【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む
23話: 前哨戦の始まり
 振り返ると、そこにいたのはアイカだった。
 かすかに微笑んで、そしてやけに冷めた目をしている。私の方を向いているのに、その目は私ではなく他の何かを見ている気がした。
『ラインハルトのとこ、行くんでしょ?』
 どうしてわかったの、という疑問を飲み込む。きっとアイカじゃなくても、さっきの私の行動を見ていたら同じ事を考えていただろう。
「……うん。」
 私が役に立つかはわからない。
 けれど、ラインハルトに会いたかった。彼が無事か、自分の目で確かめたい。
 アイカは笑みを深めると、私に手を差し出す。その手を取ると、彼女は優しく握り返してくれた。
『……連れてくよ。歯、食いしばって。』
「…………え?」
 浮遊感がしたと思ったら、周りの景色が後ろへと飛んでいった。
 かすかに涼し気な鈴の音がしたのは、気のせいだろうか。
 気付いた時には、もうすでに庭園の入口にいた。
「……っ!」
 庭園は、城の中以上に酷い有様だった。
 植物の緑は大半が黒くなっていて、火が上がっている。煙が立ち込めていて、遠くがほとんど見えず、怒声と刃がぶつかり合う音だけが聞こえた。
 王宮の顔でもあり賓客をもてなす際に使われる庭園が、これでは修復にもすごくじかんがかかるだろう。
「一体、誰が……」
『ラインハルトのいるところがわかった!今から飛ぶよ!』
 私が返事をする前に、アイカはもうすでに魔法を行使していた。
 足が地面から離れて、少し怖くなる。
 その間にも、私達は上昇していた。
『三秒で着く!ちょっとだけ我慢してね!』
 いきなり体が、ありえない速さで空中を進む。けれど、防御魔法でもかけてあるのか、あまり空気抵抗を感じない気がする。
 私は目を閉じずに、眼下の庭園を見た。さっきまで綺麗だったのに、汚されてしまった王の庭。
 怒りがふつふつと湧いてきた。私だって貴族だ。城をめちゃくちゃにされて、王家────ひいてはこの国そのものを侮辱されていて、我慢出来るわけがない。
 歯をグッと食いしばった。今の私では力不足だ…
 アイカの宣言通り、三秒後には地面に着いた。
 足が着いた瞬間、倒れこみそうになる。それを、アイカが支えてくれた。
「ありがとう、アイカ。」
『うん。……あ、いるよ。』
 アイカが指を差したところにいたのは。
「ラインハルト!!」
 黒いローブを着ている小柄な人物と対峙していたのは、会いたかったあの人だった。
 ラインハルトは振り向いて、笑みを浮かべてくれる。だが、遠目でも怪我をしているのがわかる。
 彼を見つけた事が嬉しくて、そして同時に心配で駆け出した瞬間。
 何かが、私をめがけて飛んできた。
 避けろと頭は言っているが、体は一歩も動かない。
 永遠に続くかと思った一瞬は、アイカの声で破られた。
『……あんさー。調子乗んじゃねぇよ、ガキが。』
 アイカの低い声が響く。
 私の目の前で、氷の剣が止まった。そしてそのまま砕け散る。氷の破片が全てその場に落ちていった。
「おや、精霊ですか。面白いですね、ふふふっ。」
『君、ケイル・ジークスでしょ。私の愛し子に手を出すとか、殺されたいの?』
 彼女の地を這うような声に、言われているのが自分じゃないとわかっていても背筋が凍える。
 だが、黒ローブの少年────ケイル・ジークスは泰然とした態度で笑っていた。
「……僕がケイル・ジークス?ふふっ、違いますよ、はははは!」
 彼の笑い声から狂気が感じられるようで、私は一歩後退る。
 そんな私を見ると、ケイル・ジークスは更に楽しそうに笑う。
「ラインハルト、逃げて!そいつから離れて!」
「そいつって…ひどいですねぇ、アマリリス・クリスト公爵令嬢?」
 ねっとりとした彼の言葉に、嫌悪感を覚える前に自分の耳を疑ってしまう。
 ゲーム内でのケイル・ジークスは、小動物のような可愛い系の男の子だ。間違っても、目を合わせたくないと思うはずがない。
 現に魔法学校時代も、ヒロインの取り巻きだったからあまりいい印象はなかったが、ここまでも狂人のようになるなんて。
 この世界は、ゲームとは違う世界なのではないか。
「……ふふっ、あなたの婚約者を傷付けたらどうなるかな?」
 思考が強引に戻された。
 婚約者────ラインハルト…?
