命の重さと可能性の重み

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第三十六話

「それじゃあゲン?昼食もすませたし、腹ごなしの運動かわりに組み手でもしてみますか?」

昼食をとりおわり、片づけを済ませると、エリカが話しかけてきた。

「組み手って…あの組み手?お互い寸止めにして行う、実践形式の試合のこと?」

「今回は少し違うけど、おおむね間違ってないわ。…外にでましょうか?そこで説明するわ」

そう言ってエリカは、玄関から外へと向かう。

「わかった」

俺もエリカに続いて、玄関から外へと出る。

「さて…組み手と言っても、ゲンからは攻撃してこなくていいわ。今回の組み手は、ゲンがどれくらい私の動きについてこれるかを調べたいから、私の攻撃を全力で受けきってみてちょうだい」

「わかった…やってみるよ」

そう言って俺は構えをとる。

「それじゃあ、行くわよっ!」

言葉と同時に踏み切り、一瞬で俺の目の前へと移るエリカ。
俺はすぐさま肉体強化魔法を発動させ、一緒に五感強化魔法も発動させる。

「くっ…いきなりかよっ!」

俺はエリカの右拳を左手で受け流し、後方へと下がる。

「攻撃はしなくていいんだよな?なら、次来いよっ!エリカ」

俺はエリカを挑発するように、右手を上に向けて手招きする。

「フッ!はぁぁぁ!」

それに対してエリカは、俺へと意気を込めて飛び込んでくる。

「ハッ!ヤッ!タッ!」

飛び込んできた勢いをそのままに、右、左、右と拳を突き出してくる。

「わっ、っと、っと」

俺はその拳にあわせて、左右の手のひらを使ってなんとかガードしていく。

「フッ!ヤッ!タァァッ!!」

左右のジャブから繰り出された、力の入った右ストレートが俺のガードを突き抜ける。

「くっ!うわっと」

俺はガードを崩されたことに気をとられ、一瞬スキができてしまう。

「ハァァァ!セイヤッ!」

そこにすかさず、エリカが意気を込めた一撃を放ってくる。

「くっ、…そ」

俺はとっさに腕をクロスさせてガードするが、ガードの上から吹き飛ばされてしまう。

「わっ、っと、っと、ぐわっ」

俺は数メートル吹き飛ばされた後、木にぶつかってなんとか止まる。

「大丈夫?さすがに加減はしたんだけど、そんなに吹き飛ぶとは思わなかったのよ…」

「大丈夫だよ、さすがに拳の力だけで吹っ飛んだ訳じゃないから…」

そう。
俺は殴られた瞬間に自ら後ろに跳び、ダメージを抑えようとしたのだ。
しかし、肉体強化魔法が発動していることを考えずに跳んだため、余計に吹っ飛んだというわけだ。

「そう、なら大丈夫ね?さっさと回復魔法でなおしちゃいなさい」

「わかった………はぁっ」

俺はエリカと一緒に最初の立ち位置に戻ってから自分に回復魔法をかける。

「これで大丈夫だよ。ダメージもとれたし、傷にもなってない…っていうよりきえたから」

「ちょっとゲン!あなた無詠唱で使えるの!?」

「え?いや、まぁ、その…。回復魔法…っていうか、向こうでこの力を使うときは、基本的に念じるだけだったから…」

「スゴいじゃないっ!いくら得意な魔法だからって、無詠唱で使えるのはほんの一握りだけなのよ?」

「そうなの?でもこれだと、少し効果が落ちるんだよね。それに魔力も余計に使うし…」

「そうなの?…なら、詠唱して使ってみてよ。ちょうどあなたがぶつかったことで、木に傷がついてるし」

「わかった、やってみるよ。………「痛いの痛いの…とんでいけっ」」

俺が呪文を唱えると、木にできていた傷がふさがり、ヘコミもなおっていく。

「今のって、呪文だけよね?魔法名は何なの?」

「魔法名は唱えたことが無いよ。頭に浮かぶものもないし。…向こうでもこれだけで上手くいってたしね」

俺はなおした木をさわりながら答える。

「そうなの?不思議なこともあるのね…」

エリカは首を傾げているが、一応は納得したようだった。

「それより少しいい?最初から少し気になってたんだけど、…肉体強化魔法って何系統なの?」

「……………」

俺のその質問に、エリカは固まってしまった。

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