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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

番外編: ニウスの日

 七夕なので番外編です!(謎)
 幕間とは違って、本編にはまぁったく影響しません。
 割とゆるい?ので、お気軽に読んでくださいい。













「ニウスの日?」

 無垢な瞳が、キラキラと輝いて絵本を見つめる。

「えぇ、そうよ。今日はニウスの日。アイとライの二人が、一年で一回だけ会うことを許されている日です」

「そうなのですね!」

『……はぁぁ、可愛いなぁ』

 ついつい頬が緩む。アマリリスは、ほんとに可愛い。

 今私は、絵本を見ているアマリリスを見ている。まだ六歳のアマリリスは、本当に純粋そのもので、色々な事に興味を持つ可愛らしい少女だ。
 そんなアマリリスの隣に座っているのは、アマリリスの母親であるフローレス。柔和そうに見えるが、社交界を取り仕切る首領ドンのような存在である。

 さてさて、そんな二人が見ているのはニウスの日に関する絵本だ。
 ニウスの日は、日本で言うところの七夕。日本のようにお願いごとはしないけれど、大切な人と過ごす祝日。

『一年に、たった一度しか会えない二人。しかも、雨が降ると会うことが出来ない…』

 設定はまんま七夕だ。
 どの世界でも似たような話はある、という事か。

「ねぇおかあさま、わたくし、お外にいきたいわ!」

 可愛すぎる。
 この子が傲慢で高飛車な悪役令嬢になるとは、まったくもって思えない。まぁ、私がさせないけど。

「そうねぇ。ヴィンセントに頼んで連れて行ってもらったら?」

「おにいさま!わかりましたわ。おにいさまをさがしてきます!」

 ヴィンセントの顔を思い浮かべて、私は思わず笑ってしまった。

 ヴィンセントには、精霊術師としてかなりの才能がある。まだ十二歳だというのに、魔法師団から声がかかっているくらいだ。
 あ、ちなみに魔法師団には魔法師と精霊術師が所属している。ヴィンセントが魔法師団に入るとしたら、多分精霊術師としてかな。

 そうそう、ヴィンセントは私の事が見える。だから時々話したりもする。
 けれど私達が旧知の仲だとは、アマリリスにはあまり言いたくないな、なんとなく。

 さて、そんなヴィンセントだが、一言で言うとお調子者だ。すぐに調子に乗る。けれど失敗はしない。だからまぁ、アマリリスを街に連れて行っても大丈夫だろう。

「おにいさまは、どちらにいらっしゃるのですか?」

「多分自室じゃないかしら?」

「ありがとうございます、おかあさま!」

 偉いなぁ。
 ちゃんとお礼を言う人は、後々得をする。アマリリスにも、すっごい得をして欲しい。








「ヴィンセント様、アマリリス様が来られました」

「おー、通しちゃって」

 早速ヴィンセントの部屋にたどり着いたアマリリスは、緊張した面持ちで淑女の礼をとる。
 そっかー、王都は初めてだからすごく行きたいんだね。今までアマリリスは、ずっと公爵領で生活していたから。

 というか、六歳児とは思えない優雅なカーテシー。流石。

「どうした、アマリリス?」

「……おにいさま、わたくしをお外につれていってくださいませんか?おれいもしますわ。がんばって良い子でいますから……」

「……………妹に上目遣いされて無理とか言えないだろ!!」

 急に叫んだヴィンセントに、アマリリスがビクッと体を震わせる。
 いや、なにやってんの?

「ちゃんと俺が連れてくから心配すんなよ」

「わぁ!ありがとうございます!」

 嬉しそうにはにかむアマリリスは、未だに手をぎゅっと握っている。
 …ヴィンセント、後でしめとこ。













「行ってまいります!」

「まいります!」

 きっと両親はあらかじめ予定していたのだろう。二人の準備はサクッと終わって、わずかな護衛を連れて街へ出て行った。
 もちろん私は付いて行く。

 ニウスの日、っていうのがどんなのか気になるしね。




  今日は祝日だから、ただでさえ活気溢れる王都がすごいことになっている。

 見渡す限り一面が人、人、人。
 
 私は空を飛んでいるが、人混みをかき分けて進まなくてはいけないアマリリス達は大変だろう。

 と思っていた。

「ここは人がすくないのですね?」

「うん。ここは貴族専用区画だからね」

 そっかー。やっぱりそうなるよね。

 人の密度がすごい事になっているのは、普通の区画。つまり、平民もいるところ。
 けれどここは貴族の区画。人が少ないというか、閑散としている。

「どうしてきぞくの人たちはまちに出ないのですか?」

 アマリリスが私の疑問を代弁してくれた。

「あー……今日は夜会とかパーティーとかが多いからな。って、アマリリスにはわからないか」

 ははは、とヴィンセントが笑う。いや、どうしてそこで笑う?

