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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

72話: 第三王子

 ダンッ、という音が鳴って、ややあってこれが自分の拳が机にぶつかった音だと気付く。

「アイカ、落ち着け」

 深く椅子に腰掛けたまま、ラインハルトが私にそう言ってきた。
 焦げた深緑色のジャケットを着ている彼は、その反対側に座るサーストンが赤茶のジャケットを着ていることもあり、かなり対照的に見える。きっとそれは、サーストンが顔を顰めていて、ラインハルトが無表情だからでもあるんだろう。

「……もういい、出て行ってもらいたい」

『調子に乗らないでよね。犯罪者が』

 思わずそう吐き捨てると、今度はサーストンが机を叩く。
 机の上に乗っていた茶器が、カチャカチャと揺れた。

「俺は王子としての誇りを失ったつもりはない。俺は国の頂点の近くに位置する人間だ。馬鹿にしないで頂きたい」

『身分があれば、犯罪を犯しても赦されると? ふざけないで』

 背中を長椅子の背に預けて、腕を組む。足も軽く組んで、目の前のサーストンを睨んだ。すると、私が高位精霊だというのに、思いっきり睨み返してくる。
 豪胆というか、不遜というか。後ろに控えている従者が、可哀想にオロオロしている。

 私は溜め息をつくと、この部屋に来るまでの経緯を思い出した。








「あぁ、そうだ。アイカ」

 私が扉のノブに手をかけると、突然ラインハルトに名前を呼ばれる。
振り向くと、彼はジャケットを羽織るところだった。

「今からサーストンに会いに行く。お前も来るか?」

『サーストンって……。え、会えるの?」

「イリスティア母上から許可は取ってある。お前がいると色々と楽だから、来てくれ」

『何をやらせるつもり?』

「別に変なことはやらなせない。ただ、僕が怒鳴るわけにはいかないから、誰かに声を荒げる役を頼みたいんだ」

 結局面倒な役回りをやらせるつもりだったようで、大きく息を吐く。

 確かに、尋問の時にそれぞれ別の役割を担った者同士でペアを組むと、楽に聞き出せることは多い。飴と鞭をやることで、相手の口を割らせるのだ。
 この場合はラインハルトが飴で、私が鞭になる。

『わかったよ。行くけど、こんな時間に?』

 外は日が暮れている。もうじき完全に太陽が沈んで、夜になってしまう。

「こんな時間しかないんだ。来ないのか?」

『……まぁ、行くけど。ちょっと待って』

 一瞬、そう言ってしまってから逡巡する。
 記憶を取り戻したラインハルトと彼が会ったらどうなるのか。

『アスク、来て』

 でも、どうせこれからの戦いで顔を合わせることになる。
 私は声に魔力を込めて、アスクの名を呼んだ。

「興味深いな。念話の応用か」

『そう。ある程度、両者に技量がないと使えないけど、かなり重宝してる』

 お互いの魔力を知っていれば、かなり距離があっても使うことができる。
 デメリットとしては、念話よりも高い難易度だということと、短い言葉くらいしか伝えられないことが挙げられるだろうか。私が遠距離で使えているのも、実は精霊としての繋がりを利用しているからだったりするし。

「面白い魔法だが、今は時間がない。悔しいな」

『……なんだ、リリエルが移ったのか』

 降ってきた声に上を見上げると、いつの間にか現れていたアスクが、中二階部分から階段を飛び越えて来た。
 寝癖だらけの茶髪に銀縁の丸眼鏡に、いつもと違って紺色のローブを着ている。

