欠陥魔力騎士の無限領域(インフィニティ)

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光の発明 | カートリッジシステムと魔力の普遍化

欠陥魔力騎士9

光の発明  カートリッジシステムと魔力の普遍化

 あれから数日、今日は彼女と契約してから初めての休日。
 これまでも、放課後に少しだけ彼女の実験に付き合っていたが、データをとるだけだと言う通り、学園の試験のようなものを受けるだけだった。

「よく来たわね、そこに座って?」

「失礼するよ」

 今日も何時ものように彼女に呼ばれ、彼女が学園入学時にあたえられた研究室に来ていた。
 事前に彼女から、今日はテストではないと聞いていた僕は、期待などで自然と胸が高鳴るのを感じていた。

「昨日伝えた通り、今日はテストじゃないわ。昨日までのデータから、貴方に合わせてカスタマイズした武装具は作り始めたし」

「本当かいッ!?」

 僕は思わず椅子から乗り出して彼女に問う。

「えぇ、もちろんよ。私を誰だと思っているの? データをとったのだって、去年の試験結果よりも最新のが欲しかっただけだし。来月のトーナメントには、しっかりと完成させておくわッ」

「ありがとう。本当に、ありがとう……」

 僕は思わず感極まり、彼女に詰め寄る。

「で・も・ね? 武装具が完璧でも、それを扱う貴方が未熟では意味がないわ!! 今日最初にやることは、カートリッジシステムの説明と実践よッ!! カートリッジシステムを使うには、魔力の普遍化ができないと話にならないんだからッ!!」

「魔力の普遍化……?」

 その単語に思わず息をのむ。
 何故ならその技術は、今現在の世界最先端の研究課題だからだ。

「実用化……したのかい?」

「当たり前でしょ? 理論は既に確立してるんだから、後はトライ&エラーを繰り返すだけ。私にかかれば造作もないわ」

 その言葉に、僕は再び息をのむ。
 さも簡単なように言った魔力の普遍化という技術は、世界三大難問の1つとしてあげられるほどの技術課題なのだ。

「まぁいいわ。話を続けるわよ?」

「あ、あぁ。頼むよ」

 どうやら本気で簡単だったと感じている彼女に改めて驚きつつ、話の続きを聞く。

「まずはカートリッジシステムについてだけど、これはいたって単純よ。ようは魔力の電池なわけ。当たり前よね? 予めためておいた魔力を装填する技術なんだから」

 それはその通りだ。
 実際この間見た彼女の使っていた物も、魔力を電池を使うように補充していた。

「続けるわよ? このカートリッジシステムは、元々は使ったときに言ったように、最大瞬間出力を上げるために開発したわけなんだけど、それだけだとつまらないから、どうせなら誰でも使えるようにしようと考えたの」

 それは研究者なら当たり前だろう。
 一人しか使えない物よりは、誰にでも使えた方が良い。
 けれどそれには……

「そこで考えなければならなかったのが、魔力の普遍化ってわけ。魔力には個人差……指紋のような物がある。だからこそ、魔力何て言う素晴らしいエネルギーがあるのに、未だに電化製品が主流なわけ。ここまではいいわよね?」

「あぁ、もちろん。社会の常識だからね」

 実際義務教育として学ぶ教本の、一番最初の方に書いてある。

「それでね? 私はこの魔力の指紋……魔力紋は、指紋よりも電気の周波数に近いものだと考えたのッ」

「いやいやいや待ってくれ。それは前提がおかしい。魔力紋はその名前の通り、魔力の指紋だ。魔法……魔力によるエネルギー放出法を使う際に描かれる紋様から、その名前がつけられたんだ。魔力の指紋の示す通り、これは千差万別どころか、全人類全員で違うものだ。それを電気と同じみたいにとらえるなんて……」

「……あんたも意外と凡人なのね? あの魔力紋は全部、ある一定の法則で描かれているのよ? 常識じゃない?」

「………………は?」

 思わず呆けてしまったが、僕は間違っていないはずだ。
 魔力紋は指紋と同じく全員が違う。
 これは魔力騎士を目指す以前に、魔力を扱う者なら誰もが知っていることだ。

「少し待ってくれ。もしかしたら僕と君は、別の世界で生きているのかもしれない……」

「そう? たしかに私のまわりも似たような反応だったのよね。……何でかしら?」

 技術レベルが最先端以上と言われる大和島でさえそれなら、僕ごときがわかるわけがないじゃないか……。

「やっぱり大和さんは、本当に天才なんだね」

「当たり前じゃない? 何を今さら。めんどくさいから、話を先に進めるわよ?」

「あっ、あぁ。頼むよ」

 僕の返答にため息を1つつくと、大和さんは話を戻す。

「この魔力紋のパターンは、つまりは魔力紋を構成する粒の配列でできていてね? この粒の配列を均一化することで、現状の超非効率な魔力の取り出し方……つまりは自然発魔とは別格の効率を叩き出せたのッ」

「………………は?」

 ここで僕は、再び呆けてしまう。
 何故なら彼女の言う超非効率な取り出し方である自然発魔は、現在の技術のブレイクスルーの1つとされ、今後どんどんと発展していくだろうと注目されている技術なのだ。

「それでね? この魔力パターンの均一化には、現状だと個々人の力量に左右されてしまうのよ……。残念なことに」

「えっと……つまり僕は、そ魔力の均一化を覚えれば良いのかな?」

「その通りよッ。なんだ、わかってるんじゃない」

(使われてる技術はさっぱりだけどね……)

 つまり今日はこれから、僕は「魔力の普遍化技術」であるところの「魔力の均一化」を覚えることになるわけか。

「……さてと、それじゃ早速始めましょうか?」

「お手柔らかに頼むよ」

 この瞬間の僕は、未知の技術に触れる不安と、未知を知れる期待という二つの思いを胸に抱いていた。



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