「…………えっ!?」
 急に魔力が濃くなるのを感じた。それも、ケイル・ジークスの周りで。
 水の魔力の鼓動が高まるのにつれて、私の心臓も拍動を強めていった。
「ははっ、黒の忌み子なんて死ねばいい!」
 嘘っ、嫌、嫌だ!
「ラインハルト、避けて!!」
「来るな、アマリリス!!」
 ラインハルトの四方に魔法陣が現れ、そこから氷の剣が降り注ぐ。更に、別の魔法陣も現れて、それは雷の剣を生み出した。
 轟音が鳴り響く。手を伸ばすが私の足は恐怖で動かなかった。
 自分を叱咤して、震える足を踏み出す。
「嫌だよ…ラインハルト!!」
『アマリリス、危ないよ!この魔力は危険だ!!』
 助けに行きたいのに、やっと一歩踏み出せたのに、突然巻き起こった風が邪魔をして進めない。
 必死に火の魔法を連発したが、適性が低い私ではダメージが通らない。
「ふふっ、ふははは!!魔法の天才も、彼らの絶対的な力には敵わないな!!」
「やめて、やめてよ……」
 長い永い時間が経っていたように思える。
 風が止んで、魔法陣も消えていた。
「ラインハルト!!」
 砂埃のせいでよく見えない。
 私は目を閉じて、自分に眠る魔力へ力を集中させた。
 そこにいるラインハルトを傷付けないように、力の強さを調節する。
「……風よ。」
 最小の魔力で風を起こす。
 舞っていた砂埃が、一斉に飛んでいく。だが、私には魔法の成功を喜ぶ余裕なんて無かった。
 倒れているあの人を見つけたからだ。
 血を流して、折れた剣を持っているあの人。
「ライン、ハルト…?」
 私に答える、優しい声は無い。
 その瞬間、私の中で何かが壊れた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
 力が、「理性」というストッパーを失った力が暴れ出す。
 それに耐えられなくなった私の体が膝をつく。しかし、魔力の奔流はもう止まらない。
 何もかも壊したくなる。
 抑えられない破壊衝動が、私の脳を焼いていく。
 火が、水が、風が、土が、雷が、無が、光が、闇が。
 彼らが、私を呼んでいた。
 答えたら、受け入れたら私はどうなるのだろう。
 意識が薄れていく。その中で、私は最後まであの人を見ていた。
 魔力が暴走したかと思うと、アマリリスが動かなくなった。意識を失ったからか、さっきまでの八属性の力は感じられない。
 その事実に、アイカは自分が思ったよりも動揺も、安堵もしていない事に気付く。
『やっぱり、私は淡白なのかなー。』
 彼女は落ちていた石を拾うと、軽く魔力を込めた。
 石が白く光る。
「エンチャント、ですか?」
『……お前に教える義理はない。つーか、失せろ。いや、失せるっていうか死んで。』
 感情がまったく感じられない声で、アイカは冷たく言い放つ。と同時に、精霊達がケイル・ジークスの方へ飛んでいった。
『アマリリスの大切な人に手を出すなー!』『天誅』『あの子を傷付けたなぁ!』
 精霊から愛される体質のアマリリス。彼女の周りにいる精霊の数は多い。それこそ、一人の人間なんて簡単に殺せるくらいに。
 精霊達は、アマリリスを害した者をめがけて魔法を放っていく。
「これはこれは、大変ですね。僕は手荒な事はしたくないんですが。」
 ケイル・ジークスは爽やかな笑顔を作ると、右手を高くあげた。
「この腕輪に宿りし蹂躙の力よ!弱き者を滅し我の力へ!」
 彼がはめていた腕輪から、黒い霧が溢れ出る。
 霧はまるで生き物のように蠢くと、精霊達に飛びかかっていく。
『きゃあ!』『くそっ』『助けてー!』
 精霊達が声をあげる。が、すぐに静かになった。