『久しぶり、ハルトナイツ』

「今はラインハルトだ、アスク。魔法開発は僕の趣味だ」

『へぇ。ひょっとして、あの悪い癖が治ってないのか?』

「残念なことにな。なまじ才能があるばかりに、矯正も諦めた」

『相変わらず嫌味なやつで安心したよ。……で、アイカ、どうすんだ?』

 予想以上に打ち解けていて違和感のなさそうな彼らに、思わず瞬きを繰り返してしまうが、アスクに声をかけられてやっと頭が動き出す。

『あぁ、うん。今から第三王子サーストンに会いに行くんだけど、念のためにアスクにも来て欲しくて。大丈夫だった?』

『問題ない。戦闘の予定でもあるのか? 悪魔との繋がりが判明したとか?』

「それを今から確かめに行くんだ。アスクはそのまま、アイカは……強そうか服とかあるか?」

 そう言われて自分の姿を見てみると、確かにあまり強そうではなかった。
 会議があったものの、服なんて気にしない精霊達相手だから、普段着と変わらないブラウスとロングスカートだ。派手好きのウィンドール王国の基準で言えば、物凄く簡素で地味と言える。

『……これ、とか?』

 日本の漫画やゲームでよくあるような、ケープとワンピースがくっついているような服を創り出す。刺繍などもあしらえて、できるだけ強そうに。

「……いいんじゃない、か?」

『鎧でも着てけば?』

『却下。別に服なんてどうでもいいでしょ』

「まぁそうだな。行くぞ」

 最初に話題を出してきたくせにそんなことを言うラインハルトを睨め付けると、アスクが笑って彼と肩を組んだ。

『変わってない……いや、昔よりもっと面白いやつになったな』

「お前は進歩がないな」

 軽口を叩きながら歩いて行く二人を見て、どこか安堵する自分がいた。
 ひょっとしたら私は、前世に縛られて彼らがギクシャクしてしまうことを恐れていたのかもしれない。結局は杞憂だったわけだが。

 この分だったら彼も───なんてことを考えてしまうが、すぐにその考えを振り払う。
 記憶の面倒くささは私が一番知っている。彼にあの記憶を取り戻させ、苦しみを与えることなんてできない。だというのに、一度でもそんな考えが浮かんできてしまった己に嫌悪感を抱きながら、私は旧友のような二人の後を追った。





「ラインハルト殿下!」

 東棟から西棟まで歩いてきて、そこから更に数分。
 やっと辿り着いた第三王子の部屋の前には、槍を構えた衛兵が二人立っていた。ラインハルトを見ると、踵を揃えて槍を打ち鳴らす。

「ご苦労。後ろの彼女は、僕の知り合いだ。通してくれ」

「はっ!」

 スカートの裾を軽く摘んで、貴族らしく礼をした。
 胸元につけた青色のブローチに彼らの意識を集中させているから、私の顔は覚えにくいようになっている。

 ラインハルトが一歩進んで、軽く扉を叩いた。

「……どうぞ」

 中からくぐもった声が聞こえてきたかと思うと、扉が中から開かれる。
 平然と歩いて行くラインハルトに続いて、部屋へ入って行った。アスクも身を隠したまま、室内に滑り込んでいく。

 ラインハルトの私室とは違い、全体的に白系の色で統一された部屋。
 装飾品はほとんどなく、部屋がそのまま剥き出しの状態であるような印象を受ける。

「座りたければ座ってくれ」

 唐突にかけられたその声は、良く言えば芯が通った、悪く言えば高圧的なものだった。
 精巧に彫刻が施された椅子の後ろにジャケットをかけて、紺色のシャツとクリーム色のスラックスを合わせた彼は、立ち上がる素振りさえ見せずにこちらを睨みつけてくる。

「……後ろの女は誰だ、ラインハルト兄さん」

『初めまして、サーストン・ウィンドール。アイカって呼んでいいよ』

 手始めに自分の名前だけ伝えて、反応を見る。声は魔法を使って、人間らしく聞こえるようにしているから、すぐに精霊だとはバレないはず。
 彼は小さく「アイカ」と呟くと、わずかに目を細めた。

「異国の名か」

『まぁそうだね。私のこと、知らない?』

「聞いたことが無いが」

 こっそり魔力を見ると、特におかしな変化はない。嘘はついていない、ということなのだろう。
 だとしたら、彼が悪魔と繋がっている可能性はかなり低い。もし繋がっているとしたら、精霊側で重要なポジションにいる私の名前を知らないはずがないからだ。

