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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

19話: 魔法と才能と精霊 1

 私が一人でひとしきり笑った後、アイカが唐突に手を叩く。
 ちなみに、途中でアイカも笑いかけていた。どうにか堪えたようだが。

『そーだアレックス、久しぶりに私が稽古つけたげるよ。』

「師匠の稽古ですか!はい、喜んで!!」

 アレックスが、満面の笑みを浮かべて返事をする。なんだか、ブンブン振られている尻尾が見えたうような気がする。

 だが、アレックスに向けた笑みを崩さぬまま、アイカが冷たい声で言う。

『あんたは今、アマリリスの護衛でしょ?許可無く勝手な行動をする事は許されない。わかるよね?』

「……は、はい。」

 今度は、耳がペタリと倒れたような幻覚が見えた。

 あら、と内心呟く。アイカは、どうやら真面目に「師匠」をしているようだ。

「アマリリス様、稽古をしてもよろしいでしょうか!」

「うーん、場所はどこかしら?」

「第二稽古場です!」

 確か、ここからあまり遠く無いはずだ。暇で王城の地図を何度も見ていたから、すぐにわかる。大体歩いて数分だろう。

 少し目を閉じて考える。
 私は今暇していて、別に出かけても構わない…はずだ。出かけるといってもすぐそこだし、私を訪ねてくる人はあまりいない。すぐに戻るだろうし、多分大丈夫だろう。

「私も念のために付いて行くわ。」

「わかりました!では、参りましょう!」

 アレックスは楽しそうにそう言うと、「外で待っております!」とドアを開けて行ってしまった。

 本来なら護衛が勝手に行動するのはダメなのだが、どうしても彼を見ると弟達の事を思い出してしまい、許したくなる。
 魔法学校に入っている上の弟には休みが合わなくてあまり会っていないし、下の弟は社交界が忙しいらしくそもそも公爵領にもあまりいない。
 無意識のうちに、歳が近そうなアレックスに弟達を重ねてしまっていたみたいだ。

『ったく……ごめんね、アマリリス。』

 申し訳無さそうにアイカは謝る。
 けれど、アイカもアレックスも全く悪くない。私は首を横に振った。

「楽しいもの、謝る事では無いわ。そういえば、アレックスは何歳なの?」

『十四。ただ、小さい頃色々あったらしくてね。結構甘えん坊だよ。ちなみに、エスも十四歳。』

「十四!?すごいわね…」

 十四歳で第二王子の元護衛とは、かなり驚きだ。

 王族の近くにいる護衛や侍女、執事は、出自もかなり重視されるが、特に護衛は、純粋な強さが必要とされる。王位継承権を持っている第二王子の護衛ともなると、もし中途半端な実力だったら、いくら実家の後押しがあっても選ばれるのは不可能だ。
 そんな役職に十四の―――いや、選ばれた時は今より幼いはずだから、まだ十を過ぎたくらいの少年が就けたなんて、きっと彼の強さは生半可じゃないのだろう。

 稽古を見るのが楽しみで、私は最低限の物を持つと急いで部屋を出た。








 日差しが嫌がらせのようの降ってくる中、石でできた稽古場は少し寂れたような印象を与える。
 私は空を見上げて、その眩しさに目を細めた。

 今日はかなり快晴で、春だけれど少し暑い。朝は涼しかったら袖の長いドレスを選んだけれど、間違えたかもしれない。
 日焼け止めにはなるからいいものの、汗をかいてしまうとコルセットが気持ち悪くなってしまうから、できるだけ日陰のところに座っている。

