ギャルゲの世界で二重人格!

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第二話

 あれから一カ月たった。
 俺は医者も驚く驚異的なスピードで回復していき、今はもう杖なしで学校に通うことができている。
 部活にも参加しており、泳ぐことはできていないが、筋トレなどは普通にこなしているのだ。

「はいっ注目! これで今日の練習は終わりです。明日も同じ内容ですが、気を抜かないでいこう! 以上解散!」

「「「ありがとうございましたっ!!」」」

 今日の練習が終わった。

 そろそろ来るかな? 多分今週中には前に言ってた助けがやってくると思うよ。
 そうなのかい? 意外な助けって言ってたよね? どうなるんだい?
 秘密だよ。知らないほうが、素で対応できると思うしな。それに、そのほうがおそらくうまくいくからさ?
 そうなのかい? ならその言葉を信じることにするよ。
 おう、そうしとけ。

「博樹っ!」

「海斗先輩? どうしたんですか? 練習は終りのはずですよね?」

「校長先生が呼んでるって。僕と一緒に校長室まで来てくれ」

「わかりました」

「うん。それじゃあ今すぐ向かうよ? 着替えは終わってるね?」

「はい。大丈夫です」

「よしっ! それじゃあ行くよ」

「わかりました」

 俺は、海斗先輩に連れられて校長室に向かった。

・・・
・・


「失礼します。須藤博樹を連れてきました」

「失礼しまーす」

「よく来てくれたね。では早速用件を話させてもらおう」

 校長室に入ると、校長先生以外にもう一人見たこともない女の人がいた。
 その人はとてもきれいな人だった。
 髪は上品な金色で、瞳は碧。
 優しい雰囲気を醸し出し、目鼻も整っている。
口元にはあわい微笑みを浮かべ、、まるで聖女のようだった。

「こちらの雪奈先生が、今回君を呼んだ理由だ。雪奈先生、説明をお願いします」

「はい」

 話を振られたその女の人は、俺に向かってニコリと微笑むと話し始めた。

「ご紹介にあずかりました雪奈と申します。まずは先日……といっても一カ月ほど前の話になってしまうのだけど、お礼を言わせてね? わが校の生徒を救ってくれて、ありがとう」

「何のことですか? 話がよくわからないんですけど……?」

 俺はいきなりお礼を言われ、戸惑ってしまう。

「あなたにとってもかなりの大事件だったと思うのですが、本当に心当たりはありませんか?」

「ないです。一か月前って言ったら、丁度事故にあって入院してましたから……」

「それですよ。その事故の話です」

「どういう意味ですか?」

「あの事故で、あなたは男の子と女の子を助けたはずです。覚えていませんか?」

「夢中だったので正確には覚えていませんが……」

「そのうちの一人が、わが百合宮院学園の生徒だったのですよ。……あなたは、その身を呈してわが校の大事な生徒を助けてくれたのです。だから最初にありがとうなのですよ」

「そう……ですか。あまり実感はないんで、お礼を言われてもいまいちピンとこないです……」

「ふふふ、そうですか。……なら、気持ちだけ受け取っていてください。今はそれだけでいいです」

「わかりました」

「ふふふ。それでは本題に入らせてもらうわね? ……博樹君、スポーツ留学生になる気はないかしら?」

「スポーツ留学生……ですか? あの、お嬢様学校である百合宮院学園に、優秀な選手を特別な待遇で招くっていう……」

「そうですわ。あなたには、今度のスポーツ留学生として、わが百合宮院学園に来てもらいたいの」

「……俺は男ですよ? お嬢様学校に行って大丈夫なんですか?」

「ふふふ。普通ならもちろんだめに決まっていますね。一応女学園ですし、女性しか招いたことはありません。……ですが、あなたが助けた生徒はわが校でもかなりの発言力を持っている方でね? 無理を通して道理を引っ込ませてしまったのよ」

「えぇ!?」

「だからね? あなたさえよければ、すぐにでもわが百合宮院学園に来てもらいたいの」

「俺に対してそこまでするメリットが分かりません。」

「ふふふ。あなたにとって、これはかなりのチャンスだと思うわよ? 具体的には、基本的にこの学校よりもしっかりとした設備があるし、専属のスポーツドクターも常駐しています。ここでくすぶっているよりは、よほどはやく目標に近づけると思うわよ?」