『まぁ私のことはいいよ』

 そう言いながら、すぐ近くのソファに座る。
 ちなみに、ラインハルトはもうすでに肘掛け椅子に腰掛けていた。マイペースさを絶対に崩さないところに、思わず笑ってしまいそうになる。

「それで、何を聞きに来たんだ。もうすでにイリスティア母上から、一通りの質問はされているぞ」

「最近どうだ」

「…………別に、普通」

 姿が見えていないからと、アスクが大爆笑している。
 まるで、久しぶりに思春期の子供と会った父親だ。話の切り出し方が下手にも程がある。

「外出禁止だと聞いたが、退屈ではないか?」

「兄さんから送られてきた本の方がよっぽどつまらなかった。あんなの読んで楽しいのか?」

「遠隔思念魔法の問題点と改善案についてわかりやすく纏められていて、かなり面白いが」

「……」

 サーストンが黙り込み、沈黙が流れる。
 この第三王子の従者らしい青年が、私の方に紅茶を差し出してきた。顔色があまり良くない彼には、ぜひ胃薬をプレゼントしたい。

「……それで、ララティーナ・ゼンリルはどこにいる?」

『っ!?』

 紅茶が気管に入りそうだったところをどうにか堪え、平静を装う。
 ラインハルトは話し方というか、距離の取り方が苦手すぎるみたいだ。

「……知らないな」

「嘘だ。魔力の揺らぎが不自然になった」

「……チッ」

 王子だというのに思いっきり顔を歪めて舌打ちをするサーストン。

「どこにいるか正直に言ってくれ」

「言ったらどうなる? 俺に利益は発生しないだろう」

「確かにそうだな」

 認めてどうする、と言おうとした瞬間、ラインハルトはサーストンの首元に風の刃を生み出した。

「言わなかったら不利益が発生する。それでどうだ?」

「……っ、俺を殺すつもりか」

「まさか」

 そこで言葉を切ると、ラインハルトは奥のアスクに目配せする。
 アスクは心得たように頷くと、サーストンの背後に歩み寄ってネックレスをかけた。

 くすんだ銀色のチェーンに付いているのは、若草色と橙色が混ざったような不思議な色の水晶。

「なっ、これは」

「お前の位置、身体と魔力の状態、それと会話内容全てを僕は知ることができる。お前を殺すことも可能だ。言っておくが、それを外すことはできないぞ」

 確かに外せない。
 だって、魔力を練った合金でできたそれを、溶接してくっつけているのだ。首のすぐ近くにあるものだから、切断はよっぽど力量がある精霊でもないと無理だろう。強い長さもかなり短めで、余裕がないから頭の方から通すこともできない。

「水晶を破壊することも不可能だ」

「……だったら、俺が話しても意味が無いだろ」

「僕だけはそれを解除できる。製作者だからな」

 泰然としているラインハルトは、サーストンの方を指差す。
 すると水晶が光を発し始め、怪しげな低音を出し始めた。

「十秒以内に決めろ」

「わかった。話せばいいんだろ、話せば」

 即決した割には嫌々という顔を浮かべながら、サーストンは机に視線を落とす。
 そして、数十秒はたっぷり黙ったかと思うと、やっと話し出した。

「……ララティーナは」

 若干の緊張が生まれ、もう一度紅茶を口に含む。

「精霊と一緒にいる」

 再びむせそうになるのを堪え、サーストンの方を窺い見る。
 兄といい弟といい、直接話を切り出すのが好きなのだろうか。

「精霊? どんな精霊だ」

「知らん。俺が知っているのは、彼女は精霊と共にいるということ。王都に……いや、この国にいるのかさえわからない」

「そうか」

 嘘をついている様子はない。サーストンがララティーナの居場所を聞かされていない、というのは事実なのだろう。

 となると、ララティーナへの手がかりは一気に少なくなってしまった。メイスト王国の王太子レイストの言うことが正しければ彼女は彼の国に食客としているらしいが、ウィンドール王国にはその情報は入ってきていない。
 精霊側の方で捜査をしようとしても、あそこの王城には国中の精霊術師が集まっている。

