キーボードなしでは生きていけないので、ハイ

十五月遡夜

会話を断つ呪い

☆今週の一言☆
お絵描きしようぜ!

『デュエルしようぜみたいに言うなよ』
「バトスピやろうぜじゃないの?」

『デュエルしようぜ!!』
「なぜ二回言った!?」

(昨日書き忘れたすみませんでした・・)




俺は路地裏に入ってある人に電話をかけた。
呼び出し音が数回鳴り、プツッと切れる。

『私だ』

高みより静かに見下ろし他者を圧するような低い声。世に静謐を生まんとするそれは、深淵に飲まれるような錯覚を俺に与えた。
いつ聞いても嫌な声だ。
聞くだけで怖気がする。

身を一握りにされる捕縛感、ほんの一瞬もの虚無感が俺と言う存在を肉体から切り離す。依り代を失った精神は視認されることなく宙を舞い肉体へと戻る。
一瞬の出来事であるがゆえにその感覚は酷く長く感じる。時間が遅くなったのか、もしくは自分が加速したのかわからない。

視界が急に明るくなる。
どうやら俺は、目を瞑っていたようだ。
な何回かの瞬きをしてから、だらんとした手に持つものを耳に当て直す。

「何の用だ、親父」

そう、親父だ。
電話の相手は俺の父、霧谷皇鵞きりたにこうがその人だ。

『何、ちょっと息子の様子を聞きたくてね。私の出張が長引きそうなのでで、こうして声を聞きに出たのだよ』
「どっかのお偉いさんの護衛かよ?」
『・・・ほう。どこでそれを?』
「付き合いの延長だ。たまたま話に聞いたんだ」

智花のことは死んでも言わない。
親父コイツの都合で、言葉一つで智花と別れるなんて嫌だ。男女の付き合いがどんなものなのか、同年代の女子と付き合っている身ではあるのだがよくわかっていない。むしろちょっと面倒に思うことの方が多い。勝手に合鍵を作って部屋に入るわ、料理は下手だわ色々だ。

それでも、智花といるのは素直に楽しいものだ。簡単に手放そうとは思わない。サブをからかうのも、授業後の部活でワイワイするのも、どちらかといえば好きな方で奪われたくない日常だ。

言葉は奪われても・・・・・・・・、今の日常だけは渡さない。

『そうか。まぁ今はいい。学校はどうだね?元気に、やっているかね?』
「ああやっているよ。これ以上にないくらいにな」
『ほう?』
「一学期はブレることなく学年一位、模試も全国一位取ったよ」
『ふむ、上々だ』

何が上々だ、だ。
普通に考えれば異常だろう。
勉強しかしてない奴にしか見えなくて引くわ。自分で自分を引くっての。

『では、一つ褒美をやろう。何がい・・・』
「俺の《言葉》を返せ!」
『・・・』

《言葉》を返せ。言葉通りの意味だ。
俺は親父に、言葉を奪われた。
親父以外の人間相手との会話を封じられ、他言できないよう刷り込まされた・・・・・・・んだ。

『それは、できん』
「なんでだ!!」

叫んだのは三年ぶりだった。

「いい加減この《呪い》を解きやがれ!いつになったら、他者と会話ができるようにしてくれるんだ!!」
『まだ、先だ』
「それじゃ分かんねぇよ!一体いつだよ!!」
『・・・』
「黙り込んでんじゃねぇ!!」

店内部に伸びる管の1本を殴りつけた。
耳がつんざくような音が鳴る。同時に視界上部を白い何かが塞いでいる。

「いつになったら《呪い》を解きやがる!そもそもこの《呪い》はなんなんだよ!?現代に呪術や何かがあるってか?ふざけたこと抜かしたらブッ殺すぞ!!」
『何やら、高い物音がするが・・・』
「関係ねぇだろ!さっさと答えろ!!」

溜まりに溜まった鬱憤が爆発し、荒れ狂う激情に任せて喉を絞る。既にガラガラになった器官の悲鳴など知らず、怒りで身体中に力が入る。
歯は軋み、肉は硬化する。
ところどころに浮き出る血管は青い緑。黒い眼に向かう赤い線が見るみるうちに増えていく。

『声帯がないことから話せないの』

違うんだ。

『無神経で悪いけど、声帯がないって先生言ってただろ?あれ・・・』
:生まれてからずっとだよ:
『『!?』』

嘘なんだ!

(全部、コイツのせいなんだ!!)

本当ならもっと前から、いや出会った時からみんなと普通に会話がしたかった。
智花だって名前で呼びたかった。
呼び合いたかった!

日常を綴り過ごす日々が自分の声にできていたらどれだけ良かったか分からない。
「!」や「?」などの記号や顔文字を使ったり、言葉巧みに綴って感情表現しても、文面は文面。液晶画面に連なる無機質で抑揚を見せない文字の羅列を相手に見せる。
そんな行為がどれだけ悲しいものか、わかるはずもない。

決して見せなかった。
見られたくなかったから。

察して欲しかった。
誰にも事を告げれないから。

それでも表情を取り繕って隠し続けた。
けど、ダメだ。
どうしても、抑えきれない。
孤独となった時に流した涙はいくつある?
こぼした嗚咽はいくつある?
怒りと悲しみを交互に流し、重ね広がる混沌を、何回握りしめたと思って嫌がる。

「俺の言葉を・・・」
プツッ。

そこで、通話が切られる。

「返せぇぇぇぇえええ!!!」

切られたことに気づかない氷河は、スマホに向かって絶叫する。
二年ぶりの発声は、この盛大な嘆きを持って断たれ消沈した。
氷河はこの後、近くを警備していた警察官に取り押さえられ、事情聴取を受ける。
が、すぐに解放され、警察署の前には義姉の真由と智花たちが立ち並んでいた。
そして、

「氷、くん」
「氷ちゃん」

その後の言葉は、五人全員の声が重なった。それでも氷河は喋れない・・・・

《呪い》。
それは、霧谷皇鵞がかけたもの。
皇鵞が認めた者以外への会話を禁じ、一言も話すことが出来なくなるというもの。
皇鵞が認める者、まずは自分自身。自身に対する会話を認めていなければ、電話などできやしない。
そして、他にも数える程数人。

霧谷氷河は、下唇を噛み切った。

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