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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

35話: 角を持つもの

「……ラインハルト?」

 一番最初にラインハルトに駆け寄ったのは、ユークライだった。
 弟の手を取り脈を測ったユークライは、最悪の事態ではないことに安心してか肩をなでおろす。
 そして、ゆっくりと目を開けたラインハルトに声をかけた。

「ラインハルト、起きたのか?」

「…………お前なのか、ユークライ…?」

「……え?」

「あ………いや、なんでもない、兄さん。ちょっと混乱しているみたいだ」

「……そうか。何はともあれ、目覚めてくれて良かった、と言いたいんだが……」

 ユークライはそこで言葉を切って、私の方と、アスク達の方を見た。
 森の方を警戒しながらも抑えきれていない殺気が溢れる彼らからは、味方でも少し背筋が凍るような感じがする。
 ラインハルトも彼らの殺気を感じたはずだけれど、表情を崩さない。ただ、納得したように頷いた。

「状況は、ある程度把握した」

「そうか。俺は戦うけど、お前はどうする?」

「……僕は、ここでアマリリスを守っていたい」

「わかった。無理はしないように……お前が目覚めて良かった。父上やレシア様もお喜びになられる」

「あぁ。ありがとう、兄さん」

 兄弟はそれだけで十分だったようで、ユークライはまだ目覚めないアマリリスの方をちらりと見て、そしてもう一度ラインハルトの目を見ると、私の方に歩いてきた。
 言葉を交わしていたのはほんのわずかな時間だったけれど、どことなく満足げな表情な気がする。

『いいの?せっかく兄弟水入らずだったのに』

「こんな緊急事態でのほほんと出来るほど、肝は座ってないよ。それに君の方が強いとはいえ、男としては君だけに戦わせるわけにはいかないしね」

『なっ!?』

 思わぬ不意打ちに、顔が赤くなるのを止められない。
 ちょっと待ってよ、イケメン過ぎるんだよ…

 恥ずかしくなって顔を覆いたくなるが、敵が目前に迫っている状況でそんなことはできない。
 それでもユークライから顔を背けると、ニヤニヤ笑いながら私達の方を見ているアスク達と目が合った。

『こんな珍しいもの見れたんで、ますます負けられませんね』

『そうね。可愛らしい我らが主とその旦那様に、勝利を捧げましょう、というところかしら』

『……アイカ様のおかげで、肩に入り過ぎていた力が抜けましたな。感謝を』

 最後の一人が感謝をしてくるから、怒るにも怒れなくなってしまう。

「ひゅーひゅー!お熱いねぇ、お二人さん」

『あ、ヴィンセントは普通に殴るからね』

「なんで俺だけ!?」

 軽くチョップを入れると、ヴィンセントはわざとらしく「いってぇ!」と声を上げた。
 そんな彼だったのだが、顔は笑顔なのに足が震えていて、それを見た時、今度は思わず背中をバシッと叩いた。

「痛いって!二回目は何!?」

『……無理しない方がいい。あいつらは…悪魔は、人間の手に余る』

 ちょうど私がそう言った時、森の茂みから悪魔達が姿を現した。




 一見すると、そこら辺の精霊と大して見た目は変わらない。けれど、彼らの額に生えている禍々しい黒い角が、自分達は精霊や人間と違のだと主張するかのように、辺りに瘴気を撒き散らしていた。

『やっとお出ましか。迎えに行かなきゃいけないかと心配したよ、悪魔サン?』

 アスクが、悪魔の軍団へ向けて一歩踏み出す。
 それだけだったが、音を立てそうなくらい一気に空気が張り詰めた。

 いよいよ、と言うかはわからないが、ついに悪魔と直接対峙する。

 悪魔は、精霊と似て非なる存在だ。どちらも魔力の塊に宿っているのは同じだが、魔力の種類が違う。
 精霊は八属性のいずれかで、悪魔は三属性のいずれか。

 そして、何より違うのは、やっぱり角だろう。悪魔は、角から外気の魔力を吸収したり、周りに瘴気を発したりするらしい。
 瘴気に敏感な精霊にとっては、悪魔の角は、彼らへの憎しみの象徴の一つ、みたいなものだ。



 悪魔の集団は無言でこちらを見つめていたが、後ろの方からそれを割って歩いてくる者がいた。

 その悪魔は一歩前に出ると、こちらを…いや、アスクを睨みつける。

『……威勢のいい餓鬼がいると思ったら、てめぇかよ、"罠師"』

 アスクに声をかけたのは、一人の大柄な悪魔だった。
 浅黒い肌に縮れた金髪、そして片目のところについた大きな傷跡が特徴的な男だ。
 ……まぁ、精霊に明確な性別はないのだけれど、意外と"男"と"女"っていう概念はある。それに囚われない者も多いけどね。

