欠陥魔力騎士の無限領域(インフィニティ)

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光の限無の放課後デイズ④| 光と限無の過去語り①

欠陥魔力騎士15

光の限無の放課後デイズ④ 光と限無の過去語り①

 今日は珍しく、大和さんの実験が何もない日だった。
 けれど僕は、雑用という言い訳を理由にして、彼女と話すために今日も研究室へと訪れている。

「ふぅ、終わったよ。これで掃除は完了だ」

「いつもありがとね。正直とても助かっているわ」

 僕が掃除をするようになってから、彼女の部屋は一応の見える形で落ち着くようになってきた。
 それにより最近は、ようやく女の子の友人たちを部屋に誘っても、嫌な顔をされなくなったらしい。

「今日は実験も無いってのに、貴方も物好きね。私は嬉しいけどね?」

 そう言ってはにかむ彼女の顔は、とても魅力的で綺麗だと思う。
 それに僕自身も最近は、彼女や彼女の友人経由で付き合いも増え、留年している先輩という取っつきにくいレッテルが軽減されているのだ。
 授業で毎回、先に相手よりも圧倒的に上の技量を魔力を纏わずに見せてくれると、一部の人は僕との対戦がとても良い指導になっているらしく、一部の人に人気も出てきた。

(それでもやっぱり僕は……)

 魔力を扱えない欠陥魔力騎士な事実は変わっていないし、授業の成績も実技はからっきし。
 トーナメントに向けてまわりが熱気立つ中でどうしても、心から熱くなることができずにいた。

「それじゃあ今日は、普通に雑談でもしましょうか? ……なんて言っても、私が話せるのは大和島の事くらいなんだけどね?」

「なら僕も今日は、少し昔の話をするよ。天通家にいた頃の思い出話。君にとても良く似た妹の話をね」

 少し考え事をしながらも受け答え、今日の雑談の題材が決まる。
 たまにある実験の無い日には、僕たちは互いにテーマを決めて話をするのだ。
 相手の話を聞くことで刺激を受け、研究にいかしたいというのが彼女の弁で、僕は気恥ずかしいのを隠しながら、その提案にのったのだ。

(少しでも彼女の事を知りたいし、僕の事も知ってほしいからね……)

 今日も彼女の一存でテーマが決まり、僕がそれに同意する。
 彼女と話すのはとても楽で、互いに気を使わないで話せるのがとても嬉しい。

「それじゃまずは、私から話すわね?」

 そう言ってからコホンと咳をひとつして、彼女は楽しげに話始めた。

「私の実家である大和島は、知っての通り最先端の研究をするために作られた実験島なわけだけど、実は研究員だけじゃなくて、むしろついてきた家族や関係者の方が多いのよ。だから普通に街があって村があって、とても人間らしい営みが育まれているの。私はそれがとても好きだった」

 彼女が姫として在る大和島は、彼女の言う通り実験島だ。
 世界中から各研究の権威が集められ、毎日のように新しい論文や発明が世界へ向けて発表されている。

「私の父である大和巌やまといわおは、そんな研究員達の調停役として王にされた人でね? 今でこそ見事な手腕でコントロールしているなんて言われてるけど、実際は苦労の連続だったそうよ」

 彼女の父、大和巌といえば、世界有数の賢王だ。
 今この世界を構成している約数百の国の王の中でも、上から数えた方が早いくらいに有名人で、その手腕は世界を統一している機関であるコーディネーター達にスカウトされたほどだと聞いている。
 コーディネーターとはその名の通り調停者であり、世界を維持管理している統一王の手足となってあらゆる事に対処しているスペシャリスト。
 大和巌はその統一王に直接声をかけられたほどに優秀な人で、その時は娘が小さいことを理由に断っていた。
 その姿からさらに人気が高まり、彼自身がプロの魔力騎士だったこともあり、トッププロに並ぶ人気を持っている。

「そんな私の父と、その父が一目惚れした母。周囲に見せている姿からは想像もつかないようなギャップで父は母にアプローチして、見事射止めて私が生まれた。そして育った環境の影響もあって、私は育つなかで自然とまわりの研究を手伝い始めたわ」

「それは……何歳くらいの時からなんだい?」

 彼女がその天才っぷりを世界にさらしたのが10歳の時だったはず。
 当時の新聞の特集の1つ、世界のすごい子供トップ5の1位として紹介されていたのを記憶している。

「研究を手伝い始めたのが五歳くらいかしらね? そして初めて自分の研究所を持てたのが八歳の時。うれしくてうれしくて、一日中入り浸ってたわ」

「それはまた……さすがは大和さんだね」

 僕は久しぶりに彼女のすごさを再認識させられた。

「初めての自分が決めた研究テーマを終わらせて、論文を発表したのが十歳の時。あの時は行きなり新聞社が取材に来て大変だったわ」

 そう言って苦笑いする彼女は、とても楽しそうに当時の事を語っていく。
 そして少しずつ現在に近づいていく度、僕は彼女の魅力を新しく見つける。
 そして彼女が話終わる頃には、僕の胸は彼女でいっぱいになっていた。

「こんなところかしらね? 聞いててちゃんと楽しめた? 私は久しぶりに昔を懐かしめて良かったけど……」

「とても新鮮だったし、知らないことを色々知れたよ。とても楽しかった。……ありがとう、大和さん」

 僕は心からそう感じ、素直に彼女へと伝える。

「あっ、ありが、とう。そういってくれると、話した甲斐があるわっ」

「うん。ますます大和さんが好きになった」

「ふへぇっ!? あっ、あっ、あっ、あんた今好きって……」

「うん。僕は大和さんの事が好きだよ。人間的にとても尊敬できると思ってるし、すごいとも思ってる」

「まぎらわしいのよっ! 一瞬勘違いしそうになったじゃないッ!!」

「えっ、と……その、ごめん、ね? つい口に出ちゃったんだ」

 僕は大和さんの事が好きだ。
 これは変えられないし、多分これからもっともっと深く高くなっていくはずだ。

「(勘違いじゃないし、勘違いしてくれても良かったんだけどね……)」

「今何か言った?」

「いや、何でもないよ。次は僕の話をするよ。これは僕が十歳の頃。ちょうど天通流に通い始めた頃の話だ」

 そう前おいてから僕は、彼女に当時の事を語り始めた。


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