 それにしても、夜会やパーティーか。私の感性からすると、対して魅力的に感じられないんだよね。
 …そういえば、アマリリスはもうサーストンと婚約を結んでいたはず。王家の方のパーティーには出なくていいのかな?

 そう。アマリリスは、もうサーストンと婚約を結んでいるのだ。
 いくらなんでも早いと思うかもしれないが、実はこの国ではよくある事らしい。流石乙女ゲーの世界…なんだろうか。

「人がすくないのは、かなしいです…」

「そうか?むしろ、空いてたらすぐに店に入れる。ほら、あそこは甘味処だぞ?」

「え!いきたいです!」

 アマリリスはヴィンセントの手を引いて、「はやくはやく!」と急かしている。
 それを見た護衛達が、ほのぼのとした空気に包まれた。

「『ったく、仕事はちゃんとしなよね…』」

 足元には、白目を剥いて気絶している男達。肩にかけているのは、ボーガンだろうか。

 おかげで人型にならなきゃ・・・・・・・・いけなくなった。
 それにしても、久しぶりに肉体を使う気がする。先に慣れるための準備運動が出来てよかった、と捉えるべきかな。

 実は今日、私はアマリリスに会う予定だ。生身の、人間としての姿で。
 そんな事できるのか、と言われるだろうけど、えぇ、できますよ。私は高位精霊、第二位精霊だ。ある程度ならできない事なんてない。

 さて、アマリリス達はもう甘味処へ入って行った。私もそろそろ動くべきか。

「『あ、あ…』あー、これで声は大丈夫かな?どう思う、リシア?」

「…いいんじゃないですか?まったくアイカ様らしくありませんが」

「それでいいの。うん」

 リシアは私の知り合い。アマリリスとの接触の際の協力者だ。

 今の私は、一般的な日本人の容姿…つまり、黒っぽ髪に黒っぽい目ではない。
 プラチナブロンドの髪にマリンブルーの目。さすがに身長とかまで変えてしまうと体が動かしにくいからそのままだが、ぱっと見で気づく人はいないだろう。
 ましてや、前世の記憶を思い出していないアマリリスは、絶対に気づかないはずだ。

「リシア、今の私は……そう、隣の国からお忍びでやって来ている伯爵令嬢、キールよ」

「わかりました。では、私はその友人のケーシー公爵家令嬢という事で」

「やめなさいよ、身バレしそうな設定は」

「それでしたら、私はあなたの姉、という設定でいきましょう」

 どうして最初からそうしなかった。
 天を仰ぐ。リシアはいい子だけど、どこか抜けている気がする。

 私は溜め息をついて、誰もいないはずの空間に声をかけた。

「さすがに令嬢達だけだとあれだし、二人ぐらい付いてきて」

「「御意」」

 私の指示通り、二人の影達が出てきた。
 よくいる侍女と護衛のような格好をしている。

「リシア、相変わらずあんたのとこの人達はすごいね…」

「…キール、わたくしの事はお姉様とお呼び」

「えー、はいはい……」

 いい加減甘味処へ行きたい。

 回れ右をして暗い路地から出る。
 私は貴族の令嬢らしくお淑やかに、けれど急ぎ足で甘味処の戸をくぐった。

「いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ」

 ここら辺には貴族しか住んでいないからだろう。店員さんも礼儀正しい。
 日本と似ている雰囲気で、思わず頬が緩んでしまう。

 私達が通されたのは、L字型のソファーの席だった。というか、この店にはソファーの席しかない。
 ゆったりくつろぐためなんだろうか。

「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルを鳴らしてくださいませ」

「わかったわ。ありがと」

 私が言うと、店員は一礼して去っていった。

 さて、アマリリスは、っと。
 私がそうさせたのだけれど、アマリリスの席の隣に私達は座っている。自然に声をかけるためだ。

「あら、可愛いお嬢さんね」

 リシアが笑みを浮かべてアマリリスに話しかける。リシアはもう二十を超えているはずだが、優しいお姉さんという感じだ。
 話しかけられたアマリリスはというと、緊張したように固まっている。

