欠陥魔力騎士の無限領域(インフィニティ)
運命の日 | 天才と天才(?)
欠陥魔力騎士1
運命の日  天才と天才
「最悪ねッ! こんなことなら観光なんかしないで、さっさと学園に向かっておけば良かったわ」
私は今、明日から私が通う学園の生徒に襲われている。
理由は簡単、私がここに来たばかりだからだ。
「たしかに、闇討ちのようなことをしてくる輩がいるとは聞いていたけど、まさかこの私を襲ってくるなんて思ってもみなかった……」
私は今日、ここジャニウス地区にある中で一番の伝統ある魔力騎士養成学園「神薙学園」についたばかりだった。
この神薙学園は、「フェーデ」という世界競技を行う魔力騎士を養成するための学園である。
魔力騎士とは、遥か昔に行われていた相撲をモチーフにしており、「フェーデ」もその起源は無手であったとされる。
そして互いの全力の戦闘を神に奉じる儀式だったのだ。
しかし現在行われている「フェーデ」とは、エネルギーを最大効率で扱える特殊なフィールド内で行う戦闘競技であり、自らの持てるすべてをかけて競う、世界で一番人気のある競技で、世界の人口の半分以上が魔力騎士として登録されており、階級が「ビギナー」「アマチュア」「プロフェッショナル」の三階級。
それぞれの階級で毎日のようにトーナメントが開かれている。
この学園の卒業者にはフェーデの最上位階級であるプロフェッショナルで活躍する者がたくさんいる上、世界一を決める大会で最年少のベスト4を出したこともあるという、まさしく名門校なのだ。
この学園の敷地内では、いつでもどこでもそのフェーデを行うことができ、双方の同意さえあれば、そこがすぐさま戦場になる。
「逃げてばっかかァ? ずいぶんと弱虫なお嬢さんだなァ? ほらほら、武装具を出したらどうでちゅかぁ!?」
「くっ……!! ムカつくけども、なにもできないわね。まさか学園に登録されていない武装具は、展開すらできないとは思ってなかったわ。不覚ね……」
まずはこれから暮らすここの地理などを調べようと、学園に向かうついでに観光なんてしていたら、この様である。
「ほらほらほらァ? いつまで鬼ごっこをするのかなァ? もう少しで端っこでちゅよぉ!?」
「チッ!! ウザいわねぇ……。ギブアップって手もあるけども、それはこの私……大和地区大和島の姫である、大和光のプライドが許さないわッ!!」
フェーデの終了条件は三つ。
一つ……キー武装、つまりはメイン防具の破壊。
二つ……どちらかの戦意喪失、気絶などの判定決着。
三つ……タイムアップ。
「狙うなら、タイムアップしかないわけだけども。……さて、どうしましょうか?」
私は今日初めてこの学園に来たゆえに、地理に疎い。
さすがにこのまま、フィールド内を逃げ切るのは難しいだろう。
「そもそもフィールドから出たら、その時点で負けになっちゃうし……」
まさしく万事休すという状況だ。
「あーあ、こんな時に助けてくれる、白馬の王子さまなんていないのかしら……?」
「追い付いたぜェ!? ほらほらほらァ? 鬼ごっこは終わりでちゅよぉぉぉ!?」
完全に詰みだ。
ここはもうフィールドの端だし、まわりに逃げ込めそうなところもない。
「こんなことで、私の無敗記録が消えるなんてね……。白馬の王子さまは望まないから、誰かいないのかしら……」
どうやら私のここでの最初の思い出は、最悪になりそうである。
「えーっと、白馬の王子さまでなくて良いなら、僕でも大丈夫かな?」
「えっ?」
ぐっと私の手が掴まれる。
突然現れた彼はそのまま、私の端末を自分の端末に重ねると、フェーデの引き継ぎを行う。
「おいおいおい、何してるんですかァ!? 行きなり現れて横入りィィィ!?」
ゲスが何かを言っているが、目の前の彼はまったく動じずに、私に問い掛けてくる。
「お姫様? ……で、良いのかな? あそこの彼、倒しちゃって良いんだよね?」
「え、えぇ。そうなんだけど……」
私は戸惑いつつ答える。
「承った」
彼がその一言を発した次の瞬間。
彼の姿が消えたと思ったら、私の相手だったゲスが気絶していた。
「えっ? えっ!? い、今、何をしたの……? 武器なんて使ってなかったのに……」
私の頭はその未知の技で一杯になる。
「さてと、お姫様。僕の名前は天津限無。君の名前は?」
「あまつ、げんない……。あっ、私は大和光。明日からここに通う一年生よ」
彼に声をかけられたことで我にかえり、一応名乗り返す。
「そうか、君が大和のお姫様か。お姫様呼びは正しかったわけだけど……あれ? ならなんで逃げてたんだい?」