『あんた誰ですか?』

 アスクがそう尋ねながら、かけていた銀縁の丸眼鏡を外して、自分のシャツの袖で丁寧にレンズを拭き始める。
 これは、彼が戦いの前にする習慣だ。本人曰く、いつもと同じ行動をすることで、一種のジンクスにしているらしい。

 当たり前だけど、結構本気みたいだ。

『けっ……てめぇが半殺しにした悪魔の兄貴だよ』

『半殺し…?あぁ、あれですか。初めて俺に立ち向かって生きて帰った、あの少年』

『てめぇ…!その後にあいつが発狂して死んだのは、てめぇの"罠"なんだろ!!』

 うわ、えげつない…

 知っていたが、アスクは敵に対しては容赦がない。そして、実力が有り余るほどある。
 正直、第三位精霊なのが不思議なくらいだ。

『さぁ。俺にはなんの話かわかりませんね。まぁまぁ、あんたもすぐに死んで弟君に会えるんですから、大人しく殺されて下さい』

 アスクは笑顔でそういうと、高く手を掲げて指を鳴らした。
 その瞬間、森の方で大規模な魔法陣がいくつか展開される。

 眩い光を放つ魔法陣の近くにいた悪魔が、呆然としながら消えていった。

『……なっ、おい、お前ら!?』

 そういえば、アスクが最近新しい魔法を開発した、とは聞いていたが、ここまで強力だとは思っていなかった。

『指揮者のいない音楽が美しくないように、剣を持った殲滅者のいない断末魔は美しくない。私が頼んで、静かに逝けるようにして頂いたのですわ』

 ナツミがそう説明している間にも、次々とたくさんの悪魔が声も上げずに倒れて行った。
 倒れた悪魔は、体が小さな粒子となって、彼らのトレードマークである角を残して消えていく。

『てめぇら、何しやがった!!』

『言ってもあんたの頭じゃ理解できませんよ。諦めて下さい────さぁ、戦いの始まりですよ』

 アスクがそう言い終わる前に、いつの間にか手にしたレイピアを片手に、ナツミが敵陣へと走っていく。
 アスクも、ゆっくりとだが悪魔達の方に歩みを進めた。
 ターフは二人を見届けたあと、自らも戦場に飛び込んで行った。

 悪魔は、今見えるだけで数百くらいはいる。その中に単身突撃するのは自殺行為にも思えるが、彼らにそれは当てはまらない。
 殴り倒し、蹴り倒し、斬り倒しながら、どんどん進んでいく。

 彼らの実戦の様子は久しぶりに見たけれど、相変わらず流石だ。

「……ははっ、すげぇや。あんなやつらの中に突っ込んでいくなんて」

 ヴィンセントがそう思うのは仕方ない。

『三人は、歴戦の戦士だからね。全員が過去に悪魔と戦った経験がある。経験のない人間と違うのは、仕方ないことだよ』

 というか、そこら辺の精霊と比べても、彼らの力量は頭一つ…いや、それ以上に抜きでている。

 けれど、ヴィンセントはそれでも自分と彼らを比べていた。
 いや、比べているのは、技量とかではないのかもしれない。

「……自分の妹の婚約者に危害を加えたやつに一発も入れられないんじゃ、兄貴失格かな」

 ヴィンセントは、そう言って自虐的に笑みを浮かべる。
 失格なんかではないのに。むしろ、あそこに突入していくならそれこそ蛮勇で、避けるべきことなはずだと思うのだけれど。

「はぁ……ったく、お前はなんでそんな方向に考えるんだかな」

 ユークライが軽く笑う。
 そういえば、彼は悪魔を前にしても、特になんともなかった。ひょっとしたら、高位精霊である武器の精霊の愛し子であることが、関係しているのかもしれないけれど、ちょっとすごいなぁ、なんて思ってしまう。
 まぁユークライは、普通にすごいんだけどね。

 …って、何を考えてるんだ、私は。

「別に、直接入れる必要はないだろ?後ろから彼らを手伝えばいいさ……まぁ正直、俺達が入る隙間なんてなさそうだけどね」

『ね。今のところはなさそう』

 いつの間にか、敵を蹂躙していっているナツミは、こちら側から豆粒くらいにしか見えないくらい遠くまで進んでいる。

 ここの神殿は特別な造りになっていて、全て柱とそれに支えられる天井だけで出来ている。
 それはここも例外ではなく、外の森に面している。そして離れのようなところに位置するからか、三方を森に囲まれていた。
 今のところ、アスクとナツミ、ターフがそれぞれの面を守って…というか、そこにいる悪魔を倒していってくれている。

