話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

海蛇座の二等星

ぽん

story.1 ピーナッツパンはうまい

2月22日、5時38分。
時計のデジタル表示を見てため息をつく。

また徹也してしまったやってしまった…。

左手に握られているそろそろ使えそうにない短さの鉛筆をペンたてに雑にいれる。

絵を描いていると時間を忘れてしまうという悪癖もそろそろ3年目。

またお節介な友人に怒られるんだろうか。

これがまためんどくさいのだ。

まぁ、直そうとしない私も大概だけれど。


一寝入り、なんて器用なことは出来ないためもう諦めて少し早いが支度を始める。

というより、今すぐ支度しないと無事に家を出られない。

8畳ある部屋のほとんどを埋める画材を倒さないように慎重に廊下へ出ると、まだ寝ている家族の部屋の前を音をたてないようにこれもまた慎重に進む。

自分の家にいながら何故ここまで神経をすり減らさないといけないのか。

私は再度ため息ついてキッチンに滑り込む。

あぁよかった、まだ菓子パンは残ってる。

昨日のうちに3つ買っておいたパンの2つは無くなってしまっているが、皆が苦手なピーナッツパンだけは残されていた。

想定内だ。
コロッケパンは名残惜しいけれども。

次に冷蔵庫を開けてペットボトルを一本取り出す。

そしてまた自分の部屋に慎重に帰る。

こんな生活は7年目だ。
今さらどうってこともないけれど、それでも疲れることには疲れる。

と、そこで窓に写った自分を見てしまった。

真っ白な髪、色素の薄い茶色い目。

見たくもない、不知火しらぬいりつがそこにいる。

私は化け物だ。
見た目も中身も、名前さえも。

化け物を人間らしく扱うなんて無理な話。

鼻で笑ってパンをかじる。

ちなみに私はピーナッツパンは好きである。



時計が7時を指す前に勝手口から家を出る。

高校は徒歩10分。
こんな時間に出るのは家族と鉢合わせるのを避けるためだ。

友達との待ち合わせまでの時間を潰すために公園のベンチに座り、鞄からスケッチブックと鉛筆、消しゴムを取り出す。

何を描こうか。

ここからの風景は描ききってしまったし、人もいなければ草木も寂しげ。

おまけに寒い。
何かを感じる力が乏しい私だが体はそうもいかず、手先は少し震えていた。

鉛筆を握ろうにもこの調子じゃ満足に描けないだろう。

諦めて鉛筆と消しゴムを学校指定外のパーカーのポケットに押し込む。


私は何のために生きてるんだろう。

毎日朝早くに家を出て、ここで時間を潰して、友達と待ち合わせして、学校行って、勉強して、家に帰って、自室にこもって絵を描く。

毎日同じことの繰り返し。
無意味な消化の繰り返し。

よく一日一日を大切に生きろとか言う人がいるけれど、これに一体どんな“大切”が含まれていると言うのだろう。

少なくとも私は死んだように生きている。



背後から複数の足音が聞こえる。

私がよく知っている足音だ。

立ち上がって振り返ると予想通り、美人な女子と眠そうな金髪男子と女顔男子が見えた。

「おはよ!律!」

「はよ…律……ふぁぁ…」

「律おはよう」

佐野さの美都芭みつは天崎あまさきるい小鳥遊たかなしより、私の名前を呼んでくれる唯一と言ってもいい友達だ。

「ねぇ!今日はなんの日?」

いつもより一段と明るい美都芭はニコニコと私達に笑いかけた。

なんの日かなんて、よくわかっている。
私が一番嫌いな日だ。

だからあえて私は顔色も変えずこう答える。

「世界友情の日」

するとさっきから欠伸を繰り返していた涙が笑う。

「にゃんにゃんにゃんの日じゃねーの」

依も笑う。

「それを言うなら猫の日でしょ」

皆、私がふざけていると思っている。

しかたない。だって今日は皆が浮かれている日。

「もー、わかってるでしょ!」

美都芭がしびれを切らしたように鞄から3つの袋を取り出す。

それに倣うように私達も取り出す。

「誕生日おめでとう!」

美都芭は満面の笑みを浮かべて、涙と依は少し呆れ気味に、私はきっと無表情で、美都芭には銃を持ったウサギのストラップ、涙には七宝焼きの十字架ネックレス、依には組紐の髪どめ、といった具合にお互いにプレゼントを渡しあう。
ちなみに私は全て手作りだ。


一見接点の無さそうな私達が仲良くなったのは誕生日が同じだった、ただそれだけ。

律は器用だね、と喜んでくれている三人に私は曖昧な返事しかできない。

これは本当に特別なことなのか。
手作りのプレゼントも、誕生日という記念日も、私からしてみればただ過ぎていくちょっとした何かにすぎないのだ。

押しつけられたプレゼントを両手に抱えたまま、毎年感じるなんともいえない3人との差異を無理矢理飲み込んだ。

「海蛇座の二等星」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く