「武装具の登録をしてなかったのよ……」
私は恥ずかしいのをこらえて、そう答える。
「なるほど。ここに来た新入生の何人かは、同じミスをするらしいね。……まさかそれが、お姫様もだとは思わなかったけど」
「わ、悪かったわね……」
自分の顔が赤くなっているのがわかる。
「まぁ、気にやむことはないと思うよ? 誰にでもうっかりミスはあるし」
「そ、そうよ、ね……」
私らしくないミスではあるけども……。
「ってそんなことよりあんた!! 今の技は何よッ!? 武器を使ってなかったわよねッ!? どうやって相手を倒したのッ!?」
自分の感情にけりがつけられた私は、先程の技に対する疑問が再燃し、思わず詰め寄る。
「お、落ち着いて大和さん」
「これが落ち着いていられますかッ!! 私は未知が大好きなのッ!! さぁさぁさぁ、今すぐに教えなさいッ!!」
私は自分を天才だと自負している。
一を聞いて十を知る……それが私だ。
その私が「見た」のにわからなかった。
こんな事は生まれて初めてであり、私の中に再び熱が生まれてしまった。
「……天通流無手の型」
彼はそうぼそっと呟く。
「天通流……? それってたしか、第一回フェーデ世界大会で優勝した人の起こした流派よね?」
「そうだよ。僕は天津流皆伝、天津限無。天津家の次期当主……だった男だよ」
天津流皆伝といえば、その全員がフェーデの最上位階級であるプロフェッショナルで優秀な成績をおさめているはず……。
「でも待って、天津流に無手の型何てないはずよ? というよりそもそも、フェーデの武具に無手はないわ。あなた……何者なの?」
────────────────────────
「あなた……何者なの?」
しまったなぁ……まさかこんなに突っ込まれるとは思ってなかった。
僕はこの学園では一度も、天津流無手の型を見せたことがなかった。
別に秘密にしているわけではない。
ただ、僕に求められているのが天津流皆伝という、武器の技の天才だったからだ。
僕は天通流を、史上最年少の十歳で皆伝に至った。
まわりは僕を天才だと騒ぎ立てたが、僕は天才などではない。
確かに、一度見た技なら完全にコピーできる。
そういう意味では確かに天才なのだろう。
しかし僕は、自分で考えたりすることが苦手だった。
天通流を免許皆伝するには、十指「創解」を覚える必要がある。
しかしこの免許皆伝に至ったのは、天津流百年の歴史でも数人であり、僕は創解を見ることができなかった。
だから古い文献などをあさり、様々な武術の映像記録を覚えた。
そして僕は無手の技を完成させたんだ。
「…………って、こんなのは初対面の女の子に話すことじゃないよなぁ……」
「さぁ、教えなさい、今すぐッ!! さぁ、さぁッ!!」
どうやら僕の呟きは、彼女の声に消されて聞こえなかったようだ。
「あーっと、あれは僕のオリジナルだよ。型として認めれてる訳じゃないんだ……」
「あんなにすごいのにッ!? ねぇあんたっ、あんたバカなの? あんなすごい技を隠すなんて、人類に対する冒涜よッ!!」
そんな、大袈裟な……。
「オリジナルといっても、過去にしっかりと存在した武術だよ。それを現代……つまりは天津流に合わせただけ。そんな大したものじゃ」
「大したものなのよッ!! この私をここまでドキドキさせてるんだからッ!!」
この子はすごいなぁ。
自分に絶対の自信があるんだろう。
期待に応えられていない僕とは違う。
「あんたはもっと自信を持つべきよッ!! この私、大和光が認めているのよッ!!」
すごい。
この子は本心からそう思ってくれてるんだ。
だったら僕も少し、自分を認めても良いの、かな? でも、今は……。
「と、とりあえず、学園に向かわない? 大和さんの武装具の登録もしなきゃだし、これからは学友なんだから、話はいつでもできでしょ?」
「むぅ、仕方ないわね……。約束しなさいよ? 後でちゃんと教えなさいよっ!?」
これは、納得するまでつきまとわれるパターンなのかな? まぁでも、あまり悪い気はしないし?
「わかったよ。今日はもう日がくれるから、明日の入学式のあとで、僕のところまで来てくれる?」
「言質はとったわよ? 約束破ったら、針千本だからねッ!?」
ははっ、こんな子が入ってくるなんて、今年は去年とは違う一年になるかもしれないな……。
「さてと、それじゃあ学園に行こうか? 手続きの場所とかを案内するよ」
「そう? ならありがたくエスコートされるわ」
この出会いが僕の運命を変えるターニングポイントだった……なんてね? ただ一つ言えるのは、僕は彼女に好感を持ってるってことかな?
