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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

17話: 問題は何

 ラインハルトとガゼボへ戻ると、そこにいた面々は疲れたような表情をしていた。
 出発する前は和やかな雰囲気だったというのに、私達がいなかった間に何かみたいだ。

「ただいま戻りました。あの、どうかされたのですか?」

「…………大丈夫だよ、アマリリス嬢。あなたが知る必要は無いからね。ははは…」

 私の質問に答えてくれた第一王子は、乾いた声で笑った。
 他の方々も似たようなもので、かなり心配だ。

「大丈夫なのですか?」

『…………あー、うん。怒りってある程度超えちゃうと、呆れになるっていうか、諦めになるっていうか。』

 アイカはそう言って、長い溜め息をついた。なんだか大丈夫ではなさそうだ。
 ちょっと心配になる。いつも快活で楽しそうなアイカがこんなになるなんて、ただ事じゃない。

 ラインハルトを見ると、彼は力強く頷いてくれた。それに私は頷き返すと、ガゼボにいる方々に尋ねる。

「どうか教えてください。私達も、皆さんの力になりたいのです。」

「…………アイカさん、説明を頼んでもいいかしら。」

 王妃様の問いかけに、アイカは気だるげに頷く。そして、私達二人に椅子をすすめると、自分は立ち上がって話し始めた。

『三つ話すよ。
 一つ目は、ララティーナを殺そうとしている組織が、もともとメイスト王国で活動していた「ブラックダガー」で、アマリリスも狙っている事。』

「ブラック、ダガー?」

 ラインハルトはそう呟いて、怪訝そうな表情を浮かべる。
 私も首を傾げた。学校でも夜会でも聞いた事のない名前だ。

『人身売買、麻薬、密売などなどやってる、かなり危ない組織だよ。正直関わりたくないね。』

「聞いた事が無い。まぁ、アマリリスを狙うなら殺すまでだが。」

 すぐに、物騒な方向へ行ってしまうのがちょっと怖い。

 ラインハルトの目は本気だ。どんな人達かはわからないけれど、ブラックダガーの人々の末路が心配になる。
 まぁ、自業自得だけれども。

『はぁ……次は、ララティーナを庇う連中が出てきた事。具体的には……あ、あれだね。メイン攻略対象。』

 ラインハルトが首を傾げる。多分わかっていないのだろう。けれど、あのゲームをプレイした記憶のある私ならわかる。

『サーストン、ジェイ、ケイル、クレイストの四人だよ。はぁ……まったく、まじで信じらんない。』

 メイン攻略対象四人プラスサブ攻略対象が八人。合計十二人があのゲーム、『アメジストレイン』の攻略対象だ。

 メインの四人の内、一人は言わずと知れた第三王子。他の三人も、かなり王国内、もしきは魔法学校内で地位がある。

 魔法師団長であるヴィー伯爵を父に持つ、ジェイ・ヴィー。ヒロインより一学年上で、もう魔法学校を卒業している。

 魔法学校の生徒会長だった、ケイル・ジークス。恐らくライルさんの弟だろう。学年はヒロインと同じだから、ちょうど卒業したばかり。

 そして、メイスト王国第二王子の、クレイスト・フェンダース。ヒロインより一学年下で、レイスト殿下の弟君だ。

「アイカ、それは、かなりやばい・・・のでは…?」

『そーだよ。で、ラストはグーストで暴動が起きている事。』

「暴動!?」

 思わず声をあげてしまう。グーストは、王家が直接管理している領地だから、今まで反乱や暴動は起きた事が無いらしい。なのに、暴動って。

「私の、せい…?」

『あー、違う違う。っていうか、暴動って言っても精霊の、だよ。』

「精霊?そんな事が、有り得るのか。」

 ラインハルトの問いかけに、アイカは頷いた。
 やっぱり、いつもの明るさがない。かなり、精神的に疲れているみたいだ。

『なんかさ、サーストンの行動が耳に入ったらしく、色々騒いでるんだって。アマリリスが可哀想、って。そんで作物の出来が悪くなってるって。
 はい、これで全部。面倒でしょ?これの対処を考えるとか、本当にだるくてだるくて…』

「そう、だったのね……」

 なんだか、今少し聞いただけでもどっと疲れた気がする。だから、この話をずっとしていたアイカ達は大変だっただろう。

「それで、今は馬鹿四人の事について話していたんだが……どうにも良い案が出てこなくてね。」

 第一王子が、いつもの優しいお兄さんじゃない。これは、かなり異常だ。
 というか、第一王子の口から「馬鹿」という言葉が出てきた事に驚いた。しかも、それを誰も注意しないというのも、事の重大さを物語っている。

「……殺せばいいだろう。」

 ポツリとラインハルトが呟く。その呟きに反応したのは、なんとお父様だった。

「あぁ。可愛いアマリリスを傷付けた輩に加担するなど、死罪に値する。」

「お、お父様!?ラインハルトも、怖い事を言わないでください!」

 だが、二人は返事してくれない。お母様を見ると、静かに首を振った。

「この人は今、疲労で少しおかしいの。気にしないで頂戴な。」

 おいたわしや、と言うべきなのだろうか。
 あまりにも空気が重すぎて、なんと発言するべきか全然わからない。

 今のお父様を元気付けるには、私があの四人に対する意見を発すればいいのかしら。
 ちょっと違うかもしれないけど。

「もし可能でしたら、あの四人に兵役を……あぁ、けれどクレイスト殿下には無理ですかね……」

『そうなんだよねー。はぁぁぁぁ。』

 アイカが、すごく長い溜め息をつく。それにつられたように、第一王子も溜め息をついた。大人達は、さすがに行動には出さなかったが、顔つきが疲れている。
 ラインハルトを見ると、「どうしようもないんじゃないか?」と返された。
 確かに、無力な私では何も出来ない。せめて話し合いに有益な意見を出せればいいのだけれど、政治や刑罰に明るくない私には難しい話だ。