「二つ目だ。……なぜお前は、アマリリス・クリストを殺そうとした」

 感情を押し殺しているのが伺える低い声で、ラインハルトがそう質問する。
 そんな彼を見て、サーストンは口元を歪めて兄を嗤った。

「あぁ、あの黒持ちと婚約したんだったな。傷の舐め合いっていうのは、まさにこのことか」

「……質問に答えないのなら、僕は帰らせてもらう」

「じゃあこれを解除してくれ」

「断る」

 あまりにも会話が兄弟らしくない二人に、アスクが溜め息をつく。私も彼と同じ気持ちだ。
 それに気付いたのか、ラインハルトが咳払いをする。

「んんっ。……アマリリス・クリストを殺そうとしたのは、ララティーナ・ゼンリルに指示されたからか?」

「……っ、そんなわけ、は」

「嘘をついたらわかる、と言っただろ。……なぜララティーナ・ゼンリルはそんな指示を出した」

「……さぁな。母上にも言ったが、俺は何も知らないし、俺の行動は俺の意思に基づいたものだ。ただ一つ言えるのは、あんな女死んだ方が世のためだと───」

『は? 何言ってんの。本気?』

 思わずそんな剣呑な声が出た。
 サーストンがゆっくりと、ラインハルトから私に視線を移す。

「なんだお前。まだいたのか」

『私がいたら、何か都合が悪いの?』

「はぁ。あの女の信奉者は、あの女と同じで自分の考えだけを盲信するんだな」

 その論外な言葉に、感情が溢れ出す前に、机に何かぶつかった音が響く。
 音が耳に届くと同時に自分の右手がジンと痛み、それでやっと自分が拳を振り下げた音だと気付いた。

「アイカ、落ち着け」

 落ち着け、って言われても、ラインハルト自身怒ってる。表情にこそ出していないが、魔力の揺れが激しい。絶対爆発する寸前だ。

「……もういい、出て行ってもらいたい」

 サーストンはそう言うと、自らの従者に視線を向け、扉の方へ目配せをした。
 仮に王子とはいえ、彼は王位継承権を剥奪された犯罪者だ。同等以上の身分も持つラインハルトと、高位精霊である私にそんな態度を示すのは、愚の骨頂としか言いようがない。

 それを理解しているらしい従者は、サーストンに向かって小さく首を振る。が、聞く耳を持たずに今度は私達の方を睨んできた。

『調子に乗らないでよね。犯罪者が』

 軽く挑発の意味も込めて報復すると、サーストンの魔力が怒りに揺れ、彼の拳が机を叩く。

「俺は王子としての誇りを失ったつもりはない。俺は国の頂点の近くに位置する人間だ。馬鹿にしないで頂きたい」

『身分があれば、犯罪を犯しても赦されると? ふざけないで』

 挑発を重ねると、アスクが後ろで口を押さえ身体を折った。どうやら楽しんでいるらしい。

 いい性格してるな、と思いながら、足を組んで、目に力を入れる。
 すると、ただでさえ険しかった視線をさらに厳しくしてきた。

『…………はぁ』

 埒が明かない。
 そんな意味を込めて溜め息をつくと、ラインハルトが口を開いた。

「サーストン、お前の初恋は誰だ?」

『「……は?」』

 思いもよらぬその発言に、サーストンとシンクロしてしまう。

「確か五歳の時、当時お前付きの侍女だった御令嬢に一目惚れしたと聞いたが」

「なっ…!! 何を言うんだ、兄さん!!」

「年上が好みなのか?」

「ば、馬鹿なことを言わないでくれ!」

「だが、演劇に行く時には年上の演者が出るものを好む、と聞いたぞ」

「…………誤解だ」

「誤解なのか。では正しくはなんだ?」

「あ、あくまで、歳を重ねた演者の方が深みのある演技をするというだけで───」

「なるほど、歳を重ねることによって増す魅力が好ましい、と」

「……っ、あぁ、もういい! そうだよ、悪いか!」

 投げやりに叫ぶその様子に、思わず目をぱちくりさせる。
 そういえば、彼がまだ十六歳の少年だったことを思い出した。日本だったら、まだ高校生だ。

 その事実に、さっきの発言への怒りがすっと消えていく。
 王子とはいえ、サーストンはまだ庇護されるべき少年なのだ。そのことでアマリリスを傷つけたことの責任が無くなるわけではないが、あの発言だけはギリギリ見逃せる。それでも、彼を許せるとは到底思えないが。

