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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

25話: 祝福、そして目覚め

『君が三歳の時に、レシアに宿る悪魔が暴走した。……悪魔の気配に敏感な君はそれを止めるために、僕達を使役した。あ、あと悪魔についてなんだけど……うん、アイカから聞いて』

「畏まりました」

『あぁ、それと、君の知っているレシアはレシアではない』

「え……どういう、意味なのでしょうか?」

『はぁ。……レシアのい────』

『と、という事よ。何か質問はあるかしら?』

 光の王を強引に遮って、水の王が微笑む。
 私は首を横に振った。何を言いかけたのかは気になるが、言及しない方がいいだろう。

 私が何も言わない事に、水の王はほっとしたように肩をなでおろした。

『ふぅ…あ、そうそう。あなたに精霊に対する強制力が無いのは、私達で魔法を使っていたからなの』

「……え、そうなのですか?」

『あら、アイカに教えてもらっていなかったのね。あなたは今までずっと私達を使役していたの。だから、他の精霊を使う事が出来なかったのよ』

 アイカからは、まったくもって聞いていない。そういえば、前に訊ねた時はうまく別の話題に誘導された気がする。

 というか、スルーしてしまったが、私はずっと精霊王を使役していた…?

「失礼ですが、わたくしはずっと皆様を使役していたのですか?」

『あぁ。そういう事だな』

 火の王は大きく頷いた。その時に、身に纏っている炎が揺れる。

『俺達を使役しながら他の精霊に命令なんて、どう考えても不可能だからな』

『私達の力は、他の精霊と比にならないほど強大だ。アマリリスは、我々全員を使役して命令力をそちらに回していたのだよ。あぁ、なんと悲しき事か。少女は精霊魔法を、人々を守る精霊魔法を使っていたというのに。少女は、精霊魔法が使えぬ事に悩んでいたとは、なんと非情なものか!これはまるで────』

『すまねぇな。こいつは常時こんなんだから、まぁ無視してもらって構わねぇよ』

「は、はぁ…」

 返答に困る。
 いや、私も正直無視したかったけど。だって、あまりにも表現が、なんというか…独創的だから。しかも大袈裟で、反応しにくいのだ。

 ちなみに、風の王は私達の会話の間も楽しそうに言葉を紡いでいた。「新たな世界で旅に出る少女は…」とか「仲間を作った少女は…」など、やはり詩人みたいな方だ。

『えぇっとね、今のアマリリスは、第一位精霊…つまり私達を含めた全ての精霊を使役できるよ。あと、アマリリスはその影響で火属性魔法と風属性魔法しか使えなかったの。今は全属性使えるから、後で試してみな?』

 闇の王がサラッと言う。

 ……いや、全属性って。冗談だろうか?
 もっとも一般的な無魔法さえ使えなかったのに、全属性?更に精霊魔法も、精霊王以下全ての精霊で行使可能?

 一気に色々な事を知りすぎて、少し目眩がする。これらの事が本当にできるとしたら、それはもはや英雄レベルだ。ラインハルトでさえ、精霊魔法の適性はあまり高くないのに 。

『…おーい、アイカがアマリリスを戻せってうるさいぞー』

 雷の王の声が耳に入った。

『もう?悲しい』

『えぇ。もっと話したかったわ』

『アイカを怒らせちゃ面倒っしょ。返してあげようさ……っと、その前にやる事があったっしょ』

 土の王はそう言うと、私に手のひらを向けた。すると、橙色の光が私を包む。その光からは、土魔法の力が感じられた。
 光に触れてみると、少し震えて逃げて行ってしまう。幻想的な光の球を思わず目で追ってしまう。

『抜け駆けはずりーぞ!』

『君らがダラダラしてるのが悪いっしょ』

『私も、祝福を』

 光がどんどん増えていく。慌てて自分の体の方に視線を向けると、無数の光がそこにあった。

 赤い光、青い光、緑の光、橙の光、黄の光、銀の光、白い光、紫の光。

 暖かい光が私の周りをぐるぐる回っていく。光はどんどん強くなっているのに、不思議と眩しくはなかった。スピードがどんどん加速していって、ついに弾けると綺麗な光の粉が舞う。