「あの、すいません。妹は少し人見知りで」

 ヴィンセントが慌てて助け舟を出す。その時に、さりげなく護衛に目配せをしていた。
 結構いい人材かもね。

「いえいえ。わたくしこそ、いきなり話しかけてしまって失礼しましたわ」

「ふぇっ!はい、あ、いえ。全然、問題ありません!」

 妖艶に微笑むリシアに当てられたのか、ヴィンセントが顔を真っ赤にする。
 …前言撤回だ。
 アマリリスが呆れたような目でヴィンセントを見る。それに気づいた彼は、今にも崩れ落ちそうだ。

 これ以上は可哀想だし、私が助け舟を出してあげるか。

「姉がご迷惑をおかけしました。わたくしは、メイスト王国のマーリン伯爵令嬢、キールと申します。こちらは姉のミネダですわ。以後、お見知りおきを」

 立ち上がってカーテシーをした。すごく久しぶりにやった気がするが、間違ってない事を祈る。

「ご丁寧にありがとうございます。俺は…私はクリスト公爵令息、ヴィンセントです」

「わたくしは、クリストこうしゃくけれいじょう、アマリリスですわ。いご、お見しりおきを」

 可愛い…!
 実は、アマリリスと会話を交わすのは初めてなのだ。いつもこっちを見てくれない────私が姿を見せていないから────アマリリスが私を見ているのが、すごく嬉しくなる。

「失礼ですが、ご一緒してもよろしいですか?この国の事などを、お聞かせして欲しいのですけれど……」

 リシアに再び話しかけられたヴィンセントは、今度はしっかり受け答えをした。

「えぇ、構いませんよ。アマリリスも、いいよな?」

「はい!」

 アマリリスにもオッケーを貰った私達は、二人の座っているソファーへ移動した。

 そこからは、注文をパパっと終えてお話タイムだ。

「ウィンドール王国の一番の特色は、やはり魔法学が進んでいる事ですかね。精霊学や精霊魔法学はメイスト王国に負けてしまいますが」

「そうですわね。後、天文学も進んでいるとか?」

「あー、確かにそうですね」

 実はリシアがこの国の者だとは知らないヴィンセントは、楽しそうにウィンドールの自慢をしている。

 私はというと、アマリリスと話していた。

「へぇ。アイとライ、可哀想ね…」

「そうですわ。二人はわるくないのに、あくまにねむらされて、いちねんに一回しか会えないなんて……」

 かなり感情移入をしているのか、アマリリスが悲しそうな顔をする。

 ニウスの日は七夕とは違って、アイとライが会えないのはライが眠っているから、としている。
 どうして眠っているのかというと、悪魔に力を奪われたから。しかも特殊な魔法で、回復した分だけ魔力を奪うらしい。
 ただ、ある星の川が現れる日には、大気中に神聖な魔力が満ちるから、ライは目を覚ます事だ可能だ。けれど、それでもライは魔法…というか呪いに打ち勝つことが出来ない。
 次第にやつれていった二人は、最後には一緒に心中をする……

 ラストがとんでもなく暗いが、結構いい話だったと思う。
というか、アマリリスの語りが上手だった。話にグイグイ引き込まれてしまう。本当に六歳なのか疑わしいくらいだ。
 これが、悪役令嬢の本気か…!と戦慄した。
 いや、まぁ嘘だけど。

 ちなみに、雨が降ったら会えないのは、神聖な魔力を洗い流してしまうからだそうだ。


 と、さっきまでの話を思い出している間にも、アマリリスの目には涙が溜まっていく。

「………アマリリスさん、わたくし思ったのだけれど、アイとライは最後一緒になれて幸せだったのではないかしら?」

「…え、しあわせ、ですか?」

 アマリリスが、びっくりしたように聞き返してくる。私は頷くと、わかりやすいように説明を始めた。

「アイとライはきっと、なかなか会えなくて辛かったはずよ。しかも、アイは苦しんでいるライを見て悲しかったはずだし、ライはやつれていくアイを見て心を痛めたはずよ」

「たしかに…」

「だから、その苦しみから解放されて嬉しかった、というふうにも考えられると思うわ」

「そう、ですわね…!キールさん、すごいです!」

「あはは、ありがとう」

 私が笑うと、アマリリスも笑顔になった。

「そうだ、アマリリスさん、いっしょにおほしさまみませんか?」

「あら、いいの?」

「いいですよ、ぜひ」

 どこからともなく現れたヴィンセントが、そう言って私達に────というか、主にミネダリシアに熱い視線を送る。
 リシアは苦笑していた。いい、と視線で聞くと軽く頷く。

