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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

22話: 復讐と葛藤

 皆には下がってもらった夜、私はベッドの上でアイカとお喋りをしていた。いわゆるガールズトークなるもの…なのだろうか。
 話すのは取り留めの無い事。今日あった出来事が嘘のように、本当にいつも通りだった。

 だから、いきなりアイカに質問をぶつけられた時にはすぐに答えられなかった。

『ざまぁしないの?』

「………え、ざまぁ?」

 思わずそう聞き返す。すると、アイカは呆れたように思いっきり溜め息をつく。

 何も、そんなに露骨にする事も無いだろう。

 ちょっと怒って頬を膨らませると、アイカが指でほっぺをつついてくる。

「ふわぁ!!……もう、アイカー!」

 シリアスっぽかった雰囲気が台無しだ。別に、そういう雰囲気が好きなわけでは無いけれど。
 アイカをじっと見つめると、慌てたように手を振る。

『いや、だって、そこに膨らんでるほっぺがあったから……』

 言い訳になっていない言い訳をぶつぶつ言うと、彼女は空中へぷかーと浮いていった。

 こういうのを見ると、彼女が私達とは違う、精霊という存在なんだな、と思う。

『兎にも角にも、ざまぁしないの?』

 話を思いっきり逸らした。というか…

「ざまぁ、って?」

『あー、そこからか。────いや、待って。「私」の記憶にあるはず。ほら、ネット小説!』

 ネット小説…?

 そういえば、「私」が中学生の頃くらいからハマっていたような気もする。

 ざまぁ、ざまぁ……

「あ、復讐ね!悪役令嬢とかの!」

『そう!それ!』

 アイカは激しく頷く。
 そして人差し指をピンと立てて同じ質問をする。

『ざまぁ、しないの?』

 復讐を、するのか。

「………わからないわ。復讐なんて、わからない。」

『そう?…もし、今日の襲撃が、第三王子のさしがねだったとしても?』

「………………それは、本当、なの…?」

 声が震えた。自分でも情けないくらい、細い声。
 自分の手をぎゅっと握った。少し痛いけれど、こうでもしないと平常心を保てない。

 第三王子は、私を殺そうとした。
 それだけでも、私にとってはすごく辛かったのに。

 なのに、彼は未だに、他の人を使ってまで私の命を奪おうとしているなんて。

『……本当の、事だよ。』

 アイカは悪くないのに、彼女にあたりたくなる。


 なんで、わざわざ言ったの。
 なんで、今言ったの。
 なんで、大した事で無いように言ったの。

 なんで、なんで、あの人は私の事が嫌いなの。


 好かれたいわけではない。けれど、嫌われたくない。
 私だって女の子だ。好きだった人に振られて命を狙われて、辛くないわけがない。

『……復讐、しないの?』

「そんなの、私には…」

 わからないわ、というのは声にならなかった。嗚咽が漏れる。温かいものが目から溢れた。

 辛い。悲しい。苦しい。

 暗い感情が、私の心を覆っていく。これは、どうやったら晴れるのだろう。


 復讐すれば?


 誰かがそう言った気がした。

 頭では、復讐なんてしたくないと考えている。
 なんでかはわからないが、復讐をしてはいけない、そんな考えがあった。

 心では、復讐をしたいと思っている。
 この感情を吐き出すため、そして自分が過去を清算するために復讐をしたい、そんな思いがあった。

 けれど私は、私自身は未来のためにどうしたいの?













