転移先での国取り合戦
第二章4話 過去
特訓から帰り、宿に戻ってきた。アリアの弓の力には心底驚かされた。だが、一つだけ聞いておきたいことがある。
「アリア、お前の弓かなり凄かったんだけど、なんでまだ3級なの?」
絶対なにかわけがあるに違いない、そう思った。
「実はですね、私が実際に戦場で矢を放つと、味方も死んでしまうことが多いんです。もちろん敵もたくさん死ぬんですが、その功績は味方殺しでチャラになるんです。」
いつも元気いっぱいのアリアの声は少しずつ小さくなっていった。
なるほど、たしかにそれは問題だ。ていうか大問題だ。こんな奴が後ろから射撃していたら、目の前の敵に集中できるはずがない!
「じゃあ、弓じゃなくて剣とか魔法とか使えばいいだろ。お前の力なら、剣でも強そうだし……」
「ダメなんです! ダメなんですよ! 私は弓を愛しているんです!」
「そういえば、前形がどうのこうの言ってたな……。お前が弓を好む理由ってまさかそれだけじゃないだろ。」
「はい、確かに本当の理由は別にあります。ですが、今はそれを聞かないでくれませんか?」
今俺は絶対に聞いてはいけないところをつついてしまったのかもしれない。ここはそっとしておこう。
「ああ、分かった。」
「そんなことより、まだ昼過ぎですから食べに行きません? 酒場とか。」
「行くのはいいが、酒は飲むなよ。こんな早くから酔ったらめんどくさいからな。」
「やったー。さっそく行きましょうよ!」
  ――酒場にて
「おねぇさん! 香味焼き鳥2つとオードブルセット一つ下さい。」
「かしこまりました。すぐお持ちします。」
俺とアリアはテーブル席に座った。前を見るとさっきまで楽しそうにしていたアリアが、深刻そうな表情で何か考え事をしていた。
「大介さん。やっぱりさっきの話の続き、話します。」
そのときの話すスピードや雰囲気は、壮絶な物語を連想させた。
「本当に話していいのか? 無理しなくていいぞ。」
「心配無用です。大介さんにはこれからたくさんお世話になると思います。そんな相手には話しておくべきことです! 」
「そうか、じゃあ頼む。」
私の生まれは弓好きの一家でした。大きな屋敷を持っていて、家族は皆、弓が上手でした。生まれてきた子供には弓だけを教えるのが両親の教育方針で、私も毎日弓の練習に励んでいました。小さい頃は今と違って、弓が嫌いでした。私は兄妹のなかで1番下手で、なんでやらされるのか理解できませんでしたし、なにより手の皮が剥けて痛かったからです。私の両親は仕事で忙しかったので、弓の稽古についてくれたのは、いつも祖父でした。祖父は弓の達人で、弓聖の称号を争うほどでしたが、僅差で負け、その名を得ることは叶いませんでした。私はそんな祖父を尊敬していました。
「アリア、弓を引け。そしてその姿勢を5分間保つんだ。よーいドン。」
成長するにつれて弓の楽しさが分かるようになりましたが、たいてい姿勢の練習と筋トレだけだったので正直つまらなかったです。なので、夜に家を抜け出して撃ったりしてました。それでも毎日筋トレの日々が続きました。その成果が出たのか、ある日一発だけ的に撃たせてもらえました。隣を見ると、兄と姉達が的の中心をズバズバ射ぬいていたので、私は緊張していました。
  ――真ん中にあたれぇぇ!――
渾身の一矢は的の10m横に当たりましたが、そこにあった壁は見事なほどに吹き飛びました。私の腕力が覚醒したのはその日からです。兄妹の人はその様子を見て、唖然となっていました。祖父は矢が全く見えなかったと言っていました。筋トレの効果ってすごいんですね。
そんなある日、尊敬していた祖父が病気で倒れました。もう少しだけ生きて欲しかったのに、医者には今日限りだろう、と言われたのでショックでした。死に際の祖父の手を握り、死なないで、と何度も叫びました。すると祖父は目を大きく開き、最後にこう言いました。
「アリア、弓は心だ。当たらなくても心で撃てば、きっと当たる。もし、辛いときが来ても、決して俯いてはいけない。下を向いてはいけない。そんな者に心の矢が放てると思うか? 弓を愛し、仲間を愛し、そして自分を愛せ……」
そして祖父は笑いながら亡くなりました。そんな祖父とは正反対に、家族は皆泣きました。私はもっと泣きました。
「それが、私の弓を愛する理由です。」
「筋トレしただけで普通そうならないだろ。」
俺はアリアの過去のおかしい点をつっこんだ。
「知らないですよそんなの。それより今泣く場面ですよ! なんで泣いてないんですか!」
「いや、ちょっと面白かったから……」
「やっぱり大介さん酷いですね。」
気づけば外は暗くなり、酒場の客が増えていた。人には変な過去がつきものだ。俺もそうだがな……。
結局酒場で一夜を明かした。
「アリア、お前の弓かなり凄かったんだけど、なんでまだ3級なの?」
絶対なにかわけがあるに違いない、そう思った。
「実はですね、私が実際に戦場で矢を放つと、味方も死んでしまうことが多いんです。もちろん敵もたくさん死ぬんですが、その功績は味方殺しでチャラになるんです。」
いつも元気いっぱいのアリアの声は少しずつ小さくなっていった。
なるほど、たしかにそれは問題だ。ていうか大問題だ。こんな奴が後ろから射撃していたら、目の前の敵に集中できるはずがない!