 視線を前に戻すと、剣を打ち合う二人が目に入る。

 カンカン

 木剣同士がぶつかり合う乾いた音が響く。その音が消える前に、もうすでに二人は次の動きへ移っていた。

 カン、カンカン

 武芸に疎い私からしたら、二人の技術がすごい事くらいしかわからない。けれど、それが全てだという気もする。

 カンカン、カンカン

 速すぎて、自分が反応出来る気がしないくらいの剣速だ。
 どうしてあれに打ち返せるのか、本当に不思議で、同時にすごいと思う。

 カン

 一際大きい音が鳴る。その音を追うように、木剣が飛んでいく。

 驚いて思わず目を閉じた私が次に見たのは、アレックスの首元に剣を突きつけるアイカの姿だった。

『勝負あり。敗因は何?』

 そう言いながら、アイカは自分が弾いた木剣を魔法で持ち上げると、アレックスに渡す。

「……十三手目、重心移動が遅れました。」

『うん。次は、加速魔法使っていいよ。』

 加速魔法は一般的な無魔法の一つで、その名の通り対象を加速させる魔法だ。仕組みが単純なため使いやすいが、だからこそ逆に極めるのが難しいらしい。
 私は無魔法に適性がないため、全部他の人から聞いたり書物で読んだりしたことだから、よくわからないのだけれど。

『はじめ!』

 アイカが言い終わるや否や、アレックスが動く。抱えるように持っていた剣をアイカの首元へ突いた。
 アイカは後方に飛び退く。それを追いながら、アレックスは攻撃を続ける。

 カン、カンカン

 さっきまでよりも剣速が速くなっていた。それに伴うように、二人の動きもどんどん速くなっていてもう目で追えないくらいだ。
 ただ音だけが、二人が剣を打ち合っていることを教えてくれている。

 カンカン、カン、カンカン

 アレックスが後ろへ大きく跳んだ。その瞬間、アイカも床を蹴って床とほぼ平行に走り彼に迫る。

 二人が遠くの方へ行ってしまいよく見えなくなったから、立ち上がって背伸びをした。

 今彼らは、稽古場にある試合用のフィールドを使っている。
 もちろん、見ている人のための座席があり、私はそこに座っていた。だが、日陰にこだわって後ろの方に座ってしまったために、よく見えないのだ。

「うーん、近くに行った方が良いのかしら。」

 考えあぐねていると、不意に背筋が凍るような感覚を覚えた。
 振り返ると、目の前には銀色の刃が見える。刃は陽の光を反射して、ギラっと凶暴に光った。

「っ!!」

 恐怖に体が竦み崩れ落ちそうになるが、ギュッと膝に力を入れる。
 しかし私をめがけて振り下ろされる刃は止まらない。



 やけにゆっくり時間が進むような気がした。
 頭の中では色々なことを考えているのに、指一本さえ動かせない。

『アマリリス、避けて!』

 アイカが叫ぶ。しかし、私の体はその言葉に反応出来なかった。

【お前が自分で死ねぬというのなら、俺が殺してやろうではないか。】

 あの人の声が響いた気がした。急に体から力が抜けそうになる。

 それでも倒れなかったのは、目の前にあの時の魔法陣が現れたからだ。
 けれど、彼の魔法をもっても、水の刃・・・というイレギュラーには対処出来なかった。

「っ!!」

 避けきれずに、目元と一房の髪を切られてしまう。髪は伸ばせるが、傷は簡単には消えない。
 傷のついた私なんて彼を失望させてしまう気がして、心がぎゅっと締め付けられる。

 そう思った時、金色の光が目元を包み、傷の痛みが消えていった。

「ラインハルト……」

 優しい魔力を、ラインハルトのような温かさを、その回復魔法から感じた。
 きっとラインハルトだ。ここにはいないけれど、けれど確かに直ぐ側にいてくれている。その事実に、泣きたくなるくらいに嬉しくなった。

 それにしても、魔法の遠隔発動・操作はもっとも困難と言われていて、魔法師団でも出来るのはほんの一握りだけらしい。なのに、ラインハルトはあっさりやってしまっていて、改めて彼の鬼才を思い知らされる。

 と、再び振り下ろされた剣に現実へ戻される。

『あーもう、最後じゃないけど最後の手段!アマリリス、体から力抜いて!』

「えっ、あ、えぇぇ!!」

 アイカの声が終わらないうちに、体が動いて剣を躱す。
 剣とは別に水の刃が再び襲い掛かってくるが、それも軽いステップで避けていた。
 なぜか、特に武術に秀でているわけでもない私が。

 体に変な感覚がする。自分の体なのに、何か別のものに動かされているような……

(アマリリス、落ち着いて聞いてね。今、アマリリスの体を動かしてるのは私。)

「えぇ!」

(思念会話使って。私今さ、アマリリスの体に入ってるから。)

(え!?じゃあ、私はどうすれば…?)

