ギャルゲの世界で二重人格!

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第三話

「ここが百合宮院学園前駅か……。まさか俺が降りることになるとは思わなかったなぁ……」

 約束の日曜日。
 俺は百合宮院学園前駅に着いていた。
 荷物はすでに送ってあるので、体一つである。

 やっぱ現実に見るのとゲームで見るのは違うわなぁ……。
 そうなのか? まぁ、素直にすごいとは思えるよな。

 まさしくお嬢様の園と言えるであろう。
 豪華絢爛でありながら、どこか質素で慎みがある雰囲気というのが見てわかるほどに洗練されている。

 確か、迎えの人が来ているはずだよな?
 そのはずだな…………おっ? あれじゃないか?

 そこにいたのはまさしくお嬢様……いや、お姫様と言える少女だった。
 程よい白さの肌と、金色の髪。
 瞳は碧で、吸い込まれるよう。
 眼はくりっとしていて、はっきりとしている。
 鼻はすっと通っており、口はすらっとしていた。
 スタイルもよく、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるというパーフェクトボディ。
 手足もほど良く、細すぎず太すぎない。
 どこか雪奈先生に似ているが、まったく別の印象を受ける。
 そしてなにより、好みど真ん中だ。
 まさしく理想の女の子だった。

 これは現実か!?
 大丈夫だ、現実だよ。
 にしても、やっぱり直で見ると違うなぁ……。
 ゲームでもこんなに可愛かったのか!?
 いや、ゲーム以上だろ。
 まさしくお姫様だな。

「あの……」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 やべっ、噛んじまった!

「お待ちしていました。須藤博樹様……ですよね? わたくし今回の案内役を務めさせていただきます、七重院憐華しちじゅういんれんかと申します。どうぞよろしくお願いしますね?」

「あっ、えと……。こちらこそよろしくお願いします。須藤博樹です」

「ふふふふ。知っていますわ。あなたはわたくしの命の恩人ですから……」

 なんですと!?
 そうだよ? この子がお前が助けた女の子だ。
 マジで!? 俺こんなにきれいな子を助けてたのか!?
 そういうことだよ。

「博樹様……とお呼びしても?」

「あ、はい。大丈夫です」

「では博樹様。そのせつは大変お世話になりました。このご恩は一生忘れません。実は今日の案内は、わたくし自ら志願させていただいたのですよ」

「そう……なのですか?」

「はい。はずかしながら……」

 まじか! こんなきれいな子が俺のために案内してくれるなんて!

「では急ぐものでもありませんが、こちらへいらしてください。ご案内いたします」

「わかりました」

 歩き出した憐華さんの後ろにつき、俺も歩き出す。

「校舎は明日、学校が始まってから案内するように言われていますので……まずはプールから案内いたしますわ」

 学園前に着いたところで立ち止まり、俺に向かってそういうと、憐華さんは再び歩き出す。

「本当は、校舎の中を通ったほうが近いのですが……今日は外から回り込む形になりますわ。ごめんなさいね」

「いえいえっ! 歩くのはトレーニングになるので! むしろばっちこいです!」

「ふふふ。そうですか? ならよかったですわ」

 憐華さんは、どこかうれしそうに歩いている。
 まるで鼻歌を歌いながらスキップでもしそうな勢いだな?
 そうだね……見た目よりも可愛いのかも?

「さて、着きましたわ。こちらが室内プールのある水泳部の専用体育館ですわ」

 憐華さんが立ち止まったのは、とても大きな体育館の前だった。
 うちの学校の体育館の二倍以上あるんじゃないだろうか?

「大きいですねぇ……」

「そうでもありませんわよ? 授業で使う体育館は、ここよりも大きいですから……」

「マジですか!?」

「ふふふ。本当ですよ? ……でも、まずはこの中を案内いたしますわね?」

「あ、はい。お願いします」

「ふふふ。……それでは入りましょうか」

 そういうと、憐華さんは扉を開けて中に入って行く。
 俺は慌てて憐華さんの後について行った。

「ここがプールになりますわ」

 そう言って憐華さんが連れてきてくれた場所には、50メートルプールがあった。

「一応記録などもとれるように、大会などで使われるものを使用しておりますのよ?」

「そうなんですか!? ……ってことは、大会さながらの練習ができるということか!」

 何か興奮してきたぜ!
 そうだな、ここはこれからのここでの生活の中心になる場所だからな。
 確かにそうだな! ……くぅーっ! 早く泳ぎたいぜ!!
 明日には泳げるさ。
 それもそうだな! よしっ気合入ったぜ!
 それはいいけど、憐華さんがいることを忘れるなよ?
 …………そうだった!! しっかりとお礼を言わないとだぜ!