 なんとも言えない感情が渦巻いた。
 それを抱えながら、まだ幼さが残る顔立ちのサーストンに視線を向ける。

「同年代のあほらしい女共より、年上の落ち着いた人がいい! 文句があるか!」

「文句はないが、疑問はある。アイカ」

 静かな声で私の名を呼んだラインハルト。

「サーストンに残留している魔力が誰のものか、調べられるか?」

 そこで、今までの彼の問答に合点がいく。

『できるけど、それには直接触れる必要があるよ。サーストンはいいの?』

「……何をする気だ」

 明らかに警戒した様子のサーストンを、安心させるようにラインハルトがわずかに表情を緩める。

「不思議ではないか? 自分がなんで、ララティーナ・ゼンリルを好ましく思ったのか」

「……それは、彼女が特別だからだ」

「特別? どんな風に」

「……赤みがかった蜜色の髪、とか」

「透き通るような銀の髪よりそれが秀でていると言い切れるか?」

「だ、誰にでも優しい朗らかなところとか」

「王族としての自覚と責任感が強いお前が、身分制度を平気で無視する人間を好きになるとは驚きだ」

「……」

 サーストンが黙まり込むのを見て、ラインハルトが私に目配せしてくる。
 この隙に調べてしまえ、ということなのだろう。

 立ち上がってサーストンの後ろに回り込む。後ろに控える侍従が僅かに身体を緊張させるのに微笑みかけ、彼の肩に手を置いた。

『失礼。くすぐったいけど我慢してね』

 一応そう声をかけて、ゆっくりと彼の身体に私の魔力を通す。
 その瞬間、元々彼の中にあった彼のものではない魔力が、すっと逃げていこうとする。

 それを魔力の網で捕まえて詳しく調べた。

 ラインハルトの予想通り、それはドロドロとした怨嗟と憎悪が煮詰められた、精霊の魔力。
 そしてそれの核となっているのは、色情の魔力だった。

『…………』

 魔力の網が解け、それらはすっと消えていく。

 溜め息をついて自分の座っていたソファに再び腰掛けた。
 しばらく沈黙が降りるが、それをサーストンが破る。

「…………おい、お前、俺に何をした」

『何もしてないけど。あんたの中にある魔力を調べたついでに、あんたを操っていた魔力を払っただけですが』

「俺を操っていた……。そうか、俺は、操られていたのか」

 驚きに目を見開くサーストンは、興奮気味にラインハルトに詰め寄る。

「わかったぞ、兄さん。俺のララティーナ……ゼンリル嬢に対する好意は、他人によって植え付けられたものだったんだな」

「そしておそらく、アマリリス・クリストへの憎悪を、同じ人物によって生み出されたものだろうと僕は推測している。アイカ」

『ご明察の通り、くだんの魔力はとある少女への溢れんばかりの愛と、別のとある少女への煮え滾る憎しみを作り出してたよ』

「それがわかれば十分だ。アイカ、行こう」

 ラインハルトは立ち上がると、小さく何かを呟きながら熟考の海に沈む弟に声をかける。

「サーストン、僕はもう行く。もし何かあったら、僕の私室に来てくれ」

「あぁ」

 上の空で答えるサーストンに、ラインハルトは軽く頷くと、私の方を見た。

「行こう」

『はーい』

 お送り致します、と従者に扉のところまで送られて、ふと後ろを振り返る。

 そこにいたのは、金髪碧眼で正にヒーローといった風貌の、まるで乙女ゲームの登場人物のように整った顔立ちの青年。

『……』

 今更ながら、はるか遠い昔にプレイしたゲームのことを思い出し、同時にその記憶を消した。

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