「楽しくなりそうだ……」
明日からの学園生活二年目。
去年よりも面白くなりそうかな。
運命の日  天才と天才
「最悪ねッ! こんなことなら観光なんかしないで、さっさと学園に向かっておけば良かったわ」
私は今、明日から私が通う学園の生徒に襲われている。
理由は簡単、私がここに来たばかりだからだ。
「たしかに、闇討ちのようなことをしてくる輩がいるとは聞いていたけど、まさかこの私を襲ってくるなんて思ってもみなかった……」
私は今日、ここジャニウス地区にある中で一番の伝統ある魔力騎士養成学園「神薙学園」についたばかりだった。
この神薙学園は、「フェーデ」という世界競技を行う魔力騎士を養成するための学園である。
魔力騎士とは、遥か昔に行われていた相撲をモチーフにしており、「フェーデ」もその起源は無手であったとされる。
そして互いの全力の戦闘を神に奉じる儀式だったのだ。
しかし現在行われている「フェーデ」とは、エネルギーを最大効率で扱える特殊なフィールド内で行う戦闘競技であり、自らの持てるすべてをかけて競う、世界で一番人気のある競技で、世界の人口の半分以上が魔力騎士として登録されており、階級が「ビギナー」「アマチュア」「プロフェッショナル」の三階級。
それぞれの階級で毎日のようにトーナメントが開かれている。
この学園の卒業者にはフェーデの最上位階級であるプロフェッショナルで活躍する者がたくさんいる上、世界一を決める大会で最年少のベスト4を出したこともあるという、まさしく名門校なのだ。
この学園の敷地内では、いつでもどこでもそのフェーデを行うことができ、双方の同意さえあれば、そこがすぐさま戦場になる。
「逃げてばっかかァ? ずいぶんと弱虫なお嬢さんだなァ? ほらほら、武装具を出したらどうでちゅかぁ!?」
「くっ……!! ムカつくけども、なにもできないわね。まさか学園に登録されていない武装具は、展開すらできないとは思ってなかったわ。不覚ね……」
まずはこれから暮らすここの地理などを調べようと、学園に向かうついでに観光なんてしていたら、この様である。
「ほらほらほらァ? いつまで鬼ごっこをするのかなァ? もう少しで端っこでちゅよぉ!?」
「チッ!! ウザいわねぇ……。ギブアップって手もあるけども、それはこの私……大和地区大和島の姫である、大和光のプライドが許さないわッ!!」
フェーデの終了条件は三つ。
一つ……キー武装、つまりはメイン防具の破壊。
二つ……どちらかの戦意喪失、気絶などの判定決着。
三つ……タイムアップ。
「狙うなら、タイムアップしかないわけだけども。……さて、どうしましょうか?」
私は今日初めてこの学園に来たゆえに、地理に疎い。
さすがにこのまま、フィールド内を逃げ切るのは難しいだろう。
「そもそもフィールドから出たら、その時点で負けになっちゃうし……」
まさしく万事休すという状況だ。
「あーあ、こんな時に助けてくれる、白馬の王子さまなんていないのかしら……?」
「追い付いたぜェ!? ほらほらほらァ? 鬼ごっこは終わりでちゅよぉぉぉ!?」
完全に詰みだ。
ここはもうフィールドの端だし、まわりに逃げ込めそうなところもない。
「こんなことで、私の無敗記録が消えるなんてね……。白馬の王子さまは望まないから、誰かいないのかしら……」
どうやら私のここでの最初の思い出は、最悪になりそうである。
「えーっと、白馬の王子さまでなくて良いなら、僕でも大丈夫かな?」
「えっ?」
ぐっと私の手が掴まれる。
突然現れた彼はそのまま、私の端末を自分の端末に重ねると、フェーデの引き継ぎを行う。
「おいおいおい、何してるんですかァ!? 行きなり現れて横入りィィィ!?」
ゲスが何かを言っているが、目の前の彼はまったく動じずに、私に問い掛けてくる。
「お姫様? ……で、良いのかな? あそこの彼、倒しちゃって良いんだよね?」
「え、えぇ。そうなんだけど……」
私は戸惑いつつ答える。
「承った」
彼がその一言を発した次の瞬間。
彼の姿が消えたと思ったら、私の相手だったゲスが気絶していた。
「えっ? えっ!? い、今、何をしたの……? 武器なんて使ってなかったのに……」
私の頭はその未知の技で一杯になる。
「さてと、お姫様。僕の名前は天津限無。君の名前は?」
「あまつ、げんない……。あっ、私は大和光。明日からここに通う一年生よ」
彼に声をかけられたことで我にかえり、一応名乗り返す。
「そうか、君が大和のお姫様か。お姫様呼びは正しかったわけだけど……あれ? ならなんで逃げてたんだい?」
「武装具の登録をしてなかったのよ……」
私は恥ずかしいのをこらえて、そう答える。
