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海蛇座の二等星

ぽん

story.11 決意は揺れる

周りの気配を気にしながら目立たないように律の家まで向かう。

全力で走れば化け物に見つかってしまうし、普通の人間に出くわしたら騒がれてしまう。

結果的にかなり迂回ルートを使い、小走りで進むことになってしまった。

「この耳なんとかなんねーかな。んでお前らはなんでなにも変化してねーんだ?」

ツッコミ不在でしばらく気がつかなかったが、半壊した建物のガラスに写った自分に叫びそうになって慌てて口をおさえた。

猫…いや、狐耳が側頭部についていた上にそれで音を拾い、さらに人間の耳がなくなっていたのだ。

母親が化け物呼ばわりしたのもこれで納得だ。

「んー、変化がない訳じゃないみたい」

美都芭はそう言うと、服で隠していた首もとを見せる。

そこには刺青にも見える花を象ったような紋様が浮かんでいた。

「俺もそんな感じ。模様が違うけど」

今度は依が袖を少し捲って腕を見せる。

個人差なのだろうか。
明らかに俺だけ異様な変化をしている。

「まぁ隠すようならまた考えよう。それより、着いたよ」

美都芭が手を叩いて話を切る。

角を曲がると突然に豪邸、もとい律の家が現れる。

角一つで別世界にきたような錯覚はいつものことだ。

不思議なことに──俺の家もそうだが、律の家は半壊どころか壊れた気配もなく堂々とたたずんでいた。

「鍵、あいてる」

美都芭が玄関のドアを引くとすんなり開いた。

体を滑り込ませて進む。

土足は気が引けるが仕方ない。

部屋が桁違いに多くてどこが律の部屋なのかわからず、そういえば一度も来たことがなかったことを思い出した。

「二階見てくる。下を頼んだ」

二人に任せて階段をかけ上がる。

二階は、それはもう部屋の数は規格外だが下に比べて探すのは簡単だった。

ドアが開けっぱなしだ。

開いてるドアは二つ。

ほんの数分前、きっと世界が壊れた後に誰かが動いたのだろう。

律か、妹か。あるいは二人か。

心臓がうるさい。

気持ちを落ち着けようと深呼吸するが、どんなに進もうとしても足が動かない。

小刻みに震える手で胸元を触る。

金属の感触がして、強く握る。

ちゃんと首にかかっているネックレスにほんの少し震えが治まる。

もう一度息を深く吸い込んで前に踏み出す。

手前の部屋を覗くと物置のような部屋の中が見えた。

積み重ねていたのか…崩れた大量の本、壁一面に画鋲で留められた絵、箱にしまわれている短い鉛筆……足の踏み場もないその部屋は明らかに律の部屋だった。

「…性格出てんな」

好きなこと以外はとことん無頓着。

これじゃあ布団も敷けない。

そもそも布団がない…。

部屋の様子はともかく、部屋の主はいないことは確認出来たのでもう一つの部屋へ向かう。


「書斎?…違うか。ここ、もしかして…」

何年放置していたのか、埃が積もっている。

律の部屋とは真逆で綺麗に整頓されているが、なぜか荒らされた跡・・・・・・がある。

埃が不自然に被っていない、なにか物があった場所を見る限り、刃物か何かを持ち出したのだろう。

こんなことするのは…。

「涙!ちょっと来て!」

美都芭の声が響いて思考が中断される。

何かあったのかと心配になり階段を駆け降りる。

階段下で待っていた美都芭と長い廊下を奥に向かって進む。

リビングの扉を開けると依がしゃがみこんでいるのが見える。

その傍らには人間が倒れていた。

明らかに生きている気配のない女の子だが、その子には見覚えがある。

ずいぶん前に少し会っただけで、あれから大分成長しているが間違いない。

「楓ちゃん…」

光を失い虚空を見つめる目、涙の跡、それでもどこか幸せそうなのは、きっと俺の思いこみだろう。

「誕生日プレゼントは間に合ったみたいでよかったね…」

美都芭が悲しそうに呟く。

律が熱心にサイトを眺めていたのを思い出す。

理由は教えてくれなかったけど、楓ちゃんはそのとき画面に写っていた服によく似ている服を着ている。

俺の記憶にある楓ちゃんはお母さんが買ってきた似合いもしない服を着て笑っていた。

「誕生日か…」

狐時が教えてくれた、選別方法である誕生日。
二人が、多分律も無事だから忘れていたが本来、死ぬのが普通だ。

「誕生日がどうかした?」

美都芭が俺の一人言に反応して問いかける。

「誕生日が選別方法なんだよ。鬼を埋め込む対象の。だから楓ちゃんも──」

「違う」

ずっと黙っていた依が俺の言葉を遮った。

「大元の原因は鬼かもしれない。だけど、死因は違う。絞殺だよ」

何言ってるんだ、と怒りそうになったが依が指差した首もとに目がいって口をつぐむ。

くっきり残る手の跡。

「何やってんだよ、律…!」

こんなのあんまりだろ…。

律の家庭が複雑なのは薄々気がついていた。

でも自分の妹を手にかけるほどに憎んでいたなんて知らなかった。

「…律は生きてる」

俺がポツリと呟くと二人は頷く。

「女だろうが関係ねぇ。一発殴ってやる」

人外になって人間性までなくしたなら、それは本当の“化け物”だ。

楓ちゃんに手を合わせて立ち上がる。


怒りと不信感。

もちろんある。

でもどうしてだろうか…律は何を考えたのか、本当は別の理由なのか、状況を見れば希望的観測に過ぎない、自己満足なことばかりを考えていた。

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