「ありがとうございます、憐華さん!」

 俺は憐華さんに向かって頭を下げる。

「え!? きゅ、急になんですの!?」

「俺をこんなに素晴らしいところに招いてくれてありがとうっ! 俺、頑張るよ!!」

「………………そう、ですか。よかったですわ」

 そういうと、憐華さんはうれしそうに微笑んだ。

「……さてっ! 次の場所へと向かいますわよ? そろそろお昼の時間ですし、後案内してもいいと言われているのは、実は寮だけですの……。ですので、そこで一緒にお食事などいかがですか? 寮に入ってしまえば、メイドや執事がおりますので、彼女たちの仕事をとるわけにも参りませんので……」

「わかりました。それでお願いします」

 そういうと、憐華さんは外へと歩き出す。
 俺はその後ろについて、水泳部用の体育館から出た。

「では、こちらになります……」

 俺が外に出ると、憐華さんは待っていてくれた。
 来た道とは別方向に歩き出す憐華さんの後ろに慌ててついていく。

・・・
・・


「こちらが寮になりますわ……」

 そう言って連れて来られたのは、どこのホテルだと言わんばかりの外観をした建物だった。

「本当にここが寮なんですか!?」

「はい。ここがそうですよ? 何かおかしいですか?」

「いやぁ、はは。豪華だなぁと思いまして。まさしくお嬢様学校ですね?」

「そうですか? ふふふ。ここ以外を知らないので、よくわからないですわ」

「そりゃそうですよね」

「ふふふ。それでは入りますよ?」

「あ、はい。わかりました。……でも、開いてないですよね? インターフォンでも押すんですか?」

 疑問に思っていろ俺の前で、憐華さんが扉に手をかざす。
 すると、ピーンという機械音が鳴り、扉が自動で開いた。
 そのまま憐華さんは中に入る。
 すると、扉はまた自動で閉まってしまう。

「憐華さん!? 閉まっちゃたんですけど!?」

「ふふふ。大丈夫ですわよ? 博樹様も手をかざしてみてくださいな?」

 疑いつつも、俺は言われたとおりに扉に手をかざす。
 すると、再びピーンという機械音が鳴り、扉が開いた。

「できましたでしょう? もうすでに博樹様もこの寮に登録されていますのよ? 基本的に、扉を広く時は手をかざせば大丈夫ですわよ」

「わかりました」

「ふふふ。それでは食堂に参りましょうか」

 そういうと、憐華さんは歩き出す。

「………………」

 俺は内心でハイテクさに驚きながら、平静を装って憐華さんについて行った。

・・・
・・


「着きましたわ、ここが食堂になります」

 たどり着いたのは、先ほどの体育館以上じゃないかと思われるほど広い空間だった。

「基本的に、学園内での食事はここでとります。一部趣味で料理をなさる方たちは、ご自分のお部屋で作ることもあるようですが……。それでも普通はこの食堂を使いますわね」

「へぇ……そうなんですか。……ちなみに、おいくらぐらいするんですか?」

 高いなら俺は自分で作るしかないと思う。

「学費にすべて含まれていますので、無料ですわよ?」

「マジっすか!? よっしゃ! これで食費を気にしなくてすむぜ!」

「ふふふ。そんなことを気にしてらしたのですか?」

「えぇ、もちろんです。学食は安いって決まってますけど、無料ではないですからね! 料金次第では、自炊する覚悟でしたもん」

「そうなんですか?」

「えぇ、もちろんです。これでも料理は得意なんですよ?」

「それならわたくし、一度博樹様の料理を食べてみたいですわ……」

「え……? ……いやぁ、ははは。憐華さんみたいな人には食べられたもんじゃないかもしれませんよ?」

「ふふふ。得意なのでしょう?」

「まぁ、人並み以上にはできると思ってますけどね?」

「ならよろしいじゃないですか?」

「うーん……わかりました。それじゃあ今度都合のいい日ということで」

「ふふふ。わかりましたわ。それでは来週の日曜日にいたしましょう?」

「わかりました。食材はどうすればいいですか?」

「それでしたら、ご自分で作る方が丁度待っているはずですので、その方に聞いてみましょう。では、中に入りましょう?」

 そういうと、憐華さんは食堂に入る。

「あっ、待ってくださいよ」

 俺も慌てて中へと入った。
 すると……

「お、来た来た。ようこそ百合宮院学園へ。憐華の命の恩人君?」

 まず最初に声をかけてきてくれたのは、鮮やかな赤い髪の王子様のようなお姫様だった。
 とても整った顔立ちをしており、快活な笑顔を浮かべている。
 スタイルは憐華さんには劣るかもしれないが、十分に整っている。
 むしろ、この人にはこちらのほうがあっていると思える。
 憐華さんと比べると、その体はしっかりとした印象を得られた。