「確かに魅力的ですね。特に今の俺にとってはのどから手が出るほどに魅力的です。……ですが、俺が行って本当に良いんですか?」

「………………」

「女の子しかいない……それもお譲さましかいないところに、俺という異物を放り込むほどの恩を、俺はその助けた女の子に与えられていないと思います」

「………………合格! そこまで考えられているなんて、やはりあの子の目はちゃんとしているのね。私もこの目で確かめに来て正解だったわ」

「……? 今の話は俺の答えを待つだけみたいな話ではなかったのですか!?」

「ふふふ。私が納得できなかったら、その時は教職を賭してでもこの話をなかったことにするつもりでした」

「え……?」

「ですが、予想以上です! 命を助けた恩に釣り合う対価なんてありませんよ? これだけのことをしたって、返したと言い切れるかなんて結局は見た人の主観です。そこに話の意味はありません。あなたにとっては何ともないことでも、それを受けた相手がここまでしたいと思ったのです。そこは素直に受け取ってもいいんじゃないですか?」

「……それは、そうかもですけど……」

「それに、あなたは夢に向かって努力していました。そこに結果もついてきています。全国大会3位なんて、そうそうできるものではありませんよ? これは、未来の日本代表を育てるためでもあるのですよ」

「そんな、日本代表だなんて……」

「私は大げさではないと思いますよ? 実際に今日見てそう思えましたから。是非とも私たちにあなたの手助けをさせてくださいな」

「………………」

「博樹、とても良い話だと思うよ。僕は賛成だ。これだけお膳立てされてて断るなんて、男じゃないぞ?」

「………………」

「博樹君。決めるのは君だ。しっかりと考えて決めなさい」

「………………」

 俺としては受けてもらわないと困るぜ? 話が始まらないからな。
 君が行っていた意外なところからの助けって、これのことだったのかい?
 あぁ、その通りだ。ゲームだと、周りはみんな両親ふくめて応援しくれてたよ。
 そうか……。でも、本当に良いんだろうか?
 良いに決まってるだろ? それに、ここで断っちまうとお前は女の子を一人泣かせることになるぜ?
 どういう意味だい?
 今回のことをお膳立てしてくれた、お前が助けた女の子だよ。お前は彼女の好意をけるわけだからな? 彼女からしたら、なんで? ってなるだろうよ。それで、私がいるから……私に怒っているから来てくれないんじゃないかと思い悩むわけだな。
 それもゲームの知識かい?
 一応な? ゲームでは選択肢はなかった。お前は断らなかったし、あり得ない仮定の話さ。ただ……ゲームで見てた彼女の性格から考えると、ありえるであろうかなり有力な可能性だよ。
 …………そっか、それならしかたないね。
 あぁ。
 受けることにする。
 それでいいのさ。

「この話、受けさせてもらいます」

「ふふふ。良い返事が聞けてよかったわ。早速来週からでいいかしら?」

「そんなすぐにですか!? ……わかりました。両親に話して、準備したいと思います」

「いえ、結構ですよ? 実はすでにご両親には話が通っています。後は私の判断とあなたの決断待ちだったわけです」

「そうだったんですか!?」

「えぇ。準備もできていますから、本当は明日からでもと言いたいところなんですが……書類の関係上数日かかってしまうんですよ。ごめんなさいね?」

「いえ、むしろ早すぎると思いますよ」

 俺は少し戸惑う。

「よかったな、博樹。がんばってこいよ?」

「はい。海斗先輩!」

「それでは次の日曜日の10時に、百合宮院学園前駅まで来てくださいね」

「わかりました。先生が迎えに来てくださるのですか?」

「いいえ、迎えは別の方にお願いしていますよ。それと、私のことは雪奈と呼んでくださいな? それではまた来週に。ごきげんよう博樹さん」

「はい、雪奈先生」

 失礼しますと言って、雪奈先生は部屋から出て行った。

「うむ。それでは来週から頑張りたまえよ」

「はい、校長先生」

「それでは失礼します。失礼しました」

「失礼しました」

 俺は海斗先輩と一緒に校長室から出た。

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