ギャルゲの世界で二重人格!

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第五話

「失礼しまーす……」

 俺は一階の案内板に従い、トレーニングルームにたどり着き、中に入る。

「博樹君じゃないかっ! さっきはどうしたんだい? お昼は食べたの?」

 もう一人の俺が言っていた通り、中には京さんがランニングマシーンで走っていた。

「お姫様みたいにきれいな人たちにあんなに囲まれたら、男なら誰だって逃げ出しますよ!」

 俺としては、当然の反応だと思う。

「お昼は一応部屋でとりました。今は腹ごなしと暇つぶしに運動でもしようかと、寮の中を見て回ってました。それで、ここを見つけたんです」

「そうなんだ……」

「京さん……っあ、京さんと呼んでも?」

「構わないよ? 僕も博樹君と呼ばせてもらっているからね?」

「わかりました。……それで、京さん。京さんは何でここに?」

「僕かい? もちろんトレーニングのためだよ? これでも水泳選手だからね……」

「ほんとですか!? 俺と一緒ですね! 俺も水泳やってるんですよ!」

「知ってるよ。ここにはそのために来ているんだろう?」

「えぇ、まぁ……そうです。2月の大会に出るために、設備とかが良いここでやらないかと誘っていただけたので……」

「ふふっ。なら一緒にトレーニングするかい? 僕はこれから10キロほど走るつもりだったんだよ」

「喜んで! 俺も軽く走ろうと思ってきましたから」

「ならよかった。…………そうだっ! どうせだったら勝負しないかい? どちらが先に10キロ走れるか!」

「そうですねぇ……そのほうがやる気は出るかもですね! でも、条件同じで良いんですか?」

「ふふっ。もちろんハンデはつけよう。僕は君が数キロ走ってからスタートするさ」

「俺はこれでも男ですよ? いくら本調子じゃないと言っても、さすがにそれはハンデがありすぎじゃないですか? 京さんは女の人でしょ?」

「ふふっ。それならハンデなしでやってみるかい? 僕はそれでもいいよ? 君が負けて落ち込まないと言うならね?」

「上等ですよ! 京さんも負けて落ち込まないで下さいよ?」

「ふふっ。そういうセリフは勝ってから言いなよ? ……それじゃあやろうか! 君はそっちのを使ってくれ。設定の仕方はわかるかい?」

「大丈夫です。…………できました。いつでもいいですよ?」

「それじゃあカウントするよ? 3、2、1、スタート!」

 その合図とともに、俺と京さんは走り出した。

・・・
・・


「……っはぁ! はぁ、はぁ…………ふぅ。負けました……」

「すーーーっふーーーー。飛ばしすぎたんじゃないかい? 僕としては、軽く流すつもりだったんだけど?」

 俺は勝負に負けた。
 10キロくらいなら、ダッシュは無理でもマラソンよりは早く走れるつもりだった。
 しかし、京さんは俺のペースに余裕でついてきて、最終的にはスパートで一気に追い抜かれてしまった。

「ハンデ、もらってたら、良い勝負、だったん、ですね。はぁ、はぁ……」

 俺は、京さんがスパートをかけ始めたところでダッシュに切り替えたのだが、追いつけなかった。
 京さんは残り3キロ付近からスパートを始めて、陸上選手もかくやという走りを見せてくれた。
 それにひきかえ俺は、京さんのダッシュについていけなくなり、最終的に数キロは差をつけられてしまった。

「でも、事故から一カ月と少ししか経ってないんでしょ? それでここまでできれば、十分すごいと思うけど?」

 負けたことでうつむいている俺を、京さんが慰めてくれる。

「負けは、負けです。俺が、身の程知らず、でした。少し、調子、のって、ました」

「ふふっ。男の子はさ? 少し強気なほうが……良いと思うよ?」

「はぁ、はぁ、ありがとう、ございます」

「どういたしまして。…………さて、この後はどうする? 汗かいたし、僕は大浴場に行こうと思ってたんだけど……一緒に来る?」

「ほへっ? いいんですか? 俺は男ですよ?」

「大丈夫大丈夫。水着で入るからね。今の時間はね? 温水プールになってるんだよ」

「そうなん、ですか?」

「そうそう。水着は……持ってないよね? ……でも、男の人の下着ってトランクスっていうんだっけ? 水着と似てるから大丈夫じゃないかな?」

「いいんで、しょうか?」

「大丈夫でしょ。僕がオッケーだすよ」

「ありがとう、ございます」

「うんっ。それじゃ、行こうか? ついてきて?」

 そういうと、京さんはトレーニングルームを出ていく。

「わかりました」

 俺は慌てて京さんの後ろについて行った。

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