「はじめまして、ようこそです! 憐華さんを助けてくれてありがとうございました!」

 二番目に声を掛けてくれたのは、ちょっと子供っぽい女の子だった。
 髪は栗毛で瞳は黒。
 無邪気に微笑んでおり、どこか守ってあげたくなるような雰囲気をしている。
 背はここにいる全員の中で一番低く、ぱっと見は高校生には見えないかもしれない。
 しかし、どこか上品な雰囲気も醸し出しており、このメンバーに劣っているところはどこにもなかった。
 そして何よりびっくりなのが、ここにいる全員の中で一番胸が大きいのだ。
 いわゆるロリ巨乳と言えばいいであろうか? しかしそれが下品ではなく、この子にはとても似合っていた。

「ようこそ百合宮院へ。ひさしぶりだね? ロキ君」

 三人目には驚いてしまった。
 なぜならその人は俺の知り合いだったからだ。
 小さいころからよく一緒に遊んでもらっていた一つ上のお姉さん。
 どこか庶民的な雰囲気を持ちながら、野暮ったさがなく上品でもある。
 顔は古き良き大和撫子風で、髪も黒で瞳も黒。
 腕と足はすらりと細い。
 しかしスタイルはしっかりとしており、華奢な印象は受けない。
 まさしく名家のお姫様って感じである。

「ふふふ。一週間ぶりですね? ようこそ百合宮院へ……。歓迎しますわ」

 四人目は雪奈先生だった。
 前に会ったときと変わらずに、まさしく聖女といった雰囲気である。
 このなかでは、おそらく唯一生徒ではないのだろう。
 どこか、先生としてここにいると感じられた。

「はじめまして。博樹君でいいかな? 百合宮院へようこそっ」

 最後に声を掛けてきたのは、一言でいえばボーイッシュな人だった。
 髪の毛はいわゆる茶黒だが、とても整っている。
 とても人懐っこい笑顔を浮かべ、見るからに俺のことを受け入れてくれているのがわかる。
 スタイルはモデル系で、一番背が高い。
 どこか一人目と同じ王子様的な印象を受けた。
 この五人に憐華さんを入れた六人が、俺に向かって微笑んでいる。

「へ? え? へっ? こちらこそはじめまして…………ってスミねぇ!? それに雪奈先生も! お久しぶりです!」

「ふふふ。これで全員そろったわね? あらためまして、ようこそ百合宮院学園へ。歓迎します、博樹様」

 六人の美人に囲まれて、俺は軽くフリーズしてしまう。

 やっぱり壮観だなぁ……。
 なに落ち着いてるんだよ!? ってかなんでスミねぇがいるの!? 雪奈先生はまだしも、後の三人はどういうこと!?
 とりあえず落ち着けよ? いまから説明してくれると思うぜ? これからメインで付き合っていくことになるんだから、今からなれといたほうがいいぞ?
 マジで!? うわぁ……うれしいやら恥ずかしいやらだよ。
 とりあえずラッキー程度に思っとけよ? じゃなきゃ、後がつらいぜ?
 そうなの!? ……うーん、わかった。
 わからないけどわかったことにしとくよ。
 それがいいぜ。

「……えぇっと、とりああえずこんにちはです。須藤博樹と申します。これからどうぞよろしくお願いします……」

 状況は飲み込めていないが、しっかりと挨拶だけはしておく。

「ふふふ。七重院憐華ですわ。こちらこそ、あらためてよろしくお願いしますわ」

「ご丁寧にどうもっ。私は雅乃城光みやびのじょうひかりです。こちらこそよろしくね?」

「よろしくですっ! 僕は宮内雲雀みやうちひばりです。よろしくお願いします」

「よろしくロキ君。知ってると思うけど、私は花島澄かしますみです。久しぶりだね」

「改めまして、フルネームは言ってなかったわよね? 七重院雪奈しちじゅういんゆきなと申します。憐華とは姉妹です。よろしくね?」

「ご丁寧にありがとう。僕は京。咲之瀬京さきのせきょうだよ。よろしくね!」

 これが俺と百合宮院学園の四色姫たちとのこの学園での初めての出会いだった。
 俺と彼女たちの関係は、すべてここから始まったんだ。

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