「今のところ、って……」

『悪魔も馬鹿じゃない。私達が守っているものがここにあることにも、直に気付く』

「なるほど……そうなった時、俺達の番ってことっすよね」

 遠くから剣がぶつかり合う音がするが、神殿内はいたって静かだ。しかしそれが、どこか神経を張り詰めさせ高ぶらせる。

『……ラインハルト』

「なんだ?」

 私の呼びかけに、アマリリスが眠る台座にもたれかかるように立っていたラインハルトが、視線だけこちらに向ける。

『アマリリスを守って。私達で敵を撃退するから』

 人間だけれども、精霊や悪魔並みの魔力、そして卓越した魔法を操る技術を持つラインハルトなら、悪魔相手にも十分に立ち回れるはず。
 それに、アマリリスを守るということでモチベーションが上がる、というのは私の勝手な予想だけれど、アマリリス関連の事ならラインハルトに任せるのが一番だ。

「最初からそのつもりだ。アマリリスの事は、僕に任せてくれ……今度こそ」

『っ!?』

 一瞬、そう呟くラインハルトに別の人が…かつての友人が、重なって見えた。
 まさか、けど、そんなはず……

「アイカ……後で、話したいことがある」

『…………わかった』

 ひとまず、目先のことに集中をしよう、ってことなんだろう。
 今すぐにでも色々問いただしたい気持ちを抑えて、私は魔力感知を一回切った。ずっと使っていると疲れるし、これがなくても常時周りは警戒しているからだ。

『いつ、あいつらが来るかわからない。一応ここは精霊の神殿だけど、ここは離れみたいなものだから、悪魔も簡単に侵入でき…!!』

 口が動いている間にも、勝手に手が動き、反射的に作り出した風の刃で受け止めると、甲高い金属音が鳴り響いた。
 ギリギリと、剣同士がぶつかり合う音がする。

 剣を振り払い相手から一度距離を取るが、すぐに詰められてしまう。
 かなりの手練みたいだ。

『うんうん、侵入できるんだよねー、こんな感じで』

『うわぁ……キャラ被りするから、それやめてくんない?』

『えー、やだよ。そっちが変えたら?』

 そう言ってコロコロと笑ったのは、黒い艶やかな髪に水色の瞳を持つ、どこか妖艶な雰囲気を持った少女だった。
 彼女が持っている黒いナイフは、一見したら普通なのだが、片方の刃には小さな刃が凶悪なほどにたくさん付いている。
 相手を痛めつけることに特化したような特徴的な武器を持つのは、悪魔の中でそうそう多くない。
 容姿や魔力、そして武器から考えると、彼女の正体は……

『……まさかだけど、三公の一柱だったりする?』

『あははっ!それがさ、しっちゃったりするんだよねー!』

『うわ、最悪……』

 刃を交えながら交わす会話は、剣がぶつかり合う音のせいか、周りには聞こえていないようだった。

 どこからか現れた悪魔の攻撃を、焦りながらも受け止めているジンさんと視線が交わる。
 説明して欲しい、というような視線だったが、あいにくそんな余裕が無い。
 あれ・・を切るべきなのだろうけれど、タイミングが見つからないし、手一杯だ。

『なんで三公が出てくるかなぁ……ねぇ、呪公さん?』

 私の問いかけに、少女はびっくりしたような顔をして、すぐにニンマリと笑った。

『バレちゃったかぁ!』

 そして、何を考えたか私に向かって煙の球を投げつけてくる。

『ゴホッ、おい、逃げ……』

 逃げるのか、という訊ねようとした声は、朗々と響く彼女の声に遮られた。

『我こそは、悪魔が三公の一柱、呪公のカレンである!武功を上げようと思う悪魔共、あたしに付いてこい!精霊ごときに後れを取るようでは、あたしの刃には成りえぬ!わかったなら、このあたしのために、精霊の瞳を取ってこい!』

 威厳たっぷりの、けれど楽しげな声で告げられたその言葉に、悪魔達は大きな鬨の声を上げた。











久しぶりの更新となってしまい、申し訳ないです。
遅くなりましたが、新年明けましたね!おめでとうございます!
今年も、今作を宜しくお願い致します。

そして、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、第一回まんが王国コミカライズコンテスト、一次選考を通過いたしました!
正直通るとは思っていなかったので、驚きが大きかったですが…笑
本当に、今まで今作を読んで、支えてくださった皆様のお陰です。
おそらく二次選考は通りませんが(笑)、この場を借りてお礼申し上げます。
有難うございました。

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