「じゃあ、弓じゃなくて剣とか魔法とか使えばいいだろ。お前の力なら、剣でも強そうだし……」
「ダメなんです! ダメなんですよ! 私は弓を愛しているんです!」
「そういえば、前形がどうのこうの言ってたな……。お前が弓を好む理由ってまさかそれだけじゃないだろ。」
「はい、確かに本当の理由は別にあります。ですが、今はそれを聞かないでくれませんか?」
今俺は絶対に聞いてはいけないところをつついてしまったのかもしれない。ここはそっとしておこう。
「ああ、分かった。」
「そんなことより、まだ昼過ぎですから食べに行きません? 酒場とか。」
「行くのはいいが、酒は飲むなよ。こんな早くから酔ったらめんどくさいからな。」
「やったー。さっそく行きましょうよ!」
  ――酒場にて
「おねぇさん! 香味焼き鳥2つとオードブルセット一つ下さい。」
「かしこまりました。すぐお持ちします。」
俺とアリアはテーブル席に座った。前を見るとさっきまで楽しそうにしていたアリアが、深刻そうな表情で何か考え事をしていた。
「大介さん。やっぱりさっきの話の続き、話します。」
そのときの話すスピードや雰囲気は、壮絶な物語を連想させた。
「本当に話していいのか? 無理しなくていいぞ。」
「心配無用です。大介さんにはこれからたくさんお世話になると思います。そんな相手には話しておくべきことです! 」
「そうか、じゃあ頼む。」
私の生まれは弓好きの一家でした。大きな屋敷を持っていて、家族は皆、弓が上手でした。生まれてきた子供には弓だけを教えるのが両親の教育方針で、私も毎日弓の練習に励んでいました。小さい頃は今と違って、弓が嫌いでした。私は兄妹のなかで1番下手で、なんでやらされるのか理解できませんでしたし、なにより手の皮が剥けて痛かったからです。私の両親は仕事で忙しかったので、弓の稽古についてくれたのは、いつも祖父でした。祖父は弓の達人で、弓聖の称号を争うほどでしたが、僅差で負け、その名を得ることは叶いませんでした。私はそんな祖父を尊敬していました。
「アリア、弓を引け。そしてその姿勢を5分間保つんだ。よーいドン。」
成長するにつれて弓の楽しさが分かるようになりましたが、たいてい姿勢の練習と筋トレだけだったので正直つまらなかったです。なので、夜に家を抜け出して撃ったりしてました。それでも毎日筋トレの日々が続きました。その成果が出たのか、ある日一発だけ的に撃たせてもらえました。隣を見ると、兄と姉達が的の中心をズバズバ射ぬいていたので、私は緊張していました。
  ――真ん中にあたれぇぇ!――
渾身の一矢は的の10m横に当たりましたが、そこにあった壁は見事なほどに吹き飛びました。私の腕力が覚醒したのはその日からです。兄妹の人はその様子を見て、唖然となっていました。祖父は矢が全く見えなかったと言っていました。筋トレの効果ってすごいんですね。
そんなある日、尊敬していた祖父が病気で倒れました。もう少しだけ生きて欲しかったのに、医者には今日限りだろう、と言われたのでショックでした。死に際の祖父の手を握り、死なないで、と何度も叫びました。すると祖父は目を大きく開き、最後にこう言いました。
「アリア、弓は心だ。当たらなくても心で撃てば、きっと当たる。もし、辛いときが来ても、決して俯いてはいけない。下を向いてはいけない。そんな者に心の矢が放てると思うか? 弓を愛し、仲間を愛し、そして自分を愛せ……」
そして祖父は笑いながら亡くなりました。そんな祖父とは正反対に、家族は皆泣きました。私はもっと泣きました。
「それが、私の弓を愛する理由です。」
「筋トレしただけで普通そうならないだろ。」
俺はアリアの過去のおかしい点をつっこんだ。
「知らないですよそんなの。それより今泣く場面ですよ! なんで泣いてないんですか!」
「いや、ちょっと面白かったから……」
「やっぱり大介さん酷いですね。」
気づけば外は暗くなり、酒場の客が増えていた。人には変な過去がつきものだ。俺もそうだがな……。
結局酒場で一夜を明かした。
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