 もうそこには、精霊達はいない。
 束の間の静けさが降りた戦場で、ケイル・ジークスは一人笑っていた。
「くくっ、ははは!高位精霊ともあろうあなたが、下位精霊を見殺しですか。ふふふ、はははは!」
『なーにがそんな面白いんだか。』
 アイカは口角を上げると、指をパチンと鳴らす。
 すると、精霊達が現れる。
「えっ…?」
『さっきのは幻影。これも幻影。はい、残念!────お前ごときが、私を出し抜けると思うなよ。』
 暗い笑みを浮かべて、アイカは火属性と雷属性の複合攻撃魔法を放つ。
 ケイル・ジークスはそれを避けたが、腕に掠ったようでバランスを崩した。
「くっ……」
 自分ではかなわない事を理解したケイル・ジークスは、踵を返すと逃げようとする。
 しかし、それを阻んだのは突如現れた一人の男だった。
「王城に傷をつけて、ただで帰れると思うな、賊が。」
 ウィンドール王国第一王子であるユークライの凛とした声が響く。
 彼の登場は予想外だったようで、ケイル・ジークスは歯ぎしりをした。
「……ちっ、一人で終わらせたかったのですがね…………ジェイさん!」
 ケイル・ジークスの声に応えて、ローブの男が出てくる。そしてユークライとケイル・ジークスの間に入ると、剣を構えた。
 アイカは二人の意識がユークライに向かっている事を確認すると、アマリリスとラインハルトを木の近くに運ぶ。そして衛兵を呼ぶと、二人を守るように指示した。
 アイカが行動している間にもユークライは二人と交戦していたが、人数で負けている彼では防戦一方だ。
 それを見て、アイカはユークライにアマリリス達を守るように呼びかける。
『ユークライさ…ユークライ!アマリリス達を!!』
「はい……俺とは、相性が悪いみたいだしね。」
 彼らの親しげな言葉遣いに、ケイル・ジークスはニヤリと笑った。
「へぇ。お二人が、そんな関係とは。」
『うるさいんだよ。』
 アイカは、ラインハルトの治療に回していた魔力を少し弱める。ユークライに頼んで回復をしてもらっているが、彼の回復系の無魔法への適性は中くらいだから、完全に任せるわけには行かない。
 アイカはちらりと背後を一瞥すると、目の前の敵に目を向けた。
『懲りないな、お前ら。』
「……ふふっ、何言ってるんですか?」
 ケイル・ジークスの目が、一瞬赤黒く変色したのをアイカは見逃さなかった。
 彼女は溜め息をつく。またか、という気持ちを込めて。
『まぁいいけど。────私達が…精霊が存在する限りお前達の好き勝手にはさせないから。』
 アイカの言葉を理解したのかしていないのか、ケイル・ジークスは魔法を行使した。
 それを難なく避けると、アイカは思念会話で王達に連絡をした。
 よろしく、とだけ。
『じゃ、始めよっか。────いや、案外すぐ終わるかもね、この前哨戦は。』
 役者が、だんだんと舞台へ揃い始める。
 かすかに微笑んで、そしてやけに冷めた目をしている。私の方を向いているのに、その目は私ではなく他の何かを見ている気がした。
『ラインハルトのとこ、行くんでしょ?』
 どうしてわかったの、という疑問を飲み込む。きっとアイカじゃなくても、さっきの私の行動を見ていたら同じ事を考えていただろう。
「……うん。」
 私が役に立つかはわからない。
 けれど、ラインハルトに会いたかった。彼が無事か、自分の目で確かめたい。
 アイカは笑みを深めると、私に手を差し出す。その手を取ると、彼女は優しく握り返してくれた。
『……連れてくよ。歯、食いしばって。』
「…………え?」
 浮遊感がしたと思ったら、周りの景色が後ろへと飛んでいった。
 かすかに涼し気な鈴の音がしたのは、気のせいだろうか。