(んー…あ、じゃあ魔法で攻撃して。ただし、絶対に体は動かさないで。喉は許容範囲だけど。)

 思念会話をしている間も、私の体は私じゃないように動いている。

 振り下ろされる剣は後ろへ。
 横払いの剣は下へ。
 突きの剣は横へ。

 よくよく自分の体を見てみると、加速魔法特有の薄緑の光がある。私は無属性に適性がないから、アイカが使っているのだろう。
 とりあえず攻撃を避けることは出来ているみたいだから、私は一体何をすれば良いのだろうか。

(アイカ。魔法って言っても、私は火と風魔法以外適性無いよ?)

(いや、全属性使える。威力も上がってるから。っていうか、アレックスは何をやっているのかねぇ。)

 そう言われて、やっとアレックスがいない事に気付く。
 首を動かしたら怒られそうだから目を動かすだけだったけれど、稽古場の中にはいなそうだ。

(どこにいるの?)

(衛兵を呼びに行ってるはず。────あ、危ない。)

(え…?)

 アイカの声に前の方を見ると、いきなり眼前に火の玉が迫っていた。
 体が避けようとするが、掠ってしまうかもしれない。
 アイカには動かすなとは言われていたが、反射的に腕で顔を庇うようにしてしまう。

 迫ってきた火の玉は熱を撒き散らし、そして唐突に消えた。

「今、のは……」

 自分の手を見ると、黒い光・・・という有り得ないものがある。
 黒という色と光は相反するはずのものだというのに、確かにそこにあった。
 今まで見た事も、聞いた事も無い。

 呆然としていると、黒い光は小さくなって最後には消滅し、そのタイミングを見計らったようにアイカの声がした。

(はいはい、今はいいから集中して!……三秒後にあいつが今いるとこに雷落としてね。)

(え、えぇっ!?)

(三……)

 もうカウントを始めている。
 かなりの無茶振りだけれど、応えるしかない。アイカは私を信頼してくれてそう言っているに違いないから、彼女の期待と信頼にはちゃんと報いたい。

 落ち着いて相手を見てみると、思ったよりも小柄だった。ローブをしっかり被っていて顔は見えないから、小柄な少年にもちょっと身長が高い少女にも見える。
 そんな彼(彼女?)が今いるところ、と言うとちょうど観覧席の石が欠けている場所だ。

(二……)

「ふぅ……」

 使ったことのない魔法を使うなんてかなり危険だが、腹を括るというか、覚悟を決めるしかない。

 息を吐いて落ち着くと、視界が一気に開けた。緊張はしているものの、心地よい緊張だ。平静を失わず、けれどリラックスもしない、程よいバランスを保っている。
 その中で、私の意識は全て自分の魔力の流れへとシフトした。

 魔力は何か、と聞かれると答えにくい。強いて言うならば、私の体の奥底にある、強い力を持った何か、だろうか。それが何かはわからないし、どうしてあるのかもわからない。存在も不確かで、形も実態もない。
 だけど、魔法を使う時はその力の存在を強く感じる。

(一……)

 アイカに指示された位置に雷が落ちるのを、強くイメージした。青白く光る稲妻が、そこに落ちて観覧席を砕くイメージ。
 深く息を吸って、魔力を流し雷を実体化させる。

(ゼロ!)

「…っ!!」

 体の奥底から出ていった魔力が、雷という形をとる。アイカに言われた通りの場所にドォン、と低く響いて音を立てて落ちたそれは、粉塵を巻き起こす。

 やった。

 魔法が失敗しなくて、良かった。
 ホッとして肩をなでおろすが、アイカの声に再び緊張する。

(アマリリス、目を閉じて!あの砂埃の中に入る!)

(え、えぇ!?わかったけど、危なくない?)

(大丈夫だよ!……多分)

 多分って…。

 きっと何を言っても無駄だからアイカに抗議するのは諦めて、砂埃が入らないようにするため、念のため目を閉じる。
 閉じた後に、これではアイカも見えないのでは、と気付いた。

 だが私の心配は杞憂だったようで、アイカは一直線に走って行った。











 続きます。

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