転移先での国取り合戦

てんとう虫

第三章最終話 死は突然に

立て直すとは言ったものの、これといって名案があるわけではない。神の国との戦力差は圧倒的であるのに加え、蟲の国も猛威を奮う力を備えている。

一方で俺達の国は領地を奪われ、兵士をほとんど失い、今日食べるものにも困るという有り様だ。このままでは戦闘準備が整うよりも先に飢えが襲ってくるだろう。

――くそっ!

実際どうしようも無く、沈黙の時間が夜まで続いた。

「ロベルトさん。いっそのこと今いる全軍で攻めこんじゃいませんか? 三聖の方々もいるわけだし……」

気まずい雰囲気に逆らって最初に口を開いたのはアリアだった。

「そんな戦いかたでは絶対に勝てない。今の神の国には三聖レベルの逸材がゴロゴロいるんだ。秒殺がいいところだろう。」

「ルーの竜を使ったら勝てないかな?」

「多少の戦力増加は期待できますが、ほぼ関係ないくらいの戦力差です。」

そこで会話は途切れた。俺はその間、一切口を開くことが無かった。

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その日の夜中、全員が寝た頃、大介は全く眠れなかった。目を閉じても意識がはっきりしており、眠くなる気配も無かった。

仕方がないので少し散歩をすることにした。真っ暗な林の中をランプ1つで歩いた。一歩一歩歩く度に葉っぱや枝を踏む音がする。

空を見上げると、木の枝の隙間から明るい星空が顔を出していたが、月は出ていなかった。

「もう終わりなのかな……」

久しぶりに弱音を吐いた。10年ぶりくらいだろうか。

そんなことを考えながら1時間ほど経ったとき、少し遠くに見える丘が激しく光った。

その次の瞬間、兵士達が寝ているテントの上に超巨大な魔方陣が出現した。

その魔方陣は夜営地を覆って包み込み、辺り一帯が一瞬にして凍りついた。

俺が散歩に行っていなかったら確実に巻き込まれていただろう。

あれが上級魔法か……

だが、そんな感傷に浸っている場合ではない。俺は突如現れた氷山に向かって走り出した。

200mくらいしか離れていない氷山が、こんなに遠く感じるのは今だけだろう。

――こんなにあっさり終わるのかよ!

さらにスピードを上げて走ったが、目の前に映った光景によって、俺は止まった。

アリアとルー、そしてロベルトが氷の中で眠っていた。さっきまで普通に寝ていたが、これは違う。

永眠だ。

「…………」

言葉の1つも出ず、その場に立ち尽くした。神の国強すぎるだろ。

そのまま呆然としていると、一瞬自分の上に魔方陣が見えた。

「あ……」

次の瞬間、俺は冷たく固い氷の中で、静寂と共に死んだ。

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