「なるほど。ここに来た新入生の何人かは、同じミスをするらしいね。……まさかそれが、お姫様もだとは思わなかったけど」
「わ、悪かったわね……」
自分の顔が赤くなっているのがわかる。
「まぁ、気にやむことはないと思うよ? 誰にでもうっかりミスはあるし」
「そ、そうよ、ね……」
私らしくないミスではあるけども……。
「ってそんなことよりあんた!! 今の技は何よッ!? 武器を使ってなかったわよねッ!? どうやって相手を倒したのッ!?」
自分の感情にけりがつけられた私は、先程の技に対する疑問が再燃し、思わず詰め寄る。
「お、落ち着いて大和さん」
「これが落ち着いていられますかッ!! 私は未知が大好きなのッ!! さぁさぁさぁ、今すぐに教えなさいッ!!」
私は自分を天才だと自負している。
一を聞いて十を知る……それが私だ。
その私が「見た」のにわからなかった。
こんな事は生まれて初めてであり、私の中に再び熱が生まれてしまった。
「……天通流無手の型」
彼はそうぼそっと呟く。
「天通流……? それってたしか、第一回フェーデ世界大会で優勝した人の起こした流派よね?」
「そうだよ。僕は天津流皆伝、天津限無。天津家の次期当主……だった男だよ」
天津流皆伝といえば、その全員がフェーデの最上位階級であるプロフェッショナルで優秀な成績をおさめているはず……。
「でも待って、天津流に無手の型何てないはずよ? というよりそもそも、フェーデの武具に無手はないわ。あなた……何者なの?」
────────────────────────
「あなた……何者なの?」
しまったなぁ……まさかこんなに突っ込まれるとは思ってなかった。
僕はこの学園では一度も、天津流無手の型を見せたことがなかった。
別に秘密にしているわけではない。
ただ、僕に求められているのが天津流皆伝という、武器の技の天才だったからだ。
僕は天通流を、史上最年少の十歳で皆伝に至った。
まわりは僕を天才だと騒ぎ立てたが、僕は天才などではない。
確かに、一度見た技なら完全にコピーできる。
そういう意味では確かに天才なのだろう。
しかし僕は、自分で考えたりすることが苦手だった。
天通流を免許皆伝するには、十指「創解」を覚える必要がある。
しかしこの免許皆伝に至ったのは、天津流百年の歴史でも数人であり、僕は創解を見ることができなかった。
だから古い文献などをあさり、様々な武術の映像記録を覚えた。
そして僕は無手の技を完成させたんだ。
「…………って、こんなのは初対面の女の子に話すことじゃないよなぁ……」
「さぁ、教えなさい、今すぐッ!! さぁ、さぁッ!!」
どうやら僕の呟きは、彼女の声に消されて聞こえなかったようだ。
「あーっと、あれは僕のオリジナルだよ。型として認めれてる訳じゃないんだ……」
「あんなにすごいのにッ!? ねぇあんたっ、あんたバカなの? あんなすごい技を隠すなんて、人類に対する冒涜よッ!!」
そんな、大袈裟な……。
「オリジナルといっても、過去にしっかりと存在した武術だよ。それを現代……つまりは天津流に合わせただけ。そんな大したものじゃ」
「大したものなのよッ!! この私をここまでドキドキさせてるんだからッ!!」
この子はすごいなぁ。
自分に絶対の自信があるんだろう。
期待に応えられていない僕とは違う。
「あんたはもっと自信を持つべきよッ!! この私、大和光が認めているのよッ!!」
すごい。
この子は本心からそう思ってくれてるんだ。
だったら僕も少し、自分を認めても良いの、かな? でも、今は……。
「と、とりあえず、学園に向かわない? 大和さんの武装具の登録もしなきゃだし、これからは学友なんだから、話はいつでもできでしょ?」
「むぅ、仕方ないわね……。約束しなさいよ? 後でちゃんと教えなさいよっ!?」
これは、納得するまでつきまとわれるパターンなのかな? まぁでも、あまり悪い気はしないし?
「わかったよ。今日はもう日がくれるから、明日の入学式のあとで、僕のところまで来てくれる?」
「言質はとったわよ? 約束破ったら、針千本だからねッ!?」
ははっ、こんな子が入ってくるなんて、今年は去年とは違う一年になるかもしれないな……。
「さてと、それじゃあ学園に行こうか? 手続きの場所とかを案内するよ」
「そう? ならありがたくエスコートされるわ」
この出会いが僕の運命を変えるターニングポイントだった……なんてね? ただ一つ言えるのは、僕は彼女に好感を持ってるってことかな?
「楽しくなりそうだ……」
明日からの学園生活二年目。
去年よりも面白くなりそうかな。
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