「アイカ、私は────」

 実際はどれくらいかはわからないけれど、私は長い時間ひたすらに思考を続けていた。

 閉じていた目を開けると、蝋燭の火がゆらゆらと部屋を照らしているのが見える。

 そういえば、もう夜だったっか。



 私は、自分の本当の考えを、思いを、気持ちを探した。

 どこかわからない海を、ずっと潜っていくような感覚だった。

 時々不安に駆られた。けれど、私がそれでも思考をやめなかったのは、ラインハルトやアイカの存在が大きい。
 彼らのためにも、これは答えを出すべきだと思った。

 たとえその答えが、私の心を押し殺すものになっても。

「私は、復讐しない。」

『……』

「復讐をしても、この傷はきっと消えないわ。」

『……罪の償いは、させたいと思わないの?』

「思う。けれど、だからってやり返すのは、違うとも思うの。確かに私は辛かったけれど、それは私が我慢すればいい話だから。」

 そう、私だけでいいのだ。


 辛いのも、悲しいのも、苦しいのも。


 もし私が復讐するとしたら、きっとたくさんの人に迷惑をかけてしまう。
 それに、復讐された側がまた復讐してきて…と、負の連鎖が続く気がするのだ。

 私は、幸せな人生を送りたい。だから、いつ報復されるかなんて怯えながら生きていきたくない。


 これが、私の答え。


『アマリリス。ほんとの本当に、復讐しなくていいの?』

「……う、うん。」

 歯切れが悪い。頭では納得しているのに、心が頷いてくれないからだ。
 心の奥深くで、まだ暗い気持ちが燻っている。

『そっか。ま、暗い話はこれくらいにして────』

「大変です!!」

 いきなり寝室のドアが叩かれる。

 染み付いた習慣で、急いでネグリジェの上にカーディガンを羽織ると、私は声をかけた。

「どうしたの!」

 ドアに向かって声をかけると、焦ったような声が返ってきた。

「襲撃です!!」

「……しゅう、げき…?」

 どうして。ここは王城で、警備は常に万全なはずだ。それに午前中にあった襲撃を受けて、警備を強化させているらしいのに。
 疑問が尽きないが、今言っても仕方ない。

 アイカが床へ降り立つ。そして、服をパジャマから簡素な白いワンピースに変化させた。
 ドアを開くと、そこには衛兵が立っている。彼は、体の至る所に傷を負っていた。
 もうすでに、交戦が始まっている…

「クリスト令嬢、ラインハルト殿下が────」

 彼が言い終わる前に、ラインハルトの名前を聞いた瞬間、体が勝手に動いていた。

 後ろから、アイカが私を呼んでいた気がする。
 けれど、私は脇目もふらずにドアを開け居間を抜けて、廊下に出た。


 そこに広がっていたのは、惨状だった。

 あちこちに火が放たれていて、美しいカーペットは黒く煤けている。生けてある花も萎れてしまっているし、飾ってある歴史的な彫刻も割れていたりした。


 けれど、私にとっては重要では無い。


「ラインハルト殿下、ラインハルト殿下!?」

 必死に叫ぶが、返答は無い。

 ラインハルトの部屋は、私が使わせてもらっている部屋の隣だ。だから、彼が避難をするとしたら会えるはずなのに。

「ラインハルト殿下ぁ!!」

「……アマリリス様、どうしてここに!?」

 振り返ると、そこにいたのはライルさんだった。
 騎士服を着ていて、背中に大剣をかけている。よく見ると、騎士服がところどころ破れていた。

 彼の傷付いている姿を見て、まさか、と思う。

「ライルさん!ラインハルトは、ラインハルトは、一体どこに……」

「庭園で、侵入者と交戦中で────」

 よかった。最悪の事態にはなっていないみたいだ。

「ありがとうございます!」

 庭園までの最短な道を考える。道が焼け落ちていたりしないかが心配だが、行くしかない。

 ラインハルトが無事か、怪我をしていないか、生きているのか…

 思わず震えそうになった。けれど、大丈夫だろう。ラインハルトは、魔法に関しては国、いや大陸で一二を争うくらいの腕前を持っているのだから。

 必死に自分に言い聞かせる。そうでもしないと、怖くて叫び出しそうだから。
 こうまでも、大切な人を失うかもしれないというのは恐ろしい事なのか。

 失いたくない、ずっと一緒にいたい。そのために、今すぐ会いたい。
 

 庭園へ走り出そうとした瞬間、ぐいっと後ろへ引っ張られた。

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