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諦めていた人生の続きで私は幸せを掴む

弓削鈴音

16話: 駆け落ちの森

『へぇ。大変だったのね。』

『たいへーん』『怖いね』『アマリリスかわいそう』

 生暖かい目線で私達を見ていたカイルに、必死で今まで事を全て話すと、彼―――彼女?―――はそう言った。

 今私達は、森の中の切り株の一つに座っている。切り株なはずなのに、背もたれや肘掛けがあるのは、流石森の精霊、とでも言うのだろうか。座り心地がいい。

 周りを見慣れない精霊達に囲まれている中で、私達は話をしていた。ちなみに、ラインハルトにも精霊は見えているそうだ。

『ねぇ、アマリリス。』

「何です?」

『あなたさ、復讐したいと思わないの?』

『ふくしゅー』『やり返す!』『悪いやつはやっつけるー』

 突然のカイルの問いかけに、私は返す言葉を思い付けなかった。

 『復讐』

 確かに、私は一方的に傷付けられた。
 私がララティーナを虐めたのも、彼女が私の婚約者だった第三王子と親しくしていたから。
 というか、虐めと言っても、嫌味を言ったり、嘘の情報を教えて国外へ向かわせようとしたり、といったわりあいとかわいい事だ。
 それに、嫌味のほとんどは彼女のためを思った忠告だったりする。男性にみだりに触れないように、とか、建物の中で走らないように、とか。
 あの時は、彼女に対してあまり良い感情を持っていなかったから少しきつい言い方になってしまったが、今冷静になって考えてみると、そこまでひどい事はしてないような気がする。私の主観だが。

 そう、かわいいことなのだ。ニホンだったら問題になる事も、ここだと日常茶飯事。

 さて、そんな私だけど、復讐したいのだろうか?
 拡大解釈された罪で罰されたわけだけれど…

「復讐については、よくわかりません。」

『あら、意外ね。アイカに気に入られているから、過激な子だと思っていたわ。』

 それって、アイカが過激だと暗に言っているものではないだろうか?
 できれば知りたくなかった、自分の半身の意外な一面を知ってしまった。

『復讐をしないなら、彼らに何もしないのかしら?』

「いいえ。彼らは、人を傷付けました。ならば、その罪を誰かが教えなくてはなりません。」

『……なるほどね。うん、いいわ!流石、アイカお姉様の愛し子!』

「「アイカお姉様!?」」

 ラインハルトと被る。私達二人の声が、森に響いた。

お姉様?

 アイカは高位精霊だし、カイルも高位精霊。天災と森だし、接点があってもおかしくない、のか。
 
 というか、さっきまでと明らかに私に対する態度が変わっている。今までは壁を作っていたけれど、その壁が消えた感じだ。
 カイルは笑みを浮かべると、私に手を差し出してきた。それを握ると、力強く握り返される。

『ふふふ。そういえば、きちんと自己紹介をしていなかったわね。
 あたしはカイル、森の精霊。第三位精霊よ。私の主にあたるのは、大地の精霊。そして、大地の精霊とアイカお姉様は仲が良いのよ。』

「そ、そうなんですか。」

 初耳だ。もちろん、私の方から聞いていないから、というのもあるだろうけど。
 ラインハルトを見ると、彼も首を横に振った。


「僕も初めて聞いた話だ。────面白い話をありがとう。」

『どういたしまして。そうそう、二人に見せたいものがあるの。』

 立ち上がったラインハルトに、カイルが笑いかける。口調こそ女性らしいが、外見は普通に美丈夫だからか絵になる。
 カイルの申し出を聞いたラインハルトは少し考えるようにして、そして私の手を取った。