『精霊王の祝福を』

 光の王が言うと、他の精霊王達もそれに追従する。

『『『精霊王の祝福を』』』

 その言葉が聞こえた瞬間、グラッと視界が揺らいだ気がした。けれど持ち堪えると、今度は頭が冴え渡るように感じる。
 いや、頭が冴えているだけじゃない。体の底から力が湧き上がるようで、それに魔力も力強く脈動している。

『アマリリス、君は僕達精霊王に認められた。僕達が与えたその力を持って、悪魔を打ち払ってくれ』

「…畏まりました。全身全霊を以て、悪魔を打ち払いましょう」

 礼をすると、足元から光が溢れた。この魔力は、アイカのものだろう。いや、アイカだけじゃない。八人の精霊王の魔力もある。

『…しばらくの別れ。元気で、アマリリス』

 はい、と答える間もなく私は王達の前を去っていた。














『アマリリス、あの頃の記憶忘れてる?』

『あぁ、恐らくな。きっと、アイカが何かしらしたんだろ』

『はぁ。余計な詮索は、はぁぁ……やめた方がいい』

『そうよ。それに、たとえアマリリスが"リリエル"としての記憶を持っていなくても、彼女は恩人じゃない』

『水の王の言う通りさ。アマリリスは悪魔を退けたっしょ。その事実だけで、私達がアマリリスを助ける理由には事足りるさ』

『念の為、アマリリスに護衛でも付けとくかー?』

『その必要はないと思うがね。アイカは、精霊界一強い。けれど人間界では、その力を封印している。あぁ、アイカ、その身に宿る強大な力のせいで────』

『アマリリスの婚約者のラインハルト君、でしたっけ?彼、大丈夫ですかね?なんか、悪魔の…』

『はぁ。闇の王、それをアイカの前では……決して、言わない方がいい』

『えっ?アイカさん来るんですか!?』

『あぁ。来ると言っていたぞ?』

『えぇぇ!!』











『…あぁ、めんどいんだよ!』

「ふふっ。二人相手では、さすがの高位精霊でも辛いでしょう?ははっ」

 目を開けて真っ先に入ってきたのは、私を庇うように立ち回るアイカだった。
 いや、私だけじゃない。衛兵や騎士達、そして眠っているように見えるラインハルトも庇って、アイカは敵の攻撃をさばいている。

 不意に、すぐ近くから禍々しいものを感じた。ラインハルトからだ。有り得ないと思いながらも、眠ったように動かない彼の手を握る。
 その手はひどく冷たくて、まだかすかに脈拍は感じられたけれど、私に不安を与えた。

「ライン、ハルト?」

 返事は無い。
 その事に、身が引き裂かれるような辛さを感じる。

「アマリリス嬢、体は大丈夫?」

 その声に顔を上げると、ユークライ殿下がいらっしゃった。
 怪我をしているようで、右腕を庇っている。それでも笑顔を浮かべているのは、流石としか言い様がない。

「はい。────ラインハルトは、目覚めるのですよね?」

「…………あぁ」

 良かった、と胸を撫で下ろす。けれど、油断出来ないのだが。もしアイカが負けたりしたら、きっと私達は為す術もなく殺されるだろう。

 ラインハルトを守ろう、と改めて決意する。
 ふと、私は自分の体に目を落とした。腕には、ラインハルトから貰ったブレスレットがある。それはいいのだけれど…

 いつのまにか、私はさっきまでの黒いドレスを着ていた。

 着替えた覚えもないし、そもそも理由も無い。
 後でアイカに聞いてみよう。アイカならきっと知っている。このドレスについて、精霊王について、悪魔について、そして、ラインハルトから感じられる禍々しい魔力について。


 私がこんな事を考える間にも、アイカはケイル・ジークスと、そしてもう一人と剣を打ち合わせていた。

(…あれ?アマリリス、起きたの?)

