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海蛇座の二等星

ぽん

story.3 食費も画材もバカにならない

「また明日」

手を振る三人に別れを告げて家の裏へ回る。

勿論、勝手口から入るためだ。

「おねーちゃんおかえり!また勝手口から入って…玄関使いなよ!もーー」

リビングからパタパタと足音が近づいてきて、ヒョコッと顔を出した人物は見るなり小言を言ってくる。

「ただいま。楓」

ポニーテールに結った柔らかそうな黒髪が揺れる。
ぱっちり二重で大きい瞳、明るい性格で表情も豊か。
不知火しらぬいかえで、私の3つ年下の妹だ。

腹違いの・・・・、だが。

「さっき電話あったんだけど、お母さん帰ってくるって」

言いにくそうな顔の妹に短くわかった、と返事をして一度部屋へ向かう。

そこでもらったプレゼントを開いていなかったことに気がついた。

包みを開いてみると画材だった。

水彩色鉛筆、アクリル絵の具、スケッチブック三冊。

やっぱり三人とも私のことをよくわかっている。

私は絵を描くときにあまり色をつけない。

決して苦手だからとかではなく、単純に高いから。

画材など買っていたら餓死してしまう。

思考がそこまで至ったところで頭を振る。
今考えることではない。

机の中から一つ、紙袋を手に取り下へ向かう。

「楓」

妹を呼ぶと何ー?と言いながらちょこちょこと寄ってくる。

「はい。誕生日おめでとう」

私が早く帰りたかった理由。
皮肉なことに腹違いの妹まで同じ誕生日なのだ。

顔を綻ばせる妹に無理矢理笑顔を向けていたら、ガチャッと玄関の鍵が回る音が聞こえた。

母親が帰ってきた。

「楓~!!ただいま!!」

その声に妹は紙袋を隠して母親のもとへ向かう。
「お母さん、おかえりなさい!」

角度的に妹の表情はよく見えないが、母親の様子からしてもきっと満面の笑みで母親を出迎えているだろう。

妹は本当に演技・・が上手い。

「これケーキね、あとで食べて!それから…」

どうやって抱えてきたのかわからないプレゼントは全て楓のため・・・・だ。

私のものなど、当然ない。

だけど、今日は違った。

「律。来なさい」

何ヵ月ぶりか、母親に名前を呼ばれた。

珍しいこともある。
とは言え、期待などとうの昔からしていないが。

ニつ、小さな紙袋を渡される。やけに重い。

「ありがとうございます」

深々と頭を下げてお礼を言うが、それが気に入らなかったらしい。

「嬉しそうにも出来ないわけ?」

あぁ、またこれだ。

顔を無理矢理上げさせられたと思ったら左頬に衝撃があり、その勢いで床に倒れこむ。

その拍子に二つの紙袋の中身が飛び出す。

靴磨きの道具と洗剤各種。

やっぱり、そういうことか。

「笑いもしなければ泣きもしない。やっぱりあんた、化物ね」

ヒールのついた靴で腹部を蹴られる。

服で見えなくなるところはお構い無しだ。

まぁ、痛みを感じないから結局無意味なのだけれども。

「あんたなんか私の子どもじゃない。使用人は仕事が貰えて嬉しいでしょう?ほら、嬉しそうにしてみなさいよ」

エスカレートしていく暴力にも何も言わず、無抵抗で終わるのを待った。

どうせそろそろ止めが入る。

「お母さん。どうせ何も言わないだけだから相手にしても仕方ないよ」

今まで無視していた妹の声が響くと暴力はピタリと止む。

これは妹との約束なのだ。
頃合いを見て止める、という約束だ。

「ね、お母さん。見て!着てみたよ!」

母親と私が会話してるうちに着替えたのか、髪を下ろし、水色を基調としたワンピース姿の妹が立っていた。

「可愛い!楓はなんでも似合うわ!!」

未だ倒れたままの私は無視して靴を脱いで少し離れたところにいる楓のところへ向かった。

その間に起き上がり、先程まで私を蹴っていた母親の靴を手に取る。

血がついている。

棚から綺麗な雑巾を取り出してその血を拭う。

楽しそうな母子の会話を聞きながら思う。

あの母親は娘のことを何もわかっていない。

似合わないワンピース・・・・・・・・・・がそれを如実に語っている。

「あら、気が利くじゃない」

私が今しがた磨いた靴を母親が履く。

「お母さんまだ仕事なの?」

妹の問いかけに母親は申し訳なさそうに頷いてドアを開ける。

「いってらっしゃい!頑張ってね!」

母親は娘の笑顔に疲れなど吹き飛んだかのような笑顔で去っていった。

「おねえちゃん、大丈夫?」

妹は心配そうな顔で手を差し出すがそれをやんわりと断って自分で立ち上がる。

「…似合ってないよ」

私がそう言うと妹は無邪気に笑う。

時計を見ると3時50分だった。

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