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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

27話: ガイラルという種族

 城に入った途端、まず感じたのは鉄の匂いだった。血なのか剣なのか、それとも鎧なのか。わからないけれど、腐臭がしないのはせめてもの救いだろう。

「……っ、と」

 少しクラっとしそうになる。疲労かもしれない。落ち着いたら、仮眠でも取るべきかしら。




 途中で会ったエミーを含めて、私達は二手に別れた。
 私とエスは自室の方に、アイカとアレックス、エミーは反対側へ。




 エスと歩いていると、急にエスが口を押さえた。
 吐き気でもあるのだろうか。

「エス、大丈夫?」

「……だ、大丈夫、です。ちょっと、血に当てられて…」

 血に、当てられる?

「…………えっ?」

「…あ。アマリリスは、ご存知ないのですか?」

 エスが驚いたように私を見つめる。彼女の目は充血しているようで赤みがかかっていて、少し心配になった。

「知らないわ。それよりも大丈夫、エス?疲れているんじゃないかしら」

「疲れては、いません」

 そう言い張るエスには、あまり元気がないように思えた。

「疲れているんでしょう?だったら無理しないで。私も疲れているわ。休みたいわね」

「………疲れてはいませんが、ここにいたくありません。血の匂いが嫌なんです。血を見たくないんです」

「……そう、なのね」

 どういう事、という疑問をぐっと飲み込む。エスが話さないのなら、私は無理矢理聞くべきではない。待つべきだろう。





 しばらく、エスは立ち止まって何かを考えているようだった。
 今は緊急時だ。本当なら、時間の無駄だからこんな事はしたくないけれど、エスの気持ちの方を尊重したい。

 けれど、実は精霊王達との邂逅の後くらいから頭痛がしていた。最初は特に気にするほどではなかったが、だんだん痛みが強まっていっている。放っておくべきではないだろう。きっと誰かに相談────アイカあたりに伝えるべきだ。

 今の私が、合理的に考える事が出来ていないのは理解している。それでも、人の気持ちを無視するような事はしたくない。

「…………アマリリス様。よろしければ、私の話を聞いて頂けますか?」

 やっと、やっと言ってくれた。私を真っ直ぐ見据えるエスの目には真剣な光が宿っていて、自然と背を伸ばした。
 何、と聞くほどお馬鹿さんではない。
 私が頷くと、エスがゆっくり話し出した。

 彼女、エストレイ・ミカ・ガイラルの事を。





 私は四歳の頃までガイラルの里、という場所で暮らしていた。
 ガイラルの里に住むのは、ガイラルだけ。

 ガイラルは、俗に鬼や吸血鬼などと呼ばれている存在と似ている。

 血を飲むことは無いけれど、血を見ると興奮し本能を抑えられなくなる。そして、目が赤く変色する。この状態を私達ガイラルは、赤眼せきがんと呼んでいる。
 赤眼になると、ガイラルはある欲求を暴走させてしまう。

 それは、戦闘欲。

 強者とぶつかり合って自分を高め、命を賭けたやり取りをしたい。そんな欲。
 だから、ガイラルは平和主義だ。少し矛盾しているように思えるが、本当に平和主義。血を見て赤眼になるのを避けるために、できるだけ喧嘩はしない。血も出さないようにしているし、流れたら見ないようにする。
 もっとも、反応するのは人とガイラルの血だけで、動物相手なら全然平気なのだが。

 そんな私達ガイラルは、ある山奥に村を作ってひっそりと暮らしていた。山の下の人間とも友好的な関係を築いていて、のんびりとした楽しい毎日。
 それを私達は奪われた。平穏な日々は蹂躙されてしまった。
 話した事も無い兵士達に、聞いた事も無い罪状で。
 私達は、彼らに山の下の村を脅したと糾弾された。長老がそれを否定すると兵士達が攻撃を始めた。兵士達はそこの領地を治める貴族の配下らしく、ただの村人である私達に勝ち目は無かった。

 里は焼け落ちた。里の大人達は強かったけれど、実戦経験に乏しく、しかも数で圧倒的に負けていた。
 生き残っていたのは私と、私の二人の姉だけだった。
 昨日まで私達に笑顔で接してくれていた里の皆は、もの言わぬ死体になっていて、すごく悲しかったのを覚えている。
 私は姉達と別れた。二人の顔は思い出せない。少し小耳に挟んだ話だと、ちょうどその時期にガイラルの奴隷が売られたらしい。もう会えないだろう。