「もう少し、この森にいてもいいか。」

「構いません。その、あの、ら、ラインハルトがいればいいので……」

「っ!!」

 恥ずかしい事を言った自覚はある。
 けれど、さっきの一件以来、急に近くなった距離に私も混乱しているのだ。なんと言えばいいのか、全然検討がつかない。

 混乱している、という事にしたいなんていうのは、ちょっと言えない。

『はいはい。早く来て頂戴。』

「わ、わかった。」

「今行きます!」

 先を歩くカイルの姿を、こっそりと見る。

 カイルは細身の、美しい美青年という感じだ。
 髪色は涼しげな緑色で、確か瞳も同じ色だ。声も爽やか系で、だからこそ一層口調がもったいない。

 アイカとお似合いかも、と一瞬考える。
 けれど、無いな、と思った。アイカが付き合うとしたら、その人はきっと柔らかい雰囲気を持った人な気がする。もしくは、アイカと似たような性格の……いや、アイカみたいな人がもう一人いて彼女と組んでしまったら、誰も勝てなくなるのではないのだろうか…?





『着いたわ。ここが、あたしのガーデン。』

「わぁっ、すごく、綺麗……!」

 そこに広がっていたのは、黒と白の花だった。

 黒い花は艶やかで、花弁の付け根の方が橙色だ。まるで、私が今付けているブレスレットのような。そして、すぐ隣にいる彼のような。

「あの白い花、君みたいだ。」

 思いがけない言葉に、私は思わず目を見張った。

 彼の言う白い花は、きっと黒の花と一緒に咲いている花の事だろう。可憐、という形容詞が似合うあの花は、少し先が尖っている花弁の、付け根の方が黒い。
 一緒に寄り添っている黒い花との、白と黒対比が綺麗だった。

「でしたら、あの黒い花はラインハルトです。」

 今度は、ラインハルトが目を大きく開く。
 しかし、別段おかしく無いと思う。凛と咲く姿は、私を守ってくれた彼とそっくりなのだから。

『まったく……当たり前よ!あたしが、あなた達をイメージして作ったのだから。』

「花を、作れるのですか!?」

『そこに驚くのね!────えぇ、あたしは森の精霊。森の中なら、植物達を自由に育てられるわ!』

 そうカイルが言うと、森全体がざわめいた。カイルと森が繋がっているような錯覚を覚える。
 見た目こそ人間と似ているが、彼は精霊なんだなと改めて感じた。

『、これは二人への贈り物。』

 カイルが花の方を手で示すと、どこからか現れた蔦が特に綺麗な二輪を摘んだ。蔦は彼に花を手渡すと、どこかへ消えてしまう。
 カイルは受け取った花に軽く手をかざす。すると、花が淡い光を放った。

『枯れない魔法がかけてある、二人の花よ。今日は楽しかったわ。いつか、また遊びに来て頂戴ね────』

 最後の言葉が消えないうちに、景色がだんだん遠ざかっていく。びっくりして目を閉じると、そこはもうすでに森の外だった。

 周りを見てみると、ラインハルトに連れられて森に入ったところと同じ場所のようだ。
 ちゃんとしたお別れもせずに名残惜しいな、と思った時、自分のドレスに黒い花が付いているのに気づいた。そして、ラインハルトの服には白い花が。
 彼なりの、エール、なんだろうか。

「……カイルは、面白い方でしたね。」

「そうかな。」

 ラインハルトは森の方を見て、わずかに微笑んだ。きっとカイルの事を考えているのだろう。
 しばらく二人で、黙って森の方を見ていた。

「そうだ、この森の名前を教えていなかったな。」

 不意に、ラインハルトがいたずらっ子の笑みを浮かべながら、そう言った。

「なんだと思う?」

「うーん、なんでしょうね。不思議の森、とかですか?」

 ラインハルトは静かに首を振った。そして少し屈むと、私の耳元で言う。
 いきなり接近されて思わず身じろぐ。

「駆け落ちの森、と言うんだ。僕の先祖が、ここで恋人と駆け落ちをしたから付いた名前らしい。」

 ラインハルトは体を起こすと、先に歩いて行ってしまった。
 それが今は有り難い。この、赤くなった顔を見られなくて済むから。









 だんだん恋愛小説っぽくなってきたでしょうか?

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