(うん。さっき戻ってきた)

(そっか……ねぇ、戦える?)

 えっ、と声を漏らしそうになる。アイカが苦戦している、という事なのだろうか。それに、どうしてユークライ殿下じゃないのだろう。

(戦え…るんじゃないの?)

(いやいや、私に聞かないで…じゃあバリアだけでいいや。本気出したいから)

(……わかった)

 言われた通りに、周りに被害が出ないように魔法障壁を張る。
 それにしても、無の魔法もちゃんと使えるようになっていた。他の属性も試したいが、後でにしよう。

「あっれれ。アマリリス嬢、起きてたんですか。永遠に眠ってても良かったのにねぇ」

「…あぁ、そうだな」

 そう言ったのは、ケイル・ジークスの少し後ろにいる黒ローブの男だった。

「…え?」

 嘘だと思いたい。

 この声は、アメジストレインのメイン攻略対象者のジェイ・ヴィー。
 寡黙な青年で、女性が苦手。その理由は、昔ケバケバな女の人が幼い彼に迫ったから。その出来事以来、家族以外の女性とは、同じ空間にいるだけで嫌な気分がするらしい。
 もっとも、お約束だけれどヒロインは別。初めて仲良くできた異性の友人に、彼はいつしか惹かれていた…という感じだ。

 さて、父が魔法師団長である彼は、高い戦闘力を有する。特に、雷属性に高い適性があるらしい。

 いくらアイカでも、この二人を相手取るのは難しいだろう。
 それは、ラインハルトにしても同じ…

 私は拳をぎゅっと握り、二人を睨んだ。

「あなた達が、ラインハルトを傷つけたの?」

「おやおや。怒ってますか?ははっ」

「答えて!」

「…あぁ。俺達が、第二王子を倒した」

 そうか、この二人が。

「あちゃー。ジェイさん、言っちゃダメでしょぉ」

 ケイル・ジークスがなにか言っているが、私の耳は拾おうとしない。


 ラインハルトを傷つけた愚か者に、制裁を。


 誰かが、そう囁いた気がした。

「……そうね。ラインハルトを傷つけた愚かな人に、制裁を加えなくてはね」

 私は右手を上げると、アイカと切り結ぶ二人の方へ向ける。
 自らに眠る魔力が形を作って顕現する。脳裏に浮かぶのは、前世の記憶にある黒い銃、そしてそこから発射される弾丸。
 魔法はイメージ力がものを言う。たとえ強大な魔力を持っていても、しっかりとしたイメージがないと魔力を事象にうまく変換できず、全ての魔力を魔法につぎ込めない。それはつまり、より強いイメージを持てば魔力のロスが減り、威力も増すという事。

「………風よ、穿て」

 彼らの息の根を止める事はかなわなかったけど、風はローブを吹き飛ばした。
 ケイル・ジークスの赤みのかかった茶髪が、ジェイ・ヴィーの蒼色の髪が、私の起こした風に吹かれて舞う。