 姉達と違って、私は売られはしなかった。なぜなら、運ばれる途中で馬車が竜巻にあったから。
 すごい幸運だった。もしあのままだったら、きっと私は奴隷になっていただろう。
 ガイラルの私は、竜巻で死んでしまった兵士達と違って生き延びた。ガイラルの自己修復能力と生命力はとても高い。だから、傷も塞がって死を免れた。

 そして私は、偶然そこを通ったレシア様に拾われた。
 最初馬車の音に怯えて逃げようとした私は、レシア様に声をかけられた。

 ──あなた、一人なの?──

──……はい。皆、死んじゃいました──

 どうしてかはわからないけれど、私の答えを聞いたレシア様は、私を気に入ったのか王城へ連れ帰った。
 
そして私は訓練を受けた。戦闘の能力だけでなく教養も必要とされていて、毎日鍛錬と勉強ばかりだったけれど、私は必死に努力をした。
それは恩人に報いるためでもあったし、もう同じ悲劇を起こさないためにでもあった…







「エス…」

 私は思わず彼女の頭を撫でていた。
 エスは驚いたように私を見るが、手は止まらない。

「辛かったよね……私が言うのも、おこがましいのかもしれないけど」

「……いえ。そんな事はありませんよ」

 相変わらず感情を感じ取りにくい声だが、不思議と喜んでいるように思えた。
 本来なら、ここはエスを慰めたり何か感動する言葉をかけるところなのだろうけど、あいにくガイラルという種族に対する興味が強すぎる。

「エス、ガイラルについて聞いてもいいかしら?」

「はい。構いませんよ」

 本人が良いと言っているのだ。せっかくの機会だし、色々聞いてみたい。
 ずきり、と頭が痛むが、探究心の前には痛みなんて大した事はないようだ。
 …って、少し恥ずかしいわね。

「じゃあ、早速だけど、赤眼って抑えられるの?」

 もし抑えられるのなら、それの手伝いをしたい。そうすれば、エスももっとのびのびと生活出来るだろう。

「できます」

「本当!?方法は…」

「すいません。わからないのです。大きくなってから、と大人には言われていて。大人の中には抑えていた人もいました。ただ、かなり少ないのですが…」

「そうなのね…」

 知らないのなら仕方ない。

「じゃあ別の事を。ガイラルと人の違いって何かしら?」

「赤眼だと思います。それ以外はすごく似ていますね。食事、寿命、かかる病気…ほとんど同じです」

「なるほど…」

 だとしたら、ガイラルは人の変異種のようなものなのかもしれない。
 というか、人って変異種が生まれるの…?
 新しい疑問が出てくる。とりあえずこれは後で考えよう。

「……あ、ガイラルって魔力保有量が多かったりする?」

「はい。体力的にも優れています。それに、記憶力にも優れているらしいです。比べた事がないのでわからないのですが」

「……」

 実は、エスはすごい優秀なのではないか。少なくとも、私の護衛なんかではもったいないくらい。

「…エス。もし護衛を降りたくなったら、遠慮なく言って頂戴ね?」

「降りたりしません。私はもうすでに、アマリリス様に忠誠を……」

「あらあら。エストレイ、楽しそうね?」

「……レシア様?」

 突然言葉を止めたエスが、前を見て呟く。彼女の視線の先を見ると、そこには国中の女性の尊敬を集めると言われる、あんな出来事の後なのに美しさを損なわない、陛下の正妃であるレシア様がいらっしゃった。
 会ったのはわずか数日ぶりだったけれど、改めてその凛とした姿勢に見惚れる。けれど…

「御機嫌よう、レシア様」

「御機嫌よう、アマリリスちゃん」

 精霊王から聞いた悪魔についての話、そしてレシア様がレシア様ではない、という事を思い出して、私は密かに緊張していた。いつでもエスを連れて逃げれるように、レシア様の一挙一動に集中する。

「アイカ様も待っていらっしゃるわ。付いてきて」

 レシア様はそう言うと、笑みを浮かべて歩いて行った。
 私はエスを連れて、警戒しながら後に続く。


 いつも聞こえる王城の鐘が、少し悲壮感を漂わせながらを朝を告げた。














 ガイラル、というのは自分で考えた種族です。そこまで触れていませんが、いつか色々書きたい!と思っています。

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