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海蛇座の二等星

ぽん

story.4 月の見えない夜には灯りを

「おねえちゃん!本当にこれ貰っていいの!?」
私が上げた紙袋を覗きこんだ妹は興奮ぎみに叫んだ。

一応、妹の好みをサーチしておいただけあって喜んでくれたみたいだ。

「まぁそれ着れるの春からだけどね」

とうの私は椅子に座ってコーヒーを飲みながら、私の選んだ洋服を眺めている妹に声をかける。

「着てみる!」

「話聞いてた?」



「どう?」

さっきまでの威勢はどこへやら、なにやら自信なさげに私の前に立った。

年齢の割に身長が高くて顔立ちも大人びている妹にはパンツスタイルがよく似合っている。

上は白い透け感ブラウス。

楓はかっこよく見せてなんぼだ。

間違っても水色フリルの清楚に見せかけたロリータワンピを着せてはいけない。

「そっちのほうが似合ってる」

それだけ言うと空になったマグカップをシンクに置いて玄関に向かう。

「おねえちゃん、靴磨きなんてしなくていいと思うよ」

妹の声かけに暇潰しだからと返事をして母親の靴を手に取った。

靴磨きクリームの蓋を開けるとあまり好ましくない匂いがしたため窓を開けると同時。

カチッ

廊下の両面時計の針の音がやけに大きく聞こえた。

開けた窓からはひどく眩しい光が差し込んだ。

 夕日の光じゃない。
網膜を焼かんばかり激しい白い光に思わず目をつむる。

 そして耳をつんざく轟音が聞こえ、立っていられないほどの地震が襲った。

目をつむったのは失策だった。
平衡感覚を失った私は床に倒れこむ。

 大地震?隕石衝突?天変地異? 

様々な原因が頭を掠めるがあまりに現実離れして突拍子が無さすぎる。

どうやら倒れた際に頭を打ったらしく、ずきずきと痛み出した。

痛い?・・・

その感覚はあまりに久しぶりすぎた。

ゆえに私は今の状況の異常性に気がついた。

大地震でも、隕石衝突でも、天変地異でもない。
そんなありえること・・・・・・じゃない。

この頭痛も頭を打った痛みじゃない。

もっとなにか…そう、人間や自然などでは起こせない何かが世界で、私の中で起こっている。

それを確かめようと壁に手をついて起き上がろうとする。

酷い揺れが続いてなかなか起き上がることが出来ない。

頭痛は増し、私の体の機能まで奪っていく。

腕に力が入らず体を起こすことが出来ない。

意識が朦朧としてきた。

「まって…」

そんな願いは届かず私の意識はそこで完全に途絶えてしまった。

意識が途絶える直前に、空を覆い尽くさんばかりの黒い“何か”を見た。



真っ暗な部屋にいた。

いや、正確には部屋だとはわかりきったわけではない。

両手両足が冷たい何かで固定されていて動かない。

その固定されている手足が触れる地面や壁が木のような触感だというだけで部屋だと推測したまでだ。

ただ、この場所を知っている。
思い出せないだけで。

死んだ…わけではない気がする。

試しに舌を軽く噛んでみる。

痛みは相変わらずないが舌特有の弾力が感じ取れる。

そう。感覚はあるのだ。

何も見えず、なおかつ何も聞こえないだけで。

突然光が入り込んだ。

視覚が奪われたわけではなく、単純に暗かっただけだったのか。

私がいる場所はやはり部屋だったようだ。

そしてドアと思われる場所に人の形をした何かがランプを手にもって立っていた。

「やぁお目覚めのようだね」

そいつが笑うと、ありえないほど尖った犬歯がギラッと光った。

頭には真っ黒な二本の角。血の色を連想させるほど真っ赤な瞳。

私が知る限り、そいつの呼び名は、だ。

『僕の名前は夜翔。君の認識は間違いじゃない。僕は鬼さ』

ゆっくり近づいてくる鬼。
だんだんと容姿がはっきりしだした。

夜翔は私より年下に見える。
白髪の癖毛にやんちゃそうな目。
縦長の瞳孔。

角さえなければ普通の男の子と同じように見える。

『あまり驚かないんだね』

つまんない、とでも言いたげな顔をする。

当然だ。
意識を失う前に気づいたんだから。

『君…いや、“律”はすごいね。僕がこの体に入り込んで気絶するまでたったの五秒で何が起きたのか把握したんでしょ?』

夜翔は含みのある言い方をした。

「…どこまで知ってる」

あくまで冷静に夜翔に問いかける。

『そりゃこの体の精神世界に入り込んだわけだからね。事実は見て知ってるよ。でも原因理由は知らない』

そっか、と呟いてため息をつこうとしてそのまま息が止まった。

夜翔は今、なんて言った?

そうだ、“精神世界”と言った。

つまりここは律の精神世界で。

見覚えがある部屋。
私の両手両足を繋がれている光景。

意図的に・・・・忘れていた記憶のパズルがはまっていく。

カチッと全てがはまったときには私は焦燥感に駆られた。

腕を思いっきり振ってみる。

ガシャンッと金属音が聞こえた。
鎖だ。
外せるわけがない。

『い、いきなりどうしたの…?具合でも…』

「この鎖外して!」

夜翔の言葉を遮るような形で大声を出す。

『僕が一度来たときにはもうこの状態だったんだよ…。それで別のところに行って…』

ザワッと全身総毛立った。

『今外には彼女・・がいるよ』

聞きたくない言葉だった。

五年も粘ったのに、無駄だった。

「一人にして…」

夜翔を半ば追い出すような形で、夜翔が置いていったランプの灯りだけの薄暗い部屋で一人、絶望の淵に追いやられていた。

こうなってしまっては私からは一切の干渉が出来ない。

あの子はきっとまだ動けない。

あと頼れるのは…。
「頼んだよ…涙、美都芭、依」

私の独り言は部屋を反響することもなく消えていった。

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