつまらない日常せかいに押し込むの…ねぇ」

這いつくばったまま律を見る。

赤く光る瞳に縦長の瞳孔、額からは黒い角が二本。
さっきまで普通だった容姿がガラリと変わっていた。

思わず目を見開いた俺にハッとしたのか、律の角が空気に溶けるように消えていった。

「あは、でも今の反応は、よかった。美都芭、涙に感謝しないと、ね。うっかり、死ぬとこ、だった、よ?」

律が目の前にいることに今気づいた・・・・・美都芭と依は身動きすらとれずに目を剥いた。

律の両手が伸びて二人の首を捕らえる。

「やめろ…っ」

口から情けない声が漏れる。

必死に起き上がろうとしている間に律の手の力はどんどん強まっていく。

しかし次の瞬間にはふっと緩み、二人は咳き込む。

「あはは、涙に免じて、ここで許してあげる」

律は物を投げるように乱雑に手を離し、二人はドサッと地面に倒れこむ。

うずくまる二人をそのままに、律の足がこっちへ向いた。

やけにスローモーションで律が近づく。

前髪を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。

「あは、怖かったぁ?」

ニッと無邪気に笑う顔は狂っているようにしか見えなかった。

初めて律に恐怖を抱く。

「その感情が本物。今までの感情、同情からきてただけの偽物。ね、わかったらもう近づかないで」

首の後ろをトンッと叩かれる。

意識が遠退き、暗闇に吸い込まれていく。

「バイバイ」

暗闇の中、小さな律の背中が見えた気がした。

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