 気付いた時には、もうすでに庭園の入口にいた。
「……っ!」
 庭園は、城の中以上に酷い有様だった。
 植物の緑は大半が黒くなっていて、火が上がっている。煙が立ち込めていて、遠くがほとんど見えず、怒声と刃がぶつかり合う音だけが聞こえた。
 王宮の顔でもあり賓客をもてなす際に使われる庭園が、これでは修復にもすごくじかんがかかるだろう。
「一体、誰が……」
『ラインハルトのいるところがわかった!今から飛ぶよ!』
 私が返事をする前に、アイカはもうすでに魔法を行使していた。
 足が地面から離れて、少し怖くなる。
 その間にも、私達は上昇していた。
『三秒で着く!ちょっとだけ我慢してね!』
 いきなり体が、ありえない速さで空中を進む。けれど、防御魔法でもかけてあるのか、あまり空気抵抗を感じない気がする。
 私は目を閉じずに、眼下の庭園を見た。さっきまで綺麗だったのに、汚されてしまった王の庭。
 怒りがふつふつと湧いてきた。私だって貴族だ。城をめちゃくちゃにされて、王家────ひいてはこの国そのものを侮辱されていて、我慢出来るわけがない。
 歯をグッと食いしばった。今の私では力不足だ…
 アイカの宣言通り、三秒後には地面に着いた。
 足が着いた瞬間、倒れこみそうになる。それを、アイカが支えてくれた。
「ありがとう、アイカ。」
『うん。……あ、いるよ。』
 アイカが指を差したところにいたのは。
「ラインハルト!!」
 黒いローブを着ている小柄な人物と対峙していたのは、会いたかったあの人だった。
 ラインハルトは振り向いて、笑みを浮かべてくれる。だが、遠目でも怪我をしているのがわかる。
 彼を見つけた事が嬉しくて、そして同時に心配で駆け出した瞬間。
 何かが、私をめがけて飛んできた。
 避けろと頭は言っているが、体は一歩も動かない。
 永遠に続くかと思った一瞬は、アイカの声で破られた。
『……あんさー。調子乗んじゃねぇよ、ガキが。』
 アイカの低い声が響く。
 私の目の前で、氷の剣が止まった。そしてそのまま砕け散る。氷の破片が全てその場に落ちていった。
「おや、精霊ですか。面白いですね、ふふふっ。」
『君、ケイル・ジークスでしょ。私の愛し子に手を出すとか、殺されたいの?』
 彼女の地を這うような声に、言われているのが自分じゃないとわかっていても背筋が凍える。
 だが、黒ローブの少年────ケイル・ジークスは泰然とした態度で笑っていた。
「……僕がケイル・ジークス?ふふっ、違いますよ、はははは!」
 彼の笑い声から狂気が感じられるようで、私は一歩後退る。
 そんな私を見ると、ケイル・ジークスは更に楽しそうに笑う。
「ラインハルト、逃げて!そいつから離れて!」
「そいつって…ひどいですねぇ、アマリリス・クリスト公爵令嬢?」
 ねっとりとした彼の言葉に、嫌悪感を覚える前に自分の耳を疑ってしまう。
 ゲーム内でのケイル・ジークスは、小動物のような可愛い系の男の子だ。間違っても、目を合わせたくないと思うはずがない。
 現に魔法学校時代も、ヒロインの取り巻きだったからあまりいい印象はなかったが、ここまでも狂人のようになるなんて。
 この世界は、ゲームとは違う世界なのではないか。
「……ふふっ、あなたの婚約者を傷付けたらどうなるかな?」
 思考が強引に戻された。
 婚約者────ラインハルト…?
「…………えっ!?」
 急に魔力が濃くなるのを感じた。それも、ケイル・ジークスの周りで。
 水の魔力の鼓動が高まるのにつれて、私の心臓も拍動を強めていった。
「ははっ、黒の忌み子なんて死ねばいい!」
 嘘っ、嫌、嫌だ!