「では、姉共々ご一緒させてください」

 ヴィンセントがガッツポーズをする。

 そういえば、ニウスの日に告白すると結ばれる、というジンクスがあるらしい。
 まったく、と私は心の中で溜め息をついた。








 電気のないこの世界では、夜空の星はよく見える。
 川のように連なる星達は、贅沢なまでに光っていた。星の中には赤いものや白いもの、青いものなど色々ある。どれも美しく、宝石箱のようだ。

「うわぁぁ!綺麗ですね!」

 ヴィンセント。お前はなぜそういいムードを壊す。
 後で精霊の姿に戻ったら絞めよう。改めて、そう決意する。
 ちなみに、ヴィンセントにはキールアイカだって事は伝えていない。ばらした時にどんな反応をするのか、それがすごく楽しみだ。


 今私達は、さっきの甘味処の近くにある展望台にいる。どうやら貸し切りらしく、他の人は誰もいない。

 それにしても、と心の中でつぶやく。
 展望台は高さがかなりあるので王都が一望できるのだが、もう夜なのにそこかしこに人がいるのがわかる。

 どうやら、ニウスの日はかなり大きなイベントのようだ。

 今まではずっとクリスト公爵領から出なかったから知らなかったが、あの日・・・がこんなふうになっていたなんて。
 少し感慨深いものを感じて、私はしばらく黙り込んだ。

「……そろそろ、わたくし達は失礼させて頂きますわ」

 私の態度をどう解釈したのか、リシアが唐突にそう告げる。
 すると、ヴィンセントが落胆したように肩を落とした。アマリリスはそんな兄を見て、心配そうにしている。気にする必要は無いのに。

「今日はありがとうございました。きっと、よき思い出となるでしょう」

「こちらこそ、ありがとうございました……よければ、また甘味を食べましょう!」

 おいおい。それで口説いてるとかじゃあないよね…?

「ふふっ、そうですわね……キール」

「はい………アマリリスさん、今日は楽しかったわ。色々話を聞かせてくれてありがとうね」

「…いえっ、こちらこそ、キールさんのおはなし、すっごくおもしろかったです!」

「そっか。それはよかったわ」

 あの話の、どこが面白かったのかな?正直、小さい子には難しいと思うんだけど…
 まぁ、アマリリスだもんね。

「では、さようなら。またいつか会いましょうね」

「はいっ、ミネダさん!」

「じゃあね、アマリリスさん」

「…さようなら、キールさん!」

 後ろ髪を引かれる、というのはこの事なんだろうな。


 展望台を降りてからも、二人は手を振ってくれていた。私達は止まっていた馬車に乗り込んで、その場を去る。

「いやぁ、楽しかったねー」

「そうですね。ヴィンセント君、か…」

「あれ、気に入ったの?」

 驚きだ。リシアの性格上、ああいうのは好きじゃないと思っていたんだけど…

「えぇ。姉の息子と歳が近いみたいなのです。あの子の従者に推薦してみようかしら」

 あー、そういう事。
 まぁ、恋愛対象として年下を選ぶような性格じゃないもんね、リシアは。

「気に入ったといえば、アイカ様、ニウスの日の話、気に入られたのですか?」

「え?」

 どうしてそう思ったのだろう。いや、まぁ面白いとは思ったけれど。
 私が首を傾げると、リシアが説明をしてくれた。

「アイカ様は、興味のない事に関してはいつも受け身です。ですがあの話に関しては……」

「いつもの私らしくなかった、って事?」

「はい」

 なるほど。たしかに、あんなに喋ったのは久しぶりな気がする。
 相手がアマリリスだった分を差し引いても、かなり饒舌だったな。

 あんなふうになった理由は、一つ思い当たる事がある。

「リシア、もしニウスの日のあの物語が私の実体験を元にしている、って言ったらどう思う?」

「………はい?」

 なんだか面白くなって、私はしばらく笑い続けた。




 あの夜と同じように広がる空。けれど、あの時と違って私は笑っている。そして、あの時と違って隣に彼はいない……


















 はい、番外編…なはずなんですが、どうして色々重要な事を言ってるんですかね、アイカは?
 まぁ楽しんでいただければ幸いです。よくわかんない発言とかスルーしてもらって構いません……あっ、けど割と本編の影響します。ですが、ちゃんとこれを読んでいなくてもわかるようにはします。ご安心ください。

 何はともあれ、今日は七夕です。皆さんの願いが天に届きますように……

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