第九話

「「「ようこそっ！　百合宮院学園へ！」」」

　食堂に入った瞬間、拍手で迎えられた。

「れ、憐華さん！？　こ、これはいったいどういうことですかっ！？」

　食堂には、おそらくこの寮に住んでいる生徒全員がいると思われるくらいに人がいっぱいいる。

「なにと言われましても……。ただの博樹様の歓迎パーティーですわよ？」

「ふふふっ。びっくりしましたか？　今回の件が決まってから、星宮会せいぐうかい……いわゆる生徒会ね。その会長である花島澄さんと、副会長である咲之瀬京さんを中心にして、歓迎パーティーを開くことになったのよ」

　憐華さんはどこか誇らしげに、雪奈先生はやさしく説明してくれる。

「澄ねぇ……澄さんと京さんが……？」

「ふふっ、びっくりした？　サプライズパーティーだよ？」

「ごめんね？　そこまで驚くとは思ってなかったんだ。嫌だったかい？」

　澄ねえは得意顔で、京さんはすまなそうな顔でこたえる。

「……嫌とかそういうわけじゃないです！　ただ、あまりにも衝撃的すぎて……頭が追いついていないんですよ。……というか、むしろお礼を言わせてください！　俺のためなんかにこんなことをしてくれて……ありがとうございますっ！」

　俺は精一杯深く頭を下げる。

「よかったぁ……気に入ってくれたみたいだね？」

「歓迎パーティーなので、楽しんでもらえなければ意味がないのですよ！」

　光さんと雲雀さんが前に出てきて、俺の両脇を固める。

「さぁ博樹様？　ささやかながら料理の準備もできていますので、どうぞ楽しんでいってくださいね？」

　そう言って、憐華さんが俺の手を取って食堂の中心へといざなう。

「あ、ありがとうございます……」

　俺はその手を取って、おっかなびっくりしながら食堂の中心にあったテーブルにつく。

「さて……主賓がいらっしゃったところで、みなさま食事にしましょう？」

「ふふふっ。楽しい歓談の時間の始まりですわね。ハメを外さないようにしてくださいね？」

「「「はい！」」」

「それではこれより、須藤博樹様の歓迎パーティーを始めます！　みなさまどうぞお楽しみくださいな？」

　憐華さんがそう言うと、どこからか音楽が流れ出した。

「「「ふふっ」」」

「「ふふふっ「」」」

　それと同時に、集まっていた全員が思い思いに御喋りしたり食事をしたりし始めた。

「れ、憐華さん？　俺はどうすれば……？」

　俺だけが一人座っているので、どうすればいいのかわからない。

「博樹さまは、今日の主賓ですから……そのままで良いのですわよ？　給仕に言えば料理もいただけますし、一通りの方が機を見計らって話しかけてくるでしょうしね？」

「そういうもんですか？」

「はい。そういうものですよ？　……ですから、博樹さまは精一杯楽しんでいただければそれでいいのですわ」

　そう言うと、憐華さんは優しく微笑む。

「わかりました。……とりあえずは料理を楽しむことにしますよ。……すみませーん、あれとあれと、あれがほしいんですけど……」

「かしこまりました」

「すぐにお持ちいたします」

「お飲み物はいかがいたしますか？」

　俺が声をかけると、数人のメイドさんがそばに来てくれる。

「とりあえず飲み物はリンゴジュースでお願いします」

「かしこまりました」

　そう言うと、メイドさんが一人離れて飲み物を取りに行く。

「お待たせいたしました……お料理を持ちいたしました」

「お待たせいたしました。お飲み物です」

　片方のメイドさんが料理を並べ、ベストなタイミングでもう一人のメイドさんが飲み物を置く。

「あ、ありがとうございます」

　俺はお礼を言って、とりあえずリンゴジュースに口をつける。

「う、うまい。すっごい濃厚だ……」

　これこそまさに１００％のジュースなのだろう。
　とても濃厚で、リンゴを食べているような気になる。

「それじゃあ、こっちのお肉は……っと」

　いつの間にか置かれていたナイフとフォークを使って、何かはわからないがアルミホイルで包まれたお肉に手をつける。

「う……うまい！　肉汁が後から後からあふれてくるっ！」

　こんなにおいしい……というか、ジューシーな肉は初めて食べた。
　噛んだ瞬間に肉という個体が肉汁という液体になるのだ。

「次はこっちのサラダを……」

　次はサラダに手を出す。

「あ、甘いっ！　ドレッシングとか一切かかってなのに、野菜のうまさだけで食べられる！」

　これに比べたら、今まで俺が食べていた野菜は何だったのだろうか……？　そんな風に思ってしまうほど、このサラダはおいしかった。

「ふふふっ。どうやらお気に召されたようですわね？　楽しんでいただけているようで、何よりですわ……」

　俺はどこかの料理マンガみたいなリアクションを取っていると、憐華さんが嬉しそうに話しかけてきてくれた。

「はいっ！　とってもおいしいです！　ありがとうございますっ！」

「ふふふっ。用意した甲斐がありましたわ。今日は存分に楽しんでくださいね？」

「はいっ！」

　俺はしっかりとうなずき、その後もしっかりと楽しんだ。