「ラインハルト、避けて!!」
「来るな、アマリリス!!」
 ラインハルトの四方に魔法陣が現れ、そこから氷の剣が降り注ぐ。更に、別の魔法陣も現れて、それは雷の剣を生み出した。
 轟音が鳴り響く。手を伸ばすが私の足は恐怖で動かなかった。
 自分を叱咤して、震える足を踏み出す。
「嫌だよ…ラインハルト!!」
『アマリリス、危ないよ!この魔力は危険だ!!』
 助けに行きたいのに、やっと一歩踏み出せたのに、突然巻き起こった風が邪魔をして進めない。
 必死に火の魔法を連発したが、適性が低い私ではダメージが通らない。
「ふふっ、ふははは!!魔法の天才も、彼らの絶対的な力には敵わないな!!」
「やめて、やめてよ……」
 長い永い時間が経っていたように思える。
 風が止んで、魔法陣も消えていた。
「ラインハルト!!」
 砂埃のせいでよく見えない。
 私は目を閉じて、自分に眠る魔力へ力を集中させた。
 そこにいるラインハルトを傷付けないように、力の強さを調節する。
「……風よ。」
 最小の魔力で風を起こす。
 舞っていた砂埃が、一斉に飛んでいく。だが、私には魔法の成功を喜ぶ余裕なんて無かった。
 倒れているあの人を見つけたからだ。
 血を流して、折れた剣を持っているあの人。
「ライン、ハルト…?」
 私に答える、優しい声は無い。
 その瞬間、私の中で何かが壊れた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
 力が、「理性」というストッパーを失った力が暴れ出す。
 それに耐えられなくなった私の体が膝をつく。しかし、魔力の奔流はもう止まらない。
 何もかも壊したくなる。
 抑えられない破壊衝動が、私の脳を焼いていく。
 火が、水が、風が、土が、雷が、無が、光が、闇が。
 彼らが、私を呼んでいた。
 答えたら、受け入れたら私はどうなるのだろう。
 意識が薄れていく。その中で、私は最後まであの人を見ていた。
 魔力が暴走したかと思うと、アマリリスが動かなくなった。意識を失ったからか、さっきまでの八属性の力は感じられない。
 その事実に、アイカは自分が思ったよりも動揺も、安堵もしていない事に気付く。
『やっぱり、私は淡白なのかなー。』
 彼女は落ちていた石を拾うと、軽く魔力を込めた。
 石が白く光る。
「エンチャント、ですか?」
『……お前に教える義理はない。つーか、失せろ。いや、失せるっていうか死んで。』
 感情がまったく感じられない声で、アイカは冷たく言い放つ。と同時に、精霊達がケイル・ジークスの方へ飛んでいった。
『アマリリスの大切な人に手を出すなー!』『天誅』『あの子を傷付けたなぁ!』
 精霊から愛される体質のアマリリス。彼女の周りにいる精霊の数は多い。それこそ、一人の人間なんて簡単に殺せるくらいに。
 精霊達は、アマリリスを害した者をめがけて魔法を放っていく。
「これはこれは、大変ですね。僕は手荒な事はしたくないんですが。」
 ケイル・ジークスは爽やかな笑顔を作ると、右手を高くあげた。
「この腕輪に宿りし蹂躙の力よ!弱き者を滅し我の力へ!」
 彼がはめていた腕輪から、黒い霧が溢れ出る。
 霧はまるで生き物のように蠢くと、精霊達に飛びかかっていく。
『きゃあ!』『くそっ』『助けてー!』
 精霊達が声をあげる。が、すぐに静かになった。
 もうそこには、精霊達はいない。
 束の間の静けさが降りた戦場で、ケイル・ジークスは一人笑っていた。
「くくっ、ははは!高位精霊ともあろうあなたが、下位精霊を見殺しですか。ふふふ、はははは!」
『なーにがそんな面白いんだか。』
 アイカは口角を上げると、指をパチンと鳴らす。
 すると、精霊達が現れる。
「えっ…?」
『さっきのは幻影。これも幻影。はい、残念!────お前ごときが、私を出し抜けると思うなよ。』
 暗い笑みを浮かべて、アイカは火属性と雷属性の複合攻撃魔法を放つ。
 ケイル・ジークスはそれを避けたが、腕に掠ったようでバランスを崩した。
「くっ……」
 自分ではかなわない事を理解したケイル・ジークスは、踵を返すと逃げようとする。
 しかし、それを阻んだのは突如現れた一人の男だった。
「王城に傷をつけて、ただで帰れると思うな、賊が。」
 ウィンドール王国第一王子であるユークライの凛とした声が響く。
 彼の登場は予想外だったようで、ケイル・ジークスは歯ぎしりをした。
「……ちっ、一人で終わらせたかったのですがね…………ジェイさん!」
 ケイル・ジークスの声に応えて、ローブの男が出てくる。そしてユークライとケイル・ジークスの間に入ると、剣を構えた。