『クレイストはメイスト王国の…ん?あ、あぁ!そういう事か!なーんだ、思ったより簡単だったじゃん!』

 アイカがぶつぶつ呟いて、急に大声を出した。

 ついにおかしくなったか。

 多分ここにいる全員が思った事だろう。全員が、憐憫を含んだ視線をアイカに送る。
 だが、当の本人はすごく嬉しそうだった。

『そうだよ、そうじゃん!いやー、どうして気付かなかったんだろ。』

「アイカ様、お疲れになられているのでは?休んでも、問題は無いのですよ。」

 第一王子が、私達の気持ちを代弁するようにそう言った。しかし、アイカは首を振る。

『あのさ、私おかしくなってないからね?これは平常テンションだよー。ってか、うん。確かに、さっきのはおかしかったね。』

 アイカは一人、納得したように頷いた。
 そしてニッと笑うと、両手を広げ話し始める。

『この国で、ブラックダガーが活動を始めたのは、三年前。さて、これはなんの時期と一緒でしょーか?』

「三年前というと、私が二年生…あっ!」

 他の方々が、なんだなんだという表情をしている。しかし、思わぬ事実に気付いた身としては構っていられない。

 そうか、そういうことだったのか……

 前世でアメジストレインをプレイしていて彼らを知っている身としてはあまり信じたくないが、こうでないと辻褄が合わない。

『次。犯罪組織であるブラックダガーは、なぜか・・・魔法師団が動くのを毎回把握している。』

 陛下と王妃様、お父様が気付かれたようだ。それに続いて、第一王子とお母様、遅れてラインハルトもわかったような表情をする。

『後はね、今回の婚約破棄騒動の標的はクリスト公爵家だった。理由は二つ。一番人身売買の取り締まりに、力を入れているから。そんで、公爵家の当主が外務大臣だから、かな。』

「そう、か。私が外務大臣から降ろされた後に、組織の息のかかった人間が外務大臣になれば……」

 お父様が、愕然としたように呟く。
 もしお父様が今仰ったことが現実になれば、この国は乗っ取られてしまうのだ。

『そそ。ブラックダガーの拠点は、多分メイスト王国。それがウィンドール王国に入るには、外務大臣か領地の隣接する貴族を仲間にすればいい。』

「ジークス子爵領ですわね。なるほど、だからケイル・ジークスが。」

 王妃様が眉間にシワを寄せる。かなりお怒りのようだ。

「わたくしのあ……わたくしの国で、随分と勝手に暴れてくれたわね。」

 王妃様は立ち上がると、机に背を向けて歩き始めた。
 カツカツと毅然と歩いて行くその姿は、同じ女性としてかっこいいと思う。ただ、声色がちょっと怖かったのだが。

「母上?どちらに行かれるのですか?」

 第一王子の問いかけに、王妃様は振り返らずに答える。

「害虫を駆除します。まずは、巣の場所を探さねばなりませんからね。」

 その返答に、第一王子は黙って頭を下げる。
 王妃様が見えなくなると、第一王子はアイカに何かを耳打ちした。

 アイカは少し考えるふうにした後、第一王子の耳元に口を寄せる。彼は頷くと、一礼してガゼボを去っていった。

「失礼致します……アイカ様、報告は後ほど。」

「私達も失礼致します。」

 お父様とお母様もガゼボを出て行く。

 次々と人が去って行って、残っているのは、アイカとラインハルト、私、そして陛下だけだ。

「私も失礼しよう。……息子を頼んだ、アマリリス君。」

「畏まりました。」

 立ち上がり、淑女の礼をする。ラインハルトも隣で軽く頭を下げた。アイカだけは、軽く笑って『じゃねー』と言っている。

 陛下がどこからか現れた護衛の人と共に歩いて行くと、アイカが手を叩いた。

『はい、聞いてねー。グーストの視察は、一週間後になったから。そんで、アマリリスはしばらく王城に泊まりまーす。』

「王城に!?」

『うん。さすがにラインハルトと同じ部屋じゃあ無いけどさ。エミーも来るから大丈夫。』

 サムズアップされても、反応に困るだけだ。
 確かに、私は魔法学校を卒業したために、実家や魔法学校の寮以外に泊まっても、別に問題はない。けれど、だからって王城に泊まれと言われてはいとすぐに言えるほど、肝は座っていないのだ、私は。
 固まっていると、ラインハルトが私に声をかける。

「すまないが、僕はしばらく色々な場所に顔を出さなくてはいけないんだ。優秀な護衛を付けるから、心配するな。」

「畏まりました。」

 ラインハルトにまで言われたら、もう嫌とは言えない。

「……そ、その、頑張って、下さいませ。」

「…っ!あ、あぁ。」

『あんたらいつの間に急接近……まぁ、いっか。』

 私達がさっきまでと違う事に気づいたアイカが呆れたように呟いて、肩をすくめる。それを見て、ラインハルトが笑い声をあげた。

「ははっ、いつか教えるさ。……じゃあ、また、アマリリス。」

 ラインハルトは、そう言い残して歩いて行ってしまう。その後ろ姿が小さくなっていく様子、少しだけ寂しくなる。
 アイカはそんな私を見て笑うと、嬉しそうに口を開いた。

『よかったよ、アマリリスが幸せそうで。────じゃ、行こっか。』

「えぇ。そうね。」

 まだ少しだけ紅茶の匂いが残るガゼボは、夕焼けに照らされていて、オレンジ色に染まっていた。

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