「ははっ!風が障壁を超えたよ…へぇ、意外とやるねぇ」

 言い終わらないうちに、ジェイ・ヴィーが剣を構えて地を蹴った。
 狙いは私、そして私の後ろのラインハルト。

 ラインハルトを、これ以上傷つけさせはしない。

「…消えて」

 球体にした魔法障壁バリアでジェイ・ヴィーを囲む。その中に火を放つと、漂う砂埃が一瞬止まったように見えた。
 すると、轟音を鳴り響かせながら爆発が起こる。

「アマリリス嬢、今のは一体…?」

『粉塵爆発…だよね?』

「えぇ」

 念の為に、私達の前に防御魔法を展開させておくのも忘れない。
 万が一失敗してラインハルトを傷つけるなんて事になったら、悔やんでも悔やみきれないだろう。

『…………構えて!』

 障壁にヒビが入る。そして大きくなったかと思うと、障壁全体が砕けた。

 そこから出てきたジェイ・ヴィーは、無傷とは言い難い。
 髪はちぢれて、服もところどころ破れている。左腕を庇うように歩いているという事は、負傷したのだろうか。

 自分が起こした事なのだが、不思議と何も感じない。

「ジェイさん、何やってるんですか。あなたともあろうお方が、一介の令嬢ごときに遅れを取るなんて」

「……彼女は、ただの令嬢では無…い?」

 残念ながら私は優しくない。だから、話している相手に攻撃もする。

 五つの魔法陣────風魔法、水魔法、雷魔法、土魔法、無魔法────を展開させる。

「ラインハルトを傷つけた罪を知って」

 それぞれの魔法陣から、属性ごとの刃が飛び出す。殺傷力も充分にある刃達は、勢いをつけてケイル・ジークスとジェイ・ヴィーに向かっていった。

「くっ…精霊よ、僕達を守れ!!」

 ケイル・ジークスが腕を高くあげる。途端に、精霊達の力が荒れ狂うのを感じた。

『嫌だぁ!!』『やめて!』『痛い…』

「あ……」

 これが、アイカの言っていた精霊から魔力を徴収する魔法。
 精霊達の嫌がる声が、苦悶に満ちた声が、耳の奥まで届いて響いた。

 惨い。酷い。恐ろしい。

 どんな言葉でも言い表せないように感じる。ただはっきりしているのは、この魔法は存在すべきで無いという事。

『精霊達が集まってたか…』

「ははっ!もう幻影なんかには踊らされませんよ!!」

『くっ……精霊達はすぐに逃げて!』

 アイカの声に、ケイル・ジークスから逃れられたわずかな数だけが逃げていく。
 それを追撃しようとするケイル・ジークスに、アイカが雷魔法を叩き込む。

「……ユークライ殿下、敵戦力はどれくらいですか?」

 束の間の、本当に数秒の余裕。それを情報収集に使う。
 私の質問に、殿下は目を見張る。しかし、すぐに答えてくれた。

「アマリリス嬢が気を失う前にすでにいた少年…ケイル・ジークスらしき人物。そして、私が彼の逃亡を妨害しようとした時に現れたもう一人…ジェイ・ヴィーと思われる人物」

 明言するのを避けているのは、周りに衛兵などがいるからだろうか。アイカなどは、普通に名前を出していそうだけれど。
 腐っても貴族の一員、それも有力な貴族の子息だ。もっとも、私の中で彼らはもはやただの賊だけれど。

「強さで言うと、ケイル・ジークスがあの魔法・・・・を使わなければ私より弱い。ジェイ・ヴィーは、周りを気にしなければ倒せるな」

「ありがとうございます」

「…まさか、自分で戦うわけでは無いよね?」

 そのまさかです、とは言わずに私は礼をした。そしてアイカに思念会話で伝える。

(アイカ、三秒後にそこから逃げて)

(……策が、あるの?)

(ある。お願い、信用して)

(…………はぁ。わかった)

 これで憂いも無くなった。心置き無く彼らを攻撃出来る。

 十三年前に悪魔を退けた、聖なる魔法を以てして。

「…………ふぅ」

 詠唱はいらない。必要なのは、確固たるイメージだ。
 光が現れて私の手元に収束する。それは剣のような形をとった。
 私は自然とその光の剣を握って、そして振りかぶっていた。

「死んで」

 光の斬撃が真っ直ぐに────ケイルとジェイの二人を目指して、大地を抉りながら進む。
 一際斬撃の輝きが大きくなったその時、王都中に響き渡るほどの地響きがした。




















 戦うヒロインアマリリス!!
 今回は結構伏線多めです。








 そして!!
 なんと、お気に入りが100を超えました!!
 100という区切りを迎えられたのは、いつも読んでくださる読者の皆様のおかげです。本当に、ありがとうございます!!!
 これからもよろしくお願い致します!

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