 アイカは二人の意識がユークライに向かっている事を確認すると、アマリリスとラインハルトを木の近くに運ぶ。そして衛兵を呼ぶと、二人を守るように指示した。
 アイカが行動している間にもユークライは二人と交戦していたが、人数で負けている彼では防戦一方だ。
 それを見て、アイカはユークライにアマリリス達を守るように呼びかける。
『ユークライさ…ユークライ!アマリリス達を!!』
「はい……俺とは、相性が悪いみたいだしね。」
 彼らの親しげな言葉遣いに、ケイル・ジークスはニヤリと笑った。
「へぇ。お二人が、そんな関係とは。」
『うるさいんだよ。』
 アイカは、ラインハルトの治療に回していた魔力を少し弱める。ユークライに頼んで回復をしてもらっているが、彼の回復系の無魔法への適性は中くらいだから、完全に任せるわけには行かない。
 アイカはちらりと背後を一瞥すると、目の前の敵に目を向けた。
『懲りないな、お前ら。』
「……ふふっ、何言ってるんですか?」
 ケイル・ジークスの目が、一瞬赤黒く変色したのをアイカは見逃さなかった。
 彼女は溜め息をつく。またか、という気持ちを込めて。
『まぁいいけど。────私達が…精霊が存在する限りお前達の好き勝手にはさせないから。』
 アイカの言葉を理解したのかしていないのか、ケイル・ジークスは魔法を行使した。
 それを難なく避けると、アイカは思念会話で王達に連絡をした。
 よろしく、とだけ。
『じゃ、始めよっか。────いや、案外すぐ終わるかもね、この前哨戦は。』
 役者が、だんだんと舞台へ揃い始める。
「【旧版】諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1,392
-
1,160
-
-
116
-
17
-
-
104
-
158
-
-
176
-
61
-
-
2,400
-
2,813
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
66
-
22
-
-
78
-
446
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
5,039
-
1万
-
-
1,000
-
1,512
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
215
-
969
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
2,534
-
6,825
-
-
3,152
-
3,387
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
3,548
-
5,228
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
1,295
-
1,425
-
-
6,675
-
6,971
-
-
2,860
-
4,949
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
3万
-
4.9万
-
-
344
-
843
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
76
-
153
-
-
3,653
-
9,436
-
-
1,863
-
1,560
-
-
62
-
89
-
-
89
-
139
-
-
108
-
364
-
-
14
-
8
-
-
2,629
-
7,284
-
-
2,951
-
4,405
-
-
23
-
3
-
-
86
-
288
-
-
218
-
165
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
51
-
163
-
-
2,799
-
1万
-
-
1,658
-
2,771
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
62
-
89
-
-
1,301
-
8,782
-
-
183
-
157
-
-
164
-
253
-
-
34
-
83
-
-
408
-
439
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
88
-
150
-
-
42
-
14
-
-
9,173
-
2.3万
-
-
614
-
1,144
-
-
2,430
-
9,370
-
-
220
-